「ハル、合格おめでとう。よくやったな」  
 
リボーンの一言と、安いプラスティックのグラスがかち合う音がして、みんなが笑う。  
 
今日はハルの名門私立高校の、合格祝賀会なのだ。  
 
「皆さん、今日はハルのために有難う御座います!  
 嬉しくて泣いちゃいそうです〜!」  
「ホント、ハルちゃんは頭良いよね。スゴイよ!」  
「ありがとうございます、京子ちゃん!」  
「俺たちは公立だからまだ受験終わってし、ハルがうらやましいよ」  
「はひっ、ツナさん、でもハルはツナさんと同じ学校に通ってみたかったです…」  
「お前みてぇな女が四六時中一緒じゃ、10代目が哀れだぜ」  
「隼人、ハルのお祝いなのにそんな風に言うものじゃないわ」  
「ギャアア!姉貴!いたのかよ!」  
 
バタン!!  
 
いつもの倒れる音がして、またみんな笑った。  
 
 
「でも、ハルが通う高校は他県なんだろ?寂しくなるなー」  
「山本さん…そうなんですよね・・・  
 ハルは皆さんと離れるの、すっごく辛いです」  
「ハルちゃん、感謝デーはこれからも一緒に続けようね!」  
「はひ!もちろんです!引越し先で美味しいケーキ屋さん探しますね!」  
 
今日はいつものようにツナの家に集まらず、カラオケボックスに来ている。  
このメンバーが揃うと近所迷惑になるので、防音出来る場所に決めたのだ。  
隅の席で、獄寺がふてくされたようにウーロンハイを呷った。  
 
「獄寺さん、もう気分は大丈夫なんですか?」  
ハルは、一人会話の輪から離れている獄寺におしぼりを手渡した。  
「…ああ、姉貴がリボーンさんと抜けて行ったからな」  
「あんな素敵なお姉さんが苦手だなんて、ホント信じられません」  
「…お前には俺の苦しみは分かんねぇよ」  
 
今、ハルの隣に座るこの姉の存在によってナヨっちくなる獄寺のために、  
何を血迷ったか、医学部を受験して受かった。一発で。  
 
ハル自身、獄寺のこの症状を治すために医者を目指すなんて  
馬鹿げてる、と考えている。  
今までツナばかり追いかけてきて、その側に必ずいる獄寺の方に、  
いつのまにか心が奪われていたことをすんなり認めることが出来ないでいた。  
 
(ハルは、将来マフィアのボスになるツナさんが、危険な目にあって、  
 怪我をした時にお役に立ちたいから、医者を目指すんです!)  
 
中学生がお酒を飲むなんて。  
生真面目なハルは獄寺が煙草を吸う事も良くは思えなかった。  
ハルでなくても、獄寺のヘビースモーカーっぷりには呆れるであろうが。  
 
「未成年なのに、よくお酒頼めましたね」  
「あ?ここの店長は顔見知りなんだよ。だからわざわざ貸切にしといてやった。  
 その代わり店員は休んでるけどな。  
 ま、それでもてめぇなんかにもったいねー合格祝いだ。」  
 
(ヤンキーは義理人情に厚いって本当なんですね・・・)  
意地悪なんだか、照れ隠しの口悪さなのか。  
けれど、ハルはまた胸を締め付けられたような甘い気持ちになった。  
 
「…何ぽーっとしてんだよ、今日は店員いねーんだから、  
 お前が率先して飲み物やつまみ持って来い。」  
「…今日はハルが主役ですよ」  
 
しかし、言っても聞かない獄寺にハルはしぶしぶ動いた。  
 
(獄寺さんは、人使いが荒すぎます・・・)  
 
なんだかんだ言っても、頼られたことについ口元がにやける。  
 
(前言撤回、かな・・・  
獄寺はさんは、「なんかしてあげたくなっちゃう人」なんだ)  
 
こっちにはそのつもりないのに、  
ついつい手出しちゃうハルでした。(口も出すけど)。  
 
「何だよ 、何見てんだよ。」  
「はひっ、あの、獄寺さんって得だなぁと思いまして。」  
「は?」  
「あ、ビールのプルタブ開けられます?開けてあげましょうか?」  
「…てめぇ…」  
「ハールー!抱っこ!このばかよりランボ様のあいてして!」  
「わあ、ランボちゃん危ないですよ、落ち着いて」  
「こっち来んなバカ牛!あっちでガキ同士騒いでろ!」  
「獄寺さん、いたいけなチャイルドはいじめちゃいけませんよ!」  
 
このように和やかなムードの中(?)  
ハルの合格祝賀会は何時間も行われた。  
 
京子ちゃんと山本はまだ試験を残している受験生の身なので、  
名残惜しそうに途中で帰っていった。  
しかしツナと獄寺は最後まで残った。  
ツナも高校進学がかかった受験生であるが、ランボやイーピンが  
どんなに騒いでも暴れても文句も言わず、黙って宴に付き合っていたところを見ると、  
やはりツナも、別れは惜しいらしい。  
 
「それじゃ〜〜〜〜…」  
「お疲れ様でした〜〜〜〜〜…」  
 
明日が休みだというのをいいことに、始発の時間まで騒いでいたハルたちは、  
誰にも見つからない時間を待って、解散することにした。  
 
その取り決めがなされたのは、主役であるハルがグラスを洗っている時で。  
(店員さんもなしで、お店だけ借りてるんですから、立つ鳥後を濁さずってヤツですよ。)  
 
「ランボとイーピンは仕方ないから俺が連れていくよ」  
「えっ、10代目、ハルはどうするんスか?」  
「獄寺くん気づいてないの?案外鈍いんだね・・・」  
「ブロッコリーのおばけだぞー」  
「〜〜〜〜〜!」  
「こら、お前ら行くぞ!」  
「ちょ、待ってください10代目!」  
 
みんな会話がかみ合ってるようなかみ合ってないような、  
世界の自転を程よく身体で感じるような、そんな中。  
 
「…あれ?獄寺さん?」  
「……」  
 
気付けば、カラスしかいないカラオケ屋前には、  
ハルと獄寺だけが残っていたのだった。  
 
意外に几帳面な獄寺は、カラオケルーム内の片付けをしていたようだ。  
 
ガチャン!!  
降りたシャッターに、獄寺が鍵(多分店長から預かったもの)をかけた。  
ハルはそんな獄寺の様子を見ながら物思いに耽った。  
 
---これで終わりなんだなぁって、ぼんやりと何かが思う。  
何が終わりかなんてことは、考えたくないけれど。  
 
この送別会が終わり?それとも。  
 
 
獄寺の目が赤く潤んでるのはお酒の所為なんだろうか、  
それとも、獄寺も別れが寂しいのだろうか。  
 
 
思ったとき、右手に触れた冷気に、全身に鳥肌が立った。  
 
 
「…獄寺さん?」  
「悪ィ、俺酔ったみてー。家まで送れよ。」  
「普通、それって獄寺さんが言うことですか?」  
「…細けぇことは気にすんなよ。」  
 
 
眉を寄せて笑う、その横顔が、あまりに寂しかったから。  
 
 
だから。  
 
 
獄寺、と大理石に彫られた表札から、ものすごい家が見えた。  
 
獄寺さんはえーとこのおぼっちゃまだと、前山本さんが冗談交じりに言っていたけど、  
それって本当だったんだなぁと、門をくぐって思う。  
 
ガラス張りのサンルームの中で、眠っていたグレーの大きな犬は、  
ビクリと飛び起きたけれど、獄寺を確認するとまた眠りについた。  
 
「番犬にもなりゃしねぇな。」  
 
獄寺さんだから、安心されてるんじゃないですか?  
言いたいことはそれだったのに、何故か、  
 
「はひ、獄寺さん小心者ですから…相手にもならないって思われてるのでは?」  
 
口に出たのはそんな悪態で。  
 
(ハルはホントに可愛げないですね・・・)  
と、ハルは自分で自分を冷笑してしまった。  
 
さっきからずっと繋がれたままだった手を「悪ぃ」と言いながらやっと開放してくれて  
(別に繋いでって頼んだ訳じゃないですから、何も悪いことなんてないですよ獄寺さん)  
 
獄寺は鍵を開ける。  
 
さっき降りたハルの心のシャッターが、また少し持ち上がったような気がした。  
 
ふわり、鼻をつくのは獄寺の匂いで。  
 
すれ違う時、シャツから香る、煙草と香水が混ざったニオイ。  
最初はむせ返る程で香る度顔をしかめていた。  
この匂いが今ではごく自然になってしまっていたこと分かり、  
ハルはこの人の側に長く居たんだなって、今更ながら自覚した。  
 
「なんか持ってくる、ちょっと待っとけ。」  
「獄寺さん、ハルは帰…」  
「ここまで来てそれはねーだろ。」  
「…けど」  
「今うち誰もいねーから、・・・もうちょっといろよ」  
 
獄寺の家は両親が海外の仕事で留守なのはいつものことであり、  
最近重大な仕事に取り掛かったとのことらしいが、それに備えて  
今はお手伝いさんも海外にもある家のほうに付きっきりで滞在中だそうだ。  
 
「で、でも、ビアンキさんが帰ってきますよ」  
「姉貴は家にほとんど帰って来ねぇよ。  
 大体姉貴と一緒に暮らせるわけねーだろうが。体がもたねえ」  
「じゃあ、このおっきなお家に獄寺さんは一人なんですね・・・」  
「俺?俺は受験もあったしな、コイツと留守番。」  
 
コイツと呼ばれたさっきの大きな犬が、獄寺さんの後をついて歩いて、  
その姿がなんだかとても可愛かったので、不覚にもハルは安心してしまった。  
 
(獄寺さんは、意外に人を和ませる才能があるかもしれませんね)  
 
「…そうだ、獄寺さん?」  
「何だよ」  
「あの、なんか今更なんですけど、ハイ」  
 
カバンの中から、くしゃくしゃになった紙袋を渡す。  
 
「冥土の土産か?」  
「失礼な、それにその言葉使い方間違ってます。バレンタインのチョコですよ」  
「お前が俺に?」  
「はひ。受験があったんで大分遅くなっちゃいましたけど…この状況じゃ特別みたいに見えちゃいますか?」  
「…特別だと思っちゃ悪ぃのかよ。」  
「は、はひっ?でも、ハルと京子ちゃんから、皆さんへですから、  
 ツナさんと山本さん、リボーンちゃんとランボちゃんにも同じものが渡ってるはずですが」  
「…バカ、てめーがくれっから意味があんだろ。」  
「…今まで聞けませんでしたけど、ハルの好きな人知ってますか?」  
「知ってるも何も、10代目ずっと追っかけてたじゃねーか」  
「はひ、ツナさんは尊敬してます。でも、ハルの気持ちは、途中から  
違う方向に突っ走っちゃたみたいです」  
「…そんで、どこいったんだよ」  
「…教えてあげません」  
「…てめー言うようになったじゃねぇか」  
 
右手でくしゃくしゃの紙袋をもっとくしゃくしゃに握り締めて、  
左手でハルの右手を握りしめて、獄寺はそのまま階段を登り始める。  
何も言わずそのまま扉を開けられたら、その向こうからもっと獄寺のニオイがした。  
そのニオイに、軽い眩暈を覚えていると、もっとダイレクトに近づく、香り。  
 
ウーロン茶みたいな、お酒みたいな、  
(ああ、そういえば獄寺さんはウーロンハイ飲んでたっけ)  
そんなニオイと柔らかい感触を唇で味わって、痛いくらいに抱きしめられて。  
 
「獄寺さ…」  
「可愛くねーこと言うぐれぇなら、黙ってろよ?」  
 
獄寺の皮肉げな、けどやっぱりどこか寂しそうな笑顔に見惚れているうちに、  
ハルのコートが、そのまま床に落ちる音がした。  
 
可愛くねー女だと思ってた。  
いつも文句ばっか言いやがって、10代目を敬うってことをしねぇ。  
なまじ頭がキレて、弁が立つもんだから、ハルに逆らえる男なんかいなかった。  
ハルに敵う男なんかいねーから、安心してた。  
 
安心してたら、中学卒業間近だ。  
 
黒のセーターの下から、象牙みてぇな色した胸が出てきたとき、  
初めて我に返ったような気がした。  
今更、ここまで勢いで持ってきといて確認すんのもアレだけどよ、  
いいのか、聴きそうになった口を、「い」の形になった唇を、塞がれる。  
 
いつの間にか(も何も、自分で脱いだ)肌蹴ていた胸元に、  
ハルの生あったかい胸の感触と、ブラジャーのレースを感じて、  
多分、はずしてもいい合図なんだよな?と勝手に解釈した。  
そっと抱きしめるみてーに両腕を背中に回すと、一瞬 ハルの身体が強張って、  
 
「…悪ぃ…イヤ…か?」  
「はひっ、ちが…冷たくてビックリしただけです…」  
 
思ってたより全然違ぇ、むちゃくちゃ可愛い答えが返ってきたので、  
思わずその両手で一回キツく抱きしめてみた。  
右の頬に ハルの髪を感じながら、たどたどしくフックを外す。  
 
「…ちょっと意外です」  
「何が」  
「獄寺さん、慣れてるのかと思ってました・・・」  
「…悪かったな」  
 
今まで女とこうなることがなかった訳じゃない。  
けれど、その女ってのは、ちょっと訳アリだったり、  
シャマルに無理矢理連れてかれた商売の女だったりで、  
向こうはその気かもしれないが、獄寺はどうしてもそんな気になれないでいた。  
そこまでして女としたいとも思わなかったし、  
そこまでして、ヤりたい女もいなかった。  
 
…けど、何だか。  
 
(何で俺の指はこんなに震えんだよ)  
 
心臓の音が、あまりに早いのが恥ずかしくて、獄寺はそのまま唇で ハルの耳を探す。  
髪の毛ん中から見つけ出したそれを、唇で挟むと、 ハルの身体がまた強張った。  
 
「感じた?」  
 
意地悪く聞くと、 ハルは一瞬頬をかっと染めて、  
 
「…そ、そんなこと聞かないでくださいっ!!」  
 
と、答えた。  
 
(…否定はしない訳だ?)  
 
腹の底からなにかよくわからない感情が溢れてきて、  
めちゃくちゃにしたいと思った。  
 
今の今まで、臆病で何もできないでいた俺なのに。  
 
「加減はしねぇぞ、悪ぃけどまともに女とすんの、これが最初だからな」  
「…はひ、でも比較対照がないですから、どうだかなんてわかんないですよっ…」  
 
は?  
 
「っもう、そんなビックリした顔しないでください!」  
「お前…初めて?」  
「…そうですよ!獄寺さんが変なこと教えたらそれが当たり前だと信じちゃうんですからね!  
 お、女の子にとっては一生忘れないものなんです!」  
 
真っ赤になって、胸を、滑り落ちる下着ごと押さえてるハルが、  
ホント、ホントに可愛いとか思ってしまって。  
 
「…可愛くねぇこと言うぐれーなら黙ってろって、言っただろ…?」  
 
震える指で何カッコつけてんだか、って我ながら思う。  
 
「………。」  
「凝視したまま、沈黙、しないでください…」  
「いや、お前ホント、綺麗だな…」  
 
思わず口をついた素直な言葉に、バッと視線を胸から ハルの顔へと上げると、  
ハルもビックリしたように目を丸くしながら、  
 
「はひぃ、な、何言い出すんですか…!!」  
 
と、また胸を隠されてしまった。  
 
何色というのか分からないけれど、ピンクみたいな、オレンジみたいな、  
綺麗な色にそまったその胸の頂を、もう一回見たくて、腕を取り払う。  
 
は?  
 
「っもう、そんなビックリした顔しないでください!」  
「お前…初めて?」  
「…そうですよ!獄寺さんが変なこと教えたらそれが当たり前だと信じちゃうんですからね!  
 お、女の子にとっては一生忘れないものなんです!」  
 
真っ赤になって、胸を、滑り落ちる下着ごと押さえてるハルが、  
ホント、ホントに可愛いとか思ってしまって。  
 
「…可愛くねぇこと言うぐれーなら黙ってろって、言っただろ…?」  
 
震える指で何カッコつけてんだか、って我ながら思う。  
 
「………。」  
「凝視したまま、沈黙、しないでください…」  
「いや、お前ホント、綺麗だな…」  
 
思わず口をついた素直な言葉に、バッと視線を胸から ハルの顔へと上げると、  
ハルもビックリしたように目を丸くしながら、  
 
「はひぃ、な、何言い出すんですか…!!」  
 
と、また胸を隠されてしまった。  
 
何色というのか分からないけれど、ピンクみたいな、オレンジみたいな、  
綺麗な色にそまったその胸の頂を、もう一回見たくて、腕を取り払う。  
 
「ちょ、やです…そんなに見ないでくださいってば!」  
「見てぇんだよ」  
 
ペロリ、下から上へ舐め上げると、舌に適度にかかった重力の反動の所為で、  
ハルの胸が少しだけ揺れる。  
それが、なんかすげー官能的。  
 
「…へへっ」  
「…オジサンじゃないですかそれ…」  
 
獄寺は嬉しくて、何度もその下から上への行為を繰り返す。  
けれども頂点は避け、わざとその周囲だけを狙う。  
その舌の動きを、少しずつずらし、舐め上げる舌が、 ハルの乳首の外側に移った頃、  
ハルの身体が一度、目に見えるくらい跳ねた。  
 
「…ぁ…!!」  
「…へ、ポイント一個見ーっけ」  
「…は、ぁ…」  
 
力がなくなった ハルの身体を、舌で押し戻すように、  
やっと乳首の頂点に舌先で触れてやると、さっきとは違った手ごたえで ハルが反応してくる。  
右胸にも同じことをしてみるが、どうやら左の方が感度はいいらしい。  
舌にダイレクトで通じてくる、心臓のリズムが脈動になって、  
獄寺の血液も同じリズムを刻み始める。  
それが、一点に集中するのも、分かっていた。  
 
ふと、 ハルの指がそっと獄寺のそこに触れる。  
 
多分負けず嫌いなハルのことだから、  
獄寺の成すがままになってるのが不愉快でそうした行為なんだろう。  
予期してなかった感覚なだけに、獄寺も素直に反応してしまった。、  
 
「は……!!」  
 
短く甘い悲鳴を吐き出すとハルはまたビックリしたようにこちらを向いて、  
 
「…獄寺さん、これ、気持ちいい…?」  
 
甘えるような声で、  
トランクスの上から優しく撫で上げては下ろすを繰り返した。  
 
「…やべぇ」  
獄寺の先端からは、もうみっともないくらい先走りが垂れてきてて、  
器用に足を使って獄寺は下着をひき下ろすと、  
獄寺は半身を起こすように、斜めに座り、その上に ハルを跨がせる。  
空いた手で、 ハルの下着を脱がそうとする。  
獄寺はそれよりも、気持ちが焦って、早くハル中入りたくて、  
足を開かせると、そのまま薄い細い布地を横へずらし、  
適度な湿度を指で確認すると、自分の腰をあてがう。  
 
指よりも先に、何よりも先に、  
 
ハルの中に入るのは、俺自身でありたいと願った。  
 
「…痛かったら言えよ」  
「…はひ」  
「我慢だけはすんなよ」  
「…分かりました」  
「握ってろ」  
 
左手を、 ハルの右手に預ける。  
多分今から傷だらけにされるであろうそれは、既に恐怖のためか白くなるくらいまで握り締められた。  
 
「…いくぞ」  
 
頷いた ハルを合図に、少しずつ腰を進めると、予想通り、硬直した入り口の難関。  
 
「…お前ね、分かるけどもうちょっと力抜けって」  
「…んっ、…そんなこと言ったって、」  
「しゃーねーな」  
 
さっき見つけたポイントを、舌で転がし始めると、  
ハルの上半身が一瞬かくんと下がった。  
ベッドのスプリングを反動にして、腰を進める。  
とりあえずなんとか先が収まった地点で、膝立ち状態の ハルを見上げると、  
うっすらと涙を浮かべた状態で訴えてきた。  
 
「…獄寺さん、痛い…。」  
「早ぇよ。さっきの撤回、痛くて無理そうだったら言え」  
 
眉間に力を込めて、きゅっとめを瞑る ハル。  
ハルの中でも、覚悟が出来たらしい。  
数ミリずつの進軍を再開すると、 ハルのパイプラインは何度も押し戻しを繰り返す。  
下唇を噛んだ ハル、弱音は吐かねぇけど、そのパイプラインが、  
主の苦痛を絶叫を代弁してるみたいに締め付けてきて。  
 
「いったぁい・・・です・・・」  
「…悪ィ、俺の方は良すぎてたまんねぇ…」  
「は、ひ・・もう…全部…入りました…?」  
「…そんなに小さくねぇよ」どのくらいの時間が必要だったんだろうか。  
 
やっと ハルの中に全部飲み込まれた時は、もうハルも 獄寺も汗びっしょりで、  
 
「…こんなの…一生…したくないです…」  
 
それでもまだ強がりを言う ハルを、  
獄寺は言えないぐらいに痛めつけてやりたかった。  
けれどなけなしの理性で押しとどめる。  
 
「せっかく挿れたのにアレだけどよ…一回抜くぜ?」  
「…や…どうし…て…ですか」  
「…挿れたはいいけど、この体勢じゃ動くモンも動きにくいだろ」  
「…いやぁ…」  
 
恐怖を訴えるハルから、勢いをつけて抜き取る。  
そのキツイ締め付けに、それだけでイってしまいそうな快感を覚えて。  
 
「…くっ…」  
 
思わず漏れた快楽にハルは優しく微笑んだ。  
 
「…やだ、獄寺さん…かわいいです…」  
「っせぇ…」  
 
そのままベッドに横たえると、今度は正常位で貫こうと試みる。  
もっと拒否されるかと思ったのに、今度は殊の外、すんなりと受け入れられた。  
 
「…んっ!!」  
 
それでも苦しそうなのに変わりはないが、  
多分さっき獄寺が引き抜いた時にくっついてきた、ハルの液が、  
獄寺のことを受け入れているのだろうと分かった時、  
さっきとは違う締め付けが、獄寺を襲って。  
 
「……!」  
 
根元から先端へ、流れるように持っていかれる快感に、  
思わず目を細めると、ハルは勝ち誇ったように笑う。  
そんな辛そうな顔してるくせに。  
 
「…獄寺さん、気持ちいいんですか?」  
「…余裕じゃねぇか…」  
 
この期に及んで、まだ軽口を叩き合う二人は、  
思ってるよりもずっといい関係なのかもしれない。  
けど逆に、本当に手に入れたのか、そうでないのか、  
繋がったままでも、やっぱり獄寺はハルのことが分からなくて。  
好きだと言った訳でもない。  
言われた訳でもない。  
けれど、獄寺の心はこんなにもハルを求めている。  
繋がったまま哲学する獄寺を、  
自分が慣れるまで待っててくれてるのだと感じたのか、ハルは、  
 
「獄寺さん…ハルは…大丈夫ですから…」  
 
顔の横に置かれた獄寺の指に、そっと口付ける。  
 
「痛かったら右手上げます」  
「歯医者かよ」  
 
その口付けられた人差し指で、頬をなぞってやると、  
ハルは猫のように一度目を細めて、幸せそうな顔をした。  
 
「…後じゃ余裕ねぇかもしんねぇから、今、言っとく」  
「…はひ」  
「俺、お前のこと好きだったぞ」  
「…なんで過去形なんですか〜…」  
 
ふふふ、鼻で笑って、ハルは顔を正面に戻した。視線が交錯する。  
 
「ハルもでした」  
 
そんな声を、どこで聞いたかは覚えていない。  
そこから先、獄寺は腰を動かしまくっただけで。  
ハルの身体が痛みで悲鳴を上げても、  
その悲鳴を小さな呼吸に代えて吐き出す様子を、  
どこまでもどこまでも愛しいと思った。  
どうして、もっと早く思いを告げなかったのか。  
 
(まったく、俺ってヤツは。時間を無駄に使う天才だよな)  
 
「… ハル、イくぞ…」  
「…ん…イイ…ですよ…!」  
 
空が落ちてくるみたいな錯覚を覚えた時、獄寺は、  
ハルを。今日のハルを。  
一生忘れないように、どこまでも息を吸い込んだ。  
吸い込んだ息が、熱になって、獄寺自身の先端から白い液になって、散った。  
 
「…ヒリヒリします」  
 
一瞬とも何時間ともつかないブランクの後、獄寺の横で ハルが唇を尖らせて言う。  
 
「…ワリィ」  
 
さっきから、獄寺はこればっかりだ。  
 
「あは、まだ…獄寺さんが中にいるみたいです」  
「変な感想やめろよな…!」  
 
変ですかぁ?と笑ってハルが身体を捩る、くるり、獄寺の方を向いたその引力で  
胸と胸の間にはタテ線は一本できていて、ごくり、獄寺は生唾を飲み込んだ。  
ハルは、そのまま獄寺の鎖骨のちょっと下あたりに唇を寄せる、そして。  
 
「ハルは、獄寺さんの匂い好きなんです…」  
 
また、変な感想を述べた。  
 
「獄寺さんの匂いだけは判別できるんですよ」  
「犬みてーな奴…」  
「はひ、いいじゃないですか、犬、好きですよね?」  
「いや、好きだけどよ…」  
「獄寺さんの匂いだけは、一生忘れないです」  
 
忘れられない責任はとってくれますか?と、  
獄寺の都合のいい脳が変換した。  
俺もお前の匂い結構好きだったりして、  
と。  
抱きしめた身体が放つ、甘い、果物みたいな匂いに背中を押された。  
 
 
 
 

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