暗闇の中では聴覚や嗅覚が敏感になる。  
だからだろうか。隣にいるビアンキからほのかに漂う香りに気付いたのは。  
山本には香水のことは全く分からないが、薔薇のように妖艶でバニラのように甘い  
捉えどころのない不思議な香りはビアンキという女性を表しているように思えた。  
いつの間にか惹きつけられるように山本はビアンキの腰を抱いていた。  
「どこ触ってんの山本武」  
「すんません暗くて何も見えなくて」  
言い訳しながら手を離す。  
闇の中ではビアンキの表情が窺えないが声はいつもと変わらず冷静だった。  
自分に触れられても何も感じないのだろうかと思うと少し悔しい。  
(ビアンキ姉さんも絶対体おかしいはずなのになー)  
 
異変に気づいたのはまだ体育館内が明るい時だった。  
部活や学校の話をしながらも山本は深紅のドレスを着たビアンキに見とれていた。  
長い髪はアップにまとめてあり、そこから見える首筋が妙に艶かしく  
大きく開いた胸元も思春期の男子には目の毒だった。  
普段なら(色っぽいなー)と感心するだけだったのに今日は違った。  
体中が熱く、特に下半身に熱が溜まってきたのだ。  
天然で滅多なことでは動じない山本もこれには流石に動揺した。  
(いくらビアンキ姉さんが色っぽいからってこれはやばいだろ〜…)  
とにかく気付かれないようにしなくてはと思いながらビアンキを見ると目が合った。  
気付かれたのかとヒヤリとしたが、さっと目を逸らされた。  
不思議に思いながらビアンキを見ていると、  
落ち着かない様子で足を何度も組み替えている。  
そしてジュースの瓶をじっと見つめていたかと思うと、  
視線をステージ上のリボーンへと動かした。  
ビアンキの視線に気付いたリボーンがニヤリと笑うのが山本にも見えた。  
(なるほどなー)  
おそらくリボーンがこのジュースに何か入れたのだ。  
自分の体の異変から察するに媚薬の類だろう。  
そういえば最初に「男も女も楽しめるパーティーをする」と言っていた。  
要するにそういうことなのだ。  
(てことはビアンキ姉さんもジュース飲んだから…)  
そう思った瞬間、明かりが消えた。そして今に至る。  
 
(……やばいな本格的に勃ってきちまった)  
どうにかしてこの欲を吐き出したい。  
しかし自分から言い出すのはためらいがあった。  
ビアンキにがっついたガキだと思われたくないのだ。  
もちろん彼女は山本が媚薬で欲情していることは承知しているだろう。  
それでもビアンキから何も言わないのは山本に言わせようとしているからだ。  
お互い熱を持て余しながら自分から折れようとしない。  
「この曲お父様が好きだった曲だわ」  
「へーそうなんすか」  
ビアンキも我慢するのは辛いだろうに、声からはそんなことは一切感じさせない。  
彼女はいつも冷静で、取り乱すのはリボーンや獄寺絡みの時だけだ。  
山本に対してはいつも素っ気無く、些細なことで関して食って掛かってくるくらいだ。  
(オレのことは獄寺のダチとしか思ってないんだろーな)  
そう思うと何だか寂しかったが、山本自身自分がビアンキを  
どう思っているのかよく分からなかった。  
美人で色っぽくて大人で、でも子どもっぽいところもあって。  
そんな彼女のことは好きだ。  
ただそれが恋愛感情か否か山本には判断できない。  
今ビアンキを抱きたいと思う感情は媚薬の効果だけなのだろうか。  
少なくとも今までビアンキをそういった対象で見たことはなかったはずだ。  
(抱いたら――)  
先ほど感じた香りがまた山本の鼻腔をくすぐる。  
(抱いたら分かるかな)  
 
「ビアンキさん」  
不意に呼ばれてビアンキは顔を上げた。  
暗闇の中でも少し山本が見えるようになってきた。  
そっと肩を掴まれ向き合わされる。  
「何よ」  
「体熱くないっすか?」  
「………」  
ビアンキは訝しげに山本の顔を見つめた。  
ようやく彼が折れようとしているのか、それとも誘導尋問のように  
自分に言わせるつもりなのか図りかねた。  
体はさっきから熱いし自分達に媚薬を盛ったリボーンの意図も分かっている。  
だがこの年下の少年に自分から折れるのはプライドが許さない。  
 
「……さあ、特に変わりはないけど」  
結局当たり障りのない答えを返す。  
「そうですか?オレはさっきから熱いです」  
「…そう。それで?」  
「ビアンキさんに鎮めてほしくて」  
ビアンキの唇が弧を描いた。  
「どうやって私がアンタの熱を鎮めるの?」  
それでも彼女は彼にはっきりと言わせようとわざとはぐらかした。  
「こうやって」  
いつの間にか山本の手にはコップがあった。  
彼はジュースを口に含むとそのままビアンキに口付けた。  
「ん――」  
唇の隙間からジュースが流し込まれる。  
顔を背けようとしても後頭部をしっかりと押さえ込まれて動けない。  
ジュースがビアンキの喉を通っても、まだ山本は彼女を離そうとしなかった。  
何度も角度を変えて唇を合わせ舌を絡ませてくる。  
ようやく情熱的なキスから解放された時にはビアンキの体は  
くったりと山本の腕の中に収まっていた。  
「オレの熱をビアンキさんにも分ければ鎮まるかなって。体熱くなりました?」  
悪戯っぽく笑う山本が憎たらしくてビアンキはキッと彼を睨みつけた。  
しかし山本は笑顔で受け流すとビアンキのドレスに手を掛けた。  
(――このままじゃコイツに主導権握られたままだわ)  
それではあまりにも悔しい。  
ビアンキは山本の手を叩き落すと彼をソファーに押し倒した。  
その体に跨り布の上から彼のモノを撫でる。  
「ビ、ビアンキさん!?」  
「ずいぶん我慢してたのね。……出したいでしょう?」  
そう言うとビアンキは山本のモノを取り出し先端をぺろりと舐め上げた。  
「くっ……!」  
直接的な刺激に山本はうめいた。  
ビアンキは唇と舌と手をフルに使って山本のペニスを愛撫した。  
亀頭を口に含んで尿道口を舌先で刺激し、裏筋を手で扱く。  
どうすれば男が悦ぶか知り尽くしている彼女の技に山本は舌を巻いた。  
(すげぇ…。今までの彼氏にもこんなことしてたんかな)  
そう思うと何故か胸が痛んだ。  
 
(何でこんな気持ちになるんだ?)  
ビアンキの今までの男関係など気にしたところで仕方ないというのに。  
ちゅぷっと音を立ててビアンキが唇を離した。  
突然中断されて戸惑う山本の顔を覗き込む。  
「イカせてほしい?」  
つ…と指先で先端をなぞりながら笑う表情がこの上なく色っぽい。  
完全に主導権を握ったと得意になっている。  
(負けず嫌いだよなー、ホント)  
そんな彼女を可愛いと思うのも確かだが  
(オレも負けず嫌いなんだよな)  
山本は勢いよく体を起こしビアンキの肩を突いた。  
油断していたビアンキはあっけなくソファーの上に倒れる。  
慌てて体を起こそうとしたところを山本が覆いかぶさった。  
「ちょっと…」  
「もちろんイキたいっすけどその前にビアンキさんも気持ちよくならないと」  
ニカッと山本は笑うとビアンキの首に顔を埋め吸い付いた。  
「んっ…」  
山本の手が背中に回りドレスのチャックを半分ほど下ろす。  
ドレスを肩まで下ろしてブラジャーを剥ぎ取ると豊かな乳房が露わになった。  
手で柔らかな感触を味わいながら、もう片方は乳首を舌先でつつく。  
「んん、あぁっ、ふっ…」  
あっさりと形勢逆転されてしまった自分が悔しいが、媚薬で快楽に従順になった体は言うことを聞かない。  
そうしている間にいつの間にか下着を脱がされていた。  
山本の舌が濡れた花弁をなぞる。  
「んんっ!」  
一番感じる場所を指と舌で執拗に刺激されビアンキの体の熱は高まる一方だ。  
「すげ…どんどん溢れてくる」  
掠れた山本の声は少年というより男の声だった。  
濡れた音を立てながら蜜を舐め取りクリトリスを摘む。  
ビアンキの頭の中は霞がかかったようにぼんやりとしてきた。  
早く入れてほしい。この熱を解放したい。  
そんな思いがビアンキを支配する。  
 
「ねえ…もう…」  
「入れてほしいすか」  
「そうよ早く…」  
もう駆け引きする余裕はなく、ビアンキは山本の腰に脚を絡ませた。  
「ちゃんと言ってください。オレが欲しいって」  
「何よそれ…」  
「ビアンキさんがそう言ってくれたらオレの心のもやもや無くなる気がするんです」  
「……」  
ビアンキは闇の中山本の表情を窺おうとしたがよく分からなかった。  
欲しい、とは思う。  
しかしそれは山本をだろうか、それとも男の体をだろうかと自分に問いかける。  
そもそも『お祝い』という名目で媚薬を飲まされ側にいた相手と  
体を重ねるこの行為に意味なんてあるのだろうか。  
(でも)  
もし相手が山本でなくてツナだったら?京子の兄だったら?風紀委員長だったら?  
あの骸となんて冗談じゃないし弟の隼人なんて論外だ。  
(私は山本武のことどう思ってる?)  
最初は隼人のライバルでいけ好かない奴だと思っていた。  
リボーンのお気に入りなのもムシャクシャする原因だった。  
だけど仲間思いで大切な時はいつも真剣で――。  
「…欲しいわ」  
無意識のうちに言葉が口から漏れていた。  
「山本武、アンタが欲し――」  
言い終わらないうちに唇を塞がれ、一気に昂ぶった山本が押し入ってきた。  
「んぅ――っ」  
圧迫感と息苦しさに顔を離すが、すぐに追いかけるように山本の唇が覆い被さってくる。  
ビアンキの体をきつく抱きしめ、ソファーごと揺らす勢いで突き上げる。  
「ちょっと…!」  
ようやくキスから逃れたビアンキは非難めいた声を上げた。  
「荒っぽすぎよ」  
「すいません、そうっすね」  
がっついたガキだと思われたくなかったのに、つい我を忘れてビアンキを求めてしまった自分に苦笑する。  
それでも――。  
「でもお陰でもやもやが無くなりました」  
そう言うと山本は優しくビアンキに口付けた。  
「ん…、ふぅ、んぅ…」  
ビアンキの方でも大人しくキスを受け入れる。  
しかし山本のキスが優しかったのはそこまでで、後はすぐに舌を割りいれ何もかも吸い尽くすような荒々しいキスになった。  
それでもビアンキは今度は逃れようとせず自分からも舌を絡めた。  
濡れた音が上からも下からも響く。  
 
やがて2人の限界が近づき、ピストンのスピードが速まる。  
山本の性器が一番深い部分を突き上げ、  
十分に濡れたビアンキのそこは更に求めるようにきつく締め付ける。  
ビアンキの体の奥底に熱いものが放たれ、ビアンキは体を大きく震わせた。  
山本がはぁはぁと息を吐きながらビアンキを抱きしめる。  
「ビアンキさん…」  
熱い息が耳朶に掛かる。  
「好きです、ビアンキさん」  
「――――」  
ビアンキの瞳が大きく見開かれるが、それは一瞬のことですぐいつものポーカーフェイスに戻った。  
「何言ってるの。勘違いしてるのね。アンタが私を抱きたいと思ったのは媚薬の――」  
「媚薬のせいだけじゃないっす」  
山本ははっきりと否定した。  
「直接触れて分かったんです。オレはたとえ媚薬飲まされたって相手が他の子だったら抱かなかった。  
 ビアンキさんだから抱きたいと思った。ビアンキさんが好きだから――」  
「だとしても、私にはリボーンがいるわ」  
ビアンキは山本の言葉を遮り、床に落ちた下着を拾い身につける。  
「それでもいつか、小僧からビアンキさんのこと奪ってやります」  
「…リボーンとアンタじゃ格が違うわよ」  
「オレは敵が強ければ強いほど燃えるから大丈夫です。  
 あ、でもオレとビアンキさんが恋人になって結婚したら獄寺が弟になるのかー。結構大変そうっすよね」  
「気が早いわよバカ」  
乱れたドレスを直しながら立ち上がる。  
「どこに?」  
「外に行って涼んでくるだけよ」  
「オレ本気ですから」  
出口に向かって歩き出すビアンキの背中に呼びかける。  
ビアンキは答えず闇の中に溶け込んでいった。  
ふーっとため息を吐いてソファーにもたれる。  
夢中でビアンキを抱いた感触がまだ体中に残っている。  
(見てろよ、いつか絶対…)  
 
体育館の外に出たビアンキは夜風に吹かれながら体の熱を冷ましていた。  
――好きです。  
山本の言葉が雨が大地に染み込むように心に入ってくる。  
そう言えばいつの間にか山本は自分を呼ぶ時姉さんとつけなくなっていた。  
「私が好きなのはリボーンよ」  
ぽつりと呟く。  
「今は熱に浮かされてるだけ。アイツも、私も――」  
それでもビアンキにはある予感があった。  
この夜をきっかけに自分と山本の関係が変わっていく。  
そんな予感が――。  
 
山ビア編END  
 

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