3月3日雛祭り。
見事な雛壇が飾られている笹川家のリビングには、先ほどから妙にこぶしの効いた歌が響いていた。
「ごぉ〜にん囃子の笛太鼓〜♪きょ〜ぉは楽しいひなまつりぃぃ〜♪」
ハルは学校が終わってから前々から京子に誘われていた雛祭りパーティーをしにやってきたのだった。
京子はニコニコしながらハルの歌に手拍子していた。
「ハルちゃん歌上手だねー」
「はひーっ!ありがとうございます!」
ハルは仲良く寄り添った御内裏様とお雛様に微笑しながら
「ハルや京子ちゃんもいつかは彼氏が出来てお嫁に行くんですかね〜」
と呟く。
「……なんか寂しいな」
「え?」
「大人になって、好きな人が出来て、結婚したら……。
今みたいに女の子同士で一緒に過ごすこともなくなるんじゃないかって思うと辛くて。
……こんなこと考えるなんて子どもみたいだって分かってるんだけど」
そう言って京子は今までに見せたことのない寂しい表情を無理に笑顔に変えた。
「京子ちゃん……」
ハルは言葉を失った。
違う学校に通いながら、今では一番気の合う友達。
毎日電話かメールで連絡を取り合っているし、休みの日は大抵一緒に過ごしている。
だがいつまでも今のままではいられなくなるだろう。
恋人が出来れば互いのために時間を割くのは難しくなる。
結婚すれば尚更だ。
(……それは仕方のないことかもしれません。でも……)
考え込んでしまったハルに京子は慌てた。
「ごめんね、変なこと言って。気にしないで」
「今は」
「えっ?」
ハルはまっすぐに京子を見つめた。
「今はハルと京子ちゃん一緒にいます」
「……」
「いつか今のように一緒にいられなくなる時が来ても、
ハルと京子ちゃんが仲良しだって事実は永遠に変わらないですよ」
「……ハルちゃん」
ハルは京子の手をぎゅっと握った。
「ハルは京子ちゃんのこと大好きですよ。今も、この先もずっと」
京子ちゃんはどうですか?という問いに、京子は言葉ではなく抱きつくことで答えた。
二人の頬が重なる。
「ありがとう、ハルちゃん」
京子はハルの肩に顔を埋め、ハルは京子の柔らかな髪を撫でた。
二人はしばらくそのまま抱き合っていた。
(……ハルちゃんの体柔らかくて暖かいな。何だろう、ドキドキしてきちゃった。私、変かも……)
(京子ちゃんて髪ふわふわでいい匂いがします……。
はひっ!ハル何で女の子相手にウットリしてるんでしょう)
離れた時はホッとしたような惜しいような複雑な気持ちで京子とハルは笑みを交わし合ったのだった。
END