「失礼します・・・。」
いつものように情事が終わり、京子をベッドに寝かせ、一人酒を煽っていた時だった。
遠慮がちにドアを叩く音が聞こえ、入室を許可すると幹部の一人、ルッスーリアが入ってきた。
「・・どうした。」
「ボス、緊急の連絡が入ったの・・・・」
「・・・・内容は。」
「・・・10代目沢田綱吉とその守護者が今日此方に来るそうよ・・・」
「ようやく来た・・か。」
「どうするのボス、京子は「黙れ。」
「・・・京子が起きる。」
「・・・・ごめんなさい。」
「来訪目的は?」
「・・表向きは本部の視察ってなってるけど・・」
「ヴァリアー本部にも来ることには、なっているのか?」
「・・・多分来ると思うわ。」
「・・・・そうか、下がっていいぞ。」
「・・・ボス、どうするつもりで?」
「あの小僧の面見てから決める。」
来訪目的は『笹川京子の奪還』だろう。
恋人が行方をくらましたにも関わらず、俺のところに来るまでどんだけ時間かけてんだ。
本気で京子を愛してるって言うなら、掻っ攫ってみせろ。10代目。
++
「失礼します、ボス。」
「あぁ、今行く。」
その日の午後、沢田綱吉とリボーン、そして守護者がヴァリアー本部へとやってきた。
「ザンザスさん?」
「・・・この部屋から出るな。」
「・・・・。」
不思議そうな表情を浮かべる京子の頭に手を置きながら、そう伝えた。
沢田綱吉来訪の一切をまだ伝えてはいない。
「・・・待たせたな、10代目。」
「はは、ザンザスにそう言われると嫌味に聞こえるよ。・・・・久しぶり。」
客間の扉を開けると、そこにはソファーに座った沢田綱吉しかいなかった。
「みんなは車で待たせてある。ここには10代目としてじゃなくて、沢田綱吉としての用があったから。」
俺の考えを読んだのか、俺が話し始める前に笑顔でキッパリと言い放った。
「じゃあ綱吉、お前は何故ここに来た。」
「なんだ、知ってるくせに。京子ちゃんを連れ戻しにきたんだよ。」
「それにしても随分余裕じゃねぇか。ここを何処だと思ってる?そして俺を誰だと思っている。」
「特別暗殺部隊ヴァリアー本部で、ザンザスはそこのボス。あぁ、もしかして『京子が無事だとでも思ってんのか。』って思ってる?残念ながら、その可能性は極めて低いと俺は思ってる。」
笑顔を崩さず喋るこの男。
(人間かわるもんだな・・・)
初めて会ったときは俺を見て腰抜かしていた奴が、今では大事な女を守るため、ここまで変貌した。
「・・・・お前はどうしたい。」
「俺はお優しいジャッポネーゼだからね。平和的に解決したいな。今すぐここへ京子ちゃんを連れてきてくれるなら、それでお終い。」
「拒否したら?」
「俺をはじめ、守護者が力づくで奪いかえします。」
その瞬間、こいつの俺の覚悟の差を見せ付けられた気がした。
「・・・・綱吉。」
「なんですか?」
「京子の処女は俺が奪った。」
「・・・・」
「薬で眠らせ、ここまでつれて来た。俺の寝室に全裸で手足を拘束した。起きて一番最初にお前の名を呼んだ。
黙らせるために一発顔を殴りつけた。そしたら、唇をかみ締めて涙目で俺を睨み付けてきた。だから俺はアイツの胸に歯をたて、秘部に指を挿し、声を上げれないように唇を寄せた。
それでも口から息と共に漏れるはお前の名だった。お前の名を呼ぶ度、俺は何度も絶頂へと導いてやった。」
綱吉の顔から次第に笑顔が消えていく。
それでも俺は、どうしても聞かなければいけない。
「・・・それでも、お前はアイツを変わらず愛せるのか?」
この時、もしかしたら声が震えていたかもしれない。
(何故かは知らない。)
「俺は純粋な京子ちゃんが好きとかじゃなくて、ただ単純に京子ちゃんの笑顔が好きなんです。京子ちゃんには幸せでいてほしいんです。・・どんな京子ちゃんが、じゃなくて京子ちゃんが好き・・・いや、愛してる。」
「ボス・・・」
扉を開けるとすぐにルッスーリアが近寄ってきた。
「京子に身支度させて客間に連れて行け。で、あいつらには京子を連れて直ぐ帰るよう伝えろ。」
「ボス?!」
「命令だ。」
そのまま一度も立ち止まることなく俺は執務室へと向かった。
(元々、綱吉を苦しめるためだけの存在だった。)
(効果はそれなりにあっだろう。)
(だからもういいんだ。)
(京子は俺の元に居るべき人間じゃない。)
(あいつは綱吉と共に生きるべきだ。)
(俺じゃない)
(本来、関わり合いのない人間だったんだ。)
(俺が無理やり関係を作った。)
(関係が欲しかった)
バタンっ
執務室に入り、扉を勢いよく閉め扉に寄りかかった。
「俺は京子が、」
1時間以上経っただろうか。俺は扉に寄りかかりながら座って、窓から見える大空を見ていた。
思わず笑みが零れた。
ヴァリアーのボスが聞いて呆れる。
今だったら、誰でも俺を殺そうと思えば殺せるだろう。
それほどまでに京子の存在は俺の中で大きくなっていた。
でも、もう会うことはないだろう。
コンコン
不意に、背中に小さな振動を感じた。誰かが扉を叩いている。
「誰だ。」
「・・・・私です。」
幻聴かと思った。
「京子です。・・・入ってもいいですか?」
「何故ここへ来た?綱吉に会ったんだろう?早く帰れ、目障りだ。」
「・・ツナ君たちは帰りました。」
「どういうことだ?」
「私、ツナ君と一緒に帰れないと言ってきました。それを了承してくれて、」
「俺が知りたいのは何故お前がいるかだ。」
「・・・ここにいたいから、じゃ理由になりませんか?」
頭が混乱してきた。この扉の向こうにいるのは本物の京子か?
ここにいたい?強姦まがいな行為をしてきた俺がいるココに?
「最初は、ツナ君が迎えに来てくれるのを待ってた。そしたら本当に迎えに来てくれて・・嬉しかった。」
「・・・・・」
「でも、帰れるんだって思ったらザンザスさんのこと考えてて、ザンザスさんと離れちゃうんだって思ったら苦しくて・・。」
「・・・・・・」
「それで・・・・あぁ、私ザンザスさんが好きなんだって気づいたんです。」
「・・・・・」
「もし私の存在が邪魔ならここを出て行きます。もしここにおいてくれるというなら、召使いとして雇ってくれても構いません。」
「ここに・・・いたいんです。」
気づいたら、俺は扉を開けて京子を抱きしめていた。
「俺が今までお前に何をしてきたか分かってるのか?」
「はい。最初はやっぱり怖かったけど、でもだんだんザンザスさんの優しさが分かって怖くはなくなりました。」
俺が京子の肩に顔をうずめ力任せに抱きしめると、京子はその細い両腕を俺の背中に回してきた。
「帰らなくて良かったのか?」
「はい、って言ったら嘘になりますけど・・・。でも帰るより、ここにいたいって思ったんです。」
京子が微笑んでいるような気がした。
「・・・俺の傍でいいのか?」
「ザンザスさんの傍にいたいんです。」
俺は白昼夢をみているのか?じゃなきゃ、こんなことはあり得ない。
「私はザンザスさんといたいんです。ザンザスさんが好きだから。」
夢でもいい。だからどうか覚めないように。
「京子。」
「はい?」
今だけはこんな俺でも夢を見続けることを赦してほしい。
「・・・・・愛してる。」
夢じゃなかったら、きっと伝えることが出来なかっただろうから。
(了)