親方様とは旧知の仲で、九代目からも信頼篤いというアルコバレーノに初めて  
会った。  
「あなたがリボーンさんですか。初めまして、オレガノと申します。」  
「そんなにかしこまらなくてもいいぞ。よろしくな、オレガノ。」  
 確かに一流の殺し屋たる風格を漂わせた彼は、もみじのような手の平を差出し  
てニヒルに笑った。なるほど、親方様が認めていらっしゃるのも頷ける。  
 
 
 つきましては、と仕事の書類を取り出しかけた私を、彼は片手で制した。  
「家光はどうしたんだ?」  
「すみません、少し遅れているようです…渋滞に巻き込まれたとかで。」  
「ふーん…」  
 では、と改めてかばんに手を入れると、再びストップがかかる。  
「ここはエスプレッソは出ねーのか?」  
「あっ…すみません、気が付かなくて!」  
慌てて私が立ち上がると、リボーンさんはニヤリと口元を歪ませた。  
「仕事の話は後にしろ。家光が来てからでも遅くねーだろ?」  
「はぁ…ですが…」  
「エスプレッソもいいぞ。」  
ニヒルな笑みとつぶらな瞳のギャップに、目をしばたたく。私は困惑していた。  
どうしてだろう、彼は何もしていないのに、「逃げられない」と感じる。私の全  
てを見抜かれているような気がする。  
「…おまえ、家光とは寝たのか?」  
「は!?」  
 突然飛び出した爆弾発言に、思わずすっとんきょうな声が出る。  
「な、な、何を仰るのです! 私はそんな…!」  
「だろーな。あいつはいつもママン一筋だからな。」  
 ツキリ、一瞬胸が痛む。しかし私は、平静を装いきびすを返した。  
「…エスプレッソ、いれて来ます。」  
「待つんだぞ。」  
 いつの間にか私の前に回り込んでいたリボーンさんに、目を見開く。  
「おまえも大変だな。好きな男と昼夜を共にしておきながら、一度も手を出して  
もらえないなんて。」  
 男の風上にもおけねーぞ、と笑う赤ん坊の姿に、いやな汗が流れる。  
「何を、言っているの…」  
「安心しろ、誰にも言う気はねーぞ。」  
「だから、何を…!」  
「俺には嘘は通じねえ。読心術が使えるからな。」  
そうして私に向かって歩いてくるアルコバレーノの威圧感に、彼がアルコバレー  
ノたるゆえんを垣間見た。  
 
 気が付けば私はリボーンさんの席だったはずの一人用ソファに腰掛けていて、  
リボーンさんは膝の上にいた。  
「力を抜け、恐くないぞ。」  
「り、リボーンさん…お止めください…!」  
「ずっと家光の近くにいて、我慢してたんだろ? それとも一人で慰めてたのか?」  
「やめて!」  
 かっとなって突き飛ばそうと思ったのに、どこをどうしたものか、私の抵抗は  
軽々と受け止められ、あしらわれてしまった。  
 リボーンさんの小さな手が、私のシャツの胸を這う。  
「着痩せするタイプか? 意外と大きいんだな。」  
「やめ…ッ」  
「やめねーぞ。」  
 押したり引いたり、蹴っ飛ばそうとしたりといった努力も虚しく、私の体から  
はどんどん衣服がはぎ取られていく。気が付けばソファの上で、下着だけになっ  
て息を切らしていた。  
「紳士は、女性を床の上に転がしたりなんかしないぞ。」  
「ぁん……し、紳士はそもそも、こんなこと…しな…、です…ッ」  
ホックの外れたブラジャーを押し上げられて、ちゅうちゅうと乳首に吸いつく彼  
を抱き抱える。見た目は母親の授乳と変わらないけれど、明らかに違うのは、与  
える側である私の反応だ。  
「あっ…あんっ!」  
 リボーンさんが今しゃぶっているのとは反対の側は、すでに唾液でべとべとに  
なって、その上小さな手で弄り上げられていた。じんじんと痛いような、むず痒  
いような感覚を訴えるそこは、真っ赤になって固く腫れている。  
 リボーンさんを抱く手が、がくがくと震える。  
「もう限界か?」  
 口を離した彼に言われ、俯いた拍子に涙が落ちた。眼鏡に雫が広がり、視界が、  
思考と同じようにぼやける。  
 ずっと、こうして欲しかった…。  
「おや、かた…様……」  
 リボーンさんの言った通りだ。親方様のお傍に控えながら、うずく胸を、火照  
る体を、ずっと我慢してきた。  
「っ…いえみつ、さまぁ…ん…! あ、あっ!」  
 私の中に、体温の高い指が入ってくる。  
「俺は赤ん坊だからな。」  
「ひん!?」  
ぐりゅ、と回転するようにして、もっと深くまで押し進まれる。  
「手首まで入るぞ。」  
「やあっ…ん、んぅぅ…ぅ…」  
 びくびくと跳ねながら、汗で滑るソファのアームレストを必死に掴む。  
「あん、あんっ! 家光、さま、いえみつさま…!」  
「そろそろイきそーだな。」  
 冷静な声が最後の引き金となって、私は親方様を呼びながら、ソファの上で果  
ててしまった。  
 
 
 
「――リボーンさん、親方様が到着しました。」  
「ちゃおっス。久しぶりだぞ、鈍感男。」  
「おうリボーン! …鈍感って何のことだ?」  
 首を傾げる親方様を後に、私は一礼して部屋の外へ下がる。友人同士、積もる  
話もあるだろう。背中でリボーンさんがエスプレッソのカップを置く、カチャン  
という音が聞こえた。  
「待てオレガノ、携帯の番号を置いてけ。」  
 子供の澄んだ呼び声に、足が止まる。  
「なんだー? まぁた愛人を増やそうってのか?」  
「……わかりました。」  
 ナンパも程々にしとけよ、と言い掛けた親方様が、絶句した。  
「お、オレガノ? オレガノちゃん!?」  
 意外な程焦りを含んだ声が、ウソぉ、と叫んだけれど、私は静かに名刺を取り  
出し、裏にプライベートの番号を綴る。  
 家光様の顔は最後まで見られなかったけれど、代わりに目が合ったリボーンさ  
んは、やっぱりニヤリと笑って私を眺めていた。  
 
 
 
を、最後に追加してください…  
改行計算間違えた。  
 

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