「やめて、ください」、京子は桃色の唇を震わせつつ、言った。「それは出来ないね」、雲雀は言った。綺麗な大きい瞳と、ぱっちりと縁取られた長い、長い睫の端から溢れる雫が、彼をそうさせているのか。  
押し倒した状態で、京子の栗色の髪がさらりと揺れる。それを彼は指で少し弄って、指先に力を入れた。  
「いた…」  
「ねえ、なんでそんなに嫌がるの」  
問うと、首を雲雀からちょっと背けて眉を寄せて「雲雀さんが、きらいだからです」。それに彼は、「ふうん、」自分から問うたにも関わらす素っ気ない態度だ。  
「何でですか、どうして私を、こんなにいじめるんですか。」  
「どうしてって、言われてもね」  
「雲雀さんも私を、きらいだからですか?」  
「聞くだけ野暮」  
「言って下さい」  
「…ちがうよ京子。嫌いじゃない」  
真っ直ぐ前を見つめる瞳は、京子を殺してしまいそうだ。  
 
「逆だよ」  
親指で、桃色の唇をなぞる。  
「京子が好きなんだ」  
「うそです」  
「うそじゃないよ、馬鹿かい」  
「馬鹿じゃないです」  
「馬鹿だよ」  
「!」  
親指を唇から離し、強く京子に口付ける雲雀。  
 
「もっと、いじめてあげるよ」  
「それって、本当に私のこと好きなんですか…?」  
「だから、聞くだけ野暮って言ってる。分からないかな」  
「…分かりたくないです」  
 
そう言う彼女の表情は、さっきより少し穏やかになっていた。  
 
 
≒  
 

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