「よせっ……!」
うつ伏せに上から押さえつけられた苦しい体勢でラルは声を絞り出した。しかし背後の男は訴えを無視し、背中に体重を掛けて彼女の自由を奪う。
不覚だった、とラルは唇を噛む。まさかこの男がこんなことを仕掛けてくるとは思ってもいなかった。彼のことは友人として信頼していたのに。
男の手が胸に伸び、ラルはもがいた。
「やめろリボーン!」
耳元で低く笑い声が響く。
振り返って間近に見たリボーンの黒い瞳は酷薄な光を宿すわけでも、情欲に燃えているわけでもなくいつもと同じだが、それがラルにはかえって恐ろしく感じられた。
「喧嘩中でもコロネロに操立てるのか?」
恋人の名前にラルは瞳を伏せる。リボーンの言う通り今コロネロとは喧嘩中だった。
コロネロと喧嘩すること自体はさほど珍しくはない。付き合ってから些細な考え方の違いで争うことは度々あった。
だが今回はラルが意地を張って、謝るコロネロを許そうとしなかったためズルズルと長引いている。もう一ヶ月互いに口を利いていない。
ラルも次第に怒りが鎮まり後悔と反省が心を占めていた。最初の争いの理由なんて既に思い出せないほど小さなことだ。もうこちらから折れて仲直りしたかった。
しかしどう言って謝ればコロネロは許してくれるだろうか。もしかしたら自分のような頑固で意地っ張りな女、愛想を尽かしてしまったかもしれない。そう思うと歩み寄るための一歩が踏み出せなかった。
だから共通の友人であるリボーンを部屋まで訪ねて相談したのに――まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
考えてみれば昔からリボーンとコロネロは張り合っていたし、何よりこの男は人をからかうのが大好きだ。
こうして自分を襲うのも、いつもの悪ふざけの延長なのだろう。だがこのまま犯されるわけにいかない。
「そうだ! オレはコロネロを裏切りたくな……」
必死で叫ぶラルを封じるようにタンクトップの裾から手が入り込んできた。引き締まった腹部を撫で上げ、胸へと辿り着く。
「やめっ…!」
逃れようともがいても鍛え抜いたラルでさえリボーン相手では手も足も出ない。
リボーンはそんなラルの抵抗すら楽しんでいた。乳房を覆う布の上から手のひらをゆるゆると滑らせる。
「ふぁっ…」
それはまるで羽根でくすぐるかのような弱い感覚であったが、丸一ヶ月性行為をしていない体には十分な刺激となってラルを苛んだ。小さく肩を震わせるラルにリボーンは薄く笑う。
「嫌々叫んでたくせにこの程度で感じてるのか?」
「あっ……、んんっ……」
リボーンの言う通り体が喜んでいるのは否定できない。
(相手はコロネロじゃないのに……)
更にラルを試すかのようにリボーンは邪魔な布を押し上げ直に触れた。
弾力のある乳房を揉み感触を味わう。それは豊かな質量と滑らかな手触りをリボーンに伝えてきた。
先端を指の腹で擦ってやると徐々に硬くなってくるのが分かる。
ラルの唇からは悲鳴よりも矯声に近い声がこぼれた。
「お前もこんな声が出せるんだな。結構可愛いじゃねーか」
からかいを含んだ声に頬がカッと熱くなる。
(コロネロ、すまない…)
無理矢理とはいえ結局リボーンに良いようにされてしまっている自分が不甲斐ない。ラルは心の中でコロネロに謝罪した。
「考え事する余裕があるのか?」
「――やっ!」
乳首を強く摘ままれると同時に舌で耳朶をなぞられた。甘い痺れが背中を走る。
じわり、と秘部から溢れた蜜が下着を濡らすのが分かる。それを見透かしたかのようにリボーンがグリグリと指を押し付けてきた。
「あぁ――!」
柔らかな秘肉を絶妙な強さで刺激されラルは達した。
体の力が抜けぐったりしている所を仰向けにされた。ジーパンと下着を一気に引きずり降ろされ、濡れた箇所が空気で冷やされる。逃げなくてはと頭では思うのに体がうまく動かない。
「もうこんなに濡らしてんのか。本当にエロい体してんな」
「ひぅ!」
秘所に指を突き立てられラルは悲鳴を上げた。リボーンの指は無遠慮に肉襞をめくり上げ肉芽を擦る。掻き回される陰唇からはグチュグチュと卑猥な音と共に愛液がこぼれた。
「やめろ、抜けっ…!」
「分かった」
あっさり言い放ちリボーンは指を引き抜く。
「え……」
体内から異物感が消え、思わず見上げてくるラルにニヤリと口端を上げる。
「抜けって言うから抜いてやったんだが…物足りねーって顔してるな」
「! 誰がっ…」
「違うって言えるか?」
入り口周辺を指でなぞられラルはわなないた。そんな刺激じゃ足りない、もっと欲しいと全身が訴えるのを感じる。
(ダメだ……!)
このままでは体だけでなく心までコロネロを裏切ってしまう。それだけは出来ない。
「一言欲しいって言えば楽になるぞ」
「絶対…そんな、こと…言わない…!」
「あくまでも意地を張るつもりか。それでもいいぞ。その方がオレも楽しいしな」
陰唇から手が離れる。が、すぐに別の感触が押し付けられた。その熱い塊がリボーン自身だと認識すると同時に、ラルは一気に刺し貫かれた。
「や、あぁ――っ!」
大きく見開かれた瞳から涙が落ちる。恋人以外の男を受け入れてしまった衝撃と、それと同時に沸き上がる快楽の波にラルは翻弄された。
「うぁっ、やだ、嫌だ……!」
「その強情さがどこまで続くか楽しみだな」
心底愉快そうな顔でリボーンは抜き差しを始めた。
「はぅっ! や、め……。あぁんっ!」
突き上げられる度大きな乳房が揺れる。乳首に歯を立てられても、感じるのはもはや痛みではなく快感だった。
(嫌だ、感じたくない! コロネロ……!)
コロネロに抱かれる時の幸福感とは全く違うのに、気持ちに反してリボーンの動きに合わせ自然と腰が揺れてしまう。膣口から止めどなく溢れる蜜が男の抽送を助けた。
「これじゃあ仮にコロネロに見られてもオレに強引に犯されたなんて言い訳通用しねーなラル。お前のココ、オレのを銜え込んで搾り取ろうとヒクヒクしてるぜ」
「黙れ!! 言うな……!」
自分が一番分かっている。無理矢理陵辱されているのに感じている。自分がこんなにいやらしい人間だなんて思いもしなかった。
リボーンの動きが速くなった。粘膜を激しく擦られ、脳髄が痺れるような感覚を味わう。
「たっぷり注ぎ込んでやる。受け取れ」
「や、あぁ――!」
逃れようとする腰を掴まれドクドクと熱い液体を最奥に放たれる。
「あ、ああ……」
射精を終えるとリボーンはラルの体内から出ていった。トロリと白濁がこぼれる感覚に身を震わせながら、ラルはぐったりと床に体を投げ出した。
……が、まだ息も整わないうちに再びうつ伏せにされた。尻を高く上げた状態に固定される。
「な、何を…!?」
「第2ラウンド開始だ」
残酷な通告にラルは青ざめた。リボーンはこの上まだ続けるつもりなのだ。
「もうやめ……痛っ!!」
今までリボーンを受け入れていた場所よりも更に後ろ――菊門に指が侵入してきた。誰にも触れられたことのない其処は、指の先端までしか入っていないにも関わらず激しい痛みを訴える。
「コロネロとは試したことないのか? ココ」
「う、…うぅ……」
ラルは脂汗を流しながら頷く。
「それならオレが教えてやる。アナルセックスの良さをな」
「ひっ!」
アナルの内部で指が蠢く。初めて体験する感触にラルは体を硬直させた。
(い、痛い…。こんな所弄られて気持ち良いわけない…)
「キツいか。初めてじゃあ仕方ねーな」
肉芽を捏ね回し秘裂を弄ると体が弛緩する。それを見計らってリボーンは更に指を押し進めた。
「ぐっ……」
ゆっくりと円を描くように指が腸壁を擦る。ラルが痛がって悲鳴を上げ、抜いてほしいと懇願しても知らぬ振りだ。
(コロネロならオレが嫌がることはしなかった…)
大切にされていたのを今更実感する。そんな彼に対し自分は素直になれず素っ気ない態度を取ってばかりだった。
もっと素直になれていたら、喧嘩してもすぐに仲直りできただろうしリボーンに襲われる羽目にもならなかった。
後悔が再び押し寄せた時、ラルは自分の体の異変に気がついた。
「……あ?」
リボーンの指は相変わらずアナルを嬲っているが、最初の時の痛みはいつの間にか消え失せている。それどころか新たな感覚が生まれていた。
(嘘だ、こんな……)
胸や秘所を刺激されている時と似た痺れが蕾から生じていることにラルは戸惑った。
「ふぁっ、んん…。……どうして……?」
「もう良くなったのか。思ったより早かったな。素質あるぞ」
痛みを訴えていた声が艶を帯びているのを確認してリボーンは指を抜いた。物欲しそうにひくつく其処に自身を宛がう。
「やっ……。もうやめて、くれ…」
「まだそんなこと言ってんのか。見てみろ」
呆れたように呟いて、リボーンはラルの顔を正面に向けた。
「…………!!」
蕩けた瞳、紅潮した頬。唇の端からはだらしなく涎を垂らした自分の姿が部屋の隅の姿見に映し出されている。理性のない発情した雌犬のようなその姿にラルは愕然とした。
「いい加減認めろ。自分が好きでもない男に抱かれて、恋人にも触らせたことのないアナル弄くり回されて感じる淫乱だってな」
「っく……」
浴びせられる容赦ない罵倒に耳を塞ぎたかったがそれすら叶わない。
それにリボーンの言っていることは正しい。コロネロにさえ許したことのない場所を好き放題に弄ばれ、嫌悪感と痛みしか感じなかったはずなのに、今では蕩けそうなほど気持ちが良い。
(……オレは結局ただの女に過ぎないのか)
「行くぞ」
「――っ!!」
声と共に蕾の中へリボーンが入ってきて、ラルの思考はそこでストップした。
指とは比較にならない圧迫感に涙が滲む。が、挿入が繰り返されるうちに今まで味わったことのない新しい感覚に神経を支配される。
(気持ち、良い……。アナルがこんなに感じるだなんて知らなかった……)
リボーンによって開発された菊花での快感にラルは陶酔していく。
コロネロへの罪悪感、リボーンへの怒り、自分への失望も今はどうでもよかった。もはや官能の虜と成り果てたラルはただひたすらに快楽を貪るのみだ。
触ってもいない秘裂から溢れた蜜が絨毯に染みを作り、リボーンを銜え込んだ箇所はねだるように収縮する。
鏡に映る淫らな女の顔にリボーンは満足げな笑みを漏らすと一際深く突き上げた。
「――っ」
腸の奥へ二度目の精を受け、心まで白く塗りつぶされそうな感覚に満たされる。瞼の裏に恋人の姿が浮かんだが、それは一瞬のことでラルの意識は闇へと沈んでいった。
(終)