仮に、チェルベッロA、チェルベッロB、チェルベッロCと呼ぶことにしよう。
今朝最初に出くわしたのを、チェルベッロAとする。今隣で腹痛の薬を探して
くれているのはB、僕の代わりに白蘭さんに転送するファイルを持って行ってく
れたのは、Aと同一の人物だ。
「入江様、転送完了しました。」
「ああ、ありがとう…あれ? さっきの人はどうしたの?」
Bと、戻ってきたチェルベッロ――Cとも違うから、新たにDと置こう――が、
まじまじと僕を見た。
「…あ、あの…間違ったかな…」
「……いいえ。」
BとDは、ハモって答える。
彼女達は顔を見合わせた後、頷きあって僕に視線を戻した。
「先日から思っておりましたが、あなたは私達を見分けていらっしゃるのですか?」
「はあ…」
「どこが、違っていますか?」
「ええと、君達二人なら、前髪の長さが違うと思うんだけど。」
二人は再び顔を見合わせた。
「少々お待ちください。」
「え、うん…?」
揃って出て行った彼女らは、増殖して戻ってきた。
「服が異なる時ならいざ知らず、」
「同じ制服に身を包む我々を見分けられるとは」
「さすが、隊長格というところでしょうか。驚きました。」
「我々チェルベッロ機関の目に、狂いは無かったということでもありますが。」
同じ顔、同じ格好をした少女の集団に気圧される。彼女らがこんなにも、妙な
プレッシャーを僕に与えられるのは何故だろう。タヌキかパンダのような柄の、
特徴的なアイマスク(?)のせいだろうか。
どうやら僕に反発心を抱いたわけではないようで、その点では一安心だ。
でも、……このように僕がチェルベッロという存在の生態について観察日記を
付けていることがばれたら、きっと怒られるんだろうなあ…。
…とりあえず、AとかBとかの記号は書き直しておいたほうがいいだろうか。
「…ところで、君達って一人一人の名前とか、ないの?」
まずは本人に尋ねて見ると、チェルベッロCの顔が、いきなり真っ赤に染まっ
た。連鎖反応が起きたかのように、動揺の波は広がっていく。…え!?
「あ、あの、ちょっと…」
「わ、我々は全員で一つの機関なのです! な、な、名前なんて、ひ、ひつ、ひ
つよ…ッ」
「ちょっと、しっかりしなさい!」
「い、入江様は何が望みなのですか!?」
「…え、え? え?」
…――というわけで、何が起こったのか理解できないまま…僕は呆然とするだ
けで事態についていけなかったので、中途半端ではあるけれど、今日の記録はこ
こまでだ。
追記、なんだかこの事件の後から、チェルベッロ達がやけに
優しい気がするの
だけれど、気のせいだろうか?