【魔法騎士レイアース カオティックハーレム】  
 〈第2夜〉  
 
 
    V◆来臨  
 
魔法世界セフィーロの中心に屹立する、澄明な結晶による三本の巨塔。  
光たちの世界の尺度で言えば、高さ300mほどもあろう、  
剣を模して築かれたその3本の構造物で挟まれた空間に、緑に溢れる宏壮な中庭があった。  
中庭に面した大ホールは、この国を制圧した侵略国の軍隊によって後宮に作り変えられ、  
そこでは今、国中から選りすぐられた美女たちが、  
これから待ち受けるであろう運命に身を縮こませて懼怕している。  
 
「メルセデス空軍第二艦隊司令官にして遠征軍総司令官、  
 ランボルギーニ・エラントラ・サムスン大将閣下のおなりだ!」  
 
目深に軍帽をかぶった軍人たちが、部屋に屯する女たちを高圧的に扉の左右に並べさせる。  
ややあって開いた扉の彼方から、兵士たちに囲まれ、でっぷりと肥って杖をついた軍服の男が姿を現した。  
室内の兵士がいっせいに頭を下げたのに倣い、扉の左右に並ぶ女たちもぎこちなく一礼する。  
海や風も内心を押し殺し、光の頭を押さえつけて頭を下げたが、  
撃墜されたファーレン艦からの捕虜であるアスカと彼女付きの女官たちは、  
気位が高すぎ、御辞儀どころか整列すらしようとしなかった。  
そのためお目汚しになるとの事で、兵士たちに引っ張られ一時的部屋の片隅に追いやられる。  
 
「面を上げぃ」  
 
まるで豚の啼き声のように野太く、聞き取り辛いその声に、  
女たちは頭を上げ、サムスン将軍は脂ぎった好色そうな目で1人1人を見定める。  
 
(光さん、けっして歯向かっては駄目ですわ。  
 武器は全て取り上げられてしまったのですし、今はおとなしくしていてなりゆきを見守るんですのよ)  
(うん、わかったよ風ちゃん)  
 
小声で会話を交わすと、光はおそるおそるサムスン将軍を覗き見た。  
脂肪の塊に人間の目鼻をつけたかのような醜怪な生物だった。  
胸には悪趣味なほどに重たげな勲章を大量につけている。  
口髭を生やしたその顔と権高に反り返ったその姿は、「天空の城ラピュタ」のモウロ将軍そっくりだ、と光は思った。  
サムスンもちらとこちらを見返したが、その視線は大して興味もなさそうに光の上を素通りした。  
どうやら彼は巨乳好きらしく、三人の中では特に風に興味深げな視線を注いだものの、  
それもすぐによそへと逸れてしまう。  
興味の対象が自分たちに無い事、そして当面の間標的にされる心配はないようだとみて  
海と風はひそかに安堵の吐息をついた。  
 
続いて光は周囲の兵士たちについても観察する。  
その中でも1人だけズバ抜けて背の高い、眉毛が無く、角ばった顎をした大男が嫌でも目を惹いた。  
身長は2m以上はあるだろう。服の上からでもわかるほどの、  
圧縮した生ゴムのような高密度の筋肉を全身に纏っている。  
周囲に撒き散らしている並ならぬ獣臭からも、室内に駐留する兵士たちの中でも、  
彼が飛びぬけて危険な存在であるという事が剣士である光にはすぐにわかった。  
 
光に見られている事に気づいたのか、その男もまた彼女を見詰め返してきた。  
その瞬間、光はまるで視線によって身体を陵辱されたかのような感覚を覚え、  
足が竦んで身動きがとれなくなった。  
ニマリと唇を歪め、巨漢はなおも光に視線を注ぎ、  
中性的な魅力を漂わせる愛らしい顔立ち、  
決して肥っても痩せぎすでもない、武術によって程よく鍛えられた、  
その無駄肉のないほっそりとした肢体や、未成熟な胸の膨らみ、  
ミニスカートから伸びる健康的な太股などをじろじろと無遠慮に観察した。  
ニタニタと笑う男の視線に耐えられず、光は生理的な嫌悪感を覚えて目を逸らす。  
だが、なおも男は彼女を見詰め続けている。  
 
その膠着を破ったのはサムスンだった。  
 
「よくやった。なかなかの綺麗どころばかりを集めたのぅ、ヒュンダイよ」  
「ははーっ! 恐れ入ります」  
 
ヒュンダイと呼ばれた大男が弾かれたように頭を下げる。  
下位の兵士たちとは明らかに軍服が違う事から、彼もまた相当に高い地位にいる男らしい。  
視線が外れ、ほっとひと息をつく光。  
 
「さっそく何人か所望したいところじゃが…まずは誰からにしようかのぅ。  
 ほうほうそこのお前、仲々おっぱいがデカいではないか」  
 
怯えて身を縮こませる付近の女たちの中から、まるで浮かびあがるかのように  
1人だけ毅然として敵意をもった視線を突き刺しているプレセアに目を留める。  
歩み寄り、故意に視線をはずした彼女の顎に手をかけて整った美貌を鑑賞した。  
のみならず、薄い白のローブで抑えつけているだけの豊かな乳房を鷲掴みにし、  
プニプニと弾むその揉みごこちをも確かめる。  
 
「触らないで!」  
 
とっさに手を閃かし、サムスンの頬に強烈なスパンクをお見舞いするプレセア。  
だがそれは深々と頬の肉にめりこんだだけで、ボヨンと不快な手触りとともに弾かれてしまった。  
次の瞬間サムスン親衛隊たちが、一瞬で彼女の後ろ手を取って地面に押し倒し、  
頭と足を押さえつけ、無数の銃口を突きつける。  
 
「くっ……! 放せ!」  
 
身をよじって逃れようとするも、関節を極められているので何もできない。  
プレセアは今にも唾でも吐きかけそうな顔で、憎々しげにサムスンを睨みつけた。  
 
「気に入ったぞ。名は何と言う? ワシャ金髪は大好物でのう。ヌフフフフフフ」  
 
怒った様子もなく、上機嫌で獲物を見下ろすサムスン。  
制止する海の腕をふりほどいて、「プレセア!」と光が駆け寄ったが、  
兵士たちに銃を突きつけられ踏みとどまった。  
すぐに追いついた海と風が光を抱きしめ、身をもって銃弾から彼女を守ろうとする。  
その三人を完全に包囲し、頭に銃口を押し当てて引金に手をかける兵士たち。  
自らの無力さを噛み締めているのか、誰ひとり助けに入ろうともせず、  
気の毒なものを見るような目で事のなりゆきを見守る女たち。  
 
「無礼者!」  
「──!?」  
 
その押し黙った群集の不自然な沈黙を破ったのは、  
部屋の片隅から上がった甲高い子供の声だった。  
 
………………………………………………………………………………………………  
 
    W◆爆殺  
 
「黙って見ておればこの豚めが。一介の将軍の分際で何をしておるのじゃ。  
 お前たちのやっている事は明らかに軍人としての範疇を超えておるのじゃ」  
 
声の主は、部屋の片隅で首輪を外そうとひそかに悪戦苦闘していたアスカだった。  
生まれつき人に命令し慣れた皇族としての権高さと、  
子供らしい愚直な義侠心とで、羽団扇を突きつけてメルセデスの軍人らを糾弾する。  
 
「今ならまだ許してやろう。今すぐこれを解いてわらわたちをここから解放するのじゃ!」  
「この餓鬼が!」  
 
口を押さえつけて黙らせようとした兵士たちの前に、側近の女官たちが割り入って啖呵を切った。  
 
「控えよ、下臈めが!」  
「アスカ様への重ね重ねの狼藉、とても許してはおけぬわ!」  
 
何事じゃ……? と、サムスンはプレセアから視線を逸らしてそちらを注視した。  
女官たちは私物入れから皇室の紋章を象嵌した印籠を取り出して突きつける。  
 
「控え控えい!  
 ここにおらせられるお方をどなたと心得る!  
 畏れ多くも大ファーレン皇国 第一皇女のアスカ様なるぞ!」  
「そのアスカ様に対する薄遇のほど、もはや捨て置けぬ。  
 今すぐ待遇を改め、最上級の個室へと案内(あない)し、しかる後に叩頭して非礼を詫びよ!」  
「身代金は好きなだけくれてやろう。だがそれまで我々に対する非礼は許さぬ!  
 まずはこの窮屈な首輪を外すのじゃ」  
「やがて大挙して飛来するわが皇国の援軍艦隊にまとめて蹴散らされたくなかったらの!」  
 
母国の権威を嵩にきて、精一杯に虚勢を張るファーレン勢。  
それが彼女たちの並ならざる不安の裏返しである事は、その場にある誰もが容易に見て取れた。  
更に女官たちは新興国であるメルセデスの成り立ちとその蛮行を罵倒し、  
ファーレンがいかに長い歴史を持ついかに優れた偉大な国であるか、  
皇女であるアスカに手を出したら、精強なるファーレンの軍隊が黙ってはおらぬぞと  
いったような事を長々とまくしたてた。  
対する兵士たちは動揺したそぶりもなく、ひややかに一瞥しただけだった。  
 
「調度良い機会じゃ。お前たち、よく見ておくが良い」  
 
女官たちの要求を取りあうそぶりもなく、サムスンは周囲の女たちを見回してそう告げた。  
彼が顎をしゃくったのを見て、それまで光やプレセアに銃を突きつけていた兵士たちが  
持ち場を離れてそれぞれに出入口を固める。  
側近のヒュンダイはリモコンのようなものを取り出し、  
女官たちの首輪のタグに名前とともに刻印されていたシリアルナンバーを次々に入力した。  
 
とたん、アスカを囲んで声高にさえずっていた女官たちの首輪のランプが赤く輝き出し、  
ピッピッピッ… と耳障りな電子音を立てはじめた。  
その音は初めは等間隔だったが、次第にピッチが早くなって急かしたようなものとなる。  
 
「な… 何じゃ何じゃ?」  
「やかましいの。音による嫌がらせかや?」  
「これだから歴史の浅いの北狄の猿どもは」  
「メルセデスの賤民ども! 繰り返し言うが今すぐこれを外すのじ…」  
 
────ボボボボン!  
 
次の瞬間、女官たちの首輪がまとめて 爆 発 し、後宮の一隅に大輪の血の華を咲かせた。  
 
火薬臭を漂わせる煙が濛々と立ち籠め、玩具のように容易く吹っ飛んだ頭部が  
周囲の女性たちに当たってハネ帰り、血の尾を引いてごろごろと床の上を転げ回る。  
顎から上だけになった女官の頭部が、首から上を失ってなおも佇立している自分の体を  
次第に光を失いゆく目で不思議そうに眺めたが、  
その身体もまたようやく自らが死んだ事に気づいたかのようにぐらりと傾ぐと、  
どう、と音を立てて床に倒れ伏した。  
 
アスカは、至近で爆死した女官たちの血飛沫を浴び、  
バケツでぶちまけられたかのように上半身一面を一っ赤に染め上げられていた。  
彼女は何が起こったのかわからず、麻痺したように呆然と立ち尽くしていたが、  
震える手で自分の顔にこびりついたヌメヌメを拭い、それが女官たちの脳漿である事に気づくと、  
へろへろと茫然自失のていでへたり込み、白い湯気を上げて足元を尿で塗らしてしまった。  
 
「〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!!」  
 
一瞬の沈黙の後、部屋は恐慌状態になった。  
女たちはあらんかぎりの声で絹を裂くような悲鳴を上げ、ある者はその場にへたり込み、  
ある者は反射的に走ってその場から逃げ出そうとした。  
だが先頭の者が神殿に仕える女官特有の長いスカートを踏まれて転倒し、  
その体に足がひっかかったすぐ後ろの者たちもまとめてまろび倒れる。  
床に転がった者たちを散々に踏みつけながら、後続の女たちはなだれを打って  
兵士たちが固める2つの扉へとそれぞれに殺到した。  
群集心理に突き動かされるまま、自分もまた逃げようと慌ててそちらへ向かう光を、  
海が後ろから袖を引いて静止する。  
プリメーラもプレセアも、動揺を隠せない状態でありながら、互いに目配せして  
その場に留まり成り行きを見守った。  
 
次の瞬間銃声が轟き、更なる悲鳴が上がった。  
サムスン将軍が入ってきた側の扉から、兵士を押しのけて出ようとした女たちが、  
至近から撃たれ血飛沫をあげて倒れたのだ。  
それを見て石化したかのように女たちの動きが止まり、  
二度、三度天井へ向けて兵士たちが発砲すると、女たちはじりじりと扉から離れて  
再び室の中央に戻ってしまった。  
 
「わかったな。儂らに楯突く者は殺す。  
 無許可で逃げようとする者も殺す」  
 
プロの軍人らしく、人を殺させた事への何の精神的動揺も見せず、  
両手を広げて冷徹にサムスンは言い放った。  
 
「だがそれ以外の者には、王族のような厚遇と、  
 普通ならば何年かかっても手に入らぬ、金銀財宝の報酬を約束しよう。  
 もっとも、儂の不興を買わん限りは…だがな」  
 
殺人をはじめて見せ付けられたのだろう、  
部屋に取り残された女たちは、涙を浮かべ、抱き合いって互いを慰めながら、  
壊れた人形のようにがくがくとかぶりを振った。  
最早彼女たちには抵抗の意志は残ってはいなかった。  
その一方で光たちは、兵士たちの非道な行為にふつふつと湧き上がる怒りを抑えきれなかったが、  
今はただじっと拳を握り締めて立ち尽くすほかになかった。  
 
 
                                          〈続〉  
 
………………………………………………………………………………………………  
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル