瞳を閉じる。思い描く。
手を、指を、熱を。伸ばした指を想像のそれと重ね合わせる。
ベッドに横たわり、パンツの上から女である部分に触れる。下着に染み込む程の蜜がもう溢れていた。
(あの人が、私の恥ずかしい所に触れて…)
指先を緩やかに動かし割れ目をなぞった。甘美な刺激に乗せられて自然と脚が大きく開かれる。
「…ん…っ」
腰を浮かして下着をずらすと、溢れた蜜が腿に伝い褥を汚した。
任務の日々が続き、長らくセックスどころか自慰すらもご無沙汰になっていたせいか、普段よりも感度が良くなってしまっている気がする。
クリトリスを摘んで刺激を与えると、ピリピリとした刺激が全身を駆け巡った。
赤く熟れたそこを弄っているとすぐにでも絶頂を迎えてしまいそう。自分の体が喜ぶところはよく解っている。
「はぁっ・・」
オレガノは自己の快楽を追求することに夢中になっていた。結っていた髪が乱れ、肩に落ちる。
水音と呼吸、ベッドの軋み。聴覚はそこに集中していた。
想っても叶うことはない。あの人は妻子持ちなのだから。不倫相手?そう呼べる関係でもない。
何故ならあの人は自分に特別な好意があるわけでもないのだ。
ほんの一回や二回。ただの慰め合い。引き摺っているのは自分だけ。
「ん…ぁっ」
同じ箇所を何度も擦っていると昂りを感じる。オレガノの指先の動きは速度を上げた。
入り口を弄るだけでは足らず、愛液が溢れ出すその中へ、折り曲げた薬指の先を埋めた。
指先で蕩ける中を掻き混ぜるけれども、物足りなく感じる。横たわっていては熱く疼いている奥まで届かない。
体勢を変えようと思い、片手を付いてゆっくりと身を起こした。
「…えっ?」
オレガノは違和感を覚えて目を凝らした。閉めていたはずの扉から光が射し込んでいる。そこに、人影が…。
慌てて行為を中断し、ベッドサイドに置いた眼鏡をかけた。ぼんやりしていた視界にはっきりと人が映る。同じ門外顧問の仲間の一人。
「…バジル?」
「わっ…あっ、あのっ」
オレガノが声を掛けると、顔を真っ赤にさせて体を硬直させていたバジルが慌てふためいた。
内心では彼以上に動揺しているオレガノは、露出した下半身にシーツを纏い、どうしようかと考えを巡らせる。
(私、夢中になってしまって…気付かなかったわ。いつから居たのかしら。見られた…?)
「…何か用事でも…?」
「あっ、えっと…明日の任務について少し疑問があったので尋ねに来たのですが…オレガノ殿は何を…」
バジルは所在無げに視線を逸らして尋ねる。
何度かノックをしても返事がなかったのに、部屋には人の気配があった。試しにノブを回すと施錠されていなかった。一歩踏み出そうとしたら聞こえた声。見てはいけないのではと思ったのに、体は言うことを聞かなかった。
脳裏に焼き付いた痴態。大きく開脚された足。動く指。その奥には、秘められた女の領域。
振り払おうとしても光景が鮮明に浮かび、自身の中心が熱くなる。
「何って…わかるでしょ?オナニーよ」
ばっちり見られていたなら開き直るしかない。オレガノが発した言葉に、バジルは再び体を硬直させた。
「オナニー…」
「…まさか知らない?」
仕事上、女性と関わることが少ないとは言え、思春期真っ盛りの少年が知らないとは思えない…彼の鈍い反応に首を傾げた。
「いえ、あの拙者…女性…と言いますか…オレガノ殿が自慰行為を…と思うと意外で、あのっ…」
「…ふふ…」
「すみません…覗くつもりはなくて…っ」
バジルの反応を見ていると悪戯心に火が点いた。からかってやろうと、体勢を変えるふりをして足を大きく動かす。
シーツが乱れ、隠れていた太股が露出する。彼の視線はそこに釘付けになった。
「どうかした?バジル」
「…っ」
欲情していることは明白だった。手招きをしてみれば、ふらふらと歩み寄って来る。
「…バジル、私とエッチしてみる?」
「っ!その、あの…親方様が…」
「え…」
不意に出た想い人の名に心臓が跳ねた。平静を装い、耳を傾ける。
「親方様は、愛し合う者同士がするものだと教えてくださいました」
「そう…ね・・」
(奥様がいるのに私を抱いたあの人がそんな事を…)
オレガノはバジルに向かい両手を伸ばす。紅潮した頬を包み、指先で肌をなぞった。
あの人を重ね合わせ、それを拭い去るよう彼を見つめる。
「バジルは私のことどう思っているのかしら」
「拙者は…オレガノ殿が好きです!」
「……」
「だから…その…」
実は彼の気持ちは以前から何となく勘付いていた。自分に向けられる視線に好意が含まれていることがしばしばあった。想われて悪い気はしない。
「なら、愛し合えるわ…」
「オレガノ殿っ」
例え一方的な想いでも、交わることができて幸せだった。愛し合う者同士なんて、くだらない戯言。
寂しさを埋める為でも、叶わない想い故でも、愛し合える。
「あ…んっ!」
股をM字に開けば、間に割り込んだバジルの体。
待ち焦がれていた、そこ、女の秘部へと指を伸ばす。自慰で潤っていたそこからクチュッと音がする。
「ん…!」
「オレガノ殿…凄く濡れてます…」
「あっ…バジル…」
溢れてくる露を見つめられて羞恥心が湧き上がる。ヒクつき蠢く様子に煽りを受け、バジルはまじまじと覗き込んでいた。
「…そこを、舐めて…くれないかしら?」
「っ」
喉を鳴らす。ゆっくり顔を近付ける。舌で味わう。唇で触れる。
蜜が絡む花弁を舌先でなぞった。
「あぁっ!」
「あぁっ!」
愛おしむよう優しく、責めるよう強く。巧いとは言えないたどたどしい動きだけれども、甘い痺れを導き出す。
陰唇に熱く張り付いて、キスをして、吸い上げる。粘液が音を立てて響く。
「ん…あっ!バジル…っ!」
オレガノは無意識に彼の頭を自らの股間へ強く押し付けていた。
狭めた舌を膣の中へ、奥へ入れる。先を曲げ壁を舐めて、抜いてを繰り返す。零れた愛液を追って再びキスをして吸い上げる。
彼女の喘ぎ声がだんだんと荒くなっていることに気付き、興奮を覚えた。目に付いた、赤く熟れた小さな陰核。そこに舌を這わせると、大きく揺らいだ。
「あんっ!そこ…駄目っ!ひゃ・・」
「はぁ…っ」
夢中になる。もっと声を聞きたい。もっと感じて欲しい。もっと、自分で感じて欲しい…。
バジルは敏感な芽をしつこく責め立てる。オレガノは大きく身を撓らせる。
「あっ!あっ!も…イクわ!っ…イっちゃう…っ!!」
びくん、びくんと全身を脈打たせた。弛緩した膣から愛液が溢れ出る。
官能の余韻に浸り、蕩けた瞳でバジルを見つめる。彼も同じようにぼんやりと自分を見ていた。
頬にかいた汗を拭って、肩にかかる髪を払い、バジルを招く。シャツに手をかけボタンを外す。一つずつ、ゆっくりと。
裸にする。裸になる。
自分も同じように、中途半端に残っていた邪魔な布を取り払った。
「オレガノ殿…」
「良かったわ…バジル、今度は私がシてあげる…」
「えっ…!」
オレガノは手を伸ばす。大きく張り詰めて反り返ったペニスを手に取って、妖艶な笑みを浮かべた。
両手で包み込み、ゆっくりと竿を擦る。細い指先が垂れる液体を絡め取った。
「バジル…」
「オレガノ殿…っ!」
彼女の口唇が亀頭を挟む。舌先が尿道口を掠め、裏筋を這い、ペニス全体を刺激した。
口の中に潜る。舌が、唾液が纏わりつく。バジルの快感を引き出そうと動く。
「んん…ふっ…」
「…っ…く…」
的確な責めに小さく呻いた。いいようにされるばかりで、ただただ射精感を堪え、耐えていた。
彼女の口淫は自分の手で慰めるより、何倍も心地良い。
「オレガノ殿…拙者…いきそうです…」
「ふ…ふっ」
「は…離れてください…!」
「出して?」
オレガノはそう言うと亀頭を強く吸い上げた。ペニスを包んだ手を上下に擦ることも忘れない。
上目遣いで自分を見る彼女を目に焼き付け、彼女の顔面に向かい発射した。
「ぁ…ん」
飛び散った白濁液はオレガノを頭上まで汚す。それは眼鏡にも付着してしまった。
「すみませんオレガノ殿!」
「…いいのよ」
眼鏡を外して傍らに置き、口元に着いた白濁を舌で拭う。淫猥なその姿を見て、先程達したばかりのペニスが再び硬度を取り戻した。
オレガノはバジルを押し倒し、仰向けに寝かせると腰の上へ跨った。腰を浮かせると、片手を彼の腹につき支え、片手で膣口に先端を誘導する。
先が埋まったことを確認すると、腰を落としてゆく。
「う…あぁ・・んっ!」
「…ッ、オレガノ殿…!」
肉壁が性器に熱く絡みつく。呑み込んでしまう。奥まで、もっと深く。最後まで咥えてしまった。彼女を、オレガノを全部。
繋がった。ずっと彼女とこうなりたいと思い描いていた、それが、今。
その事実だけでもう、絶頂を迎えてしまいそう。歯を食い縛って堪える。窮屈な中は意地悪に収縮して、それを引き出そうとしていた。
「全部…入ったわ…あぁ…バジル…」
「…嬉しいです・・オレガノ殿…」
繋がった。全部、あげてしまった。
あの人のことを忘れたいが為に。彼をからかうつもりで。彼の気持ちを利用して。
バジルは繰り返し自分の名前を呼んでくれる。生まれたのは罪悪感と、もう一つの感情。
「あ…あっ、バジル…あんっ!」
オレガノは自ら腰を浮かせ、落として貪った。結合部から卑猥な音が奏でられる。淫乱と言われても構わない。ただただ、何もかもを忘れてしまいたい。
「…オレガノ殿っ!」
「きゃ…っ」
いきなり腕を引かれた。体が崩れ落ちる。バジルの強い力が自分を捕らえた。自分が主導権を握っているつもりだったのに、いつの間にか体勢が変わった。組み敷かれ、見上げると彼の顔が映る。
「バジル…?」
「…拙者を見てください、オレガノ殿」
「ああぁっ!んっ、あぁっ!」
激しく突かれる。貫かれる。膣の中で彼の存在をありありと感じる。
(バジルが、私をこんなにも、求めてくれている…)
無我夢中で腕を伸ばした。彼の背に回し、触れ合いを求める。バジルはそれに応えるように、オレガノの乳房を優しく軽やかに揉み始めた。
「あっ!…ぁあっ、バジル!」
「オレガノ殿…!」
彼女の頬に涙が零れる。それが快感からのものか、それとも別の感情から来るものかはわからなかった。
バジルは彼女の唇に自分のそれを重ねた。角度を変えて何度も舌を絡めあった。
彼女は腰を揺らす。勢いを増す。快楽を、お互いを求めあう。
「ふっ・・あ…あっ」
「…好きです…オレガノ殿…」
「バジ…ル…っ!私…私は…あっ!あぁああっ!」
「っ…う!」
オレガノが絶頂に達してしまい、バジルもほぼ同時に射精した。二人はきつく抱き合った。
バジルの腕の中で、静かに瞳を閉じる。
新しく生まれた感情に戸惑っていた。与えられた愛情で、何かが変わった。
「バジル…ありがとう」
「えっ…あの…?」
愛し合う者同士なんて、くだらない戯言。そう思っていたのに…。
あの人への想いが吹っ切れたような気がした。それは、愛してくれた彼のお陰。
お礼のつもりでキスをすると、バジルは頬を真っ赤に染めた。
そんな姿を見て、オレガノは口元を綻ばせた。