※5年後くらい。小ネタです。
イタリアにある大きな大きなお屋敷の中に私はいた。
沢田さんの招待をうけてボンゴレの本部に来たの。
さっきまでは、笹川のお兄さんと軽く手合わせしたりして、「本当に元気だね」と沢田さんに言われるくらいくるくると動いていた。
だけど今は違う。柱の陰で、じっと動かないでいる。
見ている先には雲雀さんがいた。
めったに本部にいないという雲雀がいた。
雲雀さんは紅茶を飲みながら、ぼんやりと遠くを眺めている。
どこか遠くを見つめる眼差しも、丸い頭も、
紅茶を飲んだり頬をかいたりする何気ない仕草も、
全てが私にドキドキを与えてくれた。
見つめているだけで、幸せ。雲雀さんはきっと女の子になんて興味はないだろうから。
だから私は柱の陰からただじっと見つめるだけでいい。
「おー、雲雀!来ていたのか!」
笹川のお兄さんだ。
「うるさいよ」
「まあまあそう言うな。元気そうで良かった」
「咬み殺す。ロリコンと話しているなんて怖気が走る」
「……っ、だーかーら!それとこれとは話が別だと何度言えば分かる!五年前はほぼ同い年だろうが!俺は時が経つのを待っているだけだ!
お前だって毎回違う女を連れているくせに!」
へ?
「単なる性欲処理だよ。不細工じゃなきゃ誰でもいい」
……へ?
「何を言うか!毎回毎回歳はバラバラだが乳のでかい女ばかり連れおって!」
乳。その一言が私の胸に突き刺さった。……まな板同然の胸に、だ。
「あのね」
雲雀さんは呆れたように言った。
「ないよりはあったほうがいいに決まってるでしょ?」
私は走った。
あの会話を聞いてすぐ、私は彼のもとへと走りだした。
まさか雲雀さんが女の人に興味があるなんて思わなかった。
もしかしたら私にもチャンスはあるかもしれない。
乳。
そう、大きなおっぱいさえあれば、私にもチャンスはあるのだ。
私はたしかに成長期だ。でもおっぱいがどのくらいで大きくなるかなんて想像もつかない。
だったら今から大きくしはじめればいいのだ。
大丈夫。私には、少女漫画を読んで知ったあの方法があるのだ。
ちょっと恥ずかしいけど、昔からいっしょにお風呂に入ってた彼相手なら大丈夫だ。多分。
「ランボ――――!」
私は今までにないくらいの大きい声を出してランボの部屋に突撃した。
「どうしたのイーピン……」
「あのねっ……あのね」
一拍おいて、言った。
「私のおっぱい触って、大きくして……!」
ランボの頭は一瞬で思考停止に陥った。
一体イーピンは何を言い出したのだ。まさか自分の幻聴か何かかとまで疑った。
しかし目の前にいたイーピンはたしかに現実だった。
(もしかして……やっと俺のこと好きになってくれたのかな……!)
ランボの心は淡い期待で満たされた。
そして理由を聞いた瞬間、ランボは失恋どころか男として見られてないという現実をつきつけられた。
ショックだった。もともと雲雀という強敵がいる上に、最近は了平やリボーンまで(リボーンはツバをつける程度だが)手を出してきたという厳しい状況で、ようやくそこから脱却できると思った瞬間にこれだ。
この世には神も仏もいないのか。
「どうしたの?」
「いや……」
分かりやすくうちひしがれているランボにイーピンは声をかけた。
「あの……やっぱダメかな」
ダメだろう。そもそも今協力したらランボは当て馬確定となってしまう。そんな自分からレースをおりるような真似は誰だってしないだろう。
たとえおっぱい触り放題という好条件があってもだ。
(まてよ―――)
ランボは考えた。
(今は当て馬でも――あとで頑張れば逆転できるんじゃないかな)
雲雀はもともと特定の彼女を作らない人だ。了平とイーピンは犯罪級の歳の差だし、リボーンはあくまでツバをつける程度だ。
一番歳が近くてイーピンのことを分かってるのは自分だと自負している。
今はダメでも将来があるじゃないか。自分の中に流れているのは捕虜になってもナンパ、父から子へ伝えられることはナンパ、 という色事には強いイタリア人の血である。きっと今は当て馬でも大丈夫だ、とランボは自分の中にある「触りたい」という欲望を正当化した。
マフィアとはいえランボはやっぱり思春期の男の子なのだ。
「イーピン、俺でよければ……!」
「ありがとうランボ!!」
二人は手と手を取り合ってはしゃぎあった。
「……で」
二人は今ベッドの上に腰かけている。
「触る……って言うより揉めばいいのかな」
「うん。この本にそう書いてある」
イーピンは一冊の本を差し出した。繊細な絵柄の少女漫画だ。
見たことのないものだったので受け取ってパラパラとページをめくり、戦慄した。
昔の獄寺の真似をして、ジャンプに乳首を描き足してした自分の努力が無に帰すぐらい、その少女漫画はあまりにもフリーダムだった。
(イーピンは普段こんなのを読んでるのか……!?)
開いたページは、主人公が彼氏を想って自分を慰めているシーンである。
(まさか……こういうことしてる……とか……)
そう思うと急に隣の幼馴染みが色っぽく思えてきた。今の経験浅い自分なら、想像するだけで悶死できそうだ。
「……!ラ、ランボのえっち!!」
ランボのあまりにだらしない顔つきに頭の中身を読まれたのか、イーピンはばしばしと背中を叩く。
「こ、こういうのはしてないから。これも、これも適当に買っただけなんだから……」
イーピンは顔を真っ赤にして否定した。かわいいな、とランボは心の中で呟いた。
「それより早く始めよう」
話をそらしたかったのか、イーピンはランボの腕を掴んで自らの胸へと寄せる。
Aカップかそれに足りないくらいの胸の感触が手のひらに伝わる。大きさはともかく、柔らかさはマシュマロとも枕とも違う、異質だが今までの何よりも心地よい柔らかさだった。
「いいよね……?」
「うん……」
一つずつボタンを丁寧に外していく。悪いことをしているのではないが、妙に気まずい雰囲気だ。
イーピンもさすがに恥ずかしいようで、無言でやや顔をそらしている。
最後のボタンが外れた。
下のシャツをまくりあげ、白い素肌が露になった。