ホワイトデーはバレンタインデーにチョコをもらわなかった男には当然ながら縁のないイベントだ。  
沢田綱吉もホワイトデーのお返しなど気にせずに過ごす側だった。  
――女の子と関わることのなかった昔ならば。  
 
「あぁ〜、どうしよう!?」  
壁のカレンダーと睨み合いながら頭を抱えるツナ。  
「さっきからうるせーな。何を悩んでんだ?」  
「リボーン〜」  
ツナは小さな家庭教師にすがり付くような目を向けた。  
「ホワイトデーは明日なのに、俺お返しまだ用意してないんだよ」  
今年は京子からはココア生地のクッキー、ハルからは大きなハート型のチョコを渡された。  
髑髏までが少ないお小遣いの中からイチゴ味の麦チョコをくれたのだ。  
ツナは三人からのプレゼントに心から感激し、ホワイトデーにはちゃんとしたお返しをしようと心に決めた。  
結果何を渡すべきか迷いすぎて、前日だというのに何も用意出来ていないという始末。  
「本末転倒だな。だからオメーはダメツナなんだ」  
家庭教師の冷たい言葉に言い返すことも出来ずツナはうなだれた。  
リボーンはそんなツナを円らな瞳でじっと見つめていたが、やがて何かを思い付いたようにニヤッと笑った。  
「仕方ねーな。三人へのプレゼントは俺が用意してやるぞ」  
「えっ!?」  
ツナは驚いて顔を上げた。  
「それをお前からのプレゼントってことにすればいいだろ」  
「…何か企んでないか?」  
ツナの言葉にリボーンは内心  
(ますます超直感が冴えてきたな)  
と感心した。  
が、そんな思いは口にせず  
「じゃあ今から自分で用意出来るのか?もうどこも店は閉まってるぞ」  
と脅しを掛ける。  
「うっ…分かったよ。頼むリボーン」  
「任せろ。お前は三人に明日放課後家に来るよう伝えろ」  
「分かった…」  
本当に任せて大丈夫なのだろうかと不安を抱えながらツナは電話を掛けるため部屋を後にした。  
残されたリボーンは怪しい笑みを浮かべながらアタッシュケースの中を開けた。  
 
翌日、学校が終わるとツナは京子と一緒に自宅へ向かった。  
「ごめんねツナ君、なんだか気を使わせちゃって……」  
「いや、いいんだよ。俺がお礼したいんだから。あのクッキーすごく美味しかったし」  
「よかった」  
京子の嬉しそうな笑顔に、自分で何もせずリボーンに任せてしまったことへの罪悪感を感じる。  
これからは優柔不断な性格を改めようとツナが心に決めたところで家へ着いた。  
(リボーンちゃんと用意してくれたかなぁ……)  
ビクビクしながら玄関のドアを開けると  
「おかえりなさ〜い♪」  
とカツラを被って奈々のコスプレをしたリボーンに迎えられた。  
「こんにちは」  
礼儀正しく頭を下げる京子。  
リボーンのコスプレは相変わらずツナ以外には見破れないらしい。  
ツナはコソコソとリボーンに耳打ちした。  
「母さんやチビ達は?」  
「買い物だ。夕飯まで戻ってこねーぞ」  
そこまで言うとリボーンは声色を変えて  
「ハルちゃんと髑髏ちゃんはまだ来てないのよ。先に上がってちょうだい」  
と京子にスリッパを出す。  
「お邪魔しまーす」  
「さあさあ、どうぞこちらへ」  
先に立って京子をリビングへと案内する。  
「わ、すごーい」  
リビングに入った途端歓声が聞こえてきて、ツナは急いで後を追った。  
「うわー」  
リビングを覗いてツナも思わず叫んだ。  
テーブルの上に豪華な白い薔薇が飾られた花瓶が置かれているのだ。  
「きれーい」  
「ツッ君が学校へ行く前に飾っていったのよ」  
「そうなのツナ君?」  
京子が振り返る。  
「へ?あ、うん……」  
リボーンの目配せでツナはぎこちなく頷いた。  
「すごいねー」  
感心する京子の後ろでパッとリボーンがカンペを見せ、ツナはその通りに読み上げた。  
「えと、花束を用意してあるから帰りに持って帰ってね。これが俺からのお返しだよ」  
「本当?わぁ〜、ありがとう。部屋に飾るね」  
「さあ、二人とも座ってちょうだい」  
リボーンが二人にソファーを勧める。  
「今紅茶を淹れるわね」  
「あ、手伝います」  
「いいから京子ちゃんはツッ君とお話でもしてて」  
 
(リボーンいつまで母さんの真似するつもりだ?)  
呆れながらも白い薔薇の花束をプレゼントというロマンチックな企画にツナは感心した。  
これならハルと髑髏も喜ぶだろう。  
(リボーンに任せてよかったな)  
「はい、どうぞー」  
二人の前にカップが置かれる。  
「それじゃあ私は家事があるから二人でごゆっくり」  
京子に見えないようこっそりと親指を立てて去っていくリボーン。  
どうやら気を利かせてくれたらしい。  
(今日のリボーンやけに優しいなー)  
ツナは京子と二人きりになったことに緊張しながら紅茶を啜った。  
花のような甘い香りが鼻腔をくすぐる。  
「いただきます」  
京子も紅茶を口にする。  
しばらくして異変が起きた。  
ツナも京子も具合が悪いのか顔が赤く息が荒い。  
(どうしたんだろう?さっきから変な気分だ)  
体が熱くてたまらない。  
京子の顔を見るとやけに胸の鼓動が高まる。  
それだけではない。  
なんと下半身が反応し始めてしまった。  
(な、なんでー!?)  
隣に座っている京子にバレないか気が気ではなく  
「ごめん、俺ちょっとトイレ行ってくるね」  
急いで立ち上がるが、足がふらついてたちまちよろめいてしまう。  
「うわぁ!」  
「きゃっ」  
なんとツナは京子の上に倒れてしまった。  
「わ、ごめん!」  
「大丈夫…」  
慌てて起きようとしたツナの目に京子の顔が間近で映る。  
春の日射しを思わせる明るい色の髪、長い睫毛に縁取られた大きな瞳、桃の実のように柔らかそうな頬。  
そして淡い桜色の唇――。  
ツナは吸い寄せられるように自分の唇を重ねた。  
「…ん」  
京子が小さく吐息を立てる。  
しばらく可憐な唇を味わってツナは顔を離した。  
京子が頬を染めて自分を見上げている。  
その唇はグロスを塗ったかのように妖しく光っていた。  
「……。――!?」  
それを見て我に返ったツナは自分のしでかしたことに驚いた。  
(俺は何てことを――!!)  
しかしパニックに陥るツナを更なる衝撃が襲った。  
首に腕が回されたと思ったら  
「ツナ君…」  
京子からキスをされたのだ。  
 
ツナは真っ赤な顔で硬直したまま京子の唇を受け入れる。  
(何がどーなってんの!?)  
自分も京子もおかしい。  
どうしてこんなことになってしまったのか。  
体の奥から沸き上がる熱と疑問にツナの思考はピーク寸前だった。  
ふとテーブルの上にあるカップが目に入る。  
異変が起きたのは紅茶を飲んでからだ。  
(…まさか)  
ツナの脳裏に奈々のコスプレをして紅茶を運んできたリボーンの姿が浮かんだ。  
(リボーンが紅茶に何か入れたのか!?)  
まさかとは思うがそうとしか考えられない。  
とにかくこの状況をどうにかしなければ、とツナは京子の肩を掴み引き離した。  
「ツナ君…?」  
なぜ止めるのと問いたげに京子は首を傾げる。  
その可愛らしい仕草に見とれつつもツナはブンブンと頭を振った。  
「京子ちゃん落ち着いて!おかしいよ、こんなの」  
「うん…、私おかしいの」  
あっさりと肯定する京子にツナは目を丸くした。  
京子はそっとツナの手を取ると自分の胸へ導いた。  
「きょ、京子ちゃんっ!?」  
制服の上からでも分かる柔らかな膨らみに動揺する。  
(ダメだダメだダメだーっ!俺達まだ中学生だし!ハルとクロームがいつ来るか分からないしー!)  
必死で頭の中で欲望と戦うツナの気も知らず京子は熱のこもった瞳で彼を見つめる。  
ツナが下半身の暴走に焦っていた時彼女も突然の体の異変に戸惑っていた。  
そして突然のツナからのキス。  
友達と思っていた少年にファーストキスを奪われてしまったことに、不思議と不快感はなかった。  
もっとキスしたい、そんな願望に京子は素直に従った。  
そして今、別の願望が生まれている。  
「私、ツナ君に触ってほしい…」  
「――京子ちゃんっ!」  
ツナの理性は呆気なく砕け散り、代わりに抑制されていた欲望が飛び出した。  
京子の体をソファーに押さえつけ、性急に制服を脱がせる。  
レースが愛らしいピンク色のブラジャーをどうやって外すのか分からず困っているツナを見て、  
京子は自分から背中に手を回し外した。  
ぷるんと瑞々しい乳房にツナは息を呑む。  
 
手のひらに収まり切らないほどの大きさのそれは弾力があり、先端の突起を摘まむと硬くなっていく。  
「ひゃ、あん、やぁんっ」  
京子は高い嬌声を上げて身を捩らせた。  
そしてその素直な反応が余計にツナを煽るのだ。  
ツナは手を滑らかな腹部、肉付きのよい太腿へと滑らせた。  
柔らかくすべすべした肌を堪能しながらスカートの奥へと手を差し込む。  
京子の体がわずかに強張ったのを感じ、ツナは彼女の顔を窺った。  
京子は緊張したような、期待をしているような複雑な表情で彼を見返した。  
「…このまま、いい?」  
ダメと言われても今更止められないがツナは尋ねた。  
京子は目を伏せ、わずかに頷く。  
それを確認するとツナはブラジャーと同じピンクの下着を下ろした。  
初めて見る女性の秘所に目が釘付けになる。  
赤く色づいたそこは蜜に濡れ、これから訪れる悦びを予期して震えていた。  
ツナは同級生の会話や漫画で得た知識を総動員して陰唇の場所を探り当て、  
初体験で穴を間違えるという失態は犯さずに済んだ。  
ゆっくりと指を入れると京子は苦しそうに顔を歪めた。  
「痛い?」  
「ん…少し。でも大丈夫、止めないで…」  
この痛みに耐えれば、その後は未知の快楽を味わえることを京子は感じていた。  
ツナは頷き、濡れた肉壁の中を掻き回した。  
出し入れを繰り返すと愛液が絡みつき指の動きはスムーズになっていく。  
京子の体と心が快楽に染まるのを見てツナの興奮も高まっていった。  
「京子ちゃん、俺もう…」  
「うん…」  
ツナは制服のズボンの前を寛げ、痛いほどに勃ち上がった自身を取り出した。  
入り口に宛てがい一気に貫く。  
「――っ!!」  
京子は声にならない悲鳴を上げて仰け反った。  
その細い体をツナはしっかりと抱き締める。  
京子の中は蕩けそうなほど熱い。  
(気持ち良すぎて頭おかしくなりそ…)  
ツナは夢中で腰を動かした。  
薔薇の甘い香りと、京子が発する淫靡な香りに酔う。  
初めは痛がっていた京子も次第に苦痛を上回る快楽の波に拐われていった。  
敏感な部分が擦られ、自慰も知らなかった少女を激しく責め立てる。  
「や、あぁんっ…!」  
京子はツナにしがみつき、肩に顔を埋めた。  
二人は共に頂上へと昇りつめていった――。  
 
全てが終わり、ツナと京子は互いに夢から覚めたような顔でソファーに腰かけていた。  
体を拭き服を整える間一言も口をきかず、気まずい沈黙が流れていた。  
(…どうしよう。京子ちゃん俺としたこと後悔してるんじゃ)  
声を掛けるに掛けられずツナは頭を抱えていたが、  
「じゃあ私帰るね」  
と京子が俯いたまま玄関へ向かったので慌てて自分も立ち上がった。  
「京子ちゃん、あの…」  
ポン、と頭に何か軽い物が当たって振り返ると、綺麗にラッピングされた薔薇の花束だった。  
見るといつものスーツ姿のリボーンが立っている。  
彼に言いたいことはいろいろあるが、今は京子を追うのが先だ。  
ツナは花束を持って京子を追いかけた。  
「京子ちゃん待って。これ…」  
玄関で靴を履いている京子に花束を差し出す。  
「あ…」  
白い薔薇を見て京子の緊張が解れる。  
「ありがとう」  
花束を受け取り、優しい香りを胸いっぱいに吸い込む。  
「…ごめんね、何だか急に恥ずかしくなっちゃって。私いろいろみっともない所見せちゃったよね」  
「そんなことないよ。京子ちゃんすごく可愛かった」  
それに原因は自分とリボーンなのだから…とは言えずツナは困ったように頬を掻いた。  
京子は恥ずかしそうに花束で顔を隠しながら小さな声で言った。  
「でもね。ツナ君以外の人だったら私、あんなことしなかったよ」  
「え」  
それはどういう意味か――ツナが問いただす前に  
「じゃあまた学校でね!お花ありがとう!」  
と京子は逃げるように帰ってしまった。  
ツナは呆然と玄関に立ち尽くしていた――。  
が、  
「おい」  
「ひぃっ!」  
後ろからの声に飛び上がる。  
「リボーン!お前…」  
「どうやらうまくやったみたいだな。ダメツナにしては上出来だぞ」  
「やっぱりお前の仕業か!紅茶に何入れたんだよ!」  
「即効性の媚薬だぞ。今日はホワイトデーだからな。男が女を悦ばせる日だ」  
悪びれなく言うリボーンにツナはがっくりと項垂れた。  
「お前なぁ…」  
「よかったじゃねーか。京子もまんざらではなかったみてーだぞ」  
帰り際の京子の言葉を思い出してツナは顔を赤くした。  
 
「だ、だけどなぁ」  
リボーンはチラリと二階に目を向けた。  
「グズグズしてる場合じゃねーぞ。まだお返ししなきゃいけない相手が残ってるだろ」  
「え?それって…」  
ツナはギョッとしてリボーンを凝視した。  
赤ん坊はニヤリと笑う。  
「髑髏は本当はお前らが来る前に来たんで部屋に上げておいたぞ」  
「だって靴が…」  
慌てて靴箱を開けると確かに見覚えのあるブーツがある。  
「じゃあ俺と京子ちゃんが…してる間ずっと部屋にいたわけー!?」  
「そういうことだ。もう一時間は過ぎてるな。もちろん紅茶を出しておいたぞ」  
「〜〜っ!!」  
ツナはリボーンに向かってパクパクと口を開いたが、結局何も言えなかった。  
そもそも悪いのはお返しをちゃんと用意しなかった自分なのだ。  
とにかく髑髏の対処を急がねばならない。  
ツナは階段を駆け上がった。  
リボーンはその後ろ姿を見送りながら  
「きちんと全員にお返しするんだぞ」  
と呟いた。  
 

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