葉月マイラヴ 〜愛の遍歴〜
フジオが女にモテたことなど生まれてこのかた一度もなかった。
見た目どおりの虚弱体質である。薄い胸板に細い腰、頼りない腕、おぼつかない脚、
おまけに極度の近視でブ厚いメガネを一時も手放せない。強くなりたいと思い立ち
ボクシング大会に出場したのはいいがリングに上がるたび観客席は爆笑の渦。奇声を
あげ腕をグルグル回しながら相手に突進する姿は見ているものに哀しみすら誘う。
ついたあだ名が「のび太」。ピッタリだと自分でも思ってしまうのが情けない。
今夜の相手はロボットだと聞いている。全身銀色のメタリックなやつだ。何の因果で
ロボットとボクシングをしなくてはならないのか。勝てるはずがない……。
青白い顔でため息をついていると控室のドアをノックする音があった。
「フージーオー、さんっ」
フジオと好対照な高いテンションで入ってきたのはひとりの女の子だった。花柄の
黄色い浴衣に草履をはき、肩口まで伸びた青い髪にはアサガオの髪飾りが光っている。
狭い部屋はすぐに女の子のにおいでいっぱいになった。
「ふふっ、今日も弱そう。ほらほら、もっとがんばって」
彼女は名を葉月といい、ちょっと前からフジオの追っかけをしている子だ。フジオの
ファンなんて奇特な子は彼女以外にはいない。それだけでも夢のようなのに、さらに
彼女はかわいかった。相当かわいい。目はぱっちりしていて丸顔で、にっこり笑うと
フジオの乾ききった世界がキラキラ輝いた。
葉月がフジオのファンになった理由、それはズバリ弱いからであった。そう聞いた
ときは微妙な気持ちになったが、自分が強かったらこの青い天使には出会えなかった
わけで、フジオはおのが運命に、薄い胸板や細い腰や頼りない腕やおぼつかない脚や
ブ厚いメガネに感謝した。
どうして弱い男が好きなの? 一度、葉月に尋ねたことがある。お尻を叩けるから、
と彼女は薄笑いを浮かべて答えた。
「……フジオさん、今日はね、私、お別れを言いに来たの」
葉月の顔がすこし暗くなった。見たことのない表情だった。
「私、つきあってる人たちがいるんだけど、あ、人たちって言ったのは三人いるから
なんだけど、三兄弟なんだけどね。その三男と今度、アマゾン旅行に行くことに
なっちゃったの。だから、会えるのは今夜が最後になるかもしれない」
突然の言葉に呆然とするフジオを、葉月の濡れる瞳が見あげた。
「だから……抱いてほしいの」
「で、でも、これから試合だし……」
フジオは狼狽を隠せず震える声をしぼり出した。肉体関係を迫られている。突然天使の
ようにかわいい女の子に肉体関係を迫られている。それはまだ女の子としゃべったり目を
合わせただけでドキドキするフジオにとってスーパーリノの告知音にも匹敵する衝撃だった。
「いくじなし」
葉月は小さくつぶやいて、フジオに体をすり寄せた。鼻先に青い髪がさわる。夏の夜の
縁日みたいな、かわいいけれどどこか危険なパピードッグのような香りがする。
「ヤッておいて損はないと思うけどなあー……」
眼下でささやく葉月の声はたまらなく甘い。フジオは両手をコングダムの4thリールの
ように震わせながら葉月の肩に回して抱き寄せた。生まれて初めて抱きしめた女の子は
浴衣の上からでもそのやわらかさが伝わってくる。熱さが伝わってくる。
見あげる葉月が唇を求めて目を閉じた。フジオは覚悟を決めて彼女の唇に唇を重ねた。
ゆっくりと、ていねいに。あごはずし打法のレバーみたいに、おそるおそる。
「フジオ……さんっ……」
メガネが邪魔だと気づいたが遅かった。唇の隙間から葉月が熱い息をもらしてあえぐ。
フジオの動きがじれったいのか、自分から唇を吸い舌を出して交わろうとする。
フジオは恍惚の中で葉月の味を知った。葉月の唇はかぎりなくやわらかい、葉月の唇に
くらべたらこの世のすべてがマンクラのボタンのように固い。葉月の舌はとめどなく甘い、
葉月の舌にくらべたらこの世のすべてがダブルチャレンジ一倍プッシュのように味気ない。
「んっ……んっ、あ……、ふふっ……」
すっかりキスに夢中になっているフジオに、葉月も頬を紅潮させて満足そうに笑った。
「うふふ、もうこんなになってるよ?」
「あ!」フジオのペニスはパンツの中ですでに大きくなっている。葉月がその上に指を
這わせるとなんとも情けない声が出た。
「いいよ、私もいっしょだから……」
そう言って葉月はフジオの手を自分の股間に導いた。浴衣の下には何も着けていない。
指がヌルヌルしているところにさわって葉月の体がぴくりと反応した。そこは洗浄したての
コインのような熱さでフジオを迎え入れた。
葉月は体を傾けてフジオに横になるようにうながした。慣れた動きだった。恋人たちと
いつもこういうふうにしてるんだろうかとフジオは思ったがすぐに頭から消した。葉月が
パンツを下ろしてあらわになったペニスを愛撫しはじめたからだ。
「う、ああっ、ひああ」
さっき口で味わった葉月の唇の感触を、舌の動きを、今度はペニスが一身に受けている。
皮かむりの先っぽを慈しむような表情をみせて口にくわえると、ぬめった口の中で包皮が
むかれ、露出した敏感な亀頭は包皮のかわりに熱い舌で包まれる。
「ふふっ、情けない声、もっと聞かせて……」
加虐の光をその目にたたえながら、裸になったばかりのカリ首を上唇でこする。じゅんっ、
じゅんっ、ディスクアップの7テンパイ音に似た卑猥な音が部屋に響く。
「んあっ、あっ、葉月ちゃ……あっ! あ、うあ!」
「んっ……!」
数十秒のうちにフジオは射精した。試合前の禁欲生活で溜めに溜めた精液は、破壊王で
ゼロワンが揃った時のストックのように断続的に放出され続けた。放出のあいだも葉月は
ペニスを放そうとしなかったがやがてついに耐え切れず口を開けた。残りの射精は顔で受け、
葉月の白い肌が黄ばんだ精液にまみれる。その表情はうっとりしている。フジオは彼女の
大きな瞳を汚してはいけないと思ったが快感に震える体を制御することはできなかった、
エスプのCT中の第1第2リールのように。
長い放出がようやく終わると、葉月はドロドロに白濁した顔で甘いため息をついた。
「はあ……いっぱい出たね、すごいね……」
出し尽くしたはずなのにペニスはまだ軽い脈動を続けている。まだ固いままだ。まだ
足りない、まだ渇いている。ペニスの先が精液で光っている。大江戸桜吹雪のレバー玉の
ように、なまめかしく。
それを察知した葉月は顔の白濁を軽くぬぐいながら、もう一方の手でペニスを愛撫した。
「まだまだいけそう? もう、こっちだけは強いんだからぁ」
フジオはまだ射精直後の夢心地で、チェリーキューブのブランクを思わせる空白が頭を
占めていたが、葉月はお構いなしに浴衣の裾を持ち上げペニスの上にまたがった。帯が
乱れて襟が広がり、小さな胸のふくらみが見えそうになっている。
「フジオさんはそのままでいいからね。私、上になるのが好きなの」
ぺろりと舌なめずりをして、ゆっくり腰を沈めていった。
もう十分にうるおっていた葉月のそこは、サクラ大戦のコイン投入口のようにスムースに
フジオのペニスを受け入れた。フジオの亀頭は射精後の過敏な状態がまだ少し残っていて、
無慈悲な強い刺激に思わず悲鳴をあげたが、刺激はすぐ新しい悦楽へと変わっていった。
中は狭いのにトロトロで、広がっているのにぎゅっと締め付けてくる。プレリュードの
ボーナス確率にも負けないバランスの良さだ。やさしく、激しく、フジオから精液を
しぼり取ろうとうごめいている。いやらしい音を立てている結合部は浴衣に隠れて見えない。
見えないからこそ興奮する。どんなふうに自分のあそこが葉月にくわえられているのか、
想像してさらにペニスは昂揚し勃起する。
いつも同じ三本を相手にしている葉月にとっても、フジオのペニスの感触は新鮮だった。
山佐がスピードを出した時のような新鮮さ。中で刺激されている場所が違う、いつもと違う
ヒダが喜んでいる。腰を上下するたびに口から押し出されるように気持ちいい声が出てくる。
汗が頬をつたってフジオの薄い胸板にぽとぽと落ちる。乳首はもういっぱいに勃起している。
「んんっ、んうぅ、あはっ、あはは」葉月は笑っていた。
「葉月っ……葉月いぃっ」
フジオの声は上ずり、限界がもうそこまで近づいてることを示している。また絶頂に
達するであろうことは猛獣王の天井チェリー後ぐらい確実だ。葉月はフジオを見下ろし
ながらさらに深く激しく腰を動かした。
「ずっと、私のこと、好きでいてね? 浮気しちゃ、やだよ?」
「好きっ、好きだ、好きだ好きだ好きだ、好きだっ……!」
「あっ、あ……!」
ペニスがひときわ大きくなりついにもう一度射精をした。どこに精が残っていたのか、
持てる力のすべてを葉月の膣内へと注ぎ込む。シルバーブレットの集中突入時のように、
快楽の音階が上がって上がって昇りつめる。フジオが本能的に腰を突き上げ葉月の小さな
体が持ち上げられる。奥の奥まで犯されて葉月は声にならない声をあげた。ホットロッド
クイーンを思わせる歓喜の無音だった。
「……あぁ、気持ちよかったあー」
情事が終わりしばらくして、葉月がフジオに笑いかけた。
「ね、損はなかったでしょう? うふふっ」
フジオは腰から下に力が入らないのを感じながら、あいまいにうなずいた。
浴衣の帯をなおしていた葉月がふと時計に目をやって、あーっ! と叫んだ。
「もうこんな時間! 試合始まっちゃうよ!」
「えぇっ!?」
すでにヘロヘロ状態でなんとか立ち上がるフジオの尻を、葉月は思いきり蹴っ飛ばした。
「ほーら行ってこおーいっ!」
ドンちゃん2で恋人を崖から突き落とす時のような、容赦のない動きだった。
(おわり)