雇い主と殺し屋。
男と女。
抱く側と抱いて貰う側。
そこに恋愛感情は存在しない。
骸ちゃんと私はそんな関係だった。
今夜、久しぶりに骸の部屋の扉を叩く。沈黙が続き、もう寝てしまったのかと諦めかけたその時、「どうぞ」と声がした。そっと扉を開いて中を覗くと、骸はベッドの脇に腰をかけていた。
もしかすると、私が来ることを予想していたのかもしれない。骸はそういう男だ。
知らないふりして何もかも知っている。気付いていないふりをして、嘘に隠した本音に気付いているだろう。
「おや…黒曜の制服はどうしましたか?」
「あんなだっさい服着るわけないでしょ。仕事は終わったんだし」
「そうですか…残念です。MMに似合っていたのですけどね、可愛くて」
まったく、心にもないことを言う。
骸は私に関心などない。私はただの都合のいい道具。それどころか任務をしくじった役立たずなのだ。
彼が信じ、真に必要としているのは、彼を慕う人間だけ。犬と千種。
金で雇われただけの私とは違う。
「骸ちゃん…あの」
「来なさいMM」
続く言葉を遮られ、招かれる。言わせてもくれないのか。
私はいつになく重い足取りで彼の元へ向かった。傍へと寄った途端、腕を掴まれ、ベッドへ押し倒された。
「きゃっ…何…」
「僕に抱いてほしくて来たのでしょう?」
「ま…まぁそうなんだけど…」
結論を言えばそうだ。しかし言いたかったことではない。
今回の仕事で手に入ったお金で買った新しい洋服に、私に覆い被さった骸の手が伸びた。大きなリボンが胸部についたホワイトのニット。お気に入りのものだから汚さないでほしい。
ゆっくりと裾を捲り上げる手付きが焦れったく、上着を自ら脱ぎ捨てた。せっかちだと思ったのか微笑した後、黒いブラジャーのフロントホックを外した。
「あっ‥」
二つの乳房が露になる。骸の手がそれに触れ、やんわりと揉み始めた。
手慣れた動きは素早く確実に快感を導き出す。骸のテクは絶妙だ。どこで身に付けてきたのかしら。女、いや、人の扱い方を。
「あん…ああっ」
指先が乳頭をぐりぐりと捏ねた。敏感になったそればかりを摘んだり弾いたりして、執拗に攻める。ぴりぴりとした快感が駆け巡る。
「はぁっ…骸ちゃんっ…」
「どうですか、ここは?」
「良いわ…!もっと…っ」
紅潮する肌を見て気付いているくせに。
骸の舌先が乳首に這った。生暖かい感触に身を震わせると、突起を甘噛みされて大きく声が漏れた。
「ひゃ…っ」
胸を弄りながら、空いた手がスカートの中へ伸びる。付根から伝って、そこへ触れた。
ちゅくっ…
聞えてきた音は自分が既に感じていることを示している。骸の指が布越しに割れ目をなぞっただけなのに、もうこんなにも。湿ったパンティが張り付いて、上に重ねたストッキングまで濡れてしまい酷く不快だった。柔らかく触れる感触がもどかしい。
「あっ、あんッ…」
早くそれを取って。直接触れて。触って。弄って。
言いたくなる衝動を堪える。その代わりに、骸の制服の袖をぎゅっと握った。精一杯のおねだり。
骸は「クフフ」と独特の笑いをこぼし、下着を腰からずり下ろした。同時にビッと布が裂ける音がする。下ろす時に爪を食い込ませてしまってストッキングが伝線してしまったみたい。あとで代金請求しなきゃいけないとぼんやり考えた。
「ひゃんっ・・・!」
「もうこんなにびちょびちょにしてるんですか」
「っ…うるっさいわね…」
彼の言うとおり、アソコからは蜜が止め処なく溢れていた。ぬるっとしたそれは滑らかに骸の指を内部へと導く。ヒクつく膣は簡単に三本の指を銜えた。
まるで私が淫乱な子みたいじゃない。こんなになるのは、骸が相手だから。骸ちゃんが、私に触れているからよ。
膣内を指が蠢く。壁を圧す指は確実に感じるスポットを狙ってきた。押し広げられた入り口から更に零れる愛液が、シーツに染みを作った。
「あっ、ぁっ、ふ…」
「可愛いですよMM」
下半身への攻めで翻弄しながら、乳房への愛撫も忘れない。どちらも突くのは私の快楽。抑えきれない声、反れる背と自然に揺れる腰。
「あ…ああぁ…っ」
指先で導かれる絶頂にイってしまった。脱力を感じ荒くなった呼吸を整える。
骸はぐったりする体を休ませてはくれない。腟から指を抜くと、ベタベタと絡み付いた粘液を口元へと持ってきた。
「舐めなさい…」
「ん…んっ!」
自分の愛液なんか口に含みたいとは思わない。しかし恍惚に包まれた今は、それをすることに抵抗を感じなかった。
骸の指を夢中で咥えた。彼の手は綺麗だと思う。とても殺しをするようなそれに思えない。
「ふっ…んんっ」
「まだ物欲しそうにしていますね。上の口も、こちらも」
「あぁっ!」
膝を抱えられ、足を大きく持ち上げられると、秘部に骸の猛りを押し当てられた。先が掠めただけなのに、私の中は熱く脈動する。
「あっ!骸ちゃ…キて…早く…っ」
「せっかちですね」
いつまでたっても触れているだけの状態に痺れを切らし、期待に疼いた股間を擦り付けるように腰を揺らす。
「もうっ…焦らさないでよぉ…!」
水音を鳴らして先端が挿入されたと思うと、一気に熱い肉棒が躰を貫いた。
「あぁあっ!骸ちゃ…あんっ…」
欲していたものを与えられ快感が襲ってくる。焦らしていた時とは対照的に、先端まで腰を引き、激しく奥へと腰を打ち付けた。
伸ばした両腕と、抱えられた片足を骸の背に回す。もっと骸を感じていたくて必死にしがみ付く。
「ふっ、あぁっ!あッ…」
「く…いいですよMM。もっと締め付けてください」
「あっ…骸ちゃんっ・・はぁっ」
ペニスが膣壁を擦って快楽を誘った。荒々しいピストンに乱される。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴り響いた。自分の喘ぐ声も抑えきれず大きくなっていた。何度も繰り返し、繰り返し、熱いものが体を駆け巡る。
「ああっ、あんっ…!」
「っ…そうです、もっと…」
耳元で囁かれる骸の声が、更に情欲を掻き立てる。自らも腰を動かし甘い刺激を貪った。
唾液も、涙も、汗も、体液も絡み合って混ざり合う。何もかもが麻痺してしまう、そんな感覚が襲ってくる。
「んんっ!あぁっ、ぁッ」
「MM…」
「骸ちゃんっ…あぅっ…」
私は骸ちゃんの存在を脳に刻もうと、眸をきつく閉じた。
限界が近いのか早く激しい貫き。ビクビクと揺れ、それを引き抜こうと…。
「っ、骸ちゃ…待って!お願いっ…中に!中に出してっ」
「…わかりました」
「ひぁあっ、あっ、ぁあぁあああっ!」
「MM…っ!」
要望通り抜かずに奥まで押し込んだペニスから、どくどくと熱い精液が胎内に流れる。
達した体が気だるい中、その感触の余韻を噛み締めた。
最後のおねだりだった。
私たちの関係に甘い後戯など必要ない。
身支度をしている間、骸は黙ってこちらを見つめいていた。
「…じゃ、骸ちゃん。私帰るわね」
勿論部屋へ帰るといった意味ではない。
私がここに来た理由も、この言葉の意味も骸は察しているはずだ。
仕事は終わり、最早用などない。まとめた荷物を持って、骸の元から去るつもりでいることを。
「そうですか」
淡々とした喋りの中に彼の優しい情が篭っているように感じ、骸への想いが溢れそうになった。
それを隠そうと捨て台詞を吐いて、背を向ける。
「こ…今回は失態を晒しちゃったけどね、私はこんなもんじゃないわ!だから、今度はもっと高額で私を雇いなさいよ?」
「クフフフ…期待していますよ」
背後から聞こえた笑い声。やっぱりこの人は何もかも見通しているんだわ。
-了-