一階のホールでは大規模なパーティーが開かれている。
今頃食べたこともないご馳走が並べられ、工夫を凝らしたレクリエーションが繰り広げられているのだろう。
ボンゴレファミリー、同盟ファミリー総出のパーティー。出ればきっといい思い出になる。
でも戻る気にはならない。
バイト代をはたいて買ったドレスも、一生懸命セットした髪も、汗でべとべとになってしまったからもう戻れるわけもないのだ。
___ホールで流れていた繊細で美しいクラシックの調べとは違って、この客室には荒々しい息と粘っこい水音しか響かない。
閉め切った室温にふたりの体温が篭って、汗の粒が体中にまとわり付いてきた。
豪華な装飾の施されたインテリアも照明を消せばなにも見えない。
全部見えない。見たくない。ぜんぶ。
真っ暗ななかで相手の首に手を回して強く目を閉じる。
「イーピン…、いたくない…?」
「…ん、大丈夫、平気…」
うるさいくらい騒いでいた昔とは違ってさすがにすっかり落ち着いた風貌なのに、肝心なときには小心な相手。
私の中に深々と挿入されているそれは雄雄しく猛り欲情しきっているはずなのに、ほんの少し動くたびに逐一反応を伺ってくる。
経験者の余裕ってやつ?
それとも初体験である私を気遣っているのか何なのか、かえって私をむしゃくしゃさせた。
ぐちゃぐちゃに壊れてしまいたいのに。
痛みなどとっくに薄れていたので自ら腰を振って刺激を与えることにした。
う、と低いうめき声が聞こえた。子供のころとは違う、大人の男の声。
できるだけ強く下腹部に力を込めて射精を促すように締め上げる。
にちゃ、にちゃ、と生々しい粘着音が腰の動きに合わせて鳴る。
「イーピン…っ、」
「ん…な、なによ…?」
「…あの女の人、ただの愛人だよ、雲雀さんの…」
「…」
分かってる。
愛人。
"ただの愛人"。
お互い割り切って愛し合い求め合う仲。
私はその"ただの愛人"にもなれない。
いまだに、たどり着けない。
それよかセックスしてるときにぺちゃくちゃ喋るのってマナー違反じゃないの?
耐え切れないなにかがこみ上げてきたので、それをごまかすように激しく腰を打ち付けた。
_おれはすきだよ。イーピンのこと昔から。_
うめき声と混じっているせいでとぎれとぎれだったけど、はっきりとそう聞こえた。
直後にお腹の中で一際大きく膨らんだかと思うと、暖かいものがじわりと広がった。
同時に、なにかがふっきれたような、いや、追い詰められたような気になって涙が零れ落ちた。
あの人のこと嫌いになりたい。
この人のことを好きになりたい。
なれない。
あの人のことは子供のころから憧れてて、
この人とは子供のころからの兄弟みたいなものだから。
_終_