可愛くて無邪気で子どもみたいだった京子が最近大人びて綺麗になってきた。
それはやっぱり沢田と付き合うようになったことが原因だと思う。
沢田といる時の京子は本当に幸せそうに笑うから見てる私まで心が温かくなる。
恋をすると女の子は綺麗になるって本当なんだ。
私も恋をしたら‥‥。
「焼けたー!」
京子の嬉しそうな声とともにキッチンに甘い匂いが広がる。
オーブンから取り出されたアップルパイは焦げ目がついてとても美味しそう。
「よくできてるじゃん」
「花が手伝ってくれたおかげだよ」
「次は一人でできそう?」
「うん!頑張るね」
そう言って京子はアップルパイを切り分け始めた。
今度沢田に作ってあげるための予行演習を手伝ってほしいというので来たんだけれど、
元々料理の上手な京子は本を見ながらてきぱきと作っていった。
私は本当に林檎を切ったり材料をかき混ぜるのを交代したりしたくらい。
京子にここまでしてもらえるなんて沢田ってホント幸せな奴。
私達はアップルパイと紅茶をお盆に載せて二階の京子の部屋へ上がった。
今日は日曜日だけれど京子の家族はみんなそれぞれ用事があって
出掛けているから家の中はとても静かだ。
正直京子のお兄さんの熱血さは苦手なので留守なのはありがたかったりする。
「花、食べて食べて」
「いただきます。‥‥うん、美味しい。これなら沢田喜ぶよ」
「本当?よかったー」
京子はほっとしたように自分もフォークを口に運ぶ。
ホント幸せだよなー沢田は。
京子みたいないい子が彼女で、こんなに尽くしてくれるんだから。
大事にしないと承知しないからな‥‥。
ふと私の頭にあることがよぎった。
それはずっと京子に聞きたくて聞けなかったこと。
この機会に聞いてしまおう。
「京子」
「なあに?」
「沢田とは最後までした?」
「えっ」
京子の顔がカーッと赤くなる。答えなくてもその顔で十分だった。
沢田あのヤロー‥‥。ダメツナのくせに手出すの早っ!!
‥‥いや、二人は恋人同士なんだし部外者の私がとやかく言うことじゃないけど。
「そっか、してるんだ」
「‥‥うん」
「沢田、京子に無理させてない?」
「ツナ君は優しいよ。それに‥‥最初に誘ったの私からだし」
紅茶を口に含んでたら危うく噴出すところだった。
誘った!?京子が!?この純情な京子が‥‥?
思わず京子を穴の開くほど見つめたら恥ずかしそうに視線を逸らされた。
「キスは付き合って割とすぐにしたんだけど、それから先には進まなかったの‥‥。
だから私の方が我慢できなくなっちゃって。それで‥‥」
自分から誘うなんて大胆というか勇気があるというか。
でもすごく可愛い。沢田も絶対そう思っただろうな。
「そうか‥‥。おめでとう京子」
「ありがとう」
「京子は私よりずっとオトナだね」
口に出すとより実感した。
前は京子は本当にまだ子どもで恋愛には疎かったのに、沢田を好きになって付き合うことでぐっと成長してる。
喜ばしいような寂しいような羨ましいような‥‥何だか複雑な気持ちだ。
「あーあ、私も彼氏欲しくなっちゃった」
「気になる人いるんでしょ?」
「うん。一応ね」
牛柄シャツのあの人。
沢田にまた会いたいって言ったんだけど、外国に住んでいるからいつ日本に来れるか分からないと言われてしまった。
今度会えるのは一体いつなんだろう。
あんな素敵な人と付き合えたら最高なんだけどな。
並んで歩いて、手を繋いで、キスして、抱き合って‥‥。
そういう時って一体どんな気持ちがするんだろう。
私は京子をじっと見つめた。
京子は私が今思ったこと全てを経験してるんだよな‥‥。
「ねぇ京子。沢田とキスする時ってどんな気持ち?どんなふうにするの?」
「えぇ〜!?」
また京子の顔が真っ赤になった。
私もこんなこと聞くのは照れくさいけど参考のためだ。
真剣な気持ちが伝わったのか京子は恥ずかしがりながらも話してくれた。
「最初はとにかくドキドキしたよ。たぶんツナ君も同じじゃないかな。
二人してジーッと見つめ合ったままで、どんどん時間が過ぎていって。
でも目を離すこともできなくて」
何となく想像がつく。微笑ましいじゃん二人とも。
「それでどうした?」
「ツナ君が私の肩にこう手を置いて」
ポンと私の肩に手を置いて実演してみせる。
「たぶん私震えてたと思う。で、ツナ君の顔が近づいてきて私目を瞑って‥‥。
唇に柔らかい感触がして、気がついたらキスしてたの」
その時のことを思い出したのか京子は頬を押さえてる。
あぁもう。本当可愛い。
いいなぁ、不器用だけどそうやって思い出に残るキス。
私もいつか‥‥。
「今はもう普通にキスしてるわけ?」
「そういう雰囲気になったら自然にするようにはなったかな‥‥」
「京子からしたりもするんだ?」
「うん‥‥」
ラブラブじゃん二人とも。
まあもう最後までしちゃってるくらいだし当たり前か。
よし、もうここまで来たら――。
「京子」
「ん?」
「もっといろいろ教えてくれない?」
(続く)