「ありがとうございましたー」という店員の、
間延びして投げやりな声を背中に受けながら、わたしたちはコンビニを出た。
もう夜は遅い時間だったけれど、街の灯りはまぶしいくらいに光を供給している。
その代わり、人の姿はない。そこにはわたしたちだけだった。
他には、発情した、猫の鳴き声。
獄寺くんの家にはすぐ着いた。
ポケットから鍵を探す背中をうしろから眺める。
わたしよりも少しだけ高い身長。
獄寺くんは扉を開けて、わたしを迎え入れてくれた。
そしてわたしは、ためらいもなく部屋の中に入る。
獄寺くんは部屋の明かりを点け、テーブルの上にコンビニの袋を置いた。
コツ、と硬い音がする。袋の口から銀色の缶のふちが覗いた。
ビールは獄寺くんのぶんで、チューハイはわたしのぶん。
わたしはお酒が飲みたかったわけじゃない、と
わたしは自分に向かって言い訳をする。獄寺くんがどうしても言ったからだ。
獄寺くんは得意げにお酒の缶をレジへ持っていった。
けれど清純は、自分が大人に見えるとでも思っているのだろうか。
確かに周りの同年代の男の子に比べたら大人びてしまっているところがあるけれど、
あの死んでいるような目をした店員は、
本当に獄寺くんが成人だと思ったから何も言わずにレジを打ったのだろうか?
わたしは後ろを振り返った。
彼はもう、トレーナーとシャツを脱いで上半身を晒していた。
そんな格好でも寒くないくらいに、暖房がよく効いている。
獄寺くんはわたしと目が合うと悪戯を思いついたような笑顔を浮かべ、
そして猫のようにわたしにのしかかってきた。
わたしは獄寺くんの重みに負けてソファに倒れた。
獄寺くんはマメだらけの長い指で、わたしのシャツのボタンを外していく。
左腕より、右腕のほうが少しだけ太い。
ひじとひざは骨ばって細くとがっていて、あたると痛い。
前髪が伸びすぎて、目にかかっている。
そして、腹筋はよく鍛えられているのに、
背中は柔らかくて、大きくくぼんでいる。
わたしは獄寺くんの背中に手をまわした。
獄寺くんはボタンを外しにくい体勢にされて、少し不満そうな表情を浮かべる。
ばかみたい、と思った。自分も、獄寺くんも。
だけどどちらかと言えば、自分のほうがばかだ。
わたしがまだこの行為にこんなにもリリカルな感情を持っていると知ったら、
獄寺くんはわたしをばかにするだろうか?
獄寺くんの顔が見えた。この顔が好きだ、と思う。
それだけじゃない、獄寺くんのすべてが好きだ、とも思う。
でもそれって大人の恋とは程遠いのかな?
と、自分に問いかけながら、わたしは流れに流されてしまわないように、
背中にまわしたその手で、まだ少年のように柔らかい肉をそっとつまんだ。
獄寺くんは、学校では他人のように振舞う。
正確に言えばツナくんが側にいるとき、だ。
だからこうやって獄寺くんの家についてきては、行為を繰り返す。
初めてキスをした時笑い顔とも泣き顔ともいえない微妙な表情を作った。
きっとツナくんに負い目を感じているのだろう。
だけど私はそれに気づかない振りをする。
(いまだけは、私の、ものでしょ?)