風紀財団研究施設内にいくつもある大広間の一つ。  
だだっぴろい畳敷きのその空間に二つの人影があった。  
各々属する組織から見れば不自然はないものの、草壁哲也とラル・ミルチという組み合わせは、なかなかに珍しいものだ  
 
った。  
そんな珍しい取りあわせの二人が一緒に居るのには理由があった。ラル・ミルチ用の着物を作る採寸のためだった。  
明文化こそされていないが、一部の例外者を除き、この施設内に足を踏み入れる者は着物を着用するというのが、この建  
 
物での暗黙のルールだった。これまでになかった財団側とボンゴレ側の行き来が発生する以上、来訪者用の着物も新たに  
 
誂える必要があった。男物の着物ならばどうにか間に合わせることができていたが、問題は女物だ。なにしろ今までここ  
 
を訪れる者はほとんどが男だったので、女物の着物の用意がなかったのだ。いくらなんでも男物の着物を渡すわけにもい  
 
かず、こうして採寸をし、一から着物を誂える事になった次第だった。  
「くだらんな」  
むっつりと見るからに不機嫌そうな顔でラル・ミルチは吐き捨てた。無駄を嫌い、実を取る考えの彼女には理解し難い部  
 
分なのだろう。  
「さっさと終わらせろ」  
「では、失礼します」  
十年前はまさか自分がこんな事をするようになると思いもしなかったが、雲雀の意向を第一に思えばこそ、取り立てて反  
 
発を覚えることもない。  
慣れた様子でメジャーを手にし、草壁は胸まわりから計ることにした。  
脇から背中を通り、胸の前で目盛りをあわせる。と、図らずも両の膨らみが手の甲に触れる。  
しっかりと触れたわけではないが、それでも柔らかくはあるが張りのある感触が確かに感じられた。  
慌ててメジャーごと手を離し、頭を下げる。故意ではないとはいえ、つい顔が赤らむ。  
 
「失礼しました……」  
「構わん。それくらいのことを気にするな」  
草壁の様子に、ラルは面白そうに笑った。元は軍隊で教官をしていた彼女からしてみれば、いちいち女である部分を気に  
 
する方がおかしいのだろう。  
「意外と初心なんだな」  
ふうん、と感心するような声に、今度は羞恥心で顔が赤くなる。  
と、不意に足払いをかけられ、あっさりと畳の上にひっくりかえる。受け身をとることもできず、強かに背中を打ちつけ  
 
、一瞬息が止まった。  
「っつう……。ラルさん!何を……!?」  
気がつけば自分の体に馬乗りになったラルが不穏な空気を漂わせ、こちらを見下ろしていた。  
「気が変わった。  
折角だ。気になるんだったら、いっそのことじっくり楽しませてもらおうじゃないか」  
ぺろりと唇を舐め、肉食獣を思わせる凶暴な笑みを浮かべたラルに、草壁は思わず恐怖を覚えずにはいられなかった。  
不味い。食われる。  
本能的に感じる恐怖と危機感に必死でもがくが、相手はびくともしない。体のつくり自体は女のものとはいえ、鍛えられ  
 
た戦士のものだ。加えて体術も知り尽くし、草壁以上の経験までもある。どう足掻こうとも、結末は見えていた。  
「まあそう嫌がるな。たっぷり可愛がってやる」  
(南無三……!)  
まるで戦場に赴く戦士のように高揚した様子で、にやりと笑うラル・ミルチの顔が近づく。  
草壁はこれから己の身に起きるであろう事に覚悟を決め、奥歯を噛みしめた。  
 
 

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