MMが久しぶりに黒曜ヘルシーランドを訪ねてみると、犬と千種は留守で、代わりに見知らぬ少女がいた。  
MMが骸達の知り合いだと言うと少女は驚いたようだ。  
 
「クローム髑髏です。初めまして…」  
「ふーん。変な名前ね。私のことはMMって呼んで」  
「はい。MM…さん」  
 
小さく呟く少女を前にしてMMは肩を竦めた。  
骸と同じ髪型に改造した制服、髑髏マークの眼帯とインパクトのある格好をしている割に性格の方はだいぶ大人しそうだ。  
 
「アンタも殺し屋か何かなの?とてもそうは見えないけど」  
髑髏は困ったように眉を寄せた。  
 
「私は骸様の媒介なんです」  
「骸ちゃんの媒介?」  
髑髏は簡単に自分が守護者となった経緯を説明した。  
 
「なるほどね。私が知らない間に大変なことになってたのね骸ちゃんたら。で、あんたが代わりに戦ってるんだ」  
「はい…」  
 
(ホントにこんな子が戦えるのかしら?)  
虫一匹殺せそうにないかよわい少女をMMは値踏みするように見上げる。  
髑髏はMMの視線から逃れるように顔を背けた。  
自信のなさそうなその様子が気に障る。  
 
「あんたみたいな元々普通の子が戦えるの?遊びじゃないのよ。一歩間違えれば死ぬんだから」  
試すように挑発的な言葉を投げつける。  
しかし返ってきたのは今までの弱々しい声ではなかった。  
 
「私は本当は死ぬはずだった。だけど骸様が救ってくれた…」  
髑髏は自分の胸に手をやる。  
トクトクと、自分が生きている音が伝わる。  
 
「私がみんなの足を引っ張ってしまってるのは分かっています。  
でも骸様の役に立ちたい。私を守ってくれた犬と千種、受け入れてくれたボスのためにも…私は戦い続けます」  
小さな、けれど強い意志のこもった声にMMは何も言わず髑髏を見つめた。  
 
「…ごめんなさい。生意気なこと言って」  
「ううん。アンタ結構根性あるじゃない。気に入ったわ」  
ニッと笑って髑髏の腕を掴む。  
 
「これから付き合いなさいよ。どうせヒマでしょ」  
「え?付き合うって…」  
「買い物よ買い物。アンタもそんなダサい制服じゃなくてもっとオシャレなの着るべきよ」  
MMは強引に髑髏を外に連れ出す。  
 
「ほら行くわよ髑髏!」  
「は、はいっ…」  
髑髏は戸惑いながらもMMの後についていくのだった。  
 
◆ ◆ ◆  
 
二人で街を歩く。  
入った店でこっちの方が体のラインがキレイに見える、あっちは袖がかわいいと言い合いながら服を選ぶ。  
初めはMMのテンションに気圧されていた髑髏も次第に買い物を楽しんでいた。  
 
その時、角から男が二人曲がってきた。  
その中の一人に髑髏の肩がぶつかってしまう。  
「ごめんなさい」  
睨みつけてきた男は髑髏の顔を見てニヤニヤと笑う。  
 
「人にぶつかっておいてごめんで済ます気?」  
「許してやるからオレ達と付き合えよ」  
肩を掴まれ髑髏は身を固くした。  
 
「やめなさいよ。ちょっとぶつかっただけでしょ」  
MMが男達と髑髏の間に割って入る。  
「へー、君この子の友達?」  
「こっちもかわいいじゃん。なあ一緒にカラオケでも行かね?」  
男達はいやらしい笑みを浮かべてMMと髑髏を交互に見る。  
 
「アンタ達みたいなダサい奴らについていくわけないでしょ」  
MMは冷たく言い放ち髑髏の背を押して立ち去ろうとしたが、ドンッと突き飛ばされ床に倒れる。  
 
「きゃあ!」  
「MMさん!」  
「調子乗ってんじゃねーよバカ女!」  
「……!」  
キッと髑髏は男達を睨む。  
 
その途端彼らは悲鳴を上げた。  
「うわぁぁっ!?」  
「火事だぁっ!」  
バタバタと逃げていく男達をMMはぽかんとして見送った。  
火なんてどこにもないのになぜ彼らは火事などと言ったのか――。  
 
「大丈夫?」  
髑髏が手を差し伸べる。  
その手を取って起き上がりながらMMは尋ねた。  
「アイツ達に何かやった?」  
髑髏は何も言わずに微笑した。  
 
◆ ◆ ◆  
 
そんな騒ぎの後も二人は買い物を続け、休憩してから帰ろうとカフェに入った。  
「久しぶりに思い切り買い物したわ」  
大きな袋を椅子に置いてえは満足そうだ。  
「MMさんありがとうございました。私の服まで買ってもらっちゃって…」  
ぺこりと頭を下げる。  
 
「別にいいわよ。それよりさん付けはよして。敬語も禁止ね」  
「う、うん。じゃあ…MM」  
顔を赤くして名前を呼ぶ髑髏にMMは吹き出した。  
 
「バカねー。なに恥ずかしがってんのよ」  
「だって今までこんなふうに女の子と接することなかったから」  
親しく名前を呼び合う。  
肩を並べて歩きながら買い物する。  
カフェでお茶する。  
そんなささいなことが自分には初めての経験だと髑髏は話した。  
 
「…考えてみれば私もアンタが初めてだわ」  
「MMも?」  
「子供時代は生きるのに必死だったし、大きくなってからはお金以外信頼しなくなったからね」  
苦い過去を思い出してMMはわずかに顔を歪めた。  
 
辛そうな顔で見つめてくる髑髏に気付き笑顔に戻る。  
「でもアンタと今日一日過ごして楽しかったわよ。たまには普通の女の子みたいに過ごすのもいいかもね」  
「うん。私も楽しかった」  
髑髏も微笑を返す。  
それぞれ幸せとは言い難い過去を背負う少女達は初めて友達と呼べる存在に出会った。  
 
◆ ◆ ◆  
 
二人がヘルシーランドに戻った時にはもう夕日は沈みかけていた。  
まだ犬と千種は帰っていない。  
 
「MMはしばらくここにいられる?」  
期待を込めた髑髏の問いにMMは残念そうに首を横に振った。  
「次の仕事の依頼が入ってるから明日イタリアに戻らないといけないのよ」  
「そうなんだ…」  
 
肩を落とす髑髏だったが  
「でも今夜泊まっていくくらいなら大丈夫よ」  
というMMの言葉に  
「本当?」  
とたちまち嬉しそうに顔を輝かせる。  
それを見てMMも嬉しくなった。  
今日ここへ来て、髑髏に会えてよかったと心から思う。  
 
やがて犬と千種が戻り4人のにぎやかな夜は過ぎていった――。  
 
◆ ◆ ◆  
 
夜も更けてベッドに横になったMMは、遠慮がちなノックの音で起き上がった。  
「誰?」  
「私…。突然ごめんね。入ってもいい?」  
「いーわよ」  
パジャマ姿の髑髏がおずおずと入ってくる。  
 
「どうしたの?」  
「MMにお願いがあって…」  
「お願い?」  
「うん。あのね…」  
髑髏はためらいながら口を開いた。  
 
つづく  
 

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