「リング争奪戦前にフラフラと出歩くなんざ随分と余裕だな、沢田綱吉」
日暮れも近い並盛の商店街で、XANXUSは思いがけない人物に遭遇していた。
沢田綱吉。父である9代目が跡目を継がすと宣言した門外顧問・家光の一人息子。
名実共に10代目を襲名するには、この男をXANXUS自らの手で葬り去りその事実を以って
ボンゴレを掌握することが必要となるが、来日した直後に顔をあわせた沢田綱吉は大柄なXANXUSとは
比べようもないほど小柄で弱々しく、追い詰められた兎のように怯えきっていた。
苦もなく終結を迎えるであろう争奪戦を前に、こうして顔をあわせるとはXANXUSも予想だにしなかったが…
目の前の沢田綱吉がきょとんとした顔でXANXUSを見上げていた。
茶色の大きな目に凝視され、ふいに居心地の悪さを覚えたXANXUSは目を逸らさないまま舌打ちした。
大概の人間はそこで竦み上がり即座に顔を背けるはずだが、沢田は首を傾げるだけ。
と、ふと目に入ったものに今度はXANXUSが唖然とした。
飾り気のない白いシャツに黒のベスト。青いリボン。黒のプリーツスカート。
(・・・・・・・・・・・・・・・・スカートだと?)
「あのー・・・ツナ君のお友達?私、ツナ君のクラスメートで笹川京子です」
「…人違いだ」
踵を返し、立ち去ろうとするXANXUSの背後で京子が呟く。
「もしかして…リボーン君の知り合いかな?面白い友達が多いみたいだし…」
足が止まった。顎に指先を置き、うんうんと唸る京子が近づいた大柄な影に気付き顔を上げる。
「貴様、あの赤子もどきとも面識あんのか?何者だ?」
「え?笹川京子でツナ君のクラスメートでリボーン君も知ってますけどやっぱりお友達ですか?」
往来で向かい合ったまま固まる黒尽くめの大男と女子中学生を通行人が露骨に避けていく。
この女とは噛み合わない。XANXUSの超直感がそう告げていた。
だが、沢田に関わりを持つこの女を懐柔しておけばあとあと役に立つやも知れない。
「…ああ、オトモダチだ。ついこないだからな」
「やっぱり!もしかしてイタリアの人ですか!?可愛いアクセサリーですね!ラッキーくん好きなんですか?」
火傷の目立つ顔を歪ませ嘲るXANXUSを前に、京子は普段と変わらず屈託なく笑う。
媚びのないそれに少なからず動揺し、XANXUSは眉を顰めた。
たかが小娘に心を動かすなど、そんな軟弱な者は10代目にふさわしくない。
この女はあくまで沢田を釣る餌でしかないのだから。
「あの、これから予定ありますか?美味しいケーキ屋さんがあるんです!一緒に行きませんか?」
無邪気に聞く京子をザンザスは無表情で見下ろしていた。
その姿は今後を算段しているようにも、同行を迷っているようにも見えた。
いつまで待っても返らない返答に京子は戸惑ったように目を伏せる。
「あ…突然ごめんなさい!お名前も聞いてなかったのに…じゃあ今度ツナ君たちも一緒に「XANXUSだ」
目を見開く京子の腕を掴み、XANXUSはさっさと歩き出した。
「え?」
「テメーが聞いたんだろうが、一回で覚えろカス。店はどこだ?案内しろ、京子」
歩幅の広いXANXUSに引き摺られるように、京子も歩き出す。
息を弾ませながら並んだ京子の腕から指を離し、代わりに手を取った。
驚くほど小さく柔らかな手のひらがXANXUSの硬い皮膚をなだめるかのように触れ、
かすかに握り返された。
「すっごく美味しいから、きっと気に入ってもらえますよ、…XANXUSさん」