体がピクリと反応する。  
自分に覆い被さる身体がそれを感じ取り、抱き込む腕に力を込めたのが分かる。  
自分とは違う、武骨な長い指が柔らかく頬を撫でる。  
それを冷たく感じてしまうのは、自分の頬が熱くなっているからだと気付いた。  
唇を合わせる―――その行為に体温が上昇しているのだ。  
恋人の指で自分の動揺を知るという感覚は、とても奇妙で、それでいてますます高揚を誘う。  
角度を変えて緩く押し付けられる。  
唇を尖らせては音を立てて吸い付く。  
僅かに悪戯に出された舌が唇に触れれば、またピクリと反応してしまう。  
少しかさついていた唇は、いつのまにかしっとりと馴染んでいた。  
「――ハル」  
唇にかかる吐息と混ざった呼び掛け。  
それがキスの深くなる合図。  
初めて「大人のキス」を体験した時、不意の出来事に吃驚して、山本の舌を噛んでしまいそうになったのだ。  
それ以来、習慣になってしまった二人の約束事。  
ゆっくりと瞼を持ち上げれば、鼻先が触れ合う距離にある山本の顔が見える。  
愛おしそうに細められた目と顎にかかる指を感じながら、また瞼を下ろす。  
微かに唇を開き、より熱い、恋人からの愛撫を待つ。  
そんなハルの仕草を可愛いと確かめるように上唇をそっと噛むと、山本は舌を滑り込ませた。  
途端、背筋をびりびりと痺れるような感覚が襲う。  
 
「・・・んっ・・ぅ」  
思わず鼻から抜けるような声が漏れた。  
とても甘いその声に誘われるかのように、山本の舌はどんどん深くまで潜り込んでゆく。  
引っ込もうとする舌を攫い上げ、擦りつけては絡め取る。  
大胆で、かつ繊細に。  
その先端で、敏感な上顎を刺激すれば甘い声はまた零れだす。  
緩やかに確実に、自分の中にある燻った熱を煽ってゆく行為に耐え切れず、  
ハルは背に回した手で強くシャツを掴む。  
しがみつくようなその仕草が山本を煽り、一層キスは深くなる。  
体中の神経が、深く触れ合う一点だけに集中してしまう。  
微かに耳に入る濡れた音が恥ずかしくて止めたいのに、止められない。  
閉じられた瞼の裏に、先程見たあの目を思い浮かべてしまう。  
ふいにゆっくりと絡められた舌が解かれ、ちゅっと音を立てて離れた。  
唇に残る濡れた感触を追いかけるように目を開けた。  
恋人の顔も、肩越しに見える天井も、全ての視界がぼやけており、  
自分が知らない間に涙ぐんでいたのだと気付く。  
「ふ・・・ぁ・・・」  
乱れた呼吸の山本が熱っぽい眼差しを向けているのを感じ、シャツを握る指がひくりと慄いた。  
耳元に寄せられた唇。  
「ハル・・・今日は、このまま・・・」  
掠れた低い声が吐息と共に入り込み、そこから溶けてしまうのではないかとさえ感じる。  
 
(もしかして今日は―――してしまうんでしょうか・・・?)  
未知の体験を味わおうとしている恐怖とそれに勝る好奇に、ハルの体はまた震えた。  
 
耳元から唇を離すと、再びハルを見下ろす位置まで体を起こす。  
「駄目か・・・?」  
そんな視線を向けられると胸がいっぱいになり自然と泣きそうになる。  
――駄目な訳じゃない、好きだから、受け入れられる。  
こんな風にキスする度に意識してきたこと。  
でも、想像はしていたけれど、いざとなるとその一歩を踏み出すことは出来なかった。  
持て余し気味の熱と、未だに残る先程までの唇の感触がもどかしい。  
「あ、あの、でも、その・・・・、ハルはっ、は、初めてですから・・・」  
か細く、最後の方は恥ずかしさに消え入りそうになりながらも、答えた。  
波打つ鼓動と連動するように指が震えている。  
赤くなった頬を、ゆっくりと掌で包み込まれ、さらに顔が近づく。  
「うん」  
短い一言と共に降ってきたのは優しいキス。  
それはたった一回だけ、触れるだけのものだったけど、唇からじわじわと新たな熱が広がる。  
重なったときと同じようにゆっくりと遠ざかる唇の輪郭がリアルで、  
潤む視界を振り払うように瞳を瞬かせる。  
 
「・・・優しくする」  
――こくんと、息を呑んだ。  
今迄だって真剣な表情は見たことがある。  
『好き』って、互いの想いを伝え合ったとき。応援に行った野球の試合。  
その度にドキドキして、また好きになって。  
でも、今回はそんなもんじゃなくて、もっと最上級のもの。  
「――ハル」  
こんな熱っぽい、端正な獣の視線から、自分は決して逃れられない。  
けれども、もとより抗う気持ちなんてないのだと気付く。  
自分よりも、固く引き締まった身体に回した腕を、きゅっと締めた。  
これ以上縮める距離なんてないはずなのに。  
だって今の、こんな気持ちの表情なんて見られたくない。  
「――ゃ、約束ですよ・・・」  
吐息に紛れてしまう程に小さく小さく囁いた返事は、しっかりと山本に受け止められた。  
「好きだよ、ハル」  
何回、何十回と聞いても慣れないその言葉が、耳の奥でこだまする感覚に背筋が反応した。  
 
「あ、あんまり見ないでくださいっ」  
組み敷かれた山本の下で、ハルが抗議の声をあげた。  
すでに洋服は脱がされた後で、身につけているのは下着のみであり、勿論向き合う山本も同じく下着だけ。  
胸の前でクロスして隠された腕の下から、ピンクの水玉のブラジャーがちらりと覗く。  
「何で?」  
「今日は、か、可愛い下着じゃないんですっ!」  
実はハルなりに考えて、万が一のそのとき用に可愛い下着を買っていたのに、  
どうしてこんな普段着(普段下着?)の時にそんな展開になってしまったのか。ハルは心中かなりがっかりしていた。  
もうちょっとフリルも多めで、真っ白で可愛いのがあったのに。  
今朝の着替えの際に適当に選んでしまった自分に後悔しつつ、いつものより高かったんですよと、ぼやいた。  
「十分可愛いけどな」  
腕をどかし、大きな掌ですっぽりとハルの片胸を下着ごと包み込んだ。  
「あっ」  
その手を優しく握るように動かし、親指はブラジャーから出ている胸の部分の肌を滑らすように撫でている。  
布越しに揉まれる刺激に顔の温度と息があがる。  
 
「駄目、なんですっ。ハル的にはっ」  
「・・・・・・じゃ、じかに見るならいいんだよな」  
「はひ?」  
素早くシーツとハルの間に手を差し込むと、背中のホックを外しブラジャーをたくし上げ脱ぎ捨てる。  
すると、これまた可愛らしく、ぷるんと白い乳房があらわれた。  
「ひゃ・・・!や・・・」  
まだ発育途上でありながらも、ふっくらとした乳房はハルが身じろぎするとふるりと揺れた。  
何といってもその柔らかそうな質感が山本を視覚から刺激する。  
堪らずに手を伸ばし、先程よりも優しく包み込みと桃色の先端には触れずゆっくりと揉みしだく。  
「ふ・・・っ・・・」  
「すげ、やわらけー」  
ふにふにと揉めば形を変え、それでもしっかりとした弾力でまたもとの形にもどる。  
一層すべすべの肌がまるで掌にぴったりと吸い付くような感触で、山本の口から思わず溜息が出てしまう。  
僅かにだけれども、まだ触れていない先端が可愛らしく主張しはじめてきた。  
「んーこんな気持ちいい感触初めてだな」  
「な!何てこと言うんですか!」  
真っ赤になって上げる声が上ずっていて、それすら確実に山本の下半身を刺激する。  
「や、事実だし。・・・・・・なぁ、舐めてもいい?」  
「はひ?舐めるって、」  
何をですか、とハルが発するよりも早く、今迄揉まれていた乳房を濡れた感触が襲う。  
 
「!ひゃあぅっ…ん!」  
白い胸と先端部分を彩る桃色の境目付近をなぞるように舌が動く。  
上から下へ、わざと外しながら周りを舐めるとぷるぷると揺れる先端が愛らしい。  
マシュマロにも似たそれに誘われるように漸く山本が乳首を含むと先程より高い嬌声が漏れた。  
硬く尖ってきた乳首を転がし舌先で弄れば噛み締めたハルの口から苦しそうな息が聞こえる。  
「や…ぁん、それ、ダメっ…です!」  
勝手に出てしまう声と、腰の辺りがもぞもぞするような未体験の感覚をどうしようなどとハルは考えるが  
それよりも与え続けられる愛撫に反応してしまう。  
時折、唇を離しては平等にとばかりに左右を交互に舐める山本。勿論、空いたほうは手で揉むことも忘れない。  
「っ、いつまで、舐めてるんですかっ」  
ハルは育てたことないけど、赤ちゃんてこんな感じなんでしょうか…?、などと思う余裕は出来たものの、  
続けられる刺激に我慢できずハルは、裸の山本の肩を叩き訴える。  
「ワリィ、ついつい可愛くて」  
漸く唇を離した山本は全然悪びれた様子も無く、笑みを浮かべ軽くキスを落とすと  
しげしげと眺めながら話しかける。  
「ハルって乳首感じやすいのか?」  
「し、し、知らないですよ!そんなの!」  
「だってほら」  
視線を移動させた先にある、白い乳房に咲く乳首はさんざん可愛がられてぷくりと尖り、  
最初のときよりも色濃くなっていた。  
舐められたおかげで濡れていて、いやらしく光っているのがまたそそる。  
 
「感じたってことだよな?」  
「!あれだけされればっ!…仕方ないじゃないですか…」  
瞳にうっすらと水の幕を張り、頬を高揚させたハルが困ったような溜息みたいな返事をするものだから、  
思わず強くその体を抱き締めた。  
柔らかくてあたたかい乳房と存在を主張するかのような乳首を自分の胸で感じた山本は、  
もう止められない程の熱が下半身に篭ってきたのをはっきりと自覚した。  
「やべーって。…ハル」  
「はひ?」  
「好き。すげー好き」  
「…当たり前です。ここまでして……好きじゃなかったら許しませんよ?」  
精一杯の強がりなのか照れ隠しなのか、そんな言葉で答えるハルも体中に熱を帯びている。  
これ以上いってしまえばもう戻れないと心の中で思いながら、目の前の愛しい人に全てを預ける  
覚悟は出来ていた。  
「じゃあ、ここから先も…いくぞ」  
「………はい」  
体勢を整え直した山本はまたハルの乳房に手を置くと、緩く揉んでそのまま手をゆっくり下ろす。  
無駄な肉のないウエストを辿り、おへそを辿り、ハルが纏う最後の一枚に手を掛けた。  
 

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