ヒバリさん、
吐き出そうとした言葉は、うまく音にならなくて、
のどの奥から空気が抜けるみたいな音がした。
ハルは目の前のからだにすがりついて、助けを求めるように、
何度も、何度も、心の中でヒバリを呼ぶ。
ヒバリさん、ヒバリさん、ヒバリさん、
背中に回された手が、
ぴったりとくっついている下半身が、
首にかかる息が、
全部が熱くて、からだ中の感覚が麻痺してくる。
ハルが、先にスキを見せた。
誰もが恐れるヒバリにハルは普通に接した。
ヒバリもハルには一切手を出さず、その様子をうすく笑って見ていた。
後ろを追いかけて、ジョーダン混じりに声をかけたり。
ツナの中学に寄った時は、驚かせようと応接室に押しかけたり、していた。
ヒバリはそれを軽くかわすだけで、
ハルはそうされる度落ち込んでいたはずなのに。
なのに、今はこわい。
ヒバリがこわいんじゃなくて。
ハル自身が、どうにかなってしまいそうで、こわかった。
はじめて、こんな風に触られた。
はじめて、キスをした。
大事に、大事に、まるでお姫様みたいに扱われて。
夢中になった。
「……ヒバリさん…っ」
ぎゅう、と閉じた目から、あったかい涙がこぼれてきた。
悲しいとか、痛いとか、そんなんじゃなくて。
ただ、目を閉じると自然に出てくるやつだ。
「……、」
ヒバリが、耳元で囁いたのは、「ハル」という名前。
もう、それだけでぞくぞくして、からだが震える。
「…っ、やだ」
もう、止めて。
頬を伝う涙の筋に、ヒバリの舌が這う。
ハルはその生ぬるい感覚から逃れたくて首を振るけれど、
まるで抵抗になっていない。
だって、もうからだの力なんか抜けきっている。
「ヒバリさん、」
溺れそうな人みたいに、ヒバリの背中に腕を回して、しがみついた。
ふふ、と小さく笑ったような声が聞こえたけれど、
確認出来るだけの思考は、もう無い。
「はひ…、お願い、ヒバリさん。もう、…がまんできない、です」
上半身ばかりさすってくるヒバリの手がもどかしくて、
ハルは達してしまいそうな下肢を、ヒバリの太腿にこすり付けた。
それでも、ヒバリは何もしてくれない。
(イジワル。)
涙でいっぱいになった目でヒバリを睨み付けると、ぼんやりとした視界の先で、
ヒバリがちょっと笑っているのが見えた。
ハルはたまらなくなって、その顔にキスをした。
首のところに、赤い小さなキスマークを見つけたのは、
ヒバリに「さよなら」と言った後だった。