「珍しいね、ユニが遅刻するなんて」  
「・・・・・・申し訳ありません」  
部屋に踏み込むなり、白い男が振り返りもせずに声を投げかけてきた。膝の上に黒髪の女性の姿が見える。ユニがここに来るまでの暇つぶしをしていたようだ。ユニが白欄の傍らに立つと、男の腕に絡めてられていた女の肢体が居心地悪そうに身じろぎした。  
「昨日の件に関しての処理に思いのほか時間がかかり、白蘭様の指定した時刻に間に合いませんでした」  
「ふうん?」  
温度のない瞳で一瞥を送られ、ユニはわずかに怯んだ。こちらの心が見透かされているような錯覚に陥りそうになる。  
嘘は言っていない。ただ、ここに来るのが嫌で、時間を必要以上に掛けただけだ。  
「まあ、いいや。座りなよ」  
ユニにそう言っておきながら、白蘭自身はクロームを抱えたまま立ち上がった。そのままベッドに乗り上げる。  
「じゃ、授業を始めようか」  
 
 
 
「先生、今日は前回の復習からだよね」  
「・・・っ!」  
何の遠慮もなく白蘭はクロームのワンピースの裾を捲り上げ、片手を膝裏に入れて足を広げさせた。下着はつけておらず、ユニの目の前に陰部が曝け出される。クロームは上げそうになった声を飲み込み、シーツをぎゅっと握り締めた。  
ユニは敵ながらクロームに同情した。白蘭に逆らえない点では彼女たちは同じ立場なのだ。  
「じゃあ、これの名前は?」  
男の指がクロームの陰核を強く押しつぶした。クロームの身体が小さく跳ねる。  
「・・・・・・・・・り・・・」  
「ん?何か言った?」  
「・・・・・・」  
「ねぇ、ユニ。覚えてないの?」  
白蘭は指先にさらに力を加えてグリグリと陰核を押しつぶす。  
「おやおや、数日前の授業も覚えてないなんて、真面目に受けてないのではないですか」  
それまで大人しくしていた骸が、嘲りを含んだ口調で詰り始めた。彼は今回も薬で身体の自由を制限されたままだが、相変わらず口は達者のようだ。  
 
「そんなことないよ。覚えてるよね、ユニ?」  
「・・・く・・・・・・クリトリス・・・です」  
恥ずかしさをこらえて、はっきりと声に出すと、それ以上の恥ずかしさが身体を熱くした。ただの音の羅列だと自分に言い聞かせても、そう簡単に割り切れるほどユニは冷静を保っていられなかった。  
「よくできました。それじゃ、次は・・・・・・」  
白蘭はひどく楽しそうにクロームの身体を好き勝手に使いながら、次々とユニに女性の性器の各部分の名称を答えさせていった。首から上は自由な骸も横から口を出してくる。  
「前回の復習」が終わった頃には、クロームの瞳にはうっすら涙が浮かんでいさえした。無理もないと、ユニは思う。  
前回彼女は女性の性器の各部の名称もろとも、今のように白蘭に辱められながらユニに教えさせられ、あまつさえその後、自慰を強要させられたのだから。  
涙こそ流さなかったものの、瞳から雫がこぼれる寸前だったし、もしかしたらユニがこの部屋を去った跡に、さらにひどいことをされたのかもしれない。  
白蘭の指が引き抜かれると、さり気ない動作でクロームは下腹部を隠した。  
「ああ、汚れちゃった。クロームちゃん、綺麗にしてね」  
「んんっ!」  
白蘭は薄っすら開いた唇から指をねじ込む。クロームは苦しげに眉を寄せながらも舌を指に絡めて自分の愛液を啜った。  
ユニが二人からそっと視線を外すと、面白くなさそうな顔をした骸が目に入った。顔にこそ出してないが、彼が不愉快な思いをしていることは想像するに難くなかった。  
「それで。今日の授業は何なんですか」  
「そう急かさないでよ。クロームちゃんは体力ないんだからさ」  
クスクスと嫌な笑い方をしながら、クロームの耳元に唇を寄せ、何事か囁く。人を不愉快にさせるのがこれほど上手い人物を、ユニは他に知らない。いちいち人の神経を意図的に逆なでしていく。  
白蘭から開放されたクロームは、少しふらつきながら膝立ちになり、ユニのほうをチラリと窺った。  
ユニがその意味を考える前に、彼女の肩からするりとワンピースの肩紐が外され、ゆったりとした作りの衣服は白い肢体を滑り落ちていった。下着をつけていない体は照明に照らされ、その白さを見るものに曝け出した。  
それほど凹凸は激しくないが、身体のラインは柔らかい曲線を描いており、小柄なわりに大きめなサイズの乳房は若々しい張りを保っている。身体のところどころにまだ癒えていない傷が残っているが、それがまたクロームの儚さをいっそう引き立てていた。  
クロームの裸体を初めて見たユニは、一瞬見惚れてしまった。どこか幼さを残しながらも、成熟した女の身体は十代の少女が持っていない甘い色香を放ち、当人の意思とは無関係に周りの人間を魅了していた。  
 
「む・・・骸様・・・・・・」  
躊躇いがちに主の身体に触れる。ユニがこの部屋を訪れたときにはすでに、骸の着ていたシャツのボタンはすべて外され、ベルトも引き抜かれていた。  
啄ばむようなキスを繰り返しながら、白い手が露出した肌をゆっくりと撫で、男の性欲に炎を灯していく。黒いスラックスの上から股間をなぞり、じれったいほど緩慢な動作で優しく揉む。  
クロームは頃合を見計らってすっかり硬くなったモノを取り出し、主の腰の上に馬乗りになる。  
(今日は最後まで・・・・・・)  
ユニはこくりと喉を鳴らした。ここから逃げ出したい気持ちと、この先を見てみたい気持ちが、ない交ぜになって胸を騒がせた。もし以前の彼女なら、迷わず逃げたそうとしていただろう。  
「ユニもこっちにおいで。入れるところ、しっかり見せてもらわないと」  
躊躇いがちに近づくと、顔を赤く染めたクロームと目が合った。お互い気まずくて、すぐに目をそらす。  
「くふふ・・・年下の少女に見られるのは、恥ずかしいですか」  
「あの・・・私・・・・・・」  
指摘されて俯いた姿は、頼りなさげで可愛らしい。普段は庇護欲を駆り立てるその姿も、時と場合と、受けとる側の性格によっては、加虐心を煽るだけだ。そして、ここにいる男たちは、決して優しい人間ではない。  
「でも、クロームは先生なんですから、お手本を見せなければいけませんよ」  
「そうそう。ユニは初めて見るから、ゆっくり入れてね」  
「さぁ、クローム。僕が欲しくてたまらないんでしょう?あそこがひくついてますよ」  
「骸君に触ってただけでこれじゃあ、咥え込んだだけでイッちゃうんじゃない?」  
意地の悪い言葉を浴び、涙を浮かべながらも、クロームは骸のモノを己の秘所にあてがった。呼吸を整えて、ゆっくりと腰を下ろし始める。  
(あ、あんなもの、本当に入るんでしょうか・・・)  
ユニは到底信じられなかった。大きさを見ただけでも入りそうになかったし、もし全部入れるとなれば、クロームの身体に相当の負担が掛かりそうだった。  
「んっ・・・・・・ぁ・・・」  
クロームが苦しげに唇を噛み締めた。それを見てユニはさっと青ざめた。  
(やっぱり、痛いんだ)  
亀頭部分が小さな秘所を押し広げ、今にも張り裂けそうである。どう見ても無理に押し込んでいるようにしか見えない。肌が裂けて血が出るのではないかと、ユニは目をつぶった。  
「・・・っ。クローム、力を抜きなさい。口をあけて、息を吐いて」  
「・・・は・・・・・・は、い」  
「ふふっ。力加減できないくらい、骸君が欲しかったの?」  
目を閉じても、耳から入る音は遮断できない。クロームの熱を持った吐息や、肌や衣服の擦れあう音、男たちの楽しそうな声が嫌でも頭の中に響く。見えてない分、その光景を想像してしまい、ユニは身体を小さく震わせた。  
 
「クローム、生徒さんが見てませんよ」  
「ユニってば恥ずかしがり屋さんだからね」  
「これでは授業になりませんね。先生、生徒さんを注意しないと」  
「いつも僕から言っててもつまらないし、クロームちゃんからも言ってあげて?ちゃんと見るように」  
男たちに逆らえないクロームは、震える声でユニに呼びかけた。  
「あ、あのっ・・・み・・・・・・見て、ください・・・」  
羞恥心を抑えたその声に、ユニは哀れみにも似たものを感じ、そろりと瞼を上げた。自分が見れば、彼女が責められることもないのだ。それに、ユニが見るまで彼らはあの手この手で攻めてくるだけだろう。  
「それではどこを見ればいいのか、わからないでしょう?」  
「っ・・・わ、私を」  
「クロームちゃんのどこ?いやらしい表情してる顔、かな」  
そっとクロームの表情を窺うと、泣きそうな顔で哀願された。  
「私のっ・・・・・・私と、骸様が・・・繋がってる、ところ、・・・・・・見てください・・・」  
ユニは心が痛んだ。こんなことをさせて、この男たちは何が楽しいのだろうか。  
(私は、ただ見ていればいいんですから)  
クロームがされていることを考えれば、その程度のことは何でもないことだ。  
恐々と、その場所に目をやると、クロームはすでに半分ほど骸のモノを咥え込んでいた。  
ユニが見ているのを確認した後、さらに深く腰が沈められていく。ゆっくりと男のものを飲み込んでいくソレは、ユニが思っていたよりもずっと大きく広がるようにできているようだ。  
「ユニ、怖がることないよ。女の子の身体はみんな、男を受け入れられるようにできているんだから。もちろん、ユニも、ね」  
白蘭はユニの耳元でそう囁くと、すべて呑み込み、一息ついているクロームの背後に回りこんだ。細い身体に手を回し、自分に引き寄せる。そうしてクロームの上体を後ろに反らせることで、接合部分が光の下に曝される。  
「あっ」  
急に動かされたことに驚いてか、クロームの秘所がきゅっと締まった。この体勢では些細な変化すらも一目瞭然だ。  
「クロームちゃん、僕が支えておいてあげるから、このまま動いて?」  
「そんな・・・」  
「大丈夫。僕も手伝うから」  
そう言いつつ、白蘭はクロームの腰を掴み、ゆっくり動かし始める。  
「くふふ・・・よく見えますよ、クローム。もっと僕を気持ちよくさせてください」  
「むく・・・ろ、さまぁ・・・」  
苦しそうではあるが、甘い声で鳴きながら、クロームは徐々に腰を自分から動かし始めた。この体勢では思うようには動けないが、円を描くように腰を押し付け、緩急をつけながら骸を締め付ける。接合部から蜜があふれ、粘ついた音が部屋に響く。  
 
その様子が一番よく見える位置にいるユニは、口内に溜まった唾を飲み込んだ。  
(気持ちよさそう・・・)  
始めはただ苦しそうだったクロームも、今は何か他の――体内で押さえきれない熱に翻弄されるように声を上げていた。可憐な声が、控えめに嬌声を紡いでいく。  
「そろそろかな。ユニ、よく見といてね」  
そういうと白蘭は腰を掴む手に力を入れ、クロームを乱暴に揺さぶった。一切クロームに対する配慮を感じさせない動かし方だ。  
「やんっ・・・・・・ぁあ、あっ・・・っ・・・・・・ああっ!」  
体内から沸きあがる快楽に耐えられないというように、切なげな声を上がると同時に、下腹部がきつく締め上げられた。一拍遅れて男の熱が腹の中で弾ける。  
男女の荒い息が部屋を満たす中、白蘭はクロームの腰を引いて繋がっていた二人を引き離した。萎えたソレが引き抜かれていくと、愛液で濡れていた接合部から白濁の液体が零れ落ちた。  
クロームの肌の色とはまた異なるその白はひどく卑猥な色に見えて、ユニは気まずくなり少し俯いた。  
クロームはかなり疲労しきった様子で、開かれたままの足を閉じようとするそぶりも見せない。身体に力が入らないのが、白蘭に体重を預けていた。  
「ご苦労様、クロームちゃん。今日の授業はここまでにしよっか」  
それを聞いたユニは間髪をいれず立ち上がった。  
「わ、私はこれで失礼させていただきます」  
「ああ、もう帰るの?次の授業は遅れないようにね、ユニ」  
白蘭の返事を最後まで聞かないうちにユニは踵を返した。  
廊下に出るとひんやりとした空気が肌を撫で、そこでようやく胸に溜まった熱を吐き出した。身体が、腹部が、じんと熱い。  
身体がこんなふうになったことは、「授業」が始まる前は一度だってなかった。こんな身体になってしまったことが、恥ずかしくてたまらない。こんなところ、彼には見せられない・・・・・・。  
(あの人を、こんなふうに欲しいなんて、思ったことなかったのに)  
ユニはうっすら涙を浮かべながら、人気のない通路を足早に進み、自室に向かった。  
 
 
――終――  
 

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