【魔法騎士レイアース カオティックハーレム】  
 〈第2夜〉 (承前)  
 
 
    X◆舞姫  
 
 
──ポロン?  
 
「……?」  
 
〜〜〜〜♪  
 
「何だ?」  
 
陰惨な空気が漂い出していた一室に、ふいに弦楽器の奏でる陽気なリズムが鳴り響いた。  
横笛の紡ぎだす剽げた音色がそれに重なり、弦音と絡まり合って妙なる調べを作り上げる。  
あまりに場違いなその音色に、兵士たちも女囚たちも思わず何事かとそちらを仰ぎ見た。  
 
チゼータの民間楽器である琵琶(ウード)を奏でているのは、同国の王女であるタトラ、  
笛(ネイ)を吹いているのはその妹のタータだった。  
そして音楽に合わせ、薄絹の長い羽衣を靡かせながら、  
褐色の肌をした肉感的な舞姫が踊っている。  
 
「カルディナ…!?」  
 
目を瞠る光。  
セフィーロ王宮に仕える幻惑師(ラル)にして、かつては渡りの踊り子だったというカルディナは、  
手足をクネクネとうごめかせ、エキゾチックでミステリアスな舞踊を披露し  
流麗で躍動的な動きによって人々の目を惹き付けていた。  
そして緩やかにペースが早くなっていく曲の中で、彼女の動きもまた次第に速くダイナミックなものとなり、  
それが頂点に達したところで衣服が螢光のように淡い光を放って消える。  
 
ただでさえ露出の多い彼女の普段着より、更に露出の多いその衣裳は、  
光も初めて見るコスチュームだった。  
首輪と手足につけた数々の金環を別にすると、  
乳首の部分に宝石を象嵌した、乳輪が見えるか見えないかというほどの小さな黄金のニプレスと、  
同色の紐のような下着をつけただけの、まるで裸のようなあられもない姿。  
 
(きゃっ!?)  
(光、見ちゃダメ!)  
 
状況を察知した海が後ろから光に両手で目隠しをする。  
 
「ほう、これは面白い余興じゃ」  
 
銃口を向ける兵士たちを手で制し、サムスンは部下に椅子を用意させて思わぬ見物を続けさせる。  
カルディナは彼に向けて感謝の投げキッスをすると、今度は魔法で光の柱を作り出し、  
チゼータ風の今までの音楽や踊りとはうってかわった  
ムーディな音楽に合わせてポールダンスを踊り出した。  
 
片手でポールを持ってゆっくりと周囲を一周し、片脚を大きく掲げ、  
細い線一本で隠してあるだけの股間の媚肉を覗かせながら柱に絡ませる。  
そのまま柱を中心にくるくると回り、屈みこんで豊かな尻を突き出して左右に振る。  
柱に逆しまに張り付き、長い脚を180度開いて旋回したまま下降する。  
 
輝くような笑顔の美貌の舞姫が、黒豹のようにしなやかな身体を撓ませ、大きく股を開き、  
必要以上に胸を揺らして見せる官能的な踊りに、  
最初は胡散臭げな目で眺めていた兵士たちは、いまやヒューヒューと口笛を吹いて囃し立て、  
女たちは呆れて遠巻きにそれを見ていた。  
何か怪しげな動きはないかと周囲に視線を払うヒュンダイをよそに  
サムスンはこの思わぬ興行にニタニタと笑みを浮かべて魅入っている。  
 
(海ちゃん、見えないよー)  
(まだダメよ光!)  
 
じたばたと手をうごめかす光を後ろから叱りつける。  
 
(それにしても、何だかすっごくいやらしいわ)  
(踊り子と言っても不景気な時もあるでしょうからねぇ。  
 カルディナさんはそんな時はこういったダンスを宣伝塔として、  
 それによって釣れた上客を相手に、夜の営業で稼いでいたのではないでしょうか)  
(ええっ!?)  
(風ちゃん、夜の営業って何?)  
(子供は黙ってなさい!)  
(どの国、どの時代であっても、男性がいる限り常に需要のある職業ですからね。  
 お金持ちをたらし込めば普通のダンスより余程多くの収入を見込めるでしょうし、  
 カルディナさんほどのセクシーな方でしたらどこでも引く手あまたでしたでしょうね)  
(嫌っ……何だか不潔だわ…)  
 
塵労に煩わされる下々の生活のことなど何ひとつ知らず、  
深窓で育てられた潔癖な性癖のゆえか、風の話を聞いて  
海は汚いものでも見るかのようにカルディナを一瞥した。  
 
やがてダンスが終わ、カルディナが全身に汗の玉を浮かび上がらせながら、  
お尻を振ったセクシーな歩き方でサムスン将軍に歩み寄る。  
再び兵士たちが立ちはだかり、銃口を向けようとしたが、サムスンは手でそれを制し、  
舞姫がしなだれかかるままに任せた。  
 
「…ウフッ。  
 いけずな人やでぇ。ウチというものがありながら、ほかの女なんかを選ぼうとするなんて」  
 
この部屋に集められた女たちの仲でも、一二を争うほどの圧倒的な巨乳を押しつけ甘やかな声で囁く。  
 
「ウチ、肥った人って大好きなんや。将軍様はほんまウチの好みやでぇ?  
 ウチを是非とも北の将軍様の第一の愛人にしてぇな」  
「ほほう、殊勝な心がけではないか。名は…カルディナとな。  
 その肌の色からして、世界一の美女の国と名高いあのチゼータの者じゃな。  
 良かろう、さっそく今夜ワシの伽をするがいい」  
「ホンマ? めっちゃ嬉しいわ!」  
 
満面の笑顔で首筋に抱きつく。  
 
「そういえば先の戦闘で、チゼータの王族も捕獲したそうではないか。ひょっとしてそこの二人かの?」  
「はい。わたくしが第一王女のタトラ、こちらが妹のタータです、閣下」  
 
先刻まで演奏を担当していた姉妹が、楽器を置いて深々と一礼する。  
その洗練された高貴な物腰と、凹凸のメリハリのついた豊満なエロボディとのアンバランスさが、  
えもいわれぬ魅力を漂わせ、一目でサムスンの心を鷲掴みにした。  
 
「カルディナだけではなく、わたくしたちもサムスン様のご寵愛賜りたくお願いいたしますわ。  
 ね、タータ」  
「も、勿論だ。宜しく頼むぞ」  
「うちら喜ばせ組が、チゼータのハレムに伝わる秘術で、極楽(ハミースタカーン)にいざなってあげるで?」  
 
タータとタトラまでもサムスンに追従し、  
椅子に座る彼へ左右と前方から猫のようにしなだれかかり、甘えるように頬や胸をすり寄せる。  
 
そのあまりのあからさまな転身の早さに、側でなりゆきを見守っていた元魔法騎士たちは  
呆れ返って開いた口が塞がらなかった。  
 
………………………………………………………………………………………………  
 
    Y◆落日  
 
 
麻袋を持って入室した下っ端の兵卒たちが、爆殺や射殺された屍体を詰め、  
二人一組になって次々に室外へ運び出していた。  
後宮入りするほどの美貌は無いが、セフィーロの王宮で働いていたメイドたちが  
雑用係として駆り出され、血だまりや散乱した陶器の破片などの後片付けをさせられる。  
 
わずか数分で7名の死者を出すという、釁られた騒擾に見舞われた初謁見式は終了し、  
女囚たちはいくつかの班に分けられ、兵士たちに連れられて小分けに室外に移動させられていた。  
今回の勝利に伴い暫定的に占領地統治総務官に任命されたヒュンダイ准将は  
作業が滞りなく進んでいるのを確認すると、部屋の片隅にいまだへたり込んでいるアスカに目をつけ、  
部下に現場監督を任せて歩み寄る。  
 
物々しい雰囲気を漂わせる巨漢の軍人が歩み寄ってきた事に、  
幼女はひっ、と悲鳴を上げて後ずさったが、すぐに壁に背が突き当たり、あっけなく腕を取られた。  
赤子の頃から自分に仕えてきた、家族同然の侍女たちが何の容赦もなく目の前で殺された、  
トラウマとなった先刻の光景がフラッシュバックし、顔面蒼白になってガチガチと歯を鳴らす。  
 
(ほう。これはこれは…)  
 
ヒュンダイは目を細め、自分の6分の1の体重も無いだろう、110p足らずの黒髪の幼女の顔を注視した。  
好色にして絶対的な権能を持つファーレンの皇帝は、広大な国土の隅々から美女を聚(あつ)め、  
中でも最も優れた美女を代々の后としていたが、その血脈であるアスカもまた、  
年端もいかぬ子供でありながら驚くべき端麗な容姿を有していた。  
性格は驕慢ではあったが、そこがまた彼の陰湿な嗜虐心を掻き立て、  
ヒュンダイは残酷な笑みを浮かべながら片手を閃かせる。  
 
──ベチン!  
 
充分に手加減をしてアスカの横面をはたく。  
人に叩かれる事自体初めてだったのだろう、アスカは目を大きく見開き、  
信じられない事をされたかのように頬に手を当ててヒュンダイを見返し、  
やがて事態を飲み込むとともにボロボロと大粒の涙を零した。  
 
「な、何を…!」  
 
言い終わるより早くもう一度、今度は反対側の頬をはたく。  
 
──ペチン!  
 
「ひいっ……!」  
 
「わかってんのか? ここではお前は皇女様でも何でもない、ただの雌奴隷の一匹でしかねぇんだよ」  
「そ、そんな……」  
「立て!」  
 
手を掴んでむりやり立ち上がらせる。  
同時にむっとするようなアンモニアの匂いが鼻を突いた。  
 
「なんだなんだ? オイオイ汚ねぇな、こいつ小便漏らしてやがる。  
 何が元皇女さまだ、ただの小便臭い餓鬼じゃねぇか!」  
「………!」  
 
羞恥心に幼女の顔が紅くなる。  
チッ、と舌打ちすると、ヒュンダイはその足元に屈みこみ、やにわ裳(も)の前をめくり上げた。  
幼女特有のぷっくりと膨れたイカ腹と、じっとりと黄色く染まった下着が露になる。  
恥ずかしがって押さえつけようとするアスカの非力な手など意にも介さず、  
ヒュンダイは強引にパンツをずり下ろし、陰毛の一本とてない滑らかな下腹部と、  
濡れそぼってきつい尿の匂いを漂わせる小さな割れ目とを視認した。  
 
「何っ…何をするのじゃ…っ!」  
 
服をつかむ男の腕から身をよじって逃げようとするアスカ。  
対するヒュンダイは邪な欲情に囚われてペロリと舌なめずりし、  
ふいに立ち上がると、強引に彼女の襟首を掴んで上司の前まで引きずっていった。  
 
3人の極上のコールガールに抱きつかれ、ニタニタとしまらない笑みを浮かべているサムスンへ、  
斜めに掌を額に当て、慇懃に一礼して訊ねる。  
 
「お忙しい中申し訳ございません。  
 閣下、この餓鬼は私が頂いて宜しいですか」  
「いったい何かと思えば…変態め。相変わらず小さいのが好きじゃのぅ、お前は」  
 
呆れたように肩を竦める。  
あらあら可愛いそうに…と、長年ファーレンとは敵対関係にあったチゼータ王女のタトラが、  
横合いから聞こえよがしに嘲笑った。  
更にヒュンダイは、こちらに気づかず、列に並んで退室を待っている光,海,風の三人を指差すと、  
あのガキ共も貰って構わないでしょうか、と訊ねた。  
何食わぬ顔をして甘やかに侍りながら、ぴくり、とカルディナが耳をそば立てる。  
 
「儂は子供に興味はない。その4匹は今回の戦績の報酬として特別にお前にくれてやろう」  
「有難き幸せ」  
 
ただし、とサムスンはつけ加えた。  
 
「そちらの餓鬼は大切な人質だ。  
 聞くところによるとファーレンの唯一の皇位継承者というではないか。  
 そやつさえいればいずれそやつを奪還に来るであろう、  
 ファーレン軍が本格的にここへ砲撃をしかけてくる事もない」  
「外交上の大切なカードの一枚という訳ですな」  
「そうだ。  
 他の3匹はどう料理しても構わん。  
 だがそいつだけは、これまでのようにあまり遊びすぎて殺さぬようにしておけよ」  
 
「は」と短くいらえて、ヒュンダイはこれからの楽しみが待ちきれぬとでも言うかのように  
よこしまに唇を歪めた。  
 
サムスンはチゼータ姉妹の身体をじろじろと眺めると、  
 
「お前たちには、儂専属の奴隷として特別なプレゼントをしてやろう」  
「プレゼントって何なのよ」  
「それは後のお楽しみじゃ。夕刻に遣いを遣すからの」  
 
と告げて退室し、  
ヒュンダイもまた、メイドたちに血飛沫と尿で汚れたアスカを綺麗にしておくよう命じると、  
 
「近いうちに使いを遣す。その時お前は俺の部屋に来るんだ。いいな?」  
 
と、凄むような顔で少女に命じ、おのれの任務に戻り兵隊を率いて部屋から引き上げて行った。  
 
………………………………………………………………………………………………  
 
やがて自分たちの番が来たので、光たちやプレセアを含む女囚第3班は退室を許可され、  
サムスンらが入ってきた王宮側のそれとは別の扉を潜り中庭に出た。  
 
ホールから続く長い回廊を抜けた途端、今まで薄暗い室内に閉じ込められていたせいか、  
光はその眩しさに一瞬目を細める。  
次いで視界に飛び込んできたのは、伝説のバビロンの空中庭園を彷彿とさせる、  
縦横に水路が巡り、清澄な水と美しい緑に囲まれた宏壮な園。  
面積は東京ドーム以上もあり、各所に白亜の小神殿やアルカイックな石像が配されている。  
 
「すごい…」  
 
その壮麗さに目を瞠る光とは対照的に、海と風は脱出経路は無いかとさりげなく辺りを注視する。  
だがこの広大な中庭を取り囲む水晶の巨壁はよじ登る手がかりとて無く、  
また要所に監視のための兵士が巡回しており脱出は難しそうだった。  
先導する兵士につき従い外周の通路を歩きながら、光は訊ねた。  
 
「こんな場所があったなんて知らなかったよ、プレセア」  
「ここはセフィーロの住人の中でも、元々選ばれた神官の一族しか立ち入る事のできない聖域なの」  
「そうなんだ」  
「だのに、メルセデスの蛮族どもは土足でここを踏み荒らし、戦利品として、  
 懐に収めるか売り払うために、セフィーロの神像や祭具、秘蔵の財宝を全て持ち去った。  
 …許せないわ」  
「無駄口をきくな!」  
 
 後方の兵士から鋭い叱声が飛び、プレセアはむっつりと押し黙って歩き続けた。  
 
(あの建物は何なのですかしら?)  
 
列を成して植えられた並木の間から、擂鉢状に低くなった中庭の中心部が風の目に留まった。  
そこには池に囲まれた人工島があり、中心にはひときわ豪奢な白亜の建物が聳えている。  
人工島には小規模な駐屯所が置かれ、沢山のメルセデス兵たちが何やら会話を交わしており、  
ある者は長いコードを建物の扉に接続したパソコンを相手に何やら悪戦苦闘していた。  
 
先刻プレセアは聖域と言っていたが、何を祀っていた場所なのか、  
そしてあれが何のための施設なのか、風は不思議に思ってプレセアに訊ねたかったが、  
兵士たちに睨まれているようなので今の時点での質問は断念せざるを得なかった。  
 
その後、女たちは元々神官たちの住まいだったという、  
中庭に面した幾つもの部屋を、当面の住居として割り当てられた。  
元々は質素な作りだったそれらの家屋は、先刻のホール同様  
すべての部屋の内装が一新され、瀟洒な調度が整えられていた。  
もっとも、反乱を防ぐ意味で武器になりそうなものはどこにも見当たらない。  
 
光たちは当初別々に部屋を割り当てられたが、特別に頼み込んで  
三人一緒に特に広い部屋を住居として割り当ててもらった。  
 
チゼータ三人娘のような、特別に目をかけられた上位の寵妃を除けば、  
浴場やトイレは共用との事で、その後彼女らは共同の施設や共通のルールについての説明を受けた。  
さらに明日の昼、病気の有無について調べるための全員の健康診断を行うと連絡された後に解散となり、  
新たに後宮の寵妃となった108人の女たちは、三々五々それぞれの部屋へと舞い戻った。  
 
鳥籠の中の鳥とはいえ、ようやくにして自由を与えられた。  
手錠をかけて狩り集められてから、まるで何日も経ったかのような長い一日の終わりだった。  
 
 
「私たち、これからどうなるんだろう…」  
 
夜の帳が落ち、空に昇る巨大な銀月を見上げながら光は呟いた。  
この牢獄の中で一生を終えるのか。  
それとも昼間見た女たちのように、ゴミのように銃殺されて「処分」されるのか。  
 
「ランティスたちは無事なのかな。  
 さっきお風呂で会ったプレセアは、いろいろな場所を調べてて  
 『何とかしてここから逃げ出してみせる』と言ってたけど、私たちも…」  
「光さん、そういう事を言っては駄目ですわ」  
 
どこに聞き耳がそば立てられているのかわからず、風はやんわりと光の軽挙をたしなめた。  
 
「モコナはどこ行ったのかな…」  
「さぁ…?」  
「きっとどこかで無事にいますわ」  
 
苛々と腕を組んで何か考え事をしている海をよそに、  
現在の暗い境遇を感じさせぬ笑顔で、にっこりと風は光を励ます。  
 
「カルディナは、いったいどうしちゃったのかな…」  
「大人にはいろいろな事情がありますからねぇ。  
 わたくしたちが知らないだけで、もしかするとあれが本来の姿なのかも…」  
「ほっときなさいよ、あんな売女!」  
 
バシン、と腹立たしげに海が机を叩く。  
 
自分たちには武器すら無く、対してメルセデスは数万もの兵と圧倒的な火力を持つ軍艦によって  
周囲の宙域においてセフィーロを完全包囲している。  
いずれにせよ現時点に於いて自分たちに打つ手は何ひとつ残されていなかった。  
そしてまた夜は浅かったが、不安を打ち消そうとするかのように  
ランプの明かりを消して早めの睡眠をとる。  
 
(ランティス…逢いたいよ…)  
(クレフとアスコットは無事かしら…)  
(フェリオは大丈夫なのですかしら…)  
 
それぞれの想い人の事を想いつつ、三人は川の字になって褥に身を横たえた。  
だが、早くも寝息を立て始めた光をよそに、海と風は悶々としていつまでも眠りにつけなかった。  
そして互いに気づかれまいと背を向け、風は股間に、海はお尻に手をさしのばし、  
息を殺して自らを慰める。  
孤独と寂しさに耐えられず、そこから目を背けるために  
より強く、より激しく想い人の姿を追い求めるうちに  
指は次第に深く沈んでゆき、その動きは次第に速く大胆になっていく。  
 
やがてこられえきれなくなったかのように褥から熱く湿った吐息が上がった。  
だが、それは先行きの見えぬ深い闇の中に消え、  
後には索莫とした静寂が残るのみであった。  
 
 
                                          〈続〉  
 
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