波留はメタルの海をゆっくりと浮上していた。  
 依頼されていた案件は無事に解決を見ていた。それは電理研絡みではなく個人が持ち込んだ依頼であり、大きな事件ではなかった。  
 そのために彼の能力の前では特に危険もなく終わる。後はリアルへとログアウトするだけであった。  
 今の彼は危険な状態ではないし、誰かを救助している訳でもない。そのため、メタルの何処でログアウトしても良い状況にある。  
 が、エアなども余裕ある状況でもあるため、メタルの表層部まで到達してから安全にログアウトするつもりだった。  
 ふと、上部に光を感じる。波留はその方向を見上げると、そこにはヘクス状のゲートが出現していた。それはくるくる回りながら沈降してきて、波留に迫ってくる。  
 ――何らかの空間への入り口か?  
 波留はそう判断した。が、その空間が何なのか、誰が管理者なのか。そう言った事を考える余裕はなかった。ゲートはまるで意思を持っているかのように波留に迫り、彼はそれを回避出来なかった。  
 波留はそのゲートに透過され、その身体は取り込まれていた。  
 
 波留の視界を光が支配し、聴覚からは音が消失する。それも徐々に収まってゆき、感覚が戻ってくる。  
 波留は自らの足が地面についているような感覚を覚えた。どうやら水の中ではないらしい。ゆっくりと瞼を上げた。光は収まっており、彼の視界には何処かの部屋を模したらしい空間が入ってきていた。  
「――あなた、波留――よね?」  
 彼の耳に声が届いた。その声は、彼には訊き覚えがある。声のした方を向くと、そこには女性が居た。  
 彼女は金髪をアップにして纏め上げ、顔の横にもそれなりに長い髪を垂らしている。その顔は意思が強そうな印象を与え、きつめの瞳には眼鏡がかけられている。赤のノースリーブのワンピースを纏い、肉感的な脚はグレーのタイツで覆われていた。  
「あなたはエライザさんですね」  
 波留は彼女の名を呼び、微笑んだ。  
「私の事、判る?」  
「ええ。僕にも最後にはその姿を見せたじゃないですか。アリスとはまた別のアバターですか?」  
「これが私のデフォルトのアバターよ。アリスアバターはチェス繋がりって言ったでしょう?」  
「そうでしたね」  
 エライザは口許に笑みを浮かべていた。形の良い手が自らを指し示す。彼女の背後には立派な机があり、それに寄りかかる格好で立っていた。  
「あなたこそ、それは別のアバター?」  
「そうなりますかね」  
「老人のアバターも素敵だったけど、その若い姿も素敵ね。当時の自分を模しているのかしら?」  
「そうですね」  
 波留は笑う。現在はメタルの海ではないからか、彼の姿はメタルダイブスーツではなく顔や腕を露出したまた別のダイブスーツを着ている。  
 ぴったりとしたスーツから現れている身体のラインは逞しく、顔も若々しかった。白髪が黒髪になっても後ろで長髪を纏めているのには変わりはないが、少しばかり前髪はぼさぼさになっていた。  
「――しかし、あなたはリアルの海で、いい話相手を見つけたのではなかったですか?」  
「ええ、そっちはそっちでとても楽しんでるわよ。でも、私はあなたが嫌いになった訳じゃないもの。あなたともまた会話したくなったのよ」  
 エライザは目を細めて笑って言う。それに波留は僅かに眉を寄せた。その変化にエライザは気付いて口許に手をやる。楽しそうに笑った。  
「あら、安心して頂戴。私、もう他の人間と会話する気はないわ。あなただけが特別」  
 言いながらエライザは両手を机についた。そのまま自分の身体を机の上にずり上げる。彼女は机に腰掛ける格好になった。  
「それに、この前と違って、あなたはきちんとリアルに帰してあげるつもりよ。そうしなきゃあの子が可哀相だものね――やっぱり妬けちゃうわ」  
 彼女は机に腰掛けた体制のまま、そこで足を組んだ。左腕を膝に沿え、頬突く。  
 
 波留はまた笑う。しかし口から出てくる台詞は、その表情に似合っていない。  
「僕はもうあなたと話す事はありませんが」  
「あら、冷たいのね。釣った魚には餌はやらない主義なのかしら?」  
「あなたを釣った覚えはありません」  
「――地球律」  
 形の良い唇からその単語が出てきた時、波留は僅かに反応した。その様子を見てエライザは目を細める。眼鏡の奥の瞳が光った。  
「あなた、地球が何を言っているか、興味はない?教えてあげてもいいわよ」  
 エライザはそう言って、右腕をそっと突き出した。掌が波留の前で広がる。細く白い指。  
 波留は眼前にそれが来るのを目にしつつ、エライザを見ていた。そして微笑んで答える。  
「遠慮しておきます」  
「あら、どうして?」  
 エライザは意外そうな顔をした。  
「確かに僕はそれを知りたいと思っています。が、それは誰かに与えられるのではなく、自力で答えを導き出そうと思っている事なので」  
「あらあら、あなたは結果じゃなくて過程を重んじるタイプなのかしら」  
 頬杖をついた左手が自らの頬を突付く。若干呆れた響きが声に交じる。そして彼女は右の掌を波留にかざした。そこにぼんやりとした光が走る。  
 が、エライザは何かに気付いたような表情になる。初めて眉を寄せた。怪訝そうな顔をする。  
「――あなたの記憶が読み取れないけど、何かしてるの?」  
「ああ…あの後メタルの開発者が相当腹を立てましてね。防壁のアップデートプログラムを僕に寄越しました。現在、それのテスト中でもあります」  
「まあ。あなたの御友人ね」  
 エライザは納得が行ったような表情になり、頬杖をつく手を外した。どうやら以前繋がった時に、波留の記憶からそれを読み取られているらしい。  
 波留はにこやかな笑みを浮かべている。  
「あなたが僕の記憶を読み取れないと言う事は、この状況は図らずもいいテストになっているようですね。彼にいい報告が出来そうです」  
「私にしか出来ない事なのに、変に気合を入れるのね」  
「あなたに出来たと言う事は、他の誰かにも出来る可能性がありますからね」  
「用意周到だこと。彼の記憶も欲しかったわ。あの時、あなたを助けるために私と繋がってくれたら良かったのに。意外に友達甲斐がないのかしら?」  
「自分の立場を弁えているだけだと思いますよ。彼に何かあったら電理研どころか人工島自体に大打撃なのですから」  
「本当にあなたは素敵な人ね。そこまで誰かを信じられるなんて」  
 エライザは口許に手を当ててくすりと笑った。  
 
「――それで、あなたは僕に何を訊きたいんですか?」  
 口許には微笑みを湛えたまま、波留は片手を胸に当ててエライザに尋ねた。  
「地球律はもうあなたの方が御存知でしょう。僕と話すメリットはないのでは?」  
「メリット云々ではなく、これはあなたが教えてくれた事だと思うの…」  
 言いながらエライザはゆっくりと脚を組み替える。柔らかく肉感的な脚が動く。膝の上でスカートが揺れ、机の上でグレーのタイツが張り詰める。  
「僕が?」  
「ええ。情動とか気分とか、そう言う表現が出来るんじゃなくて?」  
 波留にとってはそれは意外な台詞だった。俯き、顎に手をやる。  
「私はあなたに興味があるの。大好きよ。この情動は、あの子に負けないと思ってる」  
 靴音が波留の耳に届く。俯いた彼の視界に、エライザの足元が見えた。彼女は机から下り、着地している。そのまま彼女の足は動き、波留の方へと歩いてくる。  
「どうやったらこの情動を解消出来るのか、今までの知識を検索したのよ」  
 気配を感じ、波留は顔を上げた。エライザが彼の目の前に立っている。彼よりも少し背の低い女性アバターだった。それが彼を見上げている。波留は顎から手を離す。彼女を見た。  
「その結果は?」  
 彼の問いにエライザは答えなかった。少し声を上げて笑う。ふっと両手を上げ、彼の背中に回した。  
 そのまま彼女の手は波留の首の後ろで絡み付く。その勢いで彼女は爪先立ちになり、身体を引き上げた。  
 エライザの顔が波留に迫り、そして彼女の唇が波留のそれに触れた。そのまま押し付けるように奪う。  
 波留の胸板にエライザの豊満な乳房が押し付けられる。お互い着衣のままとは言え、柔らかい感触が彼に伝わってくる。波留はその感触と唇に感じる感触とに驚き、軽く瞠目した。  
 
 波留の両手がエライザの肩に伸びる。軽くそこを押し、やんわりと彼女の顔を引き剥がした。爪先立ちだった彼女の足が着地する。  
「――これが結果ですか?」  
「ええ。男女の情交とはこう言うものだと、様々な人物からのデータがそう言っているわ」  
 エライザは微笑んだままだった。目を細め、うっとりとした視線を波留に送る。  
 その両腕は未だに波留の首に回されている。細い指が彼の首筋をなぞり、髪の生え際に潜り込んだ。纏められている後ろ髪を手首で弾く。  
 彼女の腕を振り払う事もせず、波留は溜息を大きくついた。俯き加減になり、うんざいした表情で言う。  
「大したデータです」  
「人間がメタルで発散するのは原初の欲求よ。それは以前の電脳ネットの頃から全く変わっていない」  
 波留としてもそれは否定できない事実だった。実際にその手の依頼が何と多い事か。それを学習してしまったAIならば、こう言う事を始めてもおかしくないかもしれない。  
 エライザの片手がすっと波留の背中を探る。そして探り当て、一気に降ろした。波留はファスナーが下りる音を聞いた。背中に急に空気が当たる。  
 アバターなので彼は全く意識はしていなかったが、やはりダイバースーツモチーフらしく背中には着脱のためのファスナーが存在しているらしかった。  
 そしてエライザの手が肩甲骨の辺りに戻り、ふたつに割れたスーツを探り、波留の肌に触れてゆく。  
「脱がし辛い服を着ているのね」  
「…いや、何をしているのですかあなたは」  
「こう言う場合、まずあなたを勃起させればいいのかしら?」  
「――…ええ!?」  
 流石にその台詞には波留も声を上げる。慌ててエライザの肩に両手を当てた。彼女の身体を引き剥がそうとする。  
 少し強く突き飛ばしてしまったらしい。エライザはバランスを崩し、数歩後ずさった。そしてそこでふらつき、尻餅をつく。腰を落とし、両手を床に着いて身体を支え、きょとんとした顔で波留を見上げていた。  
 
「あ、申し訳…」  
 波留は流石に罪悪感を感じ、謝り掛ける。が、エライザはそんな彼に微笑を返す。彼女の口許に浮かんだ笑みは妖しいものだった。  
 彼女は膝で立ち、波留に向かう。なまめかしい動きで腕が彼の腰に伸びる。エライザの顔が彼の下腹部に迫り、そこに口付けた。  
 分厚いダイバースーツ越しの感触だが、柔らかい唇の感触が彼の敏感な部分に響く。そのまま彼女は片手を伸ばし、指先でそこをなぞる。浮き上がってきた部分に彼女は手を当て、持ち上げつつもそこを口に含む。  
 波留は眉を寄せる。瞼をきつく閉じ、顔を振る。前屈みになり、エライザの頭に手を当てた。湿った音が彼の聴覚に響き渡る。  
 視線を下げるとそこではエライザが舌を走らせ、口に含んでいる。ダイバースーツ越しにでも形が判るまでに浮き上がっている部分を指先で撫で回す。  
 ――参ったな。波留は心中でぼやいた。アバター同士とは言え、こう言う事は出来てしまうらしい。風俗アバターを使っていないのにこうなってしまうとは。  
 そもそも彼にはアバターを使っている自覚はない。ダイブした時点でこの若い姿になるのが常である。  
 だからこれはアバターと言うよりも彼の精神体であると解釈されるべきなのかもしれない。だから、風俗アバターでなくともこのような愛撫にも反応するのだろう――。  
 膨大なデータを処理するうちに、様々な性技も記憶しているのだろう。エライザは舌を使って責め続ける。ウェットスーツ素材のために彼女の唾液で湿ってきてもスーツの状態は変わらない。先端に口を寄せ、軽く噛む。  
 波留は深い溜息をついた。片手を自分の顔に当て、そのまま前髪を掻き上げる。覚悟を決めるべきかと考えた。  
 彼はエライザの頭に当てていたもう片方の手を、ゆっくりと持ち上げる。そのまま彼は自分のダイバースーツを掴んだ。  
 ノースリーブの袖口から腕を引き抜く。前から背中のファスナーを引き降ろされていたために、腕が抜けた状態となったスーツの上半身はそのまま落ちてゆく。  
 そして波留は屈み込む。片腕をエライザに伸ばした。彼女の右腕の上腕部を掴んだ。  
 
 今、奉仕を続けている相手の唐突な行動に、エライザは顔を上げた。その唇は唾液に濡れて室内灯の光を弾いて光っている。頬を紅潮させている。眼鏡の奥にある瞳は若干熱に浮かされているように潤んでいた。  
 彼女が見上げる先には、波留の顔がある。今までのように微笑んでいる訳ではない、何故か、何処かしら怖い印象すら与えるような表情が、そこにあった。  
 今までダイバースーツに覆われていた上体が露になっている。張り詰めた筋肉と、その表情を彼女は視界に認め、何故だかそれに怯んだ。  
 今まで波留に対してそんな感情を抱いた事はなかったのに。彼女は自分の感情に戸惑う。――感情?そもそもAIである私にそんなものがあるの?  
 波留は無言で彼女の腕を引く。力が込められた片腕は易々と彼女の身体を持ち上げた。  
「――エライザさん」  
 低い声がエライザの耳に響く。波留はそのまま彼女を突き飛ばすように、彼女の背後にある机に押し付けた。  
 エライザの上に波留は圧し掛かる格好になっていた。彼女の右腕を掴んだまま、その顔を覗き込んでいる。そして彼は右手でエライザの頬をそっと撫でた。眼鏡の蔓に指先が当たる。  
「波留」  
 エライザは短く彼の名を呼ぶ。しかしそれ以降は続かない。  
 波留は勢い良く上体を被せてきて、そのまま彼女の唇を奪った。今までの舌技により彼女の口許は唾液に塗れており、そこにするりと波留の舌が侵入してくる。彼女の舌先を絡め取られる。  
 互いにアバターだと言うのに、彼女は別の体温が自分の中に感じられるような気がした。彼に唇を吸われるとエライザは不思議な感覚を覚える。彼女の知識にはないものだった。  
 ――これも情感なのかしら?新たな知識を得る感動と、そしてまた別の感動が彼女の中に来る。それが一体何なのか、今現在の彼女には把握しかねた。  
 只、波留の腕の中に居る事が嬉しい気がした。他の誰かでは駄目だったのだ。エライザは腕を彼の背中に回す。彼女の露出した腕が、波留の露になった背中を感じ取る。  
 彼らは単なるアバター使いではないからか、エライザはそこに汗と体温すらを意識していた。  
 
 エライザは眼鏡の下で瞼を伏せて、自らの口の中を犯している波留の舌を受け容れていた。  
 彼に覆い被さられている状態で、自分の纏められた後ろ髪が机との間に挟まれて動き乱れる感覚がした。  
 下敷きになってしまっている髪の結び目をずらそうと少し顔を傾けると、波留もまた角度を変えてそれに付き合ってくる。口の隙間からどちらのものとも知れない唾液が零れてくる感触を彼女は覚えた。  
 只、舌を絡め取られているだけなのに、この感情は何だろう。エライザは自らが熱くなっているのが判っている。そしてもっと相手の体温も感じたくて、波留の背中に回した腕に力を込める。彼の肩越しに微かに潮の香りを感じられた。  
 口付けつつも波留の右手がエライザの頬を撫で、そのまま首筋に移動してゆく。触れるか触れないか、指先が絶妙な加減で彼女の首筋を撫で上げる。彼女にはそれも心地良い。  
 しかしその指も徐々に降りてゆき、彼女の肌が露出していない部分まで来ると、彼女にはもどかしさだけが残った。もっと触れていて欲しかった。塞がれた口許から吐息が漏れる。  
 不意にエライザは胸に強い力を感じた。思わず瞼が上がる。  
 彼女が顔を傾けてその方を見ようとすると、波留がゆっくりと顔を上げた。今まで重ねてきていた唇を離す。エライザは今まで侵入を許していた彼の舌が引き抜かれる感触に震えを覚えた。  
 ともかく彼女の視界が確保された。胸の方を見やると、波留の右手が彼女の胸をわし掴んでいた。紅いワンピースの布地が強く掴まれ皺を寄せている。  
「波留…何をしているの?」  
 エライザの声は少し掠れていた。今まで口を塞がれていた事もあるかもしれない。  
「どうして欲しいですか?」  
 それに対し、波留は少し微笑んで訊き返す。しかし今までとは違い、何処か挑むような表情になっていた。  
「どうって…私には良く判らないから――」  
 エライザの声がそこで途切れた。波留の右手が彼女の胸を強く掴んだからだった。服越しだが乳房の形が変わる程に力が込められている。彼女にとっては少し、痛い。  
 
 それを抗議しようとエライザは視線を上げた。それを見計らうように、乳房を掴んだままの波留の親指が、そこにあるであろう突起を擦り上げる。途端、彼女は息が詰まった。身体が震える。  
 そのまま彼はエライザの首筋に顔を埋めた。そこに深く口付ける。舌先で喉の辺りを舐め上げ、吸い付く。  
「――っ」  
 彼女の喉が震え、鼻に掛かった声が出る。波留の舌先が音を立てて彼女の首筋を舐め上げ、細いラインに濡れた跡をつけた。そこに更に唇が走る。その間も右手は彼女の胸を揉みしだいていた。強弱をつけ、更に指が突起を擦り、潰し、撫で上げる。  
 それらの感触に、エライザは息をつく。喉の奥が震えて、微かな声が漏れる。彼女が視線を横にやると逞しい男の身体がそこにあった。ずれかかっている眼鏡越しの視界は微妙に狭まっている。それも彼女にはもどかしい。  
 エライザが熱い息をつく中、波留は首筋から顔を剥がした。そのまま彼は耳元で囁く。  
「良さそうな顔をしていますね」  
 低い声が彼女の耳朶をなぶる。どうしてここまで自分は熱いのだろうかと思ってしまう。  
 情交のデータは自分の中に大量に存在する。そう言うものだと言う事も理解しているつもりだった。しかし、実際に自分の身にそれが降りかかると、何故ここまでになってしまうのか。実感を経た知識とはまた別物と言う事か――。  
 右手では胸を弄んだまま、波留の左手がエライザの身体のラインを撫で下ろしていく。腕からワンピースを纏う身体、腰をなぞる。そして彼の手がスカートやタイツに覆われた太腿に触れた。やんわりとゆっくりと、スカートの中に入り込んだ。  
「――あ」  
 エライザの口から声が漏れる。自然に頭が揺れた。  
 波留の指先が彼女の敏感な部分をなぞっていた。彼は指先に若干の湿り気を感じる。下着やタイツを着込んでいるのに、じんわりと滲み出てきているものがあった。  
 彼はなぞる指先に更に力を入れると、布に覆われているがぷっくりとした裂け目に行き当たる。  
 その感触にエライザは首を振った。口から不明瞭な声が漏れる。熱い息をつく。  
「本当に、触ってみましょうか」  
 彼女の耳元でまた、低い声がした。それは楽しげであるようで、しかし彼女には微かな熱さも感じさせる。  
 ともかく波留は、宣言通りの行動に出る。スカートに潜り込んでなぞり続けている左手が一旦離れた。その手がスカートの中を動き、タイツの類を掴んだ。そのまま手が、中に侵入する。  
 
 エライザは息を飲んだ。男の指が敏感な部分をなぞり上げてくる。そこはすっかり粘液に塗れており、滑るように指が動く。2本の指がそっと花弁に添えられ、そこを捲り上げた。  
 エライザの耳からは遠い場所のはずだが、彼女は確かにくちゅりという音を聴いた。そして指は更に奥をなぞり、行き当たる。少し力が込められるとあっさりと、そこに侵入してゆく。  
 波留は内壁を擦り上げながら、指を中に入り込ませていった。粘液が絡みつき、柔らかい肉の感触がする。  
 彼は古い記憶に頼るしかないが、全く、生身の女性と感触が変わらないような気がする。大したアバターだと彼は思う。膨大な学習がこのようなアバターを作り上げたのだろう。  
 2本の指が根元まで侵入を果たす。それらは内壁を押し広げるようにゆっくりと動かしつつ、彼は親指で花弁を捲り上げ、探る。その手元は彼には見えないために手探りだが、小さなものを親指に感じ、そこに親指の爪を押し当てた。  
「――あ…っ…!」  
 途端、エライザの身体が跳ねた。大きな声が口から漏れ、波留に強く抱きつく。波留は指をやんわりと動かして刺激を加えてやる。内部で指を曲げたりして肉壁を広げ、親指では敏感な粒を突付き回す。  
 その度に彼女は身体をくねらせる。口から不明瞭な声が出る。顔を大きく振ると、傍にある波留の顔にも彼女の金髪が掛かった。お互い、微妙にくすぐったい。  
 彼は指の動きを徐々に大きく激しくする。そこに粘液が絡み付いて発する音が、エライザの呼吸や声に紛れて室内に響く。彼女は内腿をぬるぬるとした液体が伝っているのを感じていた。まるで自分のアバターではないような感触だった。身体のあちこちが熱い。  
 彼女の視界にもやが掛かったようになっている。眼鏡が熱で若干曇っているし、彼女の目許には涙も浮かんでいる。更には意識が漫然としていて、通常の視界が保てない。  
 その視界の向こうに、エライザは若い男の顔を見ていた。視界が狭い彼女には良く判らないが、満足そうな表情を浮かべているようにも見えた。  
 ――私の姿を楽しんでいるのだろうか。熱に浮かされる中、ふとそう思った。それはどうなのだろう。私は嬉しいのだろうか。  
 瞬間、エライザの感覚を激しい何かが襲う。彼女が今まで感じた事もない情動だった。涙に塗れた両目を見開き、大きく息を吸う。思わず声が上がるが、空気の勢いにより掠れてしまっていた。  
 そして身体から力が抜ける。何らかの接続不良により自分の身体のコントロールを失ったかのように、彼女の身体がびくびくと震える。胸が大きく揺れるのを彼女は感じつつも、身体は弛緩していった。  
 波留の指も動きを止めた。彼は自分の指に肉壁が締め付けてくる感触を覚える。その頃には、粘液が彼の手元にまで伝ってきていて、しっかりと濡らしてきていた。  
 
「――いかがでしたか?」  
 波留はそう、エライザの耳元で囁いた。その声と、それに伴う空気の振動に、エライザは震えた。  
「どうって…?」  
「情交の感想は?新たな知識を得る事が出来ましたか?」  
 言いながら波留はゆっくりと指を引き抜きに掛かった。湿り気を帯びた音がそこから発せられる。  
 エライザは少し喉を反らせた。鼻に掛かった声を上げる。彼女は自らの中に侵入していた指をその身に感じていた。  
「これが、そうなのかしら?」  
「僕は男なので女性の感覚は良く判りませんが、おそらく」  
「そう…」  
 エライザは机に背中を預け、天井を見上げた。視線を彷徨わせる。顔が熱い。片手を伸ばして前髪を掻き上げた。その髪に、汗を掻いている気がした。  
 視線の中に見える胸は張っているようで、衣服で擦れて痛痒いような感触を覚える箇所すらある。  
 波留は左手を彼女のスカートから引き抜いた。そして彼はそのまま身体を引き剥がす。濡れた左手で彼は前髪を掻き上げた。溜息をつく。  
 不意に彼の顔の脇をエライザの両腕が通り過ぎた。やんわりと彼女の両手が波留の首筋を撫でた。その手は後ろで組まれ、波留を引き寄せる。  
 波留は再びエライザに覆い被さる格好となる。しかし今回は彼の意思ではない。彼もそれを受け容れていた。  
「どうかしましたか?」  
「でも、私はあなたと交わった訳ではないわ。私が求めているものは、また別物じゃなくて?」  
 
「………はあ」  
 それは少々間の抜けた声だった。――まあ、予想の範疇ではあった。やはりこの程度では許して貰えないらしい。波留はそう感じていた。  
 エライザは波留を引き寄せ、顔を接近させた。そして今度は彼女から口付ける。舌を差し出し、絡め、吸い付く。それ程強く抱き着いた訳ではないので軽く浅いものだった。顔がすぐに離れる。  
 波留は彼女の背中に腕を回した。そのまま上体を起こさせ、彼女の背中を机から離れさせた。  
「――あら」  
 腕を絡めて抱きついたままだったエライザは気付いたような声を出す。そして彼女の視線が下へ向いた。  
「何か?」  
「私に当たっているものがあるのだけど」  
 そう言って彼女は悪戯っぽく笑った。そのまま彼女はゆっくりと膝を折る。顔の位置が下がってゆく。鍛え抜かれた男の胸板から腹筋へと移動し、そして腰で止まっているダイバースーツを見やる。  
「まさか、これで脱げ落ちていなかった訳なのかしら?」  
 エライザはそう言って、手を伸ばす。そこでは波留自身がダイバースーツ越しだと言うのに自己主張をしていた。しっかりと張り詰め、形が判るまでになっている。  
 彼女はスーツを捲り上げ、そこから波留自身を救出した。  
 すっかりと成長しきっているそれを、彼女の手が撫で上げる。彼女は波留の足元に膝を立て、下腹部に顔を埋めた。片手で支えつつ、先端を口に含む。音を立てて舐め上げた。  
 波留は視界の下方で、金髪の頭が微かに揺れているのを見ていた。下半身に血流が集まる感覚がする。漣のように寄せてくる感覚に、眉を寄せる。  
 
 不意に、エライザは口を動かすのを止めた。舌先で先端を舐め上げた後に、波留を見上げる。  
「――何だか、普通で面白くないわね」  
「…普通、ですか」  
 彼女の台詞に波留は、若干、呆気に取られた。初めてのはずなのに普通も何もあるのだろうかと思った。  
 そもそも普通の女性は、こんな事はしてくれないのではないだろうか――彼は過去の記憶を紐解く。  
 彼女が吸収した知識は膨大らしいが、その中にはフィクションとの区別がついていない人間のものも多数あったのではないだろうかと推測したくなった。  
 エライザは一旦手を離した。そして自分の背中に手をやる。すっと自分のワンピースの背中にあるファスナーを引き降ろした。  
「私、あなたと似たような構造の服を着ていたのね」  
 言いながら彼女はノースリーブの袖から自らの腕を抜く。そのまま服が胸からぱさりと落ちだ。そこにあるブラジャーも彼女は自分で外してしまう。途端、豊満な乳房が解放されてそこに揺れた。  
 エライザは膝で立ったまま、波留に歩み寄る。そして再びそそり立っている彼の肉棒を見やった。少し笑い、彼女はそれを手に取る。しかしそれ以上の事はせず、まるで何かを確認するかのような目で見た。そして手を離す。  
 彼女は更に波留に寄る。両手を自分の胸に当てた。そして、彼女は自分の両胸で、波留の肉棒を挟み込んだ。  
「――うわ」  
 彼女の上から怯んだような声がした。視線を上げると波留が顔を歪めている。予想外の攻撃だったらしい。  
 エライザは口許に妖艶な笑みを漂わせる。熱を発している剛棒をしっかりと挟み込んだまま、それを押し付ける両手を上下させた。その動きに従い、彼女の乳房が波留自身を包み込み、移動してゆく。柔らかな胸の感触が波留には過敏に伝わった。  
 そんな事を続けていると、エライザの肌にもじっとりと汗が漂ってくる。そして波留の先端からじんわりと透明な液体が染み出してきていた。それが一部、エライザの胸の谷間に付着する。しかし胸の動きにすぐに引き伸ばされる。  
「――カウパー腺液って言うのだったかしら?」  
 エライザはそう呟いた。彼女は顔を俯き加減にし、首を曲げる。舌先でその先端を舐め取った。横方向からの動きではあまり刺激が与えられていなかった部分を攻め始める。  
 動かしながら先端を含んでいるため、くちゅくちゅと音が漏れる。エライザの唾液が彼女の首筋や、波留を伝ってゆく。彼女の口の中には苦い味が感じられつつあった。  
 銜え込んだ先端や乳房で包んでいる肉棒からは脈打つような感覚がある。そこは怒張した状態で屹立しており、ここまで変化する肉体であったのかと彼女は感嘆を覚えた。  
 
「――エライザさん」  
 彼女の上から声が降って来る。表向きは落ち着いているようだったが、僅かに短く語尾の響きも荒い印象を彼女には与えた。  
 ――あら、あなたも我慢する事ないのよ。  
 波留の脳に笑いを含んだ声が響いた。電通だった。  
 彼はエライザのような存在に記憶を読み取られないようにする防壁は講じていたが、電通自体は通常の行為であるために妨げられる事はなかった。  
 波留は大きな溜息のような息をつき、肩を揺らした。ぱさついた前髪が彼の目許に掛かる。それから腕を伸ばし、エライザの両肩を押さえる。彼の手がそこを支えた。  
 不意に彼は片足をそっと持ち上げる。膝を曲げ、エライザの身体の邪魔にならないように心掛けつつも、爪先を浮かせた。彼は両腕でエライザを保持していたし、もう片方の脚で自らを支える事も可能な筋力を持ち合わせていた。  
 爪先で器用に、彼はエライザの膝の間をすり抜ける。太腿の辺りまで下ろされていたタイツや下着をかいくぐり、スカートの奥をそっと突付いた。ダイバースーツと一体化している靴先に、粘液が付着する。  
 その衝撃に、エライザが喉の奥で声を漏らす。その様子を見下ろしながら波留の足先が、彼女の敏感な部分をそっとなぞってゆく。思わずエライザは喉を反らせ、口を離す。口許から声が漏れ、糸を引いた。  
 ――波留、あなた。  
「あなたは御自分に素直なようですね」  
 若干上気している顔に微笑を浮かべ、波留はそう言った。爪先をゆっくりと下ろし、再び床に着けた。ウェット素材の靴先にぬるぬるとした液体が塗れ、それは少し泡立ち白くなっている。  
「あなたを見習い、僕も素直になるとしましょうか」  
 彼がエライザの肩に置いていた手が、その首筋を撫で上げる。髪を掻き上げ、撫で付ける。優しい仕草にエライザの身体が震える。  
 彼女は再び奉仕を開始する。両方の胸で挟み込んで擦り上げ、揉み上げる。口で先端を含み、吸い上げ、舐め取る。そんな事をしていると波留の手が彼女の頭や顔、頬や首筋を撫でてゆく。  
 エライザは自分の内腿をじっとりとした液体が伝ってゆくのを感じていた。自分にも、もっと刺激が欲しい。そう思った。本当にもどかしい。  
 
「――エライザさん、離れて」  
 唐突にそんな声がした。波留の両手がエライザの肩を押す。  
 しかしエライザはそれを無視した。むしろ、それに背くように、胸で挟み込む。離れる事無く、寄り添うように撫で上げていた。  
 そして波留が低く唸るような声を上げる。彼の動きが停まる。途端、彼女の眼前で白濁が弾けるように噴出した。  
 それは勢い良く波留の先端から放たれ、エライザの胸に降りかかる。顔にも飛び散り、彼女の眼鏡を汚した。直前まで舐めていたために口の中にも入り込み、苦い味が広がった。  
 エライザは膝を落とし、その場にへたり込んだ。大きく息をつくと白濁が舌に絡みつく。彼女は口許に手をやって軽く咳き込んだ。  
 解放された胸では自分の汗と混ざり合っている。俯き加減になると乳房が下向きになって揺れている。そこを白濁が伝い、充血している乳首の辺りまで垂れてきていた。  
 太腿の辺りまでタイツや下着が下ろされた状態のため、脚の動きは制限されている。彼女は足を揃えて座り込む。偶然、擦れ合った感触に彼女は背筋をぞくりとさせた。  
 
 脚の感覚がおかしい。エライザはそう感じていた。どうしてこんなに震えているのだろう。  
 彼女は咳き込み俯くと、白色が点在した眼鏡の向こうで自分の胸元が視界に入る。谷間を伝う白く粘り気がある液体を、彼女は指で拭った。  
 掬い取ったそれを、口許にやる。独特の匂いが鼻先まで漂ってくるが、彼女はそれを口に含んだ。苦い口の中に、同じ味が広がる。しかし彼女は指先を丹念に舐めた。  
 エライザの傍らに立っていた波留は屈み込んだ。彼女と視線の高さを合わせてくる。そして波留の右手が優しくエライザの頬を掠めた。産毛を撫でる程度の微かな感触に、エライザの肌が粟立つ。  
 そして彼の手はエライザが掛けている眼鏡の蔓に伸びてきた。  
「だから――離れてと言ったではないですか」  
 優しく諭すような口調だった。波留はやんわりと、白濁に濡れた眼鏡をエライザの顔から取り上げる。そっと持ち上げられると、蔓の一部から、僅かに顔から糸を引いた。  
 そうされる事でエライザの視界が開けた。彼女は前を見た。眼前には男の逞しい胸板がある。そこは汗を帯び、上気しているかのような艶をしている。その様子を彼女はうっとりとした目で見ていた。素敵な色気があると思っていた。  
 しかし波留は彼女の視線を無視し、すっと立ち上がる。手元で眼鏡を畳み、傍らの机の上に置いた。  
「まさか、本当に目がお悪いアバターですか?」  
「…違うわ。自分に不利な設定をする程、凝り性じゃないもの」  
「なら、外しても大丈夫でしたね」  
 波留はそう言いながらエライザに笑い掛けた。再び彼は屈み込み、エライザに顔を近付けてくる。  
 エライザは瞼を伏せた。そっと唇を波留に差し伸べる。しかしそこに彼女が望んだ感触は来なかった。  
 代わりに、額に柔らかい感触が届いていた。薄く瞼を上げると、波留の首筋が目の前にある。彼女は額に唇を寄せられていた事になる。  
 キスをくれるのは嬉しい。それでも、何だか寂しい気がした。だから彼女は波留の肩に両手を置く。そして目の前にある首筋に唇を落とした。以前も感じた潮の香りの他に、別の匂いを感じる。おそらくこれは男を表すものなのだろうと彼女は思った。  
 短い口付けの後、互いに口を離す。そして顔を上げ、視線を合わせて見つめ合う。  
「キスしてくれないの?」  
「したじゃないですか」  
「額も嬉しいけど、口にして欲しかったのよ」  
「それは厭です」  
 唇を尖らせて不満げなエライザに対し、波留は微笑んで拒絶の言葉を口にした。この言葉にエライザは眉を寄せる。  
「今更焦らさなくてもいいじゃない」  
 波留は短く笑った。実を言うと彼は流石に、白濁を舐め取った彼女にそのまま唇を重ねる事はやりたくなかった。身勝手だろうが、男としてはそれはやはり味わいたくはないと彼は思っていた。  
 
 しかしその事実は伝えない。彼は笑ってエライザの肩を取る。そのまま一緒に立ち上がろうとした。  
 エライザもそれに従おうとする。しかし、上手く立てない。相変わらず脚が震えている。腕を引かれて体が動く。すると、微かに脚が擦れる。それだけで、何かが疼く。声が漏れ、顔が紅潮する。  
 そんなエライザの様子を見て、波留はそっと彼女の肩を押した。よろめいた彼女はそのまま机の上にうつ伏せに倒れ込む。  
 物を置いていない設定だった机は彼女の剥き出しになった豊満な胸を受け容れた。彼女の荷重を受け止めつつ、乳房が押さえつけられ広がる。  
 エライザは顔を打ち付けないように、両手で庇って落ちる事には成功していた。それ程勢いが付いていなかったのもある。  
 机の縁が腹部に当たっている。そこで身体が折り曲がる格好になっていた。腹部の辺りでワンピースの上半身部分が折れ曲がって落ちている状態になっていてクッションの役目を果たしていた。  
 波留の手が自分の肩から離れていく感触がした。エライザはそれに気付き、振り返ろうとした。  
 そんな時、何かが彼女の濡れた箇所に当たる。思わず、息を飲んだ。内腿から膝の辺りまで、ぬるりとした液体が伝っていくのを感じた。  
「波留…」  
 掠れた声がエライザの口から漏れる。首を巡らせて振り返ると、彼女の視界に入ってきたのは、波留が自らの雄を握り締めている光景だった。そしてその先端が、エライザの捲り上げられたスカートの中に侵入している。  
「エライザさん」  
 背後の男は相変わらず微笑んでいた。しかしその笑みはどこか違う。以前感じたような怯みの感情が、エライザに襲来する。  
「どうして欲しいですか?」  
 また、以前と同じような事を訊かれた。彼女はそう思う。しかしそう言いつつ、波留は軽く押し付けてくる。先端が、花弁を挿し割る。その感触にエライザは喉を詰まらせた。顔を前に戻し、机の上で顔を俯かせる。  
「あなたは、僕と交わりたいと言っていましたよね?」  
 優しい口調だった。そう言いながらも、握り締めた手で動かしているらしい。先端が彼女をクレバス沿いに、そっとなぞる。  
 エライザは脚ががくがくと震えているのを感じていた。上手く立てない。どうしてこうなっているのだろうと彼女は思う。  
「波留」  
「――僕と」  
 波留は上ずったエライザの言葉に台詞を被せた。そしてそこで短く言葉を切る。露になっているエライザの背筋を、空いていた左手で優しく撫でる。そして囁くように言い募った。  
「僕と、セックスしたいですか?」  
 
 優しい口調ながら、端的で強い言葉を選択された。その事実を認め、エライザは顔が赤くなるのを感じた。  
 ――赤く?どうして?単なる単語の違いではないか、同じ内容ではないかと、彼女は自問する。  
 更に、僅かに押し入ってくるものを感じる。花弁を挿し割り、その先にある奥に、先端が入り込んできていた。軽く円を描くように、入り口に触れてくる。  
 エライザはその感触に不明瞭な声を上げる。上体を机の上で捩じらせると、そのせいで両胸が押し付けられる。硬くなった乳首が机と擦れると、それはまた別の感覚となって彼女を襲う。  
「…あ…――や…っ」  
「お厭でしたら、止めましょうか?」  
 さらりとした声が彼女の背後から聴こえてくる。掠れた彼女の声に対し、低く、静かな声。  
「僕は嫌がる女性を無理矢理手篭めにする程堕ちてはいませんので――たとえアバター使いのAI相手でも」  
 最後に付け加えられた言葉に、エライザは男の冷静さを感じ取った気がした。それに釣られ彼女も気を取り直そうとするが、波留が左手で背筋や首筋に触れてくる感触に紛らわされる。  
「っ…――波留…いいわ、続けて」  
「どうして欲しいのですか」  
「…どうしても、言わせるのね…意地悪」  
「こう言う事において、意思の確認は大切ですよ」  
 彼女の背後からは相変わらず笑みを含んだ声がする。その余裕が少し腹立たしい。彼女は顔の前にある右手で拳を作った。ぎゅっと握り締める。  
 喉の奥が熱っぽい。熱い息を吐き出して、彼女は言った。  
「私はあなたに抱かれたい――犯されたいのよ」  
 彼女としては、敢えてそう言う言葉を使ったつもりだった。  
 そして沈黙がその答えとして返ってくる。意外な反撃だったのだろうかとエライザは思った。  
「…判りました」  
 しかし、すぐに冷静な言葉が返ってきた。そして左手が、彼女の腰に伸びた。  
 直後、ゆっくりと押し込まれる感触がした。今まで入り口をゆっくりと掻き回していたものが、そのまま中に入ってくる。  
「――!」  
 エライザは目を見開いた。思わず逃れようとして、机の縁に両手を伸ばしてしがみ付く。  
 しかし片手ではあるが、波留にはがっしりと腰を掴まれていた。彼女に、ゆっくりと確実に押し入ってくる感触が来る。  
 異物が自分の体内に入り込んでくる。内臓がせり上がって来るような感触だった。そして自分はアバターだというのに、そこまでリアルに感じ取れる事に驚愕する。  
 
「――落ち着いて」  
 波留の声がする。喉元に手が触れてきた。優しく撫で上げる。  
「力を抜いて…ゆっくりやりましょうか」  
 彼女には、波留がじりじりと腰を押し進めてくるのが判る。抉じ開けて中に入ってくる感触がある。そしてその箇所が酷く濡れている。じっとりとした粘液が、侵入者を受け容れてゆく。  
 波留は彼女の喉を撫で、顎に触れる。細いラインをやんわりと触る。  
 そうしていくと波留はエライザの顔が強張っている事に気付き、指で口許をなぞった。そしてそこに指を僅かに差し込んでやる。歯列らしき固い感触が指の腹に当たるが、ゆっくりと腰を押し進めるとそこに隙間が出来て熱い吐息が感じられた。  
 そして柔らかい感触が隙間から現れてきた。それが指にそっと触れてくる――舐めてきているのだと波留は思う。彼はそのまま指を口の中に差し入れた。指で舌を絡め取る。  
 それをされているエライザの方は、夢中になって波留の指を舐め取っていた。まるで口付けの代用品であるかのように。  
 完全に口を塞がれている訳ではないので、そこから息と音と声が漏れてくる。唾液で口許がべたつく。しかし彼女はそれを気にしない。  
 ――確かに、凝り性ではないらしい。波留は彼女の中に押し入りつつも冷静にそう思っていた。内部は狭くきつく締め付けてくるが、突き込めない程ではない。  
 いくらアバターでも、彼としては痛がる処女を奪うのは気が引けたのだが、こう言った面においても自分に不利になるようなコーディングはしていないらしい。  
 彼女の膨大な知識を総合して導き出されたのがこの性的感覚ならば、女性が望むような身体になっていて当然だった。もっとも、メタルは自由な世界なので男が女性のアバターを使う事もあるだろうが、処女の痛みまで追体験したがるような変態はそうは居ないだろう。  
 
「――大丈夫ですか?」  
 そう声を掛けつつ、波留の手がエライザの口許から引き抜かれた。彼女は赤い舌を口許から見せたまま、声と息を漏らす。  
 彼女は大きく息をつく。胸を膨らませて呼吸をすると、奥まで当たっている感触がした。波留は彼女の腰を片手で支えていたが、しっかりと根元まで食い込ませている状態となっていた。  
 腰を抑えていた手がそのまま下りてゆく。太腿のラインをなぞり、スカートを捲り上げる。そして中に入り込んだ。  
 酷く濡れそぼった辺りにやんわりと指が走る。そしてそのままそこをなぞり、花弁を捲り上げた。突き込まれているそれをなぞるよに、更に指が結合部を弄ぶ。既にかなり大きな物を受け容れている所に更なる刺激が来て、彼女はくっと声を漏らした。  
 その反応を楽しむかのように、波留は微かに声を上げて笑った。その声がエライザにも届く。波留の態度に彼女は何かを言おうとした。  
 が、そこに、波留は花芯に指を強く擦りつけた。鈍く粘液の音が室内に響く。彼女はそれに強い刺激を受け、背を反らせた。  
 指で摘み上げ、擦り、爪を立てる。その度に彼女は面白いように反応を返す。波留は視界の下方にある彼女の背中に震える肌を見出す。彼は軽く屈み込んで、背筋の上の方に口付けた。強張っていた筋肉がびくりと震える。そのまま彼の唇が、エライザの肩のラインに走る。  
 身体の角度が変わったからか、結合している内部でも波留自身が動こうとして彼女の内壁に遮られる。その感触すら彼女には強い刺激となって襲ってくる。  
 粘液が絡み付いて滑りが良くなっている指で、彼は強く何度も擦り上げる。その動きを早めてやると、女の口から切羽詰まった声がする。飛び上がるように身体が跳ねる。  
 彼は右手で彼女の身体を抱いた。胸に手を伸ばし、軽く乳房を掴む。そして柔らかな感触を掌に収め、やんわりと揉みしだいた。  
 大きな声がエライザの口から漏れている。波留の全ての動きに反応してくる。見ていてとても面白いと彼は思った。  
 そこに、腰を一突きした。最奥を突く。  
 エライザの口から悲鳴のような声が上がった。波留は陰りを弄んでいた左手を、そのまま内股に擦り付ける。粘液でぐちょぐちょになった感触がする。そして彼は腰を何度か叩き付けた。その度に、結合部が淫靡な水音を立てる。  
 
 波留は粘液に塗れた手を引き出し、そのまま彼女の脇腹に触れた。そこを撫で回し、擦り付ける。胸を抱く腕を折り曲げ、彼女の上に被さる格好を取った。肌を密着させる。彼女の肌は表面上は汗で冷たくなっているようでいて、酷く熱くなっている。  
 被さった状態で腰を突くと、かなり限定された動きになる。あまり強い衝撃にはならない。それでも彼女の内壁がきつく締め付けてきていた。  
 彼女の内部に挿入し始めた頃は、既に1回放った直後だったためにまだまだ完全に立ち上がってきていなかった。だからこそ、彼女が受け容れる事が出来たのだろうとも思う。しかしこう締め付けられると、硬度を増してゆく己を感じざるを得ない。  
 波留はエライザの首筋に舌を這わせた。舌先を耳にやり、軽く突付く。そして耳朶に軽く歯を立てた。その痛みに彼女は意識が逸れる。そこを大きく突き上げると彼女は身悶えた。  
 不意にエライザが首を巡らせて、波留の方を振り向いてきた。揺らされて不安定な姿勢だが、その状態で彼に対して目を細める。まるで、キスをねだるように。  
 赤い頬に伝う汗や涙。熱に浮かされた瞳。半開きの口許からは吐息や不明瞭な嬌声が漏れている。それを眼前に見た波留は、何だかAI相手だと言うのに絆されてくるような気がした。  
 ――まあ、いいか。彼は納得した。乱交状態ならともかく、今回は一対一なのだから、彼女の口から苦味を感じるにせよ、それは所詮は自分の分泌物だ。それに、今まで好き勝手やってきたから、もうそれも薄れてきているだろう――そう考えた。  
 波留はエライザの口許に自分の唇を寄せる。それを悟った彼女が口を開き舌を差し出してきた。彼もまた、口を開いてそれを受け容れる。彼女の口を吸うと、若干の苦味がまだ存在していた。しかし彼はもう、気にしない事にした。そのまま唾液を感じる。  
 繋がったままの不安定な体勢での背後からのキスのため、息が漏れる。しかしエライザは出来る限り彼に接触しようとする。息が荒いのが自分でも判る。こんなに求めている自分が、何処かしら、怖い。  
 そんな最中でも何度も突き上げられ、エライザは姿勢が保てなくなる。顔が振られ、口が離れた。彼女は目が眩んだような感覚に陥り、そのままテーブルに突っ伏した。  
 
 波留は彼女から上体を引き剥がす。両手で腰を掴み、持ち上げるように引き寄せた。  
 そして彼は激しく抽送を始めた。身体を密着していた時とは違い、大きなストロークで腰を動かす。粘液に塗れた彼の肉塊が彼女の内部から半身を覗かせ、そして再び最奥まで突撃してゆく。そんな動きが数度来る。  
 これまでとは違う、強い衝撃がエライザを襲う。喘ぎとも悲鳴ともつかない声が、エライザの反り返った喉から発せられた。  
 そのまま波留はエライザを蹂躙し続ける。敢えて角度やリズムやスピードを一定にせず、彼女の身体に慣れさせないようにする。全てを新たな刺激にしてやるように仕向けた。  
 果たして彼の視界の下で、エライザの身体が踊っている。結ばれた髪は解け掛かっており、ほつれ毛が背中や腕に掛かり汗で張り付かせている。  
 縋るものを探すように彼女はテーブルの上で両手を彷徨わせ、無意識のうちに自分の眼鏡に手が当たっていた。それはテーブルから落ちずに済んだが、波留の方に滑ってくる。  
 ――落として壊しても、アバターだから再生は出来るか。彼は白濁がこびり付いている眼鏡を見て、冷静にそう思っていた。  
 そのうちにもどかしげにエライザ自身も腰を振ってきている事に、彼も気付く。内壁からは粘液が絶え間なく分泌され、動きを助けてくれている。そして絶妙に締め付けてきていて、彼にも刺激を与えてきていた。  
 それは彼の視界の隅に見える抽送からも見て取れた。すっかりと成長しきった彼の雄が白く泡立った粘液に黒く輝き、彼女の花弁を無残に散らしている。彼女の声に混ざって、水音と、肉が擦れ合う音が耳に届く。彼は五感全てを用いて刺激を感じていた。  
 
 揺らされながら、エライザは波留の名を呼んでいた。自分の声とは思えないような、掠れて切ない声色だった。  
 どうして自分からこんな声が出るのか、彼女には全く理解出来ない。しかし、このまま続けて欲しい。全身が熱い。息が苦しい。意識が白に染まってゆく。  
 こんな感覚は知らなかった。彼女は人間から様々なデータを掠め取って保持してきた。それらを分析して、人間を知ったつもりだった。なのに、こんな事は知らなかった。  
 ――彼は、私の事をどう思っているのだろう。彼女のAIに、不意にそんな考えが頭をよぎる。  
 それは、今まで考えた事もない事だった。何故なら、彼女は人の心を読む事が出来ていたのだから。それを望めば、相手の気持ちなどすぐに理解出来ていたのだから。  
 しかし、今は、波留に構築された新たな防壁のせいで、それは適わない。  
 ――あの時も礼儀正しくも内心は冷静で、全く私に心を許していなかった。興味があったのは私の知識と行為であり、私個人に対する興味など持っていなかったのが彼だった。  
 今も、そうなのだろうか。  
 彼は私を只のプログラムの産物と思ったまま、犯しているのだろうか。  
 エライザはそこまで考えるが、その答えは出せない事も理解していた。むしろ、出せない事を僥倖だと思おうとしていた。それを確かめるのが、実は、怖かった。  
 ――私は、こんなに愛しているのに。  
 内心に走ったこの台詞に、彼女自身が驚いた。思わず問い返す。これが、愛なのだろうか?確かに私は彼だからこそ、こんな風にされたかったのだが――。  
 その時、急に何かが彼女に来る。身体が今まで以上に跳ねるのを感じた。机に着いていた爪が立てられ、そこを掻き毟るように動いていた。  
「――波留…!もう、駄目…っ…!」  
 彼女は無意識にそう叫んでいた。視界が漂白され、思考野に電流めいたものが走り抜ける。何かが崩壊するのではないか、そんな恐れすら抱く。  
 波留は彼女の言葉に頷くように顔を揺らした。彼女の腰を強く抱き、一気に突き込んだ。先端と最奥が激しく接触する。  
 その瞬間、エライザの身体がぶるりと震えた。大きな喘ぎが口から漏れ、彼女は硬直する。そして身体が脱力し、机に大きく突っ伏した。その肌が細かく痙攣する。  
 波留は根元までしっかりと銜え込まれた状態で、彼女の内壁がきゅっと締め付けてくるのを感じていた。細かなひだが彼の分身を包み込み、まるで搾り取ろうとしてくる。  
 彼はもうそれに抵抗しなかった。頭を下げ、眉を寄せる。低く唸り、彼はそこに精を注ぎ込んでいた。  
 
 
 
 
 
 

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