月明かりが綺麗な夜は人を狂わすと聞いたことがあるが、  
この日のオレはもしかしてそうだったのかもしれない。  
 
オレは真夜中に幹部の奴に「ボスに指令がある」と、起こされた。  
だったらお前がボスに直接言いに行けぇ、と思ったが  
あのボスの部屋に入ることを許されてるのはオレともう一人しか居なかった。  
……そう、あの女。ボスの部屋と言ってもボスと京子の部屋だからだ。  
 
オレだってあの部屋には入りたくねぇ。  
しかも夜だ。あいつらが事情にふけっていても…おかしくはない。  
 
嫌々ながらもボスに指令を伝えるために重い体を起こした。  
館の中でも最上階の離れた部屋へと向かう廊下を進む。  
そして、ボスの部屋をノックした。  
中から声は一切しない。ボスと京子は寝ているのだろうか。  
 
「うお゛お゛おい、ボス、入るぜぇ」  
 
ガチャリと重たい扉を開けると電気の消された部屋で、  
窓辺の月明かりに照らされたベットがオレの目に映った。  
 
「……キョウコ?」  
 
音をたてないようにゆっくりと近づく。相変わらずバカでけぇ部屋だ。  
遠目でもわかっていたが、ベットには京子しかいない。  
………ご丁寧に素っ裸のまま白いシーツにくるまってスヤスヤ眠っている。  
 
眠っているやつを起こすのは忍びないが、任務は任務だ。ボスに会わなきゃならねぇ。  
 
「おい、京子、起きろぉ。……ボスはどこだ?」  
 
少しだけかがんで京子に語りかける。  
 
「おい、京子」  
 
もう一度呼びかける。  
 
「んん……ザン…ザス、さん…」  
 
ごろんと寝返りをうって、京子は眠ったままオレのほうに向き直った。  
白いシーツから京子の胸元が見えそうになって、慌てて顔をそむけた。  
 
「ちげぇぞぉ、馬鹿がぁ!うちのボスさんはどこ…」  
 
と言いかけたとき、京子がオレの髪をぎゅっと握った。  
 
「っ!うお゛お゛おい、はなせぇ!」  
 
なるべく小声で、でも声を荒げるようにオレは言った。  
京子はまだスヤスヤとネオとをたてている。  
 
「ちっ。放せっていってんだろぉ!」  
 
京子の手をとって離させようとしたとき、勢いあまってオレまでベットに倒れこんでしまった。  
ギシリとベットがきしむ音が部屋に響く。  
 
「!!(やべぇぞぉ、こんなとこボスに見つかったら…)」  
 
そんな思いがオレに沸き立って、すぐに京子の上からどこうとした。  
 
が…オレは間近で見た京子の姿に目を奪われることになる。  
 
月明かりに照らされた京子の顔はいつも以上に綺麗に見える。  
整った顔立ち、長いマツゲ、濡れた唇に、所々に赤い跡が残る白い肌(おそらくうちのボスさんのせいだ)  
 
あどけない顔だというのに、その顔から覗かせる表情。  
いつの間にこんなに艶っぽい顔をするようになったんだ。  
少女(ガキ)から女へと。  
 
…………ボスに抱かれるようになってから、か。  
 
ボスが惹かれるわけも分かる気がする。  
一瞬、ほんの一瞬そう思った。  
 
 
そのとき、後ろから静寂をぶち破る声が聞こえた。  
 
「何やってんだ、スクアーロ」  
 
「!!ボ、ボス!」  
「……うるせぇ。音たてんじゃねぇよ、カス。京子が起きちまうだろうが」  
 
そこには素肌の上にいつものジャケットを羽織ったボスが居た。  
オレは慌てて京子の手をはらってベットから降りた。  
 
「ち、ちげぇ。話をきけぇボス!オレはあんたに任務を伝えにきたんだぁ。今日、早朝に…」  
「解ってる。今廊下ですれ違った部下に直接任務を伝えられたからな」  
 
以外にもボスは声を荒げなかった。  
運がわるけりゃ殺されるかと思ってたから正直驚いた。  
 
「用はそれだけだろ?分かったらさっさと出ていけ、ドカスが」  
 
そう言ってボスはベットにギシリと腰掛けて、京子のことを少し目を細めて見つめた。  
 
京子は元々ボンゴレ10代目になると言われている沢田綱吉の女だった。  
とまだ青臭いガキのままごとのような付き合い。  
ボスは奴を苦しめるために京子を連れ込んで無理矢理自分のものにした。  
 
だが、オレから言わせてもらえばボスは京子に所謂一目惚れってやつだった。  
ボスはそれを認めたくなかったらしい。  
「沢田の女、だから無理矢理犯して沢田を苦しめる。そう、これはそんな感情じゃない。」  
そんなことを奴は思っていたはずだ。  
ボスに連れ込まれなきゃ京子には別の幸せな人生が待っていただろう。  
今はもう日本に戻ることすら許されない、捕らわれの身の上なのに。  
 
だが京子も次第にボスに心を許すようになった。  
あんなことをされたというのに。あの女は周りがいうように天使なのかとすら思った。  
オレたちには似合わねぇ。暗殺部隊ヴァリアーに天使だなんて。  
 
「何してんだ。さっさと出ていけ」  
 
ボスはもう一度そう言った。  
オレは何かもどかしい感情を抱きつつ、部屋をあとにした。  
 
「…ん…ザンザス、さん…?」  
「起きちまったか、京子」  
 
スクアーロが部屋から出て行ったあと、京子はうっすらと目をあけた。  
ザンザスはベットのふちに座ったまま、京子の髪をくしゃりと撫でた。  
 
「今……誰か…」  
「いねぇよ。夢でも見てたんだろ」  
 
京子は眠たそうに、もぞもぞと体を少し縮めた。  
 
「お仕事、ですか…?」  
 
相変わらず勘の良い女だと思う。  
 
「……まだあと数時間、時間はある」  
「そっか……じゃあ、それまで…」  
 
側に、居てください。  
 
小声でそう呟くと京子はそのままフッと眠りに落ちた。  
さっきまで無理をさせてたから、疲れて眠かったんだろう。  
 
 
…京子にはもうオレしか頼れるものが居ないのだと思う。  
無理矢理連れてきて、こんなことをしたオレを恨めないのだから。  
 
こんなガキに心奪われる自分が嫌で暗殺の仕事を詰めるようになってから  
京子はオレがミッションに行く前の顔は、いつもと違うと分かるようになったらしい。  
(だがこいつがオレの仕事を理解しているとは思えない)  
 
こんな感情も、大事にしてやりたいと思う人間も、こいつが最初で最後だろう。  
悪かった、とは言えない。……思ってもいない。  
 
 
ザンザスは京子を引き寄せ、壊れ物を扱うように抱きしめた。  
 
 
 
END.  
 

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