「覚悟はいいかい、手を出しな!」  
 大声を出せばスパナがびくりと肩を震わせた。  
床にへたりこんでいるスパナの前に、アイリスはすらりとした足を惜しげもなく晒し仁王立ちしていた。  
スパナは思案げに視線を巡らせる。その先にはグローブと指輪を死茎隊にもぎ取られているツナがいる。  
助けはないと観念したスパナは、アイリスの言葉通り両手を差し出した。  
掌を上にして、いたずらをした子供が厳格な教師にお仕置きを受けるのと同じかたちだ。  
 アイリスはそれを見て吐き捨てる。  
「あんたアタイを馬鹿にしてんのかい」  
「え…」  
「そのクソ厚い手袋したまんまでアタイの鞭を受けようっての?いい度胸してるじゃないか」  
 アイリスはバラ鞭の柄でスパナの剥き出しの手首をはたいた。乾いた音が響く。  
スパナは渋々とエンジニアグローブをはがしはじめる。いかにも面倒臭げだ。  
その態度にカチンと来て、鞭の柄でスパナの顎をぐいと上へ押し向けた。  
不服そうな目を覗きこんで、アイリスは噛んで含めるようにさとす。  
「これはダメあれはイイっていちいち言ってやらなきゃわかんないのかい?  
 ものも言えない赤ん坊じゃあるまいし、いい大人が恥ずかしいと思いな!」  
普段は何を言っても蛙の面に水といった風のスパナにも、恥の概念はあるらしく、  
アイリスに責められて情けなく顔をしわくちゃにして目尻を赤らめた。  
 おやおや、とアイリスはグロスたっぷりの唇を笑わせた。なかなかイジメがいがありそうだ。  
大きく膨らんだ胸の奥がずきずきと疼く。きゅんと凝る乳首に制服が擦れて軽く震えがきた。  
身を突き上げてくる高揚のまま、鞭を振りかぶる。ひゅん、と素早く風を切る音がして、  
スパナは身をすくめて目を逸らした。  
ぺろり、とアイリスは舌先で歯をくすぐった。大の男が鞭ひとつに怯える様にぞくぞくする。  
「おっと、アタイとしたことが。武器に点した炎は消しとかなきゃいけないね、  
 アンタの手が膨らむところなんて見たくないし、お仕置きが長く楽しめないもんな」  
振り下ろそうとした手を寸前で止めて、アイリスは鞭の先をちょいちょいといじくった。  
 寸止めされて気の抜けたような顔で見上げてくるスパナに、ひょいと首をかしげて、  
「そんなに怖がることないさ、鋼鉄の板で骨を砕こうってんじゃないんだから」  
 にこりと微笑んでやる。スパナは素直に、それもそうかとうなずいた。  
 この男は妙な機械をいじくるしか能がないらしい。その他についてはまるで子供のように愚かだ。  
 ──それじゃ、アタイの鞭をおもいっきり教え込んであげようかね。  
 アイリスは従順に差し出されたスパナの手に、乾いた皮の束を振り下ろした。  
 
 
おわり  
 

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