寝起きのベッドの中でツナの顔を見て、
ハルはうふふ、と気持ち悪いくらいに笑顔を作った。
この人が大好きで、大好きで、たまらなくて。
それで、笑った。
傍に居るととても落ち着く。
恋人が出来たのも、こんな気持ちになったのも初めての事で、
最初はとまどいもあったけど、今はそれに段々慣れてきて、
この場所が凄く居心地良く感じられてきた。
まだ瞼を閉じて眠っているその人の顔をじっと見て、ハルは顔を近付ける。
男の人を、どうしてこんなに可愛いって思うんだろう。
至って普通の男が目の前で寝ているだけなのに。
ハルは心の中で思うと、その鼻先にチュと唇をつけた。
ツナは一瞬顔をしかめて、だけど起きることはなく少し身じろぎしただけだった。
時計をちらりと見ると、まだ目覚まし時計も鳴らない時間。
こんな時間に起こしちゃ可哀想だなあ、と思ってツナはそれ以上イタズラするのをやめた。
やめて、ツナの顔を熱心に見ることにする。
以前は考えもしなかった、決してこんなに近付くことのなかった、ツナの顔。
安心しきった様子で、何も疑うことのない寝顔をさらけ出している、ツナの顔。
じっと見ていると、やっぱり見ているだけなんて勿体ないなあ、って思ってしまった。
こんなに、
こんなに、
大好きなのに。
見ているだけなんて、勿体ないですよね。
ハルはふと、付き合う前の自分を思い出す。
あの頃は、見ているだけで本当に満足し居た。
自分の中の欲望になんて、気付かないでいた。
いや、そんなふりをしていただけかもしれない。
触れたいと、何度か思った事も全部心の中に閉じこめて、そうしてこの人を忘れようとまで思った。
だけど無理だった。
そうして自分は今、ここにいる。
「ツナさん、」
付き合うようになってからも、この呼び方は相変わらずだ。
ツナは、変わらず「ハル」と呼んでくるが、以前よりもっと、
愛しい人を呼ぶ響きが込められている。
ハルの小さな声に、ツナが目を開いた。
まさかそれだけで起き出すなんて思っていなかったハルは少しびっくりして、動けなくなる。
せめて寝たふりでもできれば、この状況を誤魔化すことだってできたのに。
目覚めたツナの目がこっちをじっと見ているのを見て、ハルは呼吸を止めた。
「……ハル、」
ツナが、小さな掠れた声で名前を呼ぶ。
それだけで。
ただ、それだけで。
ハルの胸は大きく跳ね上がり、顔は真っ赤になる。
だけど寝起きのツナは何も気付いていないみたいで、
ハルはどきどきする赤い顔を半分、ふかふかのまくらに埋めて隠した。
半分隠したのは、それでもツナの顔を見ていたかったからだ。
ハルがまくらに顔を埋める仕草を見て、可愛いと思ったのかツナが手を伸ばしてきた。
ゆっくり上体を動かして、ハルに覆い被さろうとする。
(…うわぁ)
ツナの顔が近付いてきたので、ハルは目を閉じた。すると思った通りに唇にキスが落ちてくる。
(ツナさん、……)
ぎゅっと目を閉じた、顔の真っ赤なハルは、微かに震えている気がしていた。
凄く、どきどきする。
朝っぱらからツナがこんな事を仕掛けてくるのは珍しい。
ハルはキスされた唇をぺろっと舌で舐めた。
他人の温度が残る唇が、少し痺れている気がするのは気の所為かな。
ハルは、今度は自分からツナにキスをした。
ツナの顔は、寝ぼけているのか、笑っている。
「ツナさん、おはようごさいます」
「おはよう。ハル」
そのやりとりは、まるで新婚の夫婦みたいだ。と、思ったハルは少しだけ笑った。
今日は、良い日になりそうだな。