「…本当にあいつら、何を考えてるんだろう。  
女の子を狙うなんて許せないな」  
吐き捨てるように呟かれた言葉に、ランボは思わず顔を上げる。  
聞き覚えのあるフレーズ。  
今現在自分たちが陥っている状況も一瞬忘れるほどに懐かしい言葉。  
しかし、それは誰に、とりわけ今彼女と一緒にいる自分にさえ向けられたものではないと、  
その横顔が語っている。  
強張った横顔に浮かんでいるのは怒り、憤り、悔しさ、  
─── そして微かな恐怖と怯え。  
その正体も真意もわからない、ただ強大で恐ろしい敵に、  
彼女は確かに怯えていた。  
柔らかな、まだ幼さも抜けきらない丸みを帯びた頬に残る、  
真新しい擦過傷。  
ほんの数時間前、敵に狙われた京子とハルを救うために戦った、  
そのときにできた傷だった。  
それ以外にも、いくつもの戦闘の痕跡が彼女を蹂躙している。  
髪は乱れたまま、衣服もところどころ焦げたり破れたり。  
命に関わるような怪我こそせずにすんだとはいえ、  
あそこでボンゴレファミリーの救いの手がなければ、それも危うかった。  
それほどの大きな敵に対峙して、恐れがないはずがないのだ。  
─── それにひきかえ。  
 
 
俯いた視線が捉えるのは自分自身の両手。  
そこには目立つ傷の一つもない。  
両手に限らず、全身無傷といっても過言ではない。  
それもそのはずだ。  
自分はまるで戦えなかったのだから。  
ただ京子とハルの二人を連れて逃げ惑うばかりで、  
敵の攻撃の大半はイーピンが一手に引き受けてくれたのだから。  
 
(…女性に戦わせて、オレはいったい何をやってるんだ)  
 
戦いから戻って、何度繰り返したかしれない自嘲をまた繰り返す。  
そうしたところで後に残るのは苦いばかりの後悔だけ、  
何が変わるわけでもないというのに。  
ランボはきつく奥歯を噛んで、拳を握った。  
「…ランボ」  
静かな声が自分を呼ぶ。  
「何を考えてるの?」  
「………」  
「戦えなかったと、自分を責めて、後悔してるの?」  
何もかもを見透かすイーピンの声は低く、穏やかで、  
僅かほどの嘲りも叱責もない。  
しかし、だからこそ情けなさは胸につのって、苦しかった。  
「ランボ?」  
 
「─── イーピン、君はなぜ戦う?  
 殺し屋からはもう足を洗ったのに。それなのになぜ…」  
顔を上げることもできないまま、ランボは訊ねた。  
弱々しい問いかけは震えていた。まるで今のランボ自身のように。  
自分の靴の先を見つめるランボの視界を、  
擦り切れ、汚れたイーピンの靴がよぎる。  
その爪先がランボのそれと触れそうなところまで近づいて、ぴたりと止まった。  
俯いたままのランボの頭上に降ってきたのは、やはり静かで穏やかな、  
けれど力強い言葉だった。  
「─── 私は、私が守りたいもの、大事なもののために戦う。  
 私の大事なものが傷つけられるのを、黙って見てはいられないから。  
 守るために戦うのなら、血を流すのも怖くはないよ」  
その言葉にはっと顔を上げると、ぺちっと、柔らかな感触が頬を打った。  
 
ほとんど痛みなど感じない、形ばかりの打擲。  
やっと視線を合わせ、見上げたイーピンはしかし、  
その言葉の力強さとは裏腹に、どこか泣き出しそうな顔をしていた。  
「…イーピン?」  
「あなたが戦えなかったのは仕方がないことでしょう?  
 あなたは『血の掟』に縛られている。それを超えては戦えない。  
 それはあなたに限らず、マフィアなら当然のこと」  
なぜか苦しそうに言ったイーピンは、  
ランボの頬に当てた手のひらをするりと滑らせる。  
頬を撫でるような、まるで幼い子供にするような仕草で。  
「イーピン…」  
「だからそんなに自分を責めないで。  
 あなたが悪いわけじゃないし、  
 本当は戦える、強い人だってことも、ちゃんと知っているから」  
慰めではなく、励ましでもなく、ただ事実を口にしているだけ。  
まっすぐにランボを見つめるイーピンの眼差しがそう語っていて、  
結局、泣き出したのはランボのほうだった。  
 
「…もう、すぐ泣くんだから」  
からかい混じりに笑いながら、冗談めかしてイーピンはそう言うと、  
頬を伝い落ちた涙の跡を少し乱暴にぬぐった。  
そうしてまたするりと撫でた頬を包み込む。  
そのあたたかさに、ランボは自分の手を重ねてそっと握った。  
握った手を目の前にかざせば、  
それは自分の手よりもずっと小さく細い。  
華奢な手の甲は打撃の痕に腫れて、赤黒い痣が浮かびかけている。  
生々しく鮮やかな傷は痛々しい。  
けれどそれは、今しがたイーピンが語ったばかりの決意の表れ。  
掟のせいばかりではなく戦えない自分が、今はまだ情けないばかりだけれど、  
せめて今は強くて優しい彼女を癒せたら。  
そんな気持ちに衝き動かされて、ランボは痛々しい傷に唇を寄せた。  
 
キスした瞬間、イーピンの腕がぴくりと小さく跳ねた。  
見上げると両の眼は驚きに大きく見開かれていた。  
それを見つめ返したまま再びキスすると、一瞬で耳まで赤くなった。  
さっきまでの強さがまるで嘘のような、初心な反応。  
ランボは思わずイーピンを引き寄せ抱きしめた。  
「ひゃっ………!」  
頬の傷をぺろりと舐めると、  
イーピンの細い体はランボの腕の中でさらにぎゅっと縮こまる。  
身体を強張らせるイーピンが可愛くて、今度は耳を舐めてみる。  
「やっ…!」  
すると首をすくませるから、次は額に。そして鼻先、それからもう一度頬に。  
ぎゅっと閉じられた瞼にもキスをして、  
それからゆっくりと唇にキスをした。  
ところどころ傷んだ服を剥がしていくと、  
その中から現れた身体にはいたるところに打撲の痕があった。  
 
「…女の子なのに、こんな………」  
「っ…いや、見ないで…」  
ランボが思わず呟くと、  
イーピンは自分で自分の肩を抱くようにして身体を隠そうとする。  
「でも、とてもきれいだ。─── だから見せて」  
そう囁きながら震える肩先にもキスをして、ゆっくりと両腕を押し広げる。  
ひかえめな胸の膨らみ、そのてっぺんはすでに固く尖っている。  
両手首を掴んだまま、ピンク色の小さな乳首を口に含む。  
「あ…っ」  
その瞬間びくんと大きく跳ねた身体は、舌の動き一つ一つに反応して震えた。  
押さえていた手を放し、ほったらかしだったもう片方を舌で転がしながら、  
濡れた乳首をひっかくようにこねるように指先で刺激する。  
ちらりと視線を上げると、イーピンは両手で口を押さえて声を堪えていた。  
声を出して、と言っても、イーピンはふるふると首を振るばかり。  
それならと、吸いついた乳首にほんの少し歯を立てると、  
またびくりと身体が跳ねて、それでくたりと力が抜けた。  
 
片方の手の中に包み込んだ胸をやわやわと揉みながら、  
もう片方で薄い腹の上を撫で、さらにその下へと滑らせていく。  
「っや…、そこは………!」  
慌てて足を閉じようとしてももう遅い。  
白い肌の所々に赤い痣を散らした太腿の間には、ランボの身体がしっかりと挟まっている。  
まだ着けたままの下着の上から割れ目をなぞると、くちゅ、と濡れた音がした。  
「ああっ!」  
くすぐるように数度指を這わせると、  
その度にとろりと溢れるもので下着は濡れ、さらにくちゅくちゅと音は大きくなった。  
「んっ、ん…っ、んぅ、んぁっ、あっ、あぁ…っ!」  
もう下着の上からでも、小さな芽が充血して尖っているのがわかる。  
そこを布越しにすりすりとこすると、  
もう力の入らない指の隙間から、堪えきれない声がこぼれた。  
足の付け根からそっと指を滑り込ませる。  
わずかに膨らんだようなそこはとっぷりと濡れていた。  
ゆっくりと指を差し込んでいくと、きゅうっと内壁が締めつけてくる。  
「くぅ…っ、んっ、んんっ!」  
指に感じる濡れた熱さや柔らかさ、指を絞るような締めつけに、  
ゆるゆると指を抜き差ししながらランボは自分の下着を下ろし、  
イーピンの下着も引き下ろした。  
 
そして力の抜けた、ひくひくと震えるイーピンの身体を、  
座りこんだ自分に跨らせるようにして抱え上げると、  
とろとろに濡れたそこへ硬く勃起したものを押し込んでいった。  
「あ───…っ!!」  
「く…っ」  
まるで吸い込まれるように収まったものを、内壁が締めつける。  
きゅうくつで熱い感触にガマンできず腰を突き上げると、  
しがみつくイーピンが肩に爪を立てた。  
刺激に耐えかねるように力むのがそこにまで伝わるのか、  
まるで手で握られているような快感を生む。  
「ふ…ぁっ、ぁあん、あっ、あんっ、んっ、んぅっ」  
切れ切れに上がる声を耳元で聞きながら、  
つながった部分をなぞって尖った肉芽をそろりとひっかいた、その瞬間。  
「ひあっ!」  
ひときわ高く声を上げたイーピンに引きずられるように、  
熱い塊のような精をイーピンの中へ打ち込んでいった。  
 
 
─── すうすうと、子供のような寝息をたててランボは眠っている。  
その隣で、イーピンは膝を立てて座り、眠るランボの髪を指で梳いていた。  
何度も何度も、繰り返し。  
あどけない寝顔を見つめながら、イーピンはランボに話した決意を胸の内で呟く。  
 
(大事なものを守るために、私は戦う。  
 きっと、きっと守ってみせる、─── あなたも)  
 
ランボには伝えなかった最後の言葉を胸の奥で誓って、  
イーピンは眠るランボに初めて、自分からキスをした。  
その感触に気づいたのか、寝ぼけたような仕草でランボはイーピンを抱き寄せた。  
「ィ……ン、これ…ら、オレ…」  
「…ランボ?」  
「オレが…みぉ、…ぁおる、から…」  
「ランボ…」  
不明瞭な言葉を、倒れ込んだランボの胸の上で聞きながら、イーピンは目を閉じた。  
抱き締められ、合わせた胸の中に、同じ誓いを刻んで。  
 
 
                          〜 END 〜  
 
 

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