夜半、クロームは黒曜センターの自らの寝床の上に体育座りの状態で座り込んでいた。
「骸様……」
ぷっくりとした唇が薄く開き、そっと呟く。
犬と千種はもう寝ているのだろう、建物全体が静寂に包まれ、彼女の呟き以外には物音一つしない。
哀しそうな瞳が虚空を見つめる。
「……会いたい……」
その声は宵闇に吸い込まれ、反響すら聞こえない。
まるで自分の願いが神に切り捨てられたようだ。
クロームは一瞬そう感じたが、すぐに小さく首を振った。
私にとっての神様は、骸様。私は骸様のお役に立てればそれでいい。他には何もいらない……。
しかしそう考えれば考えるほど、哀しさと寂しさ、切なさが押し寄せて来る。
会いたい、会えない。役に立ちたい、役に立てない。そばにいたい、そばにいられない。
どうして自分は骸様を助けられないのか――そんな情けない悔しさも込み上げてくる。
想いばかりが胸に膨らんだ。
「骸…様……」
クロームはただただ骸のことを考え、切なさのままにそっと右手を自分の内腿へと当てた。
ひやりとした指の感覚に、ほぅ、と小さく息をつく。
さらさらと表面を撫でると、自分の掌なのにこそばゆい。
クロームは瞳を閉じて、夢の世界で出会った骸の姿を思い浮かべた。
穏やかな笑み、優しい声、不思議な瞳――それらを脳裏に宿すと、自然に体全体が焦れてくる。
クロームは右手を太腿からするりと動かし、緩やかにそれを秘部へといざなった。
清純な下着で覆われたそこは、両足と秘部自身からの湿気と発熱で、他の部位よりももったりした空気を纏っている。
辿り着いた右手が、下着の上からそれ全体に圧力をかけていく。
「……っ…」
彼女の息が僅かに乱れる。圧迫などほんの弱い刺激でしかないが、それは確かに彼女に小さな快感を与えていた。
「むくろ、さま…」
無意識に骸の名を呼び、指先はもっと強い刺激を求めて恥丘を彷徨う。
割れ目の奥にある豆のような突起を探し当てると、中指がそこだけを執拗に擦った。
「んっ……は…」
先ほどまでよりずっと強い快感がクロームを襲う。吐く息に熱が篭りはじめた。
――だめ、我慢できない――
クロームはそこを直接刺激したいという欲望に逆らえず、そろそろと下着の中に指を這わせた。
薄い恥毛を越え、ぴったり閉じた唇をこじあける。湿潤な内部には、既に少量の愛液が分泌されていた。
クロームは指先でそれ掬い上げ、上部の突起に擦り付ける。
「あっ…」
ピリ、とした感覚に体を震わせた――そのとき、異変は起きた。
『クフフ……随分と可愛いことをしていますね、クローム』
「!?」
脳裏に突然響いた、声。
クロームは驚いて辺りを見回すが、周りにはもちろん誰もいない。
声が――骸が笑った。
『君の意識に直接語りかけてるんですよ。分かるでしょう』
クフクフと楽しそうに言葉を紡ぐが、クロームは茫然自失といった様子で、まともな返事はできなかった。
「わ、私……」
骸様に見つかってしまった。女の子なのに、自慰、なんて。そんなはしたない、いやらしいところを。けがらわしいところを。骸様に知られてしまった――。
心臓は早鐘のように鳴り、顔からはすっかり血の気が引いて、愛らしい大きな瞳は細かに震えている。
そんなクロームの意識を読み取りながら、骸は語りかける。
『ほら、落ち着いて下さい。別に悪いことをしたわけじゃないんですから』
「で、でも」
『一人でなんて誰だってすることですよ』
「けど……私…」
優しげな骸の声に、クロームは少し落ち着きを取り戻してくる。しかし骸が次の言葉を続けると、再び凍り付いた。
『だから、どうぞ最後まで続けて下さい』
「え……!?」
彼女は全くの予想外だった一言に、大きく目を見開く。
「そんな……」
とてもそんなことはできないと、顔を真っ赤にして俯いた。
『僕は、君が僕のことを考えてしてくれていたことが嬉しいんですよ。
僕で頭をいっぱいにしている君をもっと見たい』
軽やかに、そして諭すように、骸の声がクロームの頭の中に響く。
『見せてくれますね?』
「……は、い…」
震えながら、ゆっくりと頷いた。
クロームは骸の命で下着を取り去ると、その指を、戸惑いながら先ほどまでの位置に戻した。
『すっかり乾いてしまいましたね』
そう骸が言ったが、極度の緊張と興奮状態にあるクロームはその声だけで再び――いや、先ほど以上に蜜を滲ませる。
「…は……っ」
それを掬いとり、勃起した突起に塗り付ける。
「ふ……ぁ…」
くちゅりという湿った音が響き、クロームを更に官能的に煽り立てた。
普段愛らしい口唇は半開きで熱い吐息を漏らし、ひどく性的に見える。
彼女は中指をぐにっと突起に押しつけた。
「あっ…ん」
腰が跳ねるように動く。「やっ…ん…ぁ」
続いてゆったりとした速度でそこを擦ると、それに合わせてますます体全体がひくひくと震えた。
『いつから』
骸が突然口を挟む。
『いつから一人でしてたんですか』
その問いに、クロームは困惑して動きを止める。
『手は止めないで』
そう骸に促され観念したのか、再びいやらしく指を動かし、嬌声混じりに答え始める。
「…んっ……三、ヶ月前…です」
『やり方はどうやって知ったんです?』
「ふぁっ…ん……その、本、で、あ」
『ほう、本。それは自分で買ったんですか』
どうして骸様はこんなことを聞いてくるんだろう。クロームの瞳にじわりと涙が滲む。
「捨、てられ…てたん…っ…で、す…」
答えながらも、はぁはぁと荒く息をつき、指先の動きは加速し続けている。
『それで読んでやってみたくなったわけですか』
クロームはただ首を縦に振るだけだった。
ぬちゃぬちゃとなまめかしい音が高く響く。蜜口からは絶えず愛液が溢れ出て、シーツにまで垂れていきそうなほどだった。
「あっ…んっ…ああ」
『僕に抱かれる想像をしてたんでしょう?』
「ゃ…っん…骸様っ…むくろ、さま…」
骸の声を聞く度に、クロームは胸が高鳴った。それはそのまま快楽へと繋がる。
『可愛いですよ、クローム……』
「あ…あ…んんっ……むくろさまっ…むく…さ…っ」
ただ欲望の為すままに、激しく指を動かす。
自慰でありながら精神的にはセックスに近いこの行為は、彼女に過去経験したことのない強い快感を与え、そして――
「あっ…い…んあ…あああああッ」
身体を弓のように反らし、果てた。
――おやおや、犬たちに見つかったら大変でしょうに。
頂に達した後、クロームは下着も穿かずに吸い込まれるように眠りに落ちた。
意識を失っているため、語りかけても返事はない。
――しかし驚きましたね……。
性に疎そうな少女が、まさか自慰に耽っているとは。
骸はそこまで考えて、そうさせるほど寂しい思いをさせているのは自分なのだと気付くと、曖昧な自嘲の笑みを零しクロームの意識から消えた。
『もう少し待って下さい。必ずここから出てみせますから。……Ti amo.」
おわり
●おまけ
同時刻の牢獄
復讐者「ちょw夢精すんなwww」