ツナの家に遊びに来たらドアを開けたのはビアンキ姉さんだった。  
みんなそれぞれ出かけてて今家にはビア姉しかいないそうだ。  
「ツナは漫画買いに行っただけだから少し待てば帰ってくるでしょ」  
入ったら?という言葉に甘えてオレは玄関に上がった。  
 
台所に通され麦茶を出される。  
喉が渇いてたんですぐに手を伸ばしたが、口元まで持っていったら煙が出て変な匂いがしたんでやめといた。  
ビア姉さんは美人で面白い人だけど、出された食い物や飲み物は危険なんだったな。  
 
ふと見るとビア姉さんは向かい側の椅子に座ってマニキュアを塗っていた。  
白くて長い指だ。  
ピアノを弾いたら似合いそうな。  
薄いピンク色の爪があっという間に赤く染められていくのは魔法みたいだ。  
 
家ではオフクロもマニキュアなんて使わないからついつい食い入るように見てしまう。  
両手を塗り終えてからビア姉はオレが見ていたことに気付いたようで、  
「そんなに珍しい?」  
と尋ねてきた。  
 
「マニキュア塗るの見る機会ないんで」  
答えるとビア姉はマニキュアの瓶をオレに渡してきた。  
「?」  
わけが分からず受け取ったオレにビア姉さんはこう言った。  
「足の爪を塗って」  
 
場所をリビングに移しソファーに座ったビア姉さんの前の床に膝をつく。  
スカートから伸びた足はすらりとして内股が驚くほど白い。  
角度を変えれば下着が見えそうだ。  
正直目の毒だよな。  
 
友達の姉貴にこんなこと考えちゃいけねーと思っているのに、  
人の気も知らないでビア姉はオレの膝に踵を乗せてきた。  
確かにこの方が塗りやすいことは塗りやすいんだけどなー…。  
 
ああ、モヤモヤ考えるのは苦手だ。  
引き受けた手前さっさと終わらせちまおう。  
瓶の蓋を開けていざ開始。  
 
しかし当然初めてのことなので上手くできない。  
親指は綺麗に塗れたが他の指はどうやってもはみ出しちまう。  
何回もティッシュで拭き取っているうちに焦れたビア姉にマニキュアを奪われた。  
 
「ヘタね」  
一言そう言うとビア姉は体を屈めて自分で塗り出した。  
足はオレの膝に乗せたままで。  
シャンプーかあるいは香水か、いい香りが近付く。  
Tシャツの胸元から谷間が覗いて慌てて目を逸らす。  
 
今日のオレはなんか変だ。  
普段ならこんな風に意識しないのに。  
ビア姉もおかしい。  
オレに対してずいぶん無防備だ。  
むしろ挑発してるような―そんなわけないよな。  
 
最後の小指まで塗り終えてビアンキ姉さんは顔を上げた。  
長い睫毛と微妙な色合いの瞳に息を呑む。  
そのまま吸い込まれるようにしてオレは顔を近付けた。  
ビア姉さんは目を閉じてオレを待つ。  
 
やっぱり今日はおかしいな、オレもビア姉さんも。  
そう思いながら唇に触れた瞬間ビア姉の香りがより強くオレを焦がした。  
《おわり》  
 

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