「このピアノの伴奏素晴らしいと思いませんか」
「単調で眠くなるよ」
「おやおや。芸術が分からないんですねぇ」
明かりが消えて音楽が流れてからずっとこんな調子で話していた骸と雲雀だったが、
薬の効果が体に現れるにつれて口数は減っていった。
下手に喋れば息が荒いのが相手にばれてしまうからである。
自分の体の異変がジュースに入れられた媚薬のせいだということは骸も雲雀も悟っていた。
何故リボーンがそんなことをしたのかも、体に湧き上がる欲望を解き放つにはどうしたらいいのかも。
髑髏を相手にするか、あるいはトイレにでも行って自分で処理するか。
しかしそのどちらを選ぶにせよ自分から先に動く気にはならなかった。
彼らは互いに相手のことが気に入らない。
そんな相手の前でいくら媚薬を飲んだからといってみっともなく性欲に負けてしまうのはどうしても癪なのだ。
よって骸も雲雀も相手が先に折れるのを待つしかなかった。
(ジュースは僕と彼どちらが多く飲んでましたっけ…。そろそろ彼も限界のはずなんですけどねぇ)
(早く降参すればいいのにあの南国フルーツヘアー…。痩せ我慢なんて長くは続かないよ)
もう自身はズボンの中で勃ち上がり苦しいのだがそれでも2人は自分からは折れようとしない。
いつまで続くのかと見ていたリボーンも呆れていたその時。
「骸さまっ…」
苦しそうな声とともに髑髏が骸の腕を掴んだ。
「髑髏!?」
「骸さま、体がおかしいんです…。ずっと我慢してたけど、もうこれ以上は…」
ゼィゼィと息を吐いて体を震わせる。
(髑髏が先にギブアップする可能性をすっかり見落としていましたね…。でもこれでよかったのかもしれません)
骸はふっと微笑んで髑髏の背中を優しく撫でた。
「大丈夫ですよ。僕が君を楽にしてあげますから。
こんなに苦しんでるのを放ってはおけません。僕が熱を解放してあげなくてはね」
(こいつ…)
わざとらしい口調で髑髏を言い訳にする骸を雲雀は睨んだ。
が、何はともあれ先に折れたのは骸の方だ。
そう自分を納得させ雲雀はトイレに行こうと立ち上がりかけたのだが
「さあ髑髏、こっちへ」
骸が髑髏を膝の上に抱え上げた。
黒いワンピースの上から乳房をそっと撫でると髑髏は体を震わせた。
「クフフ、ずっと我慢してたんですね」
「あぁっ…骸さま、早く…」
媚薬が髑髏を積極的にさせた。
首を後ろに回し、骸の唇に指を這わせる。
骸は髑髏の頭を押さえ唇を合わせた。
「んんっ、あふぅ…」
ずっと想っていた相手とのキスに髑髏は身も心も蕩けそうだった。
骸も自分の舌の動きに合わせて懸命に舌を絡ませてくる髑髏を可愛らしく想っていた。
面白くないのは雲雀である。
媚薬を飲まされて神経が過敏になっているところに
目の前でラブシーンを繰り広げられているのだ。
意に反して体は熱くなってしまう。
2人が完全に自分のことを忘れているらしいのも気に食わなかった。
と、髑髏の肩越しに骸と目が合った。
闇の中その瞳が猫のように細められる。
(わざと見せ付けていたのか…)
体に燻る熱と苛立ちが雲雀を動かした。
彼は髑髏を骸から引き離すと自分の腕の中に抱き込んだ。
「いきなり無粋じゃないですか?どういうつもりです雲雀恭弥」
「このパーティを開催した赤ん坊の顔を立てようと思ってね。
この子を気持ち良くできるのは何も君だけじゃないよ」
腕の中で小動物のように震える髑髏の耳朶を舐め上げると、彼女は「あんっ」と声を上げた。
骸の顔に苛立ちが走る。
「髑髏を渡しなさい。彼女は僕のモノですよ」
「そうなの?じゃあますます渡すわけにはいかなくなったよ」
2人の間に火花が散る。
「では力尽くで奪い返します」
骸が槍を出すと
「やってごらんよ」
雲雀もトンファーを構える。
一触即発かと思われたその時、髑髏が叫んだ。
「2人ともやめてください!こんなことで争わないで…」
骸と雲雀が戦ったらどちらもただで済まないことは明白だ。
好意を抱いている骸はもちろん、同じ守護者である雲雀にも
怪我をしてほしくない髑髏は必死で2人を止めた。
骸と雲雀は互いに睨み合ったまま無言でいる。
先に武器を下ろしたのは骸だった。
「仕方ありませんね。髑髏がそう言うのなら」
「確かにこんなことで争うのも馬鹿らしいね」
雲雀もトンファーをしまう。
ほっと安堵した髑髏だったが
「では3人で仲良く楽しみましょうか」
「群れるのは嫌いだけどこの際我慢するよ」
という2人の言葉に硬直した。
「え、えぇっ」
混乱しているうちに前からは骸、後ろからは雲雀に押さえつけられる。
「む、骸さ――」
戸惑いの声は骸の唇に封じられた。
下唇を優しく噛まれ、舌をねじ入れられる。
優しくも激しいキスに酔い始めると、突然乳房に刺激を感じた。
「ひゃっ…」
思わず唇を離して胸を見ると後ろから雲雀が揉みしだいていた。
負けじと骸もスカートの裾から手を入れ太股を撫で回す。
「あん、やぁん…」
2人からの刺激に髑髏は甘い声を出して体を震わせた。
「この服邪魔だな…。引き裂いていい?」
「何を言うんです。このゴスロリファッションとそれを着こなす髑髏の素晴らしさが分からないんですか?
着衣したままというのがポイントなんですよポイント」
「君の嗜好はどうでもいいよ」
雲雀は冷たい視線を骸に向けながらバッサリと言い捨てた。
髑髏はおずおずと雲雀を振り返った。
「あの…ファスナーが背中に」
「それを早く言いなよ」
早速ファスナーを降ろすとワンピースの上部分を肌蹴させると
ブラジャーを外して直接柔らかな膨らみを楽しんだ。
「ふぁ、あぁん」
髑髏の方も直接触れられることでより感じ、乱れていく。
「これはこれで扇情的ですねぇ」
感心したように呟くと骸はさらに奥まで手を進めショーツを脱がせた。
剥き出しになった秘所に指を這わせる。
「ひゃあっ…ダメです、そんな所…」
「クフフ、ここはびしょ濡れで物欲しそうにしてますよ」
ヒダを押し広げクリトリスを爪で引っかくと髑髏は体を痙攣させた。
「あぁっ…」
がっくりと雲雀にもたれ荒い息を吐く。
「何、もうイッたの?」
「ずっと我慢してたんだから仕方ないですよ。髑髏、大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ…。だい、じょぶです…」
「それはよかった。次は髑髏が僕達を気持ち良くさせてくれますか?」
髑髏はとろんと熱を帯びた瞳で骸と後ろの雲雀を交互に見つめ、こくんと頷いた。
髑髏にとって骸は恩人であり初めて自分を必要としてくれた男だった。
そんな彼に惹かれたのは自然な流れだった。
だが骸は囚われの身で、会うことも直接触れることもできない状態だった。
それが今日はリボーンの計らいで骸もこのお祝いに参加できたのだ。
骸と因縁があるらしい雲雀が側にいるせいで空気はピリピリしていたが、
それでも髑髏は骸と一緒にいられるだけでよかった。
たとえわずかな時間でも骸が自由を味わえることが自分のことのように嬉しかった。
それを言葉で伝えることも態度で表すこともできない不器用な自分を情けなく思ったりもしたけれど。
しかし、ジュースに混入された媚薬で事態は変わった。
どんどん高まる体の熱に耐え切れず遂に骸に助けを求めてしまったのだ。
普段の髑髏だったらこんな大胆なこととてもできなかっただろう。
骸はそんな彼女を抱きしめキスをしてくれた。
それが媚薬のせいなのか、自分に少しでも好意を持ってくれているからなのか、
熱に溺れた髑髏には判断ができなかった。
そして何故だか雲雀も加わって2人から攻められることになってしまったのだ。
他の男に触れられて感じてしまうのは骸の手前きまり悪かったが、
雲雀の荒っぽくも的確な愛撫に体は正直に反応してしまった。
骸はそんな自分に欲情しているようで、髑髏は快感に身を委ねながらも複雑な気持ちだった。
(骸さまは私が他の人に触られても平気なのかな…)
最初は「僕の物」と雲雀に言ってくれたのに、今はそんなことを忘れてしまったかのような骸に不安を覚える。
(あれはただヒバリさんに対抗しただけだったの?
ここにいるのが私じゃない別の女の子でも骸さまは同じことをしたんじゃ…)
そう考えると胸が痛んだ。
それなのに心とは裏腹に体は与えられる快楽に従順で、骸に秘所を弄られるとあっという間に達してしまった。
骸は髑髏を労わるとこう言葉を投げかけてきた。
「次は髑髏が僕達を気持ち良くさせてくれますか?」
髑髏は骸を見つめた。
穏やかな笑みを浮かべた彼には髑髏に対する独占欲や雲雀への嫉妬心も感じられなかった。
(やっぱり骸さまは私のことなんて…)
髑髏は苦い思いを噛み締めながら後ろから自分を抱きかかえる雲雀に目をやった。
彼にとっては近くにいる女子が自分だというだけ。
その分後腐れなく気が楽だとも言えよう。
半ば自暴自棄になりながら髑髏は頷いた。
「それではまず…」
順番を決めようと口を開きかけた骸の前で、髑髏は体の向きを変えて雲雀と向き合った。
「ヒバリさん、どうすればいいですか?」
「髑髏…」
不審そうに自分を見つめる骸の視線に気付いているのかいないのか、髑髏は振り返ることもなく雲雀の答えを待っている。
「……」
雲雀は髑髏を床に座らせ自分はソファーに座ると
「舐めて」
とだけ言い放った。
「舐める…」
「何を、なんて聞かないでよね。ほら、チャック下ろして」
「…はい」
言われるがままに髑髏は彼のチャックを下ろした。
震える指を叱咤しながら彼の分身を取り出す。
(こ、これを舐めるの…?)
眼前の男性器に髑髏は息を呑んだ。
暗闇の中だから鮮明には見えないが、それでもその形や大きさは経験のない彼女を怖気づかせるに十分だ。
それも相手は自分が好いた骸ではない。
(…でも、骸さまよりヒバリさんを先にって決めたのは私だもの)
少し――ほんの少しでも骸が嫉妬してくれないかと儚い希望を込めての決断だった。
覚悟を決めて髑髏はその先端を舌先でぺロッと舐めた。
(変な味…)
眉をしかめながらも猫のようにペロペロと舌を這わせていく。
「馬鹿の一つ覚えじゃないんだから、ただ舐めるだけじゃなくて咥えなよ」
雲雀は髑髏の口を開かせると無理矢理ペニスを押し込んだ。
「ふぅっ…」
苦しそうな髑髏の声に構わず喉奥まで進めていく。
「ほら、舌使って」
「んんっ…」
目に涙を滲ませながらも髑髏は懸命に奉仕を続ける。
それは本当にただ舌で刺激するだけの疎いものだったが、長い間耐え続けていた雲雀にはかなりの快楽をもたらした。
「…っ。出すよ、飲んで…」
雲雀は髑髏の頭を押さえつけると彼女の口内に欲望を吐き出した。
「――!!」
髑髏はぎゅっと目を閉じた。
ドロドロと生臭い液体が流れ込んでくる。
むせ返りそうなのを必死で堪えて時間を掛けて飲み込んでいく。
「ケホッ、の、飲みました…」
汚れた唇を袖で拭く。
ふと雲雀の目に少し離れて立っている骸の姿が目に入った。
目が合うと骸はすぐに逸らした。
(…ふーん)
何故髑髏が自分に先に奉仕を申し込んだのか雲雀は一人納得した。
彼にも髑髏が骸を意識していることは感じ取っていたから不思議だったのだ。
(あいつの気を引くためか。何だか上手く利用されてるみたいで面白くないな)
雲雀は腕を伸ばすとスカートをめくり上げ後ろから髑髏の秘所に触れた。
「きゃあっ!?」
悲鳴を上げる髑髏を無視してそのまま入り口に指を入れる。
「やぁっ!やめて…あぁっ、ふぇ、あぁん…」
クチュクチュと中をかき混ぜると髑髏はすすり泣くような声で喘いだ。
空いている手で耳元をくすぐるようにすると身を捩じらせる。
どうやら耳もかなり感じやすいようだ。
「あっ、もうダメッ…」
髑髏は短く悲鳴を上げると体を大きく震わせた。
「君イクの早いね」
雲雀は濡れた指を骸に見せ付けるように掲げると、それを髑髏の口に運んだ。
「君のせいで汚れたんだから綺麗にしてね」
「っ…」
自分の愛液を口にするという恥ずかしさに髑髏は再び涙ぐんだが、何も言わず雲雀の指を綺麗に舐め取る。
「じゃあ次は――」
「待ちなさい」
雲雀の言葉を骸が遮った。
雲雀は冷たく視線を向ける。
「何?順番待てないほど我慢できないの?」
「そういうことではありません。ずっと見ていましたが君は髑髏を乱暴に扱いすぎる。髑髏は――…。
彼女は僕にとって大切な子です。君にいいように扱われるのを黙って見ていられません」
「骸さま…!」
髑髏は感激に潤んだ瞳で骸を見上げた。
「私、骸さまにとってはどうでもいい存在なのかと思ってました」
そんな彼女の頭を骸は優しく撫でる。
「馬鹿な子ですね。そんなわけないでしょう。…でも僕も悪かったですね。
僕の中ではすでに君は僕の物という認識があったから、君が雲雀恭弥に触れられても許す余裕があったんです。
そのことが君を傷つけるかもしれないことを頭に入れておくべきでした。許してください」
「いいんです。骸さまが私のことそんなふうに思ってくれるだけで私は…」
2人はしっかりと抱き合った。
雲雀はそっとその場を離れた。
「赤ん坊、僕はもう帰るよ」
ステージのリボーンに声を掛ける。
「もういいのか?」
「一応一回出して楽になったしね。でももうこんなことはゴメンだよ。お祝いだっていうから我慢したけど僕は誰とも群れるつもりないんだから」
「分かってる。今回は特別だ。骸も明日には囚われの身に戻るからな」
「そうなの?つまらない」
リボーンの言葉に雲雀は肩を竦めた。
「でも彼にはがっかりしたよ。あんな弱い子を好きになったって足手まといにしかならないのに」
リボーンは何を考えているか分からない笑みを浮かべた。
「お前には骸の気持ちは理解できないか?」
「全然」
「そうか。お前はまだ大切にしたいと思う相手に会えていないからな」
「何それ?意味分かんないよ」
雲雀は顔をしかめた。
全く分からない。
骸の気持ちも、リボーンの言葉の意味も。
「いずれ分かる時が来るぞ」
「……」
意味深なリボーンの言葉に雲雀は黙って体育館を後にした。
心のどこかにかかった雲を払いのけるようにして。
骸と髑髏は互いに生まれたままの姿で抱き合っていた。
「あぁっ、骸さまぁっ…」
「髑髏…可愛いですよ」
甘く優しい声に痺れそうになる。
髑髏は骸の背に腕を回して自分から何度もキスを求めた。
それに応えながら骸は髑髏の準備を進めていく。
「髑髏…怖いですか?」
「少し…。でも大丈夫です。骸さまとなら乗り越えられます」
「本当に君は…可愛い」
骸は張り詰めた自身を取り出すと潤った入り口に押し込んでいく。
「――!!」
痛くてたまらないのだろう押し殺した悲鳴が髑髏のしっかりと結ばれた唇から漏れる。
それでも健気に自分を受け入れようとする髑髏がたまらなく愛しい。
優しく大事にしたいと思う一方で、メチャクチャに抱いてしまいたいとも思う。
2つの思いに挟まれながら骸は髑髏を抱きしめた。
最初は髑髏に負担の掛からないよう注意しながらゆるゆると動かす。
「骸さま、遠慮しないでもっと強く…」
「ダメです。無理すると君が壊れてしまう」
「それでもいい」
「髑髏?」
抱き合った体は小刻みに震えていた。
「だって、またしばらく会えなくなってしまうんでしょう…?
だったらこのことを長く体に刻んでおきたいんです。骸さまに抱かれたことを…」
そう言って髑髏は涙に濡れた瞳で微笑んだ。
その想いに骸も応えることを決めた。
「髑髏。覚えていてください、僕の感触を…」
細腰を支えて乱暴に突き上げる。
髑髏の中は狭く、離さないとばかりに骸自身を締め付けた。
「骸さま、好きです。大好き…」
「髑髏…」
指が絡み合い、唇が重なり、肌がぶつかる。
互いに達した後も骸は白く滑らかな肌に吸い付き赤い痕を残していく。
髑髏もまた真似るようにして骸の体に甘く噛み付いたり爪痕を立てたりしていた。
「ずっと待っています」
「自由になったら必ず君に会いに来ます」
何度も約束を交わしキスをする。
霧の守護者である彼らの、互いへの想いは決してまやかしではなかった。
骸雲髑編 END