十分もすると、花の家に着いた。  
その間にあった事といえば、なぜか電柱にぶつかった獄寺に  
公園の水道で濡らしたハンカチを貸してやったことくらいだった。  
「送ってくれてありがとう」  
「…一人なのか?」  
「え?」  
獄寺の問いの意味がわからず、花は聞き返す。  
「いや、家に人はいねーのかって…電気ついてねーから」  
「ああ、今日は親、2人ともいないのよ。  
お父さんは夜勤、お母さんは昔の友達と温泉旅行」  
「そうなのか…まあせーぜー気ぃつけろよ」  
花はにやりと笑い、獄寺に言った。  
「なに?そんなにアタシのこと心配してくれてるわけ?」  
「っるっせーな!別にしてねえよ!」  
「ハイハイ。冗談だって」  
軽く手を振って、獄寺をあしらう。  
「じゃ、バイバイ」  
「ああ」  
ぶっきらぼうに返事をし、獄寺はもと来た道を戻って行く。  
その背中を見送って、花は家のドアに手をかけた。  
「あれ」  
鍵が開いていた。  
花以外のこの家の住人は皆出払っているはずだったのだが。  
 
「お母さん鍵閉め忘れたのかー?」  
独り言を言いながらドアを開ける。  
誰からの返事もないのはわかっているが、花は「ただいま」と言って玄関に入った。  
薄暗い廊下を歩いてリビングへ入る。  
入り口とは少し離れたところにある電気のスイッチを押そうと手を伸ばしたとき  
「動くな」  
口が何者かによって塞がれた。  
「動くなよ…叫んだりでもしてみろ。譲ちゃんの首、掻っ切ってやるからな」  
首に、ひんやりした何かが触れていた。  
ナイフだと思われた。  
「ひっ…」  
これにはさすがの花も小さく悲鳴を上げた。  
見知らぬ男が後ろからナイフを自分の首筋に当てている。  
生命の危機を感じる異常事態だった。  
後ろからだったので、男の顔が見えなかったのが、唯一救いだった。  
「なあに…まだこの家じゃなんにもしてねえよ…すぐに嬢ちゃんが帰ってきたからな」  
男の言う事など耳に入らない。  
花の脳内は恐怖で埋め尽くされていた。  
「やめて…殺さないで…」  
いつもなら自分が情けなくなる台詞だが、そんなことも気にならなかった。  
カタカタと震えおびえる花の耳元で男が舌なめずりをした。  
「にしても嬢ちゃん…その制服ってことは中学生だよなぁ?  
の割りにはイイ体してんなあ…」  
顔は見えなかったが、男がどのような表情をしているのかは、容易に窺い知れた。  
「なあ嬢ちゃん。こういうのは初めてか?」  
男の手が制服で隠れている花の大腿へと伸びた。  
本当なら殴り飛ばしてやりたいところだが、恐怖で体は硬直し、  
一歩も動くことはできなかった。  
「おとなしくしてろよ…まあちぃっと痛ぇかもしれねえけどな」  
へへへ、と言う男の下卑た笑い声が聞こえた。  
大腿部を触っていた男の手がすっとスカートの奥のほうに侵入する。  
「やっ…!」  
「動くなよ」  
男に釘を刺され、花は少しばかりの抵抗さえもできなくなってしまった。  
 
 
花と別れた後、獄寺は1人帰路についていた。  
「はーっ………」  
ため息をつきながら。  
(情けねえとこ見られた…)  
ガラにもないことを…というのは重々承知だが、獄寺は、  
花に対してクラスメイト以上の感情を持っていたのだ。  
その花に電柱にぶつかるなどという失態を見せてしまった。  
「一体何考えながら歩いてたのよ。もっと注意して歩いたら?」  
と花に言われた時には反論もできなかったし、ましてや「お前のことを考えてた」  
なんて本当のことを言うことも出来なかった。  
「何であんなところに電柱が生えてんだよ…」  
電柱に八つ当たりしても仕方がないのは分かっていたが、  
八つ当たりせずにもいられなかった。  
新しいタバコに火をつけようと、ライターを探して  
ポケットを探ったときに気がついた。  
「あ」  
真っ白なハンカチ。電柱にぶつかった獄寺に、花が濡らして貸したものだった。  
「返すの忘れてたな…」  
戻って花の家まで届けるか、明日返すかで迷った挙句、  
とりあえず花に連絡することにした。  
ケータイのデータから花の家の番号を探す。――ちなみに番号は笹川京子から  
教えてもらった(獄寺は、何も言ってはいなかったのだが。女子はこういうことには妙にさとい。)  
――見つけた番号を選択すると、耳に馴染んだ音が聞こえてくる。  
5回ほど鳴っただろうか。花は電話に出ない。  
「出かけてんのか…?」  
もうしばらくすると、留守番電話の音声案内が流れてきた。  
仕方なく、獄寺はメッセージを残すことにした。  
「黒川、あー…獄寺だけどよ…」  
ハンカチ…と言いかけたとき、受話器の向こうで物が落ちるような音が聞こえた。  
続いてもっとすぐ近くで。どうやら向こうの受話器が落ちたらしい。  
「いっ!?」  
獄寺は音に驚き、思わず受話器を耳から遠ざけたが、次に聞こえてきた言葉で目を見開いた。  
 
「助けて!!!」  
 
聞こえてきたのは確かに花の声だった。  
「黒川!?」  
助けて?何かあったのか?  
突然のことに混乱しながらも獄寺はケータイの向こうの花に喋りかける。  
「おい!黒川!どうしたんだよ!!」  
反応は、ない。不審に思っていると、通話は切れ、ツーツーという音が流れた。  
事態はうまく飲み込めなかったが、何かが起こっているのは確かだった。  
「っくっそ!!」  
獄寺は花の家へと走り出した。  
 
花の家に着くと、獄寺はインターホンも押さずにドアを開けた。  
「黒川っ!!」  
返事はなかった。電気も、一つもついていなかった。  
靴を脱ぐのももどかしく感じながらも、家の中へ歩を進める。  
「黒川?」  
廊下をまっすぐとおり、リビングへ入ったとき、獄寺は花を見つけた。  
うずくまっている花の肩は、小鳥のようにカタカタと震えている。  
「どうしたんだよ…」  
「獄寺…?」  
ほとんど顔は動かさず、目線を上に上げて花は獄寺の名前を呼んだ。  
「…とりあえず、電気つけるぞ」  
そういって獄寺は電気のスイッチを入れ、驚愕した。  
暗くてよく見えていなかった花の服装は乱れ、  
上半身はほとんど何も着ていないに等しかった。  
そして、床に赤い液体がついていた。  
まだ新しいそれは、血だった。  
「な…!?」  
獄寺は驚きのあまり、一瞬声をなくした。  
「何があった!?怪我したのか!?」  
そこまで言って、獄寺はようやく気がついた。  
血は、花の股の間から流れていて、  
その花は破瓜の痛みにうずくまっていることに。  
「黒川…」  
花一人しかいないこの家に、誰かが侵入したと考えるのが妥当だろう。  
うつろな目をしている花を見て、獄寺は悲愴な気持ちになった  
ああ、きっとこの少女は見知らぬ男に蹂躙されたのだ。きっと乱暴に。  
好きな男に処女を捧げることもできず、ただ奪われて、弄られたのだ。  
やるべきことは、決まっていた。  
「…ごく…でら…?」  
「…忘れろ。さっきあったこと全部」  
獄寺は花を抱きしめた。  
電話の向こう側で、必死に助けを求めてきたこの少女を。  
いつもはあんなに大人びているのに、今はとても小さい少女のように感じられた。  
「お前の初めて、奪いなおしてやる」  
 
 
 

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