『犬…千種……骸様…!お願い…一人にしないで…!』
『うっせーの!おまえあの男が好きなんらろ!?一緒にいればいいんだびょん!』
『違うよ…私、あの人知らない…!』
『知らない人でもああいう事されるの好きなんだろ?いいじゃないか、僕らはあんなめんどいことしてやらないしさ…』
『…!だって…無理矢理…私だって…嫌だった…』
『クフフ、それにしては貴女随分といやらしい声を上げていたじゃないですか?』
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「………むく……ろ……様…!」
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『君にはがっかりだよ』
『お前、変ら臭いがプンプンするぞ、よってくんら!!行こーぜ柿ピー!!』
『…本当に…失望しましたよ、クローム』
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「……ーム………クローム……!」
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『待って………!みんな……お願い………一人にしないで……!』
『一人、だと?言ったはずだぞ、お前の飼い主は私だ…一人ではない、主人がいるのだ…さぁもう一度喘いで見せろ…!!』
『…っ!やだっ、放して…!いや、いやぁぁぁっ!!!』
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「助け……て…!骸…様ぁ…!!」
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「クローム…!!」
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「………!」
誰かに頬を撫でられるような感触に目が覚めた。涙で世界は滲んだまま…ただ床の冷たい感触、カビと埃、交情後の特有臭いが自分があの場所にいると教えてくれる。
(ここは……やっぱり夢じゃ…ないん…だ……骸様も……あの人は……)
下腹部に疼く熱のせいか立ち上がることもできない。最後に気を遣って意識を無くしてから時間がたってないのか、犯された菊花はまだ自分の意志とは関係なく蠕動を繰り返していた。
「!!……ゃ…んっ………」
その卑猥な感覚に小さな嬌声が零れた。汚された身体、穢されてしまったあの人への思い…身も心も全て捧げていたはずなのに。
薄れていく意識の中で見た小さな世界でも同じ様に、大好きだったみんなに見放され…代わりに見知らぬ男に身体を蹂躙された。
(骸様……みんな………そうだよね……私なんか…もう……要らない…よね……)
「……っく……ひっく……!」
昔に味わった孤独の寂しさ…再び一人だけの世界に放り出され、涙が頬を伝う。今までの楽しかった思い出が涙と一緒に流れてしまうようだった。
涙が床に落ちる度に、一粒零れる度に思い出が零れて…それすらも夢の中の物だったと思える程に…一人だけの世界は余りにも暗く深くて、冷たかった。
「やだ……やだよぉ………!みんな……おねがい…だから……!」
(独りにしないで……)
埃まみれの床に身体を預ける。冷たい石床と、暖かい自分の身体…それはあの人が命をくれたから。
頬を伝う暖かい涙と、穢され捨てられて冷たくなった心…それは見知らぬ男に身体を汚されたから。
「ぅ…っ…ひくっ……!!…ぁ…っ!」
体を動かした瞬間、ドロリと菊花から何かが零れる。熱いそれは男女の情事の証…望まぬ楔を何度も打ち込まれ、白く熱い欲望を身体に放たれた。
下着に手を入れそれを確認すると、欲望の残滓が細い指に絡み付いてくる。
(………もう……私………)
「……あっ…!ぁ…んぁ…!はぁ…っ!ん……!」
部屋に水音が響き始める。身体を動かす度に衣擦れの音がそれに重なった。
左手で服の中の双蕾を弄びながら、もう一方の手は菊花を慰める。
(…私…何やってるの………?……でも……もう…独り…だから………)
衝動的に始まった自慰に理性が一瞬歯止めをかけた。それでも本能に突き動かされるようなアナルオナニーに知らず嬌声が漏れる。
「ゃ…やん!ぁ、あっ…!!はぁっ…!ぁ…ひぁ……ふぁ!」
独りの寂しさを、欠けた心を埋めるような自慰行為…心を満たす愛を知らない少女は、身体を満たす行為に耽ることでその不足分を補うように快感を貪っていた。
触って欲しい、そして誰かに愛して欲しい…心の底のささやかな願いさえも偽って、身体への欲求が先行するのみ、それがますます自慰行為に拍車をかけた。孤独は受け入れたつもり…でもそれ自体が、その行為が心に飢餓感をもたらしているとは知らずに…
「はぁ…!!あぁっ…!も、もぅ…イく…!イっちゃうぅ…!!ぁ…ああぁっ!!!」
快感が全身を支配した。あまりにも単調な、呆気ない絶頂。それでも身体はその悦びに浸るように身を震わせる。
「はぁ…っぁ…!…ぁ…」
気を遣った後のすべてが遠ざかるような感覚の中で、自分の喘ぎ声だけが鮮明に聞こえている。衝動に駆られたとは言え、どれだけ自分を弄んでも、慰めてみても…満たされない願望に虚しさは募るばかりで、孤独を受け入れたはずの自分の瞳からは再び涙が零れ落ちる。
(こんなこと…しても……誰も…!)
「…いや……独りに……なりたくない…!」
とめどなく溢れる涙と感情に身体が崩れて無くなってしまいそうだった。いっそのこと痛みも悲しみもこの穢れた身体も全て崩れてしまえばいいのに…
いつの間にか目覚めていた人に愛されたいという気持ち、それすらも崩れて無くなればこんなに独りが辛くなど無かったはず…
泣き疲れ、微睡みに再び意識を沈めようとしたときだった。
「……?」
フワリと髪を撫でられた感触に無意識に思考が働いた。
(誰の手…?…あの男の人……?……誰でも…いいから……私に……)
「…怖い夢でも見ていたのですか…?」
「……!!」
聞き覚えのある声に瞳を開く。涙に濡れた瞳にぼやけて映る姿、髪をなでる温かい手…
夢の中でしか会っていなかったとしても感じる全てが彼だと教えてくれた。
「…クローム…」
髪を撫でていた手が頬に触れた。暖かい彼の手…其処から伝わる温もりが涙を零れさせた。
悲しい涙ではない、嬉しくて流れる涙…零れる度に伝えたい言葉が一緒に溢れてしまうけれど、これだけは…
「…骸…さま…!」
大好きな人の名前、それだけ…それだけは自分の口から言いたかったから。
「すいませんでした…遅くなってしまって…」
「!!……ぁ…」
骸の腕がクロームの身体を抱きしめた。細く壊れてしまいそうな身体、透き通るような白い肌…彼女の全てを慈しむように抱擁する。
「僕は君が…穢されていくのを見ていることしかできませんでした…」
「……むくろ…様…?」
「何度も何度も……僕の名前を呼んでくれたのに…本当に……!」
「でも……骸様…それは…」
「君はいつも…!」
骸様が悪い訳じゃない…その後の言葉を遮るように抱きしめる腕の力が強くなる。
「君はいつも強くあろうとする……どれだけ傷ついても…穢されても…」
「……!」
その言葉にトクン、と鼓動が高鳴った。無理矢理犯され、望まぬ快感を与えられて…淫らな記憶が甦ってくる。
「本当は……誰よりも壊れやすくて…寂しがりだというのに…」
再び鼓動が高鳴った。独りが嫌で泣き崩れて…挙げ句それを埋めるために自慰までしてしまった。
骸への想いとは反する全てが、クロームを責め立てていた。
「骸…様…わたし……」
「甘えてください…」
「…!!」
その言葉に目を丸くする。抱き締めていた腕が解かれ、正面から向き合う形となり視線が重なった。
「骸様…」
骸の瞳…それは今までに感じたことのない暖かさを放っていた。不適な笑みを浮かべているいつもの彼とは違う…優しさに満ちた瞳だった。
ただその暖かさが逆に辛かった。穢れているのに、骸の前でさえ本当の気持ちを偽っている自分を気遣ってくれている…それが辛かった。
「でも…私っ…!」
「僕の前くらい…いえ、今だけでもいい…君の背負っている物は全て捨てて…女の子に戻ってください」
「…!!」
「弱くてもいい…君は独りじゃないのですから、クローム…いえ、凪…」
(な…ぎ…私の名前…)
再び身体を抱き締められ、二つの身体が密着した。震える手を骸の背中に回し、キュウと力を込める。
独りじゃないから…その言葉を確かめるように骸の身体に身を預ける。
クローム髑髏を名乗ったときに骸の為に生きようと、強くなろうと思っていたのに。凪…忘れていた昔の名前、きっとそれは弱さと一緒になくした筈…それを呼ばれたとたんに何度目かも解らない涙が溢れてきた。
「骸…さま…!!むくろ…さまぁ………!!」
穢れた身体を抱いてくれる優しい腕、傷ついた心を癒してくれる瞳…全てが暖かで愛おしくて…止めどなく溢れる涙が嫌なこともすべて流してくれそうな気がした。だからもう少しだけこのままで…胸元で涙を流す凪の髪を再び骸の手が撫で上げた。
「ぁ…や、ぁ…っ!」
「凪…?」
突然、胸元で泣いていた凪が嬌声を上げた。上気した顔で太股を擦りながら何かに耐えるような仕草…骸の手が凪の下半身へと伸びていく。
「ぁ…ダメ…骸様…!」
反射的に異変のある場所へ手を遣ってしまい、結果としてその場所を教えてしまうことになってしまった。先程弄んだ菊花、まだあの男の精が残っていたのか、残滓が再び零れてしまったのだった。
「此処ですか…?」
「やめ…ぁん…っ…!」
下着に入り込んだ手がそれを掬い取り、その感触に凪は小さく喘ぎ声を上げる。
「……」
指先の白濁を見つめる骸の顔が小さく歪んだ。それを見つめていた凪の表情が曇っていく。
(骸様……見られたく…なかった…)
たまらず胸の中で再び泣き出しそうな凪の身体を力強く抱き締めた。
「本当に…凪…君には……!」
小さく静かに、その声には自責の念を感じる程に…凪の耳にははっきりと聞こえていた。骸が自分を気遣ってくれている。
大好きな人にそんな感情を抱いて貰うのは嬉しい反面、とても辛かった。悪いのは自分、何も抵抗しなかった自分なのに…その切ない感情が心を満たしていく。
「大丈夫…です…骸様…」
「…嘘はいけませんよ……君には取り返しのつかない事を…」
(骸様……)
気丈に振る舞ったつもり、でもそれが逆に骸を傷つけてしまう。ただお互いが相手を想って言っただけ…欠けた心、それでも身体はこんなにも近くにあるのに、愛しい人に抱きしめてもらっているのに…
(私…骸様に…)
「抱いて…ください……」
「凪…?」
余りに唐突な凪の言葉に抱き締めていた力が弱まった。
「骸様に助けてもらったのに……私…なにもしてあげられない……だから…」
「…凪…僕は君を救えなかった…君が犯される姿を見ていることしかできなかった…だから君に…」
「いえ…」
小さく、それでもはっきりとした声で凪は続けた。
「ずっと前に一人で泣いていた私を……助けてくれた…だから…」
凪の腕が骸の身体を抱き締めた。再び向き合うような形になり、視線が互いを捉える。
これから先の言葉に恥じらいを含んだ表情…それでも涙で潤んだ、しかし決して弱くはない意志をたたえた瞳が骸を真っ直ぐと見つめている。
目の前の健気な、聖女のような姿に骸は自分の中の負の感情が浄化されているかのような感覚を感じていた。彼女にもまた、救われていたと…凪を救い出してから曇っていた彼の表情がいつものそれに戻っていた。
「さぁ、凪…続けてください」
「…はい……だから……抱いて…骸様……私の…初めて……もらって…ください……」