魔法騎士レイアース 【カオテックハーレム】
T◆来寇
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かつて異世界より召喚され、セフィーロを救った伝説の魔法騎士、光,海,風。
再び召喚され舞い戻ってきた三人が見たものは
“柱”を失った事により様相が一変し、崩壊の危機にあるセフィーロだった。
更にそのセフィーロを巡り、オートザム・ファーレン・チゼータの三ヶ国が
戦艦で来航し、侵略戦争を開始する。
伝説の“魔神”の力によりこれを幾度も退けた魔法騎士たちであったが
そのうちに時間が無い事を悟った敵対三ヶ国は、
一時的な軍事同盟を結ぶ事に決定する。
それによって今までとは比較にならない一斉攻撃が始まり、
セフィーロ側は炎神レイアースを出撃させてこれを迎え撃つが、
FTO、巨大サンユン、ラシーン&ラクーンの四体に同時攻撃され
遂には撃墜されてしまう。
続いて海神セレス、空神ウィンダムを出撃させるも、
セレスは戦艦主砲に捕らえられて粉々に破壊され、
ウィンダムは飛行機能を失ってはるか下方に落下して大破した。
魔法騎士たちはそれぞれかろうじて脱出し、
ほうほうの体でセフィーロ城に戻ってきたが、
もはや完全に迎撃手段を失ってしまっていた。
その間にも空襲から城を守り続けてきた魔法障壁が
波状攻撃によってついに破壊されてしまう。
このままでは敵艦の上陸は時間の問題かと思われた。
「どうしよう、光…!」
「どうしたらいいかはわからないけど…最後まで諦めない、私…!」
「そうですわ。もうこうなってしまっては最後まで戦うしかありませんわ」
竹槍でB29を墜とそうとするかのように、圧倒的な火力を持つ敵軍に対し、
貧相な剣を握り締めて空を見据える魔法騎士たち。
しかしそんな彼女たちの思いも空しく、
オートザムの戦艦が接近し、終にセフィーロの領空を侵犯した。
兵士たちがこれを追い払おうと魔法を放つが、
戦艦から発射された人型兵器FTOが地面に降り立ち、
まるで積み藁でも打ち倒すかのように兵士たちを片っ端から薙ぎ払っていく。
そして兵士たちを全て打ち倒してしまうと、
魔法騎士の三人を見つけてビーム砲の銃口を突きつけた。
「海ちゃん! 風ちゃん…」
「死ぬ時は一緒よ、光…」
光たちが死を覚悟し、互いの手を握り締めたその刹那、
突如頭上に浮遊していたオートザムの戦艦が、横あいから強烈な射撃を受けて爆発した。
凄まじい轟音とともに炎に包まれて墜落する戦艦。
破片が飛び散り、機体が真っ二つに折れて半分がセフィーロの断崖から落下する。
何事か…? と射撃が来たその方向を振り返ったFTOが見たものは、
まるでこの機を狙っていたのがごとく現れた、空を埋め尽くすほどの数の
謎の漆黒の艦隊だった。
被害を受けたのはオートザム艦だけではなく、第二次の集中砲火を浴び、
あっという間に撃墜されるファーレンの戦艦。
アスカたち王族は脱出艇に乗って墜落を免れたが、周囲を完全に包囲されていたために
たちまちのうちに拿捕されてしまった。
イーグルを乗せたFTOはもはや光たちなどに構っていられず、
すぐにその場から飛び立つと、全速で戦線離脱にかかったが、
背後から放火を浴びて粉々になって砕け散ってしまった。
残るチゼータの戦艦はバリアーを貼って放火を防いだものの、
艦の3分の1が吹き飛び、白旗を挙げてあっさり降伏してしまった。
「な…」
「何なんですの…あれ…?」
あっという間に壊滅した三ヶ国連合軍と、空を埋め尽くす謎の黒い艦隊。
呆然と空を見上げる魔法騎士たちの後ろに、いつの間にか立っていた
導師クレフが、罅割れた声でて告げた。
「あれは…メルセデスの艦隊だ…」
「メルセデス?」
「この世界で最強の軍事大国…そして、最も野蛮な侵略国家」
そう語るクレフの顔は、死人のように蒼白だった。
「これは…本当に大変な事になってしまった」
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U◆降伏
それからは迅速で、そして悪夢のような展開の連続だった。
完全に制空権を掌握したメルセデス軍は、まずセフィーロの辺縁に向けて
戦艦主砲による至近距離の砲撃を行った。
その威力たるや凄まじく、わずかな領土しかないセフィーロの
7分の1が一撃で吹き飛んでしまった。
衝撃による地震で城壁の一部が倒壊し、多くの怪我人を生んだ。
もしこれを、民間人が集中して避難している
中枢の城に向けて放たれれば、生き残った人々も一瞬で全滅してしまうだろう。
セフィーロにはまだランティスやラファーガといった強力な戦力が残っていたが、
それでもとても現状を打破できるような力は残っていない事から、
セフィーロ首脳部はこれ以上の抵抗は無駄だと結論づけ、満場一致で降伏を選択した。
降伏の旨を伝えるとともにすぐにメルセデスの軍艦が着陸し
圧倒的兵員によって1時間と経たずセフィーロ城の随所を制圧・無力化してしまった。
「自分たちが犠牲になるので一般市民には手を出さないで欲しい」と主張する
セフィーロ首脳のクレフやランティス、フェリオらは無抵抗を示したものの早々に囚われ、
メルセデス軍艦の牢獄へと投獄されていずこかへと連行された。
セフィーロを守る兵士たちもまた、武器を取り上げられてセフィーロ城から追い出された。
かわって様々な資材がセフィーロに運び込まれた。
それから一日経過し、現在セフィーロ城に残されているのは
メルセデスの軍人と、セフィーロに属する女性ばかりだった。
完全にセフィーロを無力化した事を確認すると、今度は侵略艦隊の司令官たちが上陸し
セフィーロ城に指揮系統の中枢部を移転した。
メルセデス軍の司令官はサムスンといい、
一人で歩行するのも難しいほどにでっぷりと肥り、禿げ上がった頭をした50代の男だった。
副司令官はヒュンダイといい、2mを超す筋肉の鎧を纏った毛むくじゃらの巨漢で、
その獰猛さとは裏腹に常に上官の顔色を伺う腰巾着だった。
「それにしても美人の多い国ですなぁ、閣下」
「それでこそ楽しみ甲斐もあるというものよ。グフフフ」
手枷をはめられ、道の左右に一列に並べられた虜囚の女たちを見回しながら
サムスン司令官は好色そうな目で一人一人を品定めする。
「お前とお前。…それからそっちのお前」
「わ…私?」
「無駄口を利くな! サッサとこっちへ来い!」
そして杖の先で何人かの美少女、美女らを選び、
逃亡の難しい奥まった場所へと移動させる。
移動中の兵士の説明によると、セフィーロ滞在中、
高級将校たちの身の回りを世話させるための「慰安婦」にするのだという。
光、海、風の三人は、それまでの手枷に加えて、
金属のタグにそれぞれの名前をを記入した、犬のような首輪をはめられた。
そして前後を銃を構えた兵士たちに挟まれ、
長いこと歩かさせられた末に広壮な一室へと連行される。
室内に一歩足を踏み入れたとたん、三人はそのあまりのきらびやかさに一瞬わが目を疑った。
そこはほんの半日前にメルセデス軍によって持ち込まれ、整理された、
目も眩むほどの豪奢な調度や美術品で埋め尽くされた一室だった。
光たちの世界の単位で言えば広さは端から端までが50m以上あろう。
暖かい空気と甘やかな香り。
床には複雑で優美な紋様を描くチゼータの最高級の絨毯や、
美しい毛並みをした巨獣の毛皮が敷き詰められ、
また部屋の周囲には、緑が濃く背の高い南国の観葉植物が何種類も間隔を密に立ち並び、
床には豹や孔雀たちが放され、その賑やかさは外の陰鬱な天候を忘れさせた。
部屋の一隅には常時ウェイターが控え、女たちたちが注文をすると
即座に最高級の美酒や王侯貴族のようなご馳走を、銀盆に載せて運んでくる。
室内に入ってすぐに光たちは手枷を外されたものの、首輪についてはそのままで、
しかもどうしても外せなかった。
それどころかその首輪には人間の頭部を楽に吹き飛ばすほどの爆弾が仕込んであり、
無理に外そうとすると死ぬとまで兵士に脅された。
「それからこの部屋から勝手に逃げようとしても爆発する。
将校に逆らったり、気分を損なうような真似をしても爆発させられる。気をつけろ」
慄然として立ち尽くす三人をよそに、兵士たちは説明を終えると
さっさと引き上げて外側から扉に鍵をかけてしまった。
完全に引き上げたわけではなく、常時扉の外には立哨が待機しているようだ。
「光! あなたたちもここへ?」
「えっ…? あっ、プリメーラ!」
部屋の中には既に先客が何人もいたが、説明を受けて解放された光たちに
まっさきに語りかけてきたのは妖精プリメーラだった。
そして周囲を見渡すと、その他にもプレセアやかつてエメロード姫に仕えていた美貌の女官たち、
市民の中から選りすぐられた少女たちが所在なげに屯していた。
中にはつい先刻敗戦によって虜囚の身となった、
ファーレンのアスカたち異邦の女たちさえ混ざっていた。
「私たち…どうなるの、風ちゃん」
「わかりませんわ、光さん」
「それにしても随分豪華な牢獄ねー」
「牢獄やないで」
ソファにもたれかかりながら、同胞のタータ&テトラと
銀杯を傾けて美酒を堪能していたカルディナが、
半ばろれつの回らぬ口調で会話に割り込んできた。
「これは後宮(ハレム)と言うんや、うちらの国では」
「ハーレムですって…!?」
自らのこれから待ち受ける運命について既に知っているのか、
酔いどれながらも覚悟を決めて緩く構えるカルディナたち。
後宮と聞いて思わず身を固くする海と風。
意味がわからず首を傾げる光。
「コラ!お前たち、靜かにせんか!」
「整列しろ! 司令官様のおなりだ!」
そして司令官の来訪を告げる声とともに、室内にたむろしていた美女たちは
羊の群のように押し黙り、ざっとドアの左右に整列してあるじの到来を待つ。
その列の端で、三人のもと魔法騎士たちは首をちぢこめながら
兵士たちに守られて来室したサムスンとヒュンダイ将軍の姿を恐る恐る眺めた。
魔法世界セフィーロに一夜にして築かれた新しき『後宮』。
その淫猥にして倒錯と狂気に満ちた物語は、ここから幕を開けるのだった──
〈続〉
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