=雲雀視点=  
 
テラスから見える青空に霧がかかって鬱陶しい。  
こんな日は誰とも顔を合わせずやり過ごしたい。  
_なのに。  
 
「ちゃおッス雲雀。先日のパーティーは楽しめたか?」  
スーツを着込んだ小生意気な口調の少年は、とても十一歳にはみえない。  
今はいつも以上に誰とも話したくない気分だったが彼ばかりは突き放す気になれず、口元に薄く笑いを浮かべて会釈してみせた。  
「お陰様でね」  
「どうだった?あの時の女は」  
「…」  
「でかいパーティーで女の一人も連れてなきゃ格好つかねえからよこしてやったんだぞ」  
「君なりの心遣いってわけかい」  
「まーな。ん、そろそろ出発だな」  
わざとらしく腕時計を覗き込むと、リボーンは後ろ背に手を振って階段へと消えた。  
おそらくは僕をからかうためにわざわざここに足を運んだのだろう。  
彼は全て知っているに違いない。僕のことも、あの拳法娘のことも。  
 
イーピンという娘が自分に好意を持っていることは知っていた。  
幼少のころに沢田綱吉に世話になったらしく未だ関係絶えておらず、ボンゴレの企画したパーティーや催しのたびに沢田は招待状を送っていた。  
僕は彼女と会話らしい会話などしたことがない。  
たまに顔を合わせても仕事の話や勉強の話を(それも向こうが一方的に)しただけで、愛だの恋だのの対象に引っかかる覚えはなかった。  
むしろ自分はああいうタイプの女が苦手だった。  
勉強熱心で努力家で優等生。  
愛人にするには面倒なタイプだったし、愛人以上のレベルの女を作る気などさらさらない。  
愛人?足かせになる存在を自分で作るなんて浅はかな。  
あちこちに地雷を作っている雷やリボーンの気がしれない。  
 
今朝届いた自分への封筒。  
"話がしたい"との内容で、最後の欄には待ち合わせの時間まで書かれていた。  
本当ならこんな手紙になど左右されるはずもないのだが、なんとなく出向こうかという気分になった。  
自分に何を求めているのか知らないけれど、勝手な理想を押し付けられるのは気に入らない。  
待ち合わせの明日の夜、彼女の求めている理想像とやらを消失させてやろうと思った。  
 
 
__結局、待ち合わせをして即ホテルに向かったので会話らしい会話などはしなかった。  
 
自分の下で息を漏らす彼女は想像通りすごく華奢。  
物凄く強いんですよと沢田に聞かされていたが、そうだとはとても思えない。  
僕にしがみつく腕は血管が透けてみえるほど色白で、前戯などそこそこに押し込んだ自身を乱暴に動かせば、眉間に皺を寄せて耐えている。  
男に慣れていないのだろうか、アノわざとらしい喘ぎ声を聞かずに済んだ。  
薄い陰毛に隠れた陰核を擦ってやっても、小さい悲鳴のような声を上げるだけで唇を噛んで耐えている。  
_しかし彼女は処女ではなかった。  
別に愛人にするつもりもないのでどうでもいいはずなのに、幼少のころから僕を慕っておいてよそで喪失していたのかと思うといい気はしない。  
もし処女だったのなら多少は優しく抱こうかと思っていたが、そんな気は消え失せた。  
 
「ひばり、さん…っ」  
「…何」  
さっさと終わらせて帰ろう。  
これだけ粗野に扱っておけば、普通の女は失望して近寄らなくなるに違いない。  
相手の具合など気にもせずに内壁をえぐるように自身を打ちつけた。何度も、何度も。  
 
「わたし、どうしても…ぅ…つ、伝えたいことがあって」  
「…お願いなら沢田か雷に言えば?僕は君の期待には答えられないよ」  
もう次の言葉を聞きたくなくて、口封じのつもりで秘穴から抜けてしまうぎりぎりまで引き抜いてから一気に根元まで打ち込んだ。  
ぶちゅう、と品のない粘音とともに分泌液が零れ出して僕の太ももに伝う。どうやら最奥まで先端がめり込んだらしい。  
彼女の喉元からひい、と風のようなかすれ声が聞こえた。  
一番奥を何度か突き上げながら軽く(ほんの軽く、だよ)彼女の首を絞めると一気に締め上げられ、精を絞り出されるように射精した。  
出し終えてからも首に手を添えたままじいっと顔を覗き込んでると、彼女は途切れ途切れの言葉をやっと繋ぎながらこう言った。  
頬には涙が伝っている。泣いていたことにその時やっと気づいた。  
乱暴にされたことが悔しかったのだろうか?  
泣いたことの記憶すら遠く昔のことである僕には、涙の意味することなんて分からない。  
 
これが終わったら、僕に失望したら、次にいけばいいだけの事じゃないの?  
君にはそういう色仲の男が居るんでしょ?  
違う?  
僕を悪者にしないでよ。  
 
「好きだったんです…ずっと。雲雀さんじゃないと、だめなんです」  
「相手が違うんじゃない?そういうのは雷か愛人に言ってあげなよ」  
 
すぐにシャワーを浴びたかったけど、重苦しい空気が嫌で身支度をするとすぐに部屋を出た。  
色白な肌には赤い手形がくっきりとついていたので、医療費とタクシー代を茶封筒から引き抜くとサイドテーブルに置く。  
廊下に出た途端、わっと弾けるような泣き声が扉越しに漏れてきた。  
情の見返りを期待するような人は愛人にもできないと改めて思った。  
 
エレベーターを降り、タクシーを呼ぼうとフロントで携帯を開くと、カウンターの前のソファに見慣れた姿があった。  
雷の守護者。  
すぐ泣く弱虫の草食動物、できれば仕事以外では関わりたくない男。  
 
「あの娘のお守りか。面倒そうだね、幼馴染って」  
「…イーピンは…?」  
「僕が殺したとでも言いたそうだね?慕ってくる女性を殺しはしないから安心して」  
愛しもしないけどね、と付け加えてフロントを後にした。  
すぐに追いかけてくるかと思ったが、ホテル前にタクシーが到着するまで僕の周囲は見知らぬ顔しか通らなかった。  
雨。蒸し暑い夜。汗。  
ああ早く全部洗い流したい。  
 
 
=ランボ視点=  
 
シーツにくるまって泣くイーピンは、どう言葉をかけていいのか分からないほどひどい状態だった。  
強気で男勝りな彼女のこんな姿を見たのははじめてで、シーツの中から鼻をすするイーピンの横に座ってただ黙っていることにした。  
 
こんなことになったのは俺のせいだった。  
あの夜、昔から大好きだったイーピンを抱いて、そのあとに「雲雀さんが好きなら告白すべきだ」と余計なことを言ってしまったから。  
あんなことを言わずに夜を終わらせていれば、こんなことにはならなかった。  
イーピンは泣かずに傷つかずに済んだし、僕等はいつもどおりにおどけて話せばよかったんだ。  
 
後悔と罪悪感だけがいっぱいだった。  
後悔?  
余計なことをほのめかしたから。  
罪悪感?  
イーピンが雲雀さんに振られれば、僕のことをみてくれるかと思ってあんなことを言ったから。  
 
「ごめん…ね」  
「え?」  
驚いたことに、先に口を開いたのはイーピンのほうだった。  
喉が乾燥しているのだろうか、かすかすの干からびた声が痛々しかった。  
 
「なんでイーピンが謝るの…?」  
「私、ランボをいいように利用しちゃった…寂しいときだけ一緒にいて、普段は乱暴してるのに…」  
「俺のほうこそ、ごめん…」  
「忘れよう?全部」  
「…」  
「明日からは前みたいにしよう。そしたらきっと、全部忘れられる…」  
「…そうだね」  
 
俺は忘れないよ。  
イーピンを抱いた夜のことも、この夜のことも、全部。  
ああ、十年後の貴方に早く会いたい。  
 
 
_完結_  
 

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