「獄寺さん…ですか?」  
 
急に目の前に現れた人物に恐る恐る声を掛ける。  
声を掛けられた当の本人は物珍しそうにハルに視線を向けている。  
ついさっきまで自分の目の前にいたのは獄寺。  
今視線を向けられている相手はその雰囲気を持っているが、明らかに大人びている。  
 
「…あ、10年バズーカですか?」  
「ん? そっか、この頃はもう知ってんだっけ?」  
 
思い付いた一つの原因を零すと、それに成長した獄寺と思われる人物が反応した。  
 
「そんじゃわざわざ説明しなくていいから楽だな。修理中の暴発に巻き込まれたんだよ」  
「じゃあ、10年後の獄寺さんなんですか?」  
「ああ」  
 
獄寺の返事に、ハルの僅かな緊張が解かれる。  
雰囲気は残っていても、獄寺だと確信は持ちきれていなかったのだ。  
 
「ビックリしました。まさか10年後の獄寺さんに会えるなんて思ってなかったんで」  
「オレだって驚いたよ。まさかまたハルに苗字で呼ばれるなんてな」  
 
そう言いながら、獄寺は柔らかく笑みを浮かべる。  
そんな獄寺を見てハルの心臓は少しずつ高鳴っていく。  
――確かに獄寺さんなんですけど、獄寺さんじゃないみたいです…。  
口調は今の獄寺と変わらない。でも言葉のとげとげしさがかなり和らいでいる。  
友達でなく男女としての付き合いを始めた今でも、ケンカ腰に口を利かれる事の方が圧倒的に多いのだ。  
いつもの不意打ちの優しさじゃない、極々当たり前のように与えられるあたたかい空気に、  
ハルは頬が火照っていく感覚に襲われる。  
――10年後の獄寺さんにもドキドキしちゃうだなんて、ハルはどれだけ獄寺さんの事好きなんでしょう…。  
いくら10年後でも、獄寺さんは獄寺さん。こんなハルを見たら絶対にからかわれちゃいます!  
ハルはそう思い、火照りを悟られまいと口を開く。  
 
「じゅ…、10年バズーカならもうすぐ戻っちゃいますね」  
「だなー。折角10年前のお前に会えたってのに、なんか勿体ねーな」  
 
獄寺は目を細め、ハルの頭を優しく撫でる。  
骨ばった手は、自分の知ってる獄寺の手とは少し違う。  
でもそのあたたかさは今の獄寺と変わらない。  
それが嬉しくってとろけかけたハルと向かい合う獄寺はプッと噴出した。  
 
「それにしても、お前の色気の無さは天下一品だな。  
10年前のお前見て改めて納得したよ。お前、10年後も全く変化ねーぞ」  
 
そう言ってハルの頭に手を置いたままクツクツ笑う獄寺を見て、ハルの夢心地は急激に下降していく。  
ハルは制服のブラウスと短いスカート、そして生足という見ようによってはなかなか艶かしい姿。  
頬を膨らまし、「獄寺さんは10年経っても失礼なお人ですね!」と声と腕を上げる。  
獄寺はその腕を簡単に取って、ハルの腕を引き寄せたかと思うとそのまま首筋に鼻を寄せた。  
 
「はひっ!」  
「石鹸の匂いがすんな。なにお前、風呂入ったのか? …あー、なるほどね」  
 
改めて部屋を見回し、獄寺は納得して一人ごちる。  
 
「一人暮らしのオレの部屋に二人きり。そりゃ、そういう事だよな。オレもまたタイミングいい時に来ちまったな」  
「ち、違います! 雨上がりだったからトラックに泥水跳ねられちゃったんです!   
それで獄寺さんのおうちが近かったからシャワー貸してもらって、靴下洗わせてもらって…」  
「別にオレをかばわなくったっていいぜ。10年前のオレなんてガキだから、  
ハルがウチに来た経緯がどうあれ、ぜってー我慢できねーから」  
 
獄寺本人にそう言われると、言葉の行き先を無くしてハルは軽く俯く。  
そして、自分を客観的に見られる10年後の獄寺に胸の高鳴りを抑えられない。  
――今の獄寺さんも、まぁムカーっと来る時も多いですけどそれでも素敵ですけど、  
10年後の獄寺さんはすごく大人で…。  
 
「10年前のオレなんてまだまだガキでさ。お前の事考えてるつもりで結局自分の事しか考えてねーからさ。  
お前もどうしても嫌だったら殴ってでも抵抗しろよ?」  
 
優しく言われる言葉に涙が出そうになって、獄寺に体を寄せる。  
今の獄寺の不器用な優しさはすごく嬉しい。  
でも今の獄寺にない、10年後の獄寺のストレートな優しさが愛おしい。  
 
「おいおいおい、10年前のお前ってこんな甘えてくるヤツじゃなかっただろうが」  
「10年前の獄寺さんが甘えさせてくれないんですよ! …………あれ?」  
「どした?」  
「もうとっくに5分経ってませんか?」  
「そういやー」  
「10年バズーカの修理中の暴発って言ってましたよね」  
「ああ。故障したってアホ牛がジャンニーニのとこに持ってきたんだよ…………て、ことは?」  
「間違いなくそれですね」  
 
獄寺の巻き込まれた暴発は修理が完全に終わる前の事だったのだ。  
それ故に通常なら5分で元に戻れる所が、5分をゆうに過ぎた今も元の時代に戻れないでいる事になる。  
それどころか、いつ元の時代に戻れるのか見当も付かない。  
 
「あー、クソ。あん時ジャンニーニのラボに行ってなけりゃ…」  
「ハルは嬉しいですよ」  
 
呟く獄寺の言葉をハルが制する。  
 
「こうやって獄寺さんに甘えられる事ってないですもん。ゆっくりしていってください」  
 
そう言ってハルは獄寺の胸に頬をすり寄せた。  
幸せそうにするハルに、獄寺の両腕は軽く宙を踊る。  
 
「…悪ィ。オレも10年前のオレの事言えた義理じゃねーかも」  
「どうしたんですか?」  
「…………ヤリてぇ」  
 
ボソッと零した獄寺の言葉に、ハルは弾かれるようにその胸から離れる。  
 
「な、なななななな何を言ってるんですかー!!   
さっきハルには色気が無いって言ってたばっかりじゃないですか!!」  
「確かに色気はねーよ! でも好きな女にこうも無防備にすり寄られて我慢できっかよ!!   
ただでさえここんとこ我慢させられっぱなしなんだからよ!」  
 
そう発した自分の言葉で真顔になったハルを見て、獄寺の顔も訝しげに変わる。  
 
「我慢、させられてるんですか?」  
「ん? あ、ああ…」  
「我慢させてるの…誰、ですか? 10年後、獄寺さんのお相手はハルじゃないんですか?」  
「はぁ!?」  
 
全く予想もしてなかったハルの言葉に、獄寺は思いっきり眉を顰めて声を上げた。  
 
「だってだって、ハルなら獄寺さんを我慢させるような事はしません! 誰ですか!? お相手は誰なんですか!?」  
「ちょ、ちょっと待て。オレはハル以外相手しちゃいねーよ!」  
「だってぇ!」  
「我慢っつーのもな、その、なんだ。しなくちゃいけねー我慢っつーか。  
させられてるっつーのはアレだ、語弊だ語弊!」  
「意味分かりません!!」  
「お前はまだ分かんなくていーんだよ! あー、もう黙れ!!」  
 
そう言い放って、獄寺はハルを抱き寄せると自分の唇でハルのそれを塞いだ。  
ほんの数秒、触れるだけのキスをしてゆっくり離れる。  
 
「それと、我慢させないなんて言うなよ。嫌なら拒否して構わねーんだから。それくらいで嫌ったりはしねーよ」  
「嫌じゃ…ないです。獄寺さんが喜んでくれるなら、ハルは幸せですから」  
 
獄寺に抱きしめられたまま、聞き零してしまいそうなくらいの小さな声で答える。  
「…オレが抱きたいって言ったら?」と言われると、ハルはパッと今にも泣きそうな顔を上げた。  
 
「オレはオレだけど、今のお前の知ってるオレじゃない。無理する必要は全く無い」  
 
ハルは視線を揺らし、そのまま俯いた。  
それが答えだと受け取り、獄寺はハルの体を離そうとしたが、ハルの細い腕が獄寺の背中に回った。  
 
「嫌じゃないです。無理もしてません」  
「ハル…」  
「獄寺さんは獄寺さんです。さっきのキス、ちゃんと獄寺さんのキスでした」  
 
そう言ってハルは顔を上げると、獄寺にそっと口付ける。  
 
「ハルは、獄寺さんが大好きです」  
 
頬を染めて微笑んで言うハルに、獄寺はまた唇を寄せた。  
最初は触れるだけ。そして舌先でハルの唇を軽くいじると、吐息と共にうっすら開いたその中に舌を潜り込ませる。  
躊躇いがちなハルの舌を絡め取ると、ハルは慣れなくも答えようとする。  
そんな様子がまた愛しくてたまらない。  
歯列をなぞり、ハルが小さく声を上げるとまた舌を絡ませる。  
 
「ご、くでら、さん……」  
 
唇を離すと、ハルの息は上がっていた。  
 
「大丈夫か?」  
「なんか…、ちょっといつもと違います…」  
「10年前のオレはまだいっぱいいっぱいでヘタくそだからな。  
お前を気持ち良くさせたいって思ってても、技術が付いていってねーし」  
 
そう言いながら、ハルの頭を優しく撫でる。  
 
「普段イイ気持ちにさせてやれない分、今日は良くさせてやるからな」  
「な、何を言ってるんですかー!」  
「任せとけって」  
 
さもすれば軽く暴れだしそうなハルを抱え、獄寺はベッドに下ろした。  
ハルの上に覆いかぶさると、また深いキスをする。  
 
「ふぁ……」  
 
堪えようとしているけど堪えきれないハルの吐息に獄寺は満足気に笑みを浮かべると、  
右手でハルのブラウスのボタンに手を掛ける。  
それに気付いたのか、ハルの両手が獄寺の右手を覆う。  
 
「あ、ちょ……」  
「ん? やっぱり嫌か?」  
「嫌じゃない…ですけど。その…ハル、胸ちっちゃいからガッカリされちゃうかも…」  
「大丈夫だって。10年後のお前だってそんなデカくねーから」  
 
何気なく言った獄寺の一言に、ハルは頬を膨らませる。  
そんな様子も10年後と変わんねーぞと言いかけたが、また膨れさせる原因になると思って  
「オレは小さい方が好きなんだよ」と言う。  
 
「今の獄寺さんは、ハルの胸はちっちゃいって文句言いますよ」  
「アホ、照れ隠しだ。小さかろうが大きかろうが、ハルならどんなだって良いんだよ」  
 
ハルから聞くあまりに幼い自分に呆れの笑いを零しながら、獄寺の手は器用にブラウスのボタンをはずしていく。  
「なんなんですか、それー」と、これまた照れ隠しに言うハルの手は、もう獄寺を制さない。  
ボタンを全てはずしたブラウスの前を広げると、高校生らしい可愛らしいブラジャーが姿を見せる。  
その上からそっと触れるとハルの体が少し強張る。  
 
「恥ずかしいか?」  
「ちょっと…」  
「まぁ今にそんな風に考えられる余裕無くしてやるけどな」  
 
言い終わるや否や獄寺はハルの耳を甘噛みする。  
 
「ひゃっ!」  
「ん? 耳は初めてか? ここも性感帯だぞ」  
 
耳元でささやかれると、それだけで背中がぞわぞわする。  
獄寺は手でハルの胸をやわやわと揉みながら、口で耳を攻める。  
舐めたり甘噛みをする度に、堪えきれないハルの声が漏れた。  
耳から頬へ唇を寄せ、とろんとした瞳のハルと視線を交えると、また唇を深く交わらせる。  
 
「ん……」  
 
首筋に舌を這わせると、その感触に軽くのけぞったハルの背に手を入れ、ブラジャーのホックを外す。  
 
「慣れて、ますね…」  
「伊達に10年もお前の相手してねーからな」  
 
すでに息の上がっているハルの言葉に獄寺が軽く笑ってそう言うと、  
緩んだハルのブラジャーを鎖骨までずらした。  
そして直にハルの胸に触れる。  
 
「あっ……」  
 
ブラジャー越しとは違う感触に声が上がる。  
獄寺の長い指がまだ小さい胸の突起をいじる。  
 
「んん、あっ……」  
「相変わらず感度良いな」  
 
満足気にそう言うと、獄寺はプクッと膨らんだハルの胸の先に舌を這わせた。  
 
「やぁ……んん!」  
 
わざと焦らすように突起の周りを舐め、それでも上がるハルの声を満足気に聞くと、先を口に含み舌で転がす。  
 
「あ! や…あン…! んふ……」  
 
急に篭った声に顔を上げると、ハルが口を押さえ声を堪えていた。  
 
「恥ずかしいか?」  
 
獄寺が聞くと、ハルは潤んだ目で小さく頷く。  
そんなハルの細い手首を掴んで口元から離し、「オレは嬉しいから声我慢しないで欲しい」と囁く。  
恥ずかしがりながらも嬉しそうに微笑むハルの体を少し浮かせ、  
ブラウスとブラジャー、そしてスカートをするすると脱がせた。  
 

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