ハルは家に帰ると開口一番に怒鳴った。
「お母さあぁん!!郵便ありませんかぁーーー!!!」
ぅわわん・・・と家に声の残響が響く。
そして静寂。
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「おぉ母ああぁぁあさああぁぁぁん!!」
気がつくと、茶色いダンボール箱が自分に向かって飛んで来ている。
「は、はひっ!?」
慌てて構え、箱をガッチリと受け止める。
箱の宛先は『三浦ハル 様』
顔が自然と緩んでニンマリと笑顔の形になる。
「アリガトですぅぅーーー!!」
靴を脱ぐのももどかしく、脱ぎ捨てて自分の部屋に駆け込む。
ダンボール箱を乱暴に開けると、そこには待ちに待ってたものが鎮座していた。
「ツナさあああぁぁぁああああぁぁん!!!」
並盛中学校の制服を抱きしめて叫ぶハル。
並盛中学校制定女学生用制服(夏・冬)
落札価格52000円
少し前に貯金をはたいてネットオークションで落札したのだ。
「これでいつでもツナさんに会いに行けますーっ!!」
並盛中に侵入してツナに会うために。
「明日はテスト休み!早速明日並盛中へゴーです!」
制服を抱きしめてクルクルと回り始めるハル。
頬を染めて包装を破り、制服を試着し始める。
「ぜんっぜん違和感無いです!これならバレません!」
部屋の姿見に自分の姿を写し、ポーズをとる。
元気良くピース・おしとやかに手を頬に添える・ツンツンした感じに腕を組む・少しかがんで胸を強調
そのまま家族に見つかるまでハルの1人ファッションショーもといグラビア撮影もどきは続いた。
翌朝。
「・・・ツナさん来ないな〜・・・。」
ハルは校門の前に立ってツナを待っていた。
1時間程前からずっと待っているのだが、来ない。
「う〜〜っもう少し頑張りましょう!」
ガッツポーズで気合を入れ直し、登校する生徒の人ごみに目を凝らす。
「あっ!」
人ごみの中にだるそうに煙草を吸っている獄寺の姿を見つけた。
「また煙草吸って・・・健康に悪いですっていつも言ってるのに・・・。」
獄寺を睨み付けてブツブツと聞こえない説教をする。
「はひぃっ!」
獄寺が立ち止まってこちらを向こうとするのに気づき、慌てて近くの電柱に身を潜める。
「・・・ん?」
獄寺は立ち止まって振り向く。
しかしそこには並中生徒と『不審者に注意!怪しい人を見かけたらすぐにお電話を!』と書かれた張り紙がされている何の変哲も無い電柱だけだった。
「・・・なんだぁ?なんか変なモン感じたんだけどな。」
「・・・・・・・・まぁいいや。」
「あ、危なかったです・・・。」
電柱の影でほっと胸を撫で下ろす。
「まったく、なんで獄寺さんがいるんですかっ・・・あれ?」
並中生達皆が足早に通りすぎていく。
「なんでですかね?」
自問すると同時に学校のチャイムが響き渡る。
並中生はもう皆走っている。
「こ、これは始業のチャイムなんですかね?」
校舎に入った方が良いのか迷っていると、強面の一昔前の不良のいでたちの人が声をかけてきた。
「おい、何やってる?早く校舎に入れ!」
「は、はひっすみません!」
慌てて校舎へ向かう。
「おい、ちょっと待て。」
呼び止められて、自覚無しにに身体が強張っていく。
「は・・い、なっななななんでしょう?」
「お前見ない顔だな。」
「いえっそんな、こことない無いですっ!」
力いっぱい首を振って校舎へ走る。
(ばばれてないっ!?ばれてないですよねっ!??)
玄関についてから、ばれてませんようにと祈りながら恐る恐る振り返る。
さっきの不良の人の姿は見えなかった。
溜まっていた息を吐き出して胸を撫で下ろした。
「よ、かったですぅ〜・・・。でも、潜入成功です!」
キッと眉を引き締め、空に向かって拳を突き出し叫ぶ。
「ツナさああぁぁあぁぁあん!!!今行きます!!待っててくださぁああぁい!!」
「・・・なんだあの人。」
「『ツナさん』って、あのダメツナのことか?」
「彼女かな?」
「まっさか、あのダメツナに限って。」
「ってか、あの人知ってるか?」
「知らねぇ。」
「・・・まぁ、あんまりかかわんない方が良いな。」
「そうだな。」
「早く行こうぜ。」
「おう。」
「さて、ツナさんの教室はどこでしょうか?」
ハルはどこか分からない廊下を歩きつつ、独り言を呟く。
「う〜ん、こんなことになるんだったら、ツナさんに教室の場所聞いておくんだったです。」
そんな事を聞かれたら不審がられ止められるに決まってるのだが、そこに気づかないらしい。
突然ハルはぽんっと手を叩き、言った。
「そうですよ!教室を1つずつ見ていけば良いんですよね!そうすれば絶対
「何か、面白い話をしているね。」
背後からの予期せぬ声にハルの身体がはたから見ても分かるぐらいに跳び跳ねる。
「今はHRの時間だ。なんでこんな所を出歩いてるんだい?」
背後の声は容赦なく疑問を浴びせる。
「あ、あ、あああの保健室に行こうと・・・。」
ハルは振り向かない(振り向けない)まま一生懸命捻り出した嘘を口にする。
「君が向いてる方と保健室は逆方向なんだけど。」
コツコツと足音が近づいてくる。
ハルは身体を強張らせたまま懸命に嘘を捻り出す。
「・・・そ・・・そそのまえに、トイレに行こうと思って」
「トイレは君の後ろ5m程の所にあるよ。」
ハルのすぐ後ろで足音が止まる。
「はひっ!?・・・あ・・ああありがとうございます!」
これ以上もっともらしい嘘思いつく事が出来なくなったハルは声とは反対方向へ走って逃げようとする。
が、肩に強い圧迫感を感じ次の瞬間ハルは何故か天井を見ていた。
「・・・はれ?」
何故天井を見ているんだろう?と不思議に思うハル。
ただ単純に引き倒されて仰向けに転がっているというだけの話なのだが、ハルには理解できなかった。
状況把握が出来ずにぼーっとしていると、不意に視界の上から誰かの顔が入ってきた。
何で顔が逆に見えるんでしょうか?と意識だけは冷静に考える。
「いつまで転がってるつもり?」
呆れている表情の顔を目の前に、ハルの意識は現実から少し離れた世界に行っていた。
(あー、何か言ってます・・・。誰なんでしょうか、この人は・・・。)
ハルは話しかけられているのに気づかず、ただその人の顔を見つめ続けていた。
(それにしても、綺麗な顔ですねぇ。)
(なんか色気というか・・・いや、何かこの人・・・)
「・・・・エロいです・・。」
ハルの口から妄想の一かけらが零れ落ちる。
目の前の呆れの表情が、驚愕のため軽く目が見開かれ目に好奇心がよぎる。
「・・・・・・。」
(あれ、なんでびっくりしてるんでしょうか。)
(ハル何か変な事言ってませんよね?)
(変な事言いましたっけ?)
(言い・・・。)
「はひっ!」
「・・・やっと戻って来たみたいだね。」
現実世界に戻ってきたハルに嘲笑の混じった声で声をかける。
そして唐突に無理矢理ハルの身体を転がし、うつ伏せにさせる。
「な、何するんですかっ!」
ハルが手足をばたつかせて抵抗すると
「暴れると咬み殺す。」
雲雀はハルの首に手を伸ばし、脅すように軽く首を絞めてから胸元のリボンをほどく。
「な、なな何をっ・・・」
「黙ってないと咬み殺す。」
片手で器用にハルの腕を後ろ手で組み、それをハルのリボンで縛る。
「さて、僕は風紀委員長雲雀恭弥だ。風紀委員長だから規則違反者には罰を与えなければいけない。正式に処分されるか、それとも内々に事を済ませるか。君はどっちを選ぶ?」
「・・・は・・・?」
雲雀の顔には意地の悪い笑みが浮かんでいる。
「決めるのは君だ。どうする?」
ハルは泣きそうな表情を浮かべる。
「・・・秘密にしてください〜〜・・・!」
雲雀の目が細められた。