飽くこともなく、彼女は男を眺めていた。
半身を起こしたその姿を。
神官でありながら鍛え上げられた肢体。
猛々しくもあり、優美でもあった。
触れることの叶わなかった黒髪。
窓の外を見つめるその表情は、こちらからは見えない。
唐突に彼が視線を部屋に向けた。
軽く見回しただけで、今度は彼女自身を見下ろす。
それだけで、彼女の中で何かが沸き立つ。
一度乱された身体の奥深くに、火がつくのを感じた。
しかし、それを悟られないよう、彼女は婉然と微笑む。
返事はない。
そのまま男は彼女を冷たく見下ろすだけだった。
部屋の調度を見るように。
「何をお考えですの、ザガート様?」
細心の注意を払いながら、男に語りかける。
冷静に聞こえるよう、しかし情感をこめて。
それでもしばらく男は女を見つめていた。
その表情からは何も伺い知ることは出来なかった。
やがて、男は彼女に答える。
「夜明けまで、まだ時間がある」
期待。望みの叶う予感。
奇妙なものだ。
まだ、これから起きることに期待しているだけなのだ。
まだ、これから叶う予感を抱いているだけなのだ。
なのにもう湧き起こる、歓喜に近い感情。
男が視線を彼女の顔から外した。
そして、次の瞬間。
彼女の両膝が割られ、熱い楔が打ち込まれた。
「あ、ああっ!」
高い声が上がる。
その声が自らの口から零れたものだと気づいた時には、既に男は自分の最奥に到達していた。
男がその状態で動きを止めた。
圧倒的なまでの質感に、苦しいとすら感じた。
その自分の顔を、男が見つめている。
観察するその顔は、いつもの沈着さを失っていない。
だが、どこか猛々しく、熱っぽく思えた。
ふいに唇を奪われた。
男の舌が自分の中を侵す動きに、応えようと舌を差し出した。
満たされない強さで、噛まれてしまう。
物足りなさに、逆に熱くなっていく。
どれぐらいの時間が経ったのだろう。
ようやく、唇と舌が解放された。
息を吸おうとした。
その瞬間、男が思いきり腰を引いた。
抜けてしまうと思った。
「い、や、ああ!」
思わず叫んだ。
懇願するような叫びに、男が低く嗤った。
そして結合部を見下ろした。
その視線を追うように、自分も同じ場所に目をやってしまう。
なんて淫らなのか。
そうは思ったが、既に羞恥心などどこにもなかった。
身体の向きが変えられた。
横向きになってしまえば、いちばん感じる場所にはもう当たらない。
それでも圧迫感に苛まれていた時、さらに身体の向きを変えられた。
今度は俯せに。
その状態から腰が持ち上げられる。
はしたなく尻を突き出した体勢になった。
思わず男の方を見たが、その表情から内心は伺えない。
表情を消したまま、男の手が彼女の花芯を摘んでくる。
「ひっ、ああぁっ」
身体を震わせ、軽く達してしまう。
しかしその状態の彼女を、男は強く突き上げる。
もう声すらろくに出せないまま、最奥を激しくノックされる。
気が遠くなりそうなほどの、激しい動き。
自分の中がうねるのを、やけにリアルに感じた。
胸を掴まれたり、花芯を潰すように捏ねられたり。
這って逃れるように、片脚が前に行く。
無意識の動きだが、また中の感触が変わり、彼をさらに大きく感じた。
とうに彼女は快楽に溺れていたが、さらに激しい波を感じた。
爪先から始まって、下半身全体が飲み込まれていた。
「あ、あぁ、あん、っあ」
呼吸するごとに、その波は水位を増していく。
そして、男が彼女を引き寄せ。
彼女を突き刺していたものが最奥を強く抉った瞬間。
「ああっ、ああああああああっ!!」
意識が放り上げられた。
このまま死んでも構わないとすら、思った。
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あかるい、とぼんやり思った。
既に朝だった。
男の部屋に、彼女は寝かされていた。
情事ですっかり乱れたベッドに。
部屋の主の姿はすでになかった。
激しい情事の後、何時間も経ってはいないというのに。
こんな朝でさえ。
彼は戦いから離れないのだ。
彼は世界を壊し続けるのだ。
私を壊すのとは違う方法で。
暖かな、どこまでも美しい姫君。
彼女が作り上げた世界は、本当に美しくて。
姫君の光が、世界を包んでいる。
こんな朝でさえ。
彼は戦いから離れないのだ。
鏡を見て、口元を綻ばせる。
すっかり口紅のはげ落ちた唇。
白いシーツを纏っただけの裸体。
――これがエメロード姫付きの魔導師の姿とはね。
彼女もまた身支度を整え。
男の元に参上した。
愛しい男の望む未来を、愛しいその手に差し出すため。
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