――残り5分  
 
5才のランボによって唐突に10年前の世界に呼び出された15才のランボは、  
その日はどうにか痛い思いをせずに出現出来た事に安堵した。  
因縁深い沢田家の庭で自分を取り巻いているのは、この時点でボンゴレ  
10代目ボスの傘下として収まっているファミリーの面々である。  
周囲を見回して、「あーあ、またかよ」と苦い顔で出迎えたのが  
彼らしかいないのを確認すると、ランボは脇目も振らずに駆け出した。  
呆気に取られるツナ達を置き去りにして、目指す『彼女』の元へ急いだ。  
 
――残り4分  
 
・・・見つけた。  
 
求める背中を視線の先に捉える。  
とりあえずは『彼女』の家を目指しての猛ダッシュ中、運良く  
タイムリミットまで数分を残して遭遇出来た。  
これまでにも何度も試みたのだが成功して逢えたのはほんの  
数回、しかも数十秒単位だったから、その都度速攻撃退されて  
ジ・エンド。何の成果も無いまま元の時代に戻されていたのだ。  
 
牛は牛でも闘牛並みのスピードで駆け寄ると、ピンで止めた前髪から  
覗く吊り気味の、けれどきつそうには見えない黒目がちの瞳が  
ランボの姿を映して限界まで見開かれた。  
ランボが少女時代の彼女に逢う度に感じるのは、彼が10年後にも  
口説き落とそうと苦心している女性の雰囲気とあまりにも  
変わらないという事だった。  
世間の常識枠から外れた行動が目立つ彼女だが、明るくて優しくて、  
同じ場を共有するだけで他人をも和ませる空気を醸し出している。  
過去でも元の時代でも15才ランボは彼女から「エロ!ヘンタイ!!」  
扱いを受けていたが、いかに迷惑そうな素振りをされても心底  
嫌われてはいないのは判るので、修復のしようが無い程に愛想を  
尽かされるまでは時間の許す限り傍に居たいと思っていた。  
 
――残り3分  
 
アスファルトから煙が立ちそうな急停止をして呼吸を整えている  
ランボの気持ちを知ってか知らずか、制服姿のハルは彼が近寄ると  
後退り、鞄を盾に真赤な顔を隠しながら叫ぶ。  
「はひぃー!ま、また・・・来ましたね・・・!!も〜その姿の時は  
来ないでって言ったじゃないですかっ!よ、寄らないで下さい、  
エロが感染しちゃう!!」  
その言葉も多分、きっと、思春期にありがちな潔癖さの表れ  
なのだろうし、それどころか何年経ってもちっともエロくなって  
くれませんよと言いたくなるのを抑えながら、ランボは型通りの  
挨拶をした。  
「どうも・・・親愛なる若きハルさん。大丈夫です、今日もきちんと  
留めてますから」  
駆けながらシャツのボタンは全部留めた。  
いずれファッションセンスを否定されることが無くなる(諦めてもらえる)  
その日まで、なるべく彼女を嫌がらせたくない。  
「そーいう問題じゃなくって・・・存在自体がエロっちーんですってば!!」  
「そうですか、すいません」  
気もそぞろに謝罪して時計を確認する。  
 
――残り2分  
 
ここまでの浪費が惜しい。  
部活帰りのハルに出会えたのは僥倖には違いないが。  
 
日本の秋は太陽が沈むのが早くて、彼らの頭上にも既に薄闇が迫って来ており、  
幸いにも通行人は居なかった。  
次に5才の自分に呼び出された時こそと決意を固めていた計画をいよいよ実行に  
移せる好機が巡って来たのだ。  
「どーしていつもいつもいっつも、ランボちゃんに呼び出される度にハルんとこに  
来ようとすんですか!」  
「それはいつも申し上げているように、ハルさんを愛しているからですが」  
「ぎあー!!あああああ愛とかハズカシー単語を軽々しく口にしちゃうのやめて下さいって  
前にも言いましたよねえ!?私のランボちゃんはあのウザカワイイちっちゃいランボちゃん  
だけですとも!あと、ハルが好きなのはあくまでツナさんなんですってば!!」  
「そりゃ・・・ボンゴレのボスに容易に勝てるとは思っていませんけどね」  
牽制してブンブン鞄を振り回しているハルの腕を絡め取った。  
スポーツをしているといっても、演技を人に見せる競技だから目立った筋肉の  
付き方はしておらず、腕は細く、腰も同様だった。  
ハルの抵抗が一段と激しくなったのにも構わずランボは顔を寄せる。  
鞄を放り出したハルの爪で顔を引っ掻かれたし、うなじに回した手で暴れる頭を  
押さえても歯が音を立ててぶつかった。  
どんなシチュエーションでも自分はこの時代で痛い目を見ずには帰れないらしいと思った。  
「!・・・!!」  
歯を固く喰い縛るハルの唇を自分のそれで包み、柔らかくふっくらした感触と温度を夢見心地で追う。  
「っふ・・・」  
鼻で呼吸出来る事を忘れたハルの口が酸素を求めて開くと、今度こそ容赦無く口内を貪った。  
 
――残り1分  
 
 
ハルはランボに抱えられるままぐったりしていた。  
これで15才の自分を13才時の彼女に男として印象付けられただろうか。  
それとも、もしかすると今の行為で10年後への道筋を打ち壊して  
しまっていて、帰った先には元の自分が知るハルとは違うハルが  
いたりして・・・。  
 
まだ25才の自分を呼び出したことが無いランボに、今更のように  
そんな不安が押し寄せてきた。  
彼女に氷のような冷たい目で見られたら「ガ・マ・ン」の呪文も  
効かない。  
「・・・すいませんでした・・・」  
小さく謝る情けない声に、ハルの肩に力が入って姿勢が戻ったと  
思うと、ランボの腹に強烈な蹴りが入れられた。  
「・・・!!!!!」  
無言でのたうつランボに、涙を滲ませたハルが叫ぶ。  
「ファーストキスがディープって!どーいう神経ですよー!!」  
「・・・・・・・・・はぁ・・・?」  
それはキスの事実では無く、キスの仕方に怒っているという  
事か・・・とランボが聞き返そうとした時、  
忌まわしいリミットが訪れた。  
 
 
きょとんと自分を見詰め返す牛柄の服を着た幼児を見て、  
ハルは盛大な溜息をついていた。  
「もう・・・信じられません。きちんと手順を踏んで口説くでも無く  
あれですか・・・しかもやり逃げだなんてサイテーですね。  
本当にどーいう神経してんだか改めて質問し直しますからね」  
鞄片手に抱き上げた何も知らない子供相手に文句を言いながら、  
毎回毎回必死の形相で駆け付ける5分間の男の面影をそこに見て、  
ハルはくすくすと笑いながら家路についた。  
 
【終】  
 
 

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