バレンタインデーのその日ほとんど廃墟同然の黒曜ヘルシーセンターの中は  
チョコレートの甘い匂いで充満していた。  
「うぅ〜気持ち悪」  
犬はぐったりとソファーに横たわっている。  
チョコは好きだが鼻の良い彼にとってこの匂いはきつすぎるのだ。  
柿本はため息を吐きつつ匂いが漂ってくる方に目を向ける。  
今2人がいる部屋から廊下を隔てて職員用の台所があるのだ。  
まだ骸がいた頃は3人とも料理ができなかったので使うことはなかったのだが、  
髑髏が来てからは彼女がそこで簡単な料理を作るようになった。  
髑髏は昼食を食べ終えてからすぐに「入ってきちゃダメだからね」と何度も念を押して台所に篭りきりだ。  
骸と運命を共にすることでマフィアのボスを守る役目を背負った彼女も、  
バレンタインくらいは普通の女の子のように過ごしたいのだろう。  
それを邪魔する気は柿本にも犬にもない。  
だが胸焼けしそうなほどに甘いチョコの匂いには2人も閉口していた。  
「なぁ柿ピー外に出ようぜ。これ以上ここにいたらオレ鼻曲がっちゃうびょん」  
「そうだね…」  
柿本が頷くのと同時に部屋のドアが開き髑髏が入ってきた。  
シンプルな水色のエプロンが所々チョコで汚れている。  
「もうできたの?」  
柿本が問うと髑髏ははにかみながら頷いた。  
「今運ぶからテーブルの上片付けておいてもらえる?」  
「いいけど…」  
「うげ〜。こっちにまでチョコ持ってきたらすごい匂いになるびょん」  
そう言われて髑髏は初めて部屋に充満する匂いに気付いたようだ。  
「じゃあ窓開けて換気…」  
「この寒いのに窓なんか開けられるかっつーの!バカ!」  
怒鳴られて髑髏は一瞬びくっとなったが  
「少し開けるだけでも違うから…」  
と言って部屋を出て行った。  
犬は渋々部屋の窓を開け、柿本はテーブルに置いてある雑誌や犬の歯を片付けた。  
「犬、せっかくオレ達に作ってくれたのにバカ呼ばわりは流石にないんじゃないの」  
「うるへー!どうせ義理チョコなんだからいーんら!」  
以前ほどではないが犬はまだ髑髏に冷たい。柿本は肩を竦めた。  
 
やがて髑髏が皿を二枚持ってやってきた。  
片方はココア生地のクッキーが、そしてもう片方には  
「…何コレ?」  
米粒を少し大きくしたような形のチョコが盛ってあった。  
「とりあえず食べてみて」  
と髑髏は促す。  
犬はクッキーを、柿本は正体不明のチョコを口に入れる。  
「犬どう?」  
「…うめー」  
中に刻んだアーモンドの入ったクッキーは香ばしく甘さ控えめで、犬も認ざるを得なかった。  
ホッとした髑髏は微妙な表情の柿本に目を向けた。  
「千種は?」  
「…クローム、これって」  
「柿の種チョコ。手作りだからどうかな?」  
それには答えず柿本はもう一つ、もう一つと口に入れていく。  
柿の種チョコのことは柿本も聞いたことはあるが実際に口にしたのは初めてだった。  
ピリッと辛い柿の種に甘いチョコをコーティングしているため  
最初は奇異に感じるが慣れると結構美味しい。  
「これってオレの名前と掛けてるわけ?」  
「うん、骸様のアイデアなの。2人にはどんなチョコのお菓子がいいか聞いて」  
「……」  
肉体は隔離されている状態でもユーモアの心を忘れない骸を  
誇るべきか呆れるべきか柿本は迷った。  
「犬が食べてるクッキーの形もよく見て」  
「んん?」  
犬はクッキーを一枚手にとってみた。  
「何だこりゃ、骨ェ?」  
「そう。私はハートとか星の方が可愛いと思ったんだけど骸様が絶対骨がいいって」  
「……」  
犬と柿本は苦い表情で顔を見合わせた。  
「どうかした?」  
不思議そうに聞いてくる髑髏に首を横に振り、2人は自分達に合わせた菓子を食べ続けた。  
皿が空になると髑髏はまた部屋を出て行き、今度は鍋を持ってきた。  
「最後はチョコフォンデュを3人で仲良く食べなさいって」  
鍋に入ったチョコレートはとろとろに溶けて甘い匂いを放っている。  
 
「それで何につけて食べるわけ?」  
チョコフォンデュというのだから果物やパンにつけて食べるのが普通だろう。  
しかし一向に髑髏はそれを持ってこようとしない。  
「どうしたんらー?買ってくるの忘れたのか?」  
少しイライラしながら犬が尋ねると、髑髏は人差し指を鍋の中に入れた。  
白く華奢な指にチョコレートが絡まる。  
髑髏はその指を犬の顔の前に出した。  
「へっ?」  
ポカンとしている犬に髑髏は頬を染めた。  
「だから…骸様が仲良く食べなさいって」  
(何吹き込んでるんだ、あの人は……)  
柿本は痛む頭を押さえた。  
「犬早く。垂れちゃう…」  
髑髏に促され、犬は反射的にその指を口に含んだ。  
長い舌でぺろりと指の周りのチョコレートを舐める。  
「くすぐったい…」  
ふふ、と髑髏は身を捩った。  
(あれ…何かコイツ可愛い?)  
犬はじっと髑髏の顔を見つめながら指を口の中で転がし続けた。  
全て舐め終わるとちゅる、と音を立てて犬の口から髑髏の指が抜き出される。  
「美味しかった…?」  
コクコクと頷き犬は自分の指を鍋に突っ込んだ。  
「3人で食べろって言ったんだからお前も食っていいびょん」  
「うん…」  
髑髏は恥ずかしそうにしながらも素直に犬の指を咥えた。  
ぺろぺろと舌を動かしながら舐めるその仕草がやけに官能的で、  
犬も見ている柿本も妙な気分になっていった。  
ふと悪戯心が湧き犬は口の中で指を動かした。  
「んんっ!」  
突然のことに髑髏は驚き指を離してしまう。  
「もうっ、犬…」  
「クローム口元にチョコついてる」  
そう言って柿本は髑髏の唇の端についたチョコを舐め取った。  
「あっ、千種…」  
「柿ピー独り占めはダメだかんな!オレももっとチョコ食いたいんらー!」  
「分かってる。骸様も3人で仲良くって言ってるんだから。  
 そうでしょクローム?」  
「うん…。だから私にもいっぱいチョコ食べさせて…?」  
潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ、犬と柿本の理性は吹き飛んだ。  
これもバレンタインの魔力なのかもしれない。  
 
後ろから柿本に支えられ上半身裸になった髑髏に犬が前からチョコレートを塗っていく。  
髑髏の白い肌を黒いチョコレートで塗りつぶしていく行為は、  
綺麗な物を汚すようで背徳的だった。  
「あんっ」  
チョコを塗りながら乳首を摘まむと髑髏は頬を染めて可愛らしい声を出した。  
柿本は犬が持っている鍋に指を入れチョコレートを口に含むと、  
髑髏の顔を自分に向かせて口付けた。  
「んん……」  
舌が絡みぴちゃ、とチョコと唾液が混じり合う。  
髑髏の心は普段無愛想な柿本との甘く熱いキスに蕩けていった。  
――ガリッ。  
「ひゃっ!?」  
突然鎖骨にチリッとした痛みが走り髑髏は我に返った。  
「お前柿ピーばっかに夢中になってんなよ」  
不機嫌そうに睨みながら犬が首筋に噛み付いてくる。  
「やっ、犬痛い…」  
「お前どこもかしこも甘くてホントのチョコみたいなんらよ」  
そう言って犬は髑髏の悲鳴を無視して歯を立てながらチョコを舐め取っていく。  
最初は痛がっていた髑髏だったが、噛んだ部分を舐められると  
くすぐったいようなむず痒いような感覚が生まれてきた。  
それに犬が自分にこんなに夢中になっていると思うと嬉しくなる。  
(骸様の言うとおりにしてよかった。犬も千種も私のこと求めてくれてる…)  
乳房に塗ったチョコも犬によって舐められだんだんと  
本来の白い膨らみとピンク色の乳首が見えてくる。  
「犬がっつきすぎ」  
「うるへーな。悔しかったら柿ピーも食えばいいだろー」  
「……」  
柿本の視線が鍋に向かう。チョコレートはまだ半分ほど残っていた。  
 
「オレも食べたいけど…クロームも食べたいよね?」  
とろんとした表情の髑髏の耳元で囁く。  
「え…?うん…」  
「じゃあオレの方向いて」  
言われたとおりに向きを変えると、柿本は片手で鍋を引き寄せ  
もう片方の手で自身を取り出した。  
反応を示しているソコにチョコを塗っていく。  
「柿ピーオヤジくさい!このムッツリ!」  
彼の意図を察した犬はその手があったかと先を越された悔しさで叫んだ。  
柿本は涼しい顔で聞き流し髑髏の前に自身を突き付ける。  
「味わって舐めてね」  
「うん…」  
髑髏は四つん這いになって柿本の性器を両手で包むと先端を口に含んだ。  
「んん、ちゅっ、ふぅっ…」  
目を閉じ夢中になって自分の性器を舐める髑髏の痴態に柿本はゴクリと唾を飲み込んだ。  
一方犬の前では髑髏のスカートがふわふわと揺れ、滑らかな太股がまるで誘っているようだ。  
犬はスカートをめくり上げショーツを膝まで下ろした。  
「きゃっ…」  
大事な部分を丸見えにされ髑髏は犬を振り返ろうとしたが柿本の手で止められた。  
「ちゃんと続けて」  
「うん…」  
再び柿本のモノを口に咥えると同時にお尻に犬の手が触れた。  
いつの間にか鍋は再び犬の手に戻っていたらしく、敏感な部分にまでチョコを塗られていく。  
「ちゅく…んん、んぅっ」  
愛液で濡れたクリトリスを弄られ髑髏は身もだえしながらも  
懸命に柿本への愛撫を続ける。  
「クローム…!」  
柿本は眉を寄せて髑髏の頭を押さえた。  
髑髏の口の中に生臭くどろどろしたものが流れ込んでくる。  
「うぅーっ…」  
吐き出しそうになるのを堪えて髑髏は柿本の精液をゆっくり飲み込んだ。  
「うわっ飲んだの?」  
犬が驚いたように声を上げる。  
髑髏はぜいぜいと息を切らしながら柿本に向かって微笑んだ。  
「千種のちゃんと味わったよ…」  
「クローム…」  
「だーかーらオレを無視すんなっつーの!」  
イライラしたように叫ぶと犬は髑髏の両脚の間に顔を埋めた。  
愛液とチョコでドロドロのそこを音を立てて舐める。  
 
「やぁんっ!ダメェ、犬…」  
制止の声に犬は不満げに顔を上げる。  
「何がダメなんだよ、こんなに濡らしてるくせにーっ!」  
「違うの、そうじゃなくって私、もぉ…」  
首を捩って犬を見つめる髑髏の瞳には涙が滲んでいる。  
犬の胸がドキッと高鳴った。  
「もう限界なのか仕方ねーなー」  
ごまかすようにわざと悪態を吐きながら犬は昂ぶった自分のモノを髑髏の入り口に押し当てる。  
「そんなに言うなら気持ち良くしてやるよ」  
「あんっ!!」  
犬が入ってきた衝撃に髑髏の体は仰け反った。  
乱暴に突き上げられて華奢な体がガクガクと揺さぶられる。  
「オレにつかまって」  
柿本は髑髏の手を取って自分の背中に回させた。  
髑髏は必死で柿本にしがみつきながら犬の動きに合わせて自らも腰を振った。  
甘く濃厚な時間が終わる頃には鍋のチョコレートはすっかり空っぽになっていた。  
 
目を覚ました髑髏は毛布を掛けられソファーに寝かされていた。  
もうすっかり日は落ちているが部屋の中に犬と柿本の姿はない。  
しょんぼりと肩を落としているとドアが開いて柿本が入ってきた。  
「ああ起きたの。体痛くない?」  
「少し…」  
「無理しなくていいよ。台所の片付けはやっておいたから」  
「ありがとう…」  
そこへ両手にスーパーの袋を提げた犬が入ってきた。  
「今日はオレと柿ピーが夕飯作るかんなー。お前はさっさとシャワー浴びてこい!」  
「でも2人って料理…」  
「いいから浴びてこい!」  
「うん」  
不器用だがこれが彼らなりの優しさだと分かって髑髏は素直に従うことにした。  
骸のアドバイスのおかげで2人との距離を縮めることができた気がする。  
(シャワーから出たら夕飯作り手伝ってあげよう)  
 
髑髏がシャワー室に向かった後で犬と柿本がホワイトデーは何をして返そうか  
相談していたと知るのはあと一ヵ月後。  
 
おわり  
 
 

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