「まさか10年前の君に”今の僕”が会えるとは思いもしませんでしたよ」
もう会って既に1時間ほど経つが髑髏の心は落ち着かない
目の前にいる人間が10年後の六道骸だという事実に彼女は戸惑っていた。
まさか、実体を持って初めて会う骸が10年後の姿だとは夢にも思っていなかったのだから。
敵の手から助け出され、彼の言うまま後につづいて彼の部屋に通され(と言ってもホテルなのだが)
シャワーを浴び簡単な食事を済ませて、今に至る。
生憎着替えなど持っていなかった髑髏は、骸から渡されたYシャツを着ている。
足元がスースーする上に大きいそれではワンピース状態なのだが、その格好もまた彼女を
心もとない気分にさせるのだった。
「…ごめんなさい。迷惑かけてばかりで、私…」
何の役にもたてなくて、そう続けようとした彼女の口は止まる。骸が握り締められた小さな彼女の拳を
大きな手で包み込む。
「君が気に病む必要なんてないんですよ…」
そして柔らかくそれを解きほぐす。髑髏の薄紅色のぷっくりとした愛らしい小さな唇が何か言おうとぱくぱくとしているが
声がでてこないらしい。緊張のためか薄っすら朱色に染まり始める頬を認めて骸は少し笑む。
「今のクローム…いえ、10年後も愛らしいけれど、”今の君”もやはり可愛らしいですね」
まさか10年前の君に直に触れられるなんて、と骸は横腹からほっそりとしたウェストからヒップまでの滑らかな
曲線を確かめるようにやさしく撫でた。
「…っ」
驚きに髑髏の体は跳ね体は後退しようとするが、逃げようとする腰は骸の手に後ろから阻まれる。
しかもそこには元々逃げ道などなく、白いテーブルクロスのかかったテーブルが彼女を追い詰めていた。
「あの…」
恥ずかしさに俯いていた髑髏が自分の上に影がかかっていることに気づいたときには既に遅く
間近に彼の顔があった。
「かわいい、僕のクローム」
いつも脳内に響く声よりは幾分か低めのそれに髑髏の体は完全に固まってしまい、それを受け入れることしかできなかった。