「んっ、ふぅ…」
ホテルの部屋に入ってからどれだけの時間が過ぎたのか。
口の中のモノは最初より大きく硬くなってはいたが、未だに絶頂を迎える気配がない。
イーピンは上目遣いにベッドに座る男の顔を窺った。
静かな黒い瞳がじっと自分を見つめていて、顔が熱くなるのを感じる。
彼――雲雀は一体どう思っているのだろう。床に這いつくばり、男性器に下手な技巧で必死に奉仕するこの姿を。
子供の頃からずっと好きだった彼。だが勇気を振り絞って想いを伝えても、冷たくあしらわれてしまった。
それでも諦め切れなくて、体だけの関係でもいい、側にいさせて欲しいと懇願したのは自分だ。今更後には引けない。
イーピンは再び愛撫を再開した。愛しい男に悦んでもらいたい――彼女を動かすのはただその一心だった。
「……っ」
雲雀が息を詰めるのが聞こえた。絶頂が近いようだ。(雲雀さん感じてくれてる…。嬉しい)
イーピンは先端を重点的に責めた。
雲雀の手が頭を押さえてきた。喉まで深く銜え込まされて、イーピンは咳き込みそうになるのを耐えた。
「むぐぅ…んんーっ」
「くっ…」
口内に熱い液体が放たれる。
何とも言えない味が口いっぱいに広がった。
「ん…。ごほっ」
飲み込み切れない唾液と精液が顎を伝って床を汚す。それでも口に残った雲雀の欲望をイーピンは健気に飲み込んだ。
「よく飲めるね。そんなモノ」
奉仕の間ずっと黙っていた雲雀が言葉を発した。欲望を放った直後にも関わらず冷たい静かな瞳にイーピンは身を縮ませながらも
「雲雀さんだからです…」
と小さく囁いた。
暫しの沈黙の後、雲雀がベッドから立ち上がる気配にイーピンは顔を上げた。服装を整えた雲雀はさっさとドアに向かって歩いていく。
「え…。雲雀さん?」
戸惑った声を上げるイーピンに雲雀は振り返った。
「やっぱり君とは付き合えないよ。体の関係だけだとしても」
「そんな…。どうしてですか?」
やはり自分では雲雀を満足させられなかったのだろうか。追いすがるイーピンに、雲雀は一言
「君みたいな子は面倒だから」
とだけ答えて部屋を後にした。
※
『雲雀さんが好きです』と告白してきた時の真っ赤な頬。
『体だけの関係で構いません。側にいさせてください…』震えていた声。
懸命に奉仕をしながら見上げてきた潤んだ瞳。
そして――ドアを閉める瞬間に見た、流れ落ちる透明な涙。
「本当に…面倒な子だよ」
長い廊下を歩きながら雲雀は一人呟く。外へと向かう足取りが重いのは、気のせいだということにした。
END