「また、怪我が増えているな……」
アーデルハイトの白い手は、指先がわずかに冷たく、手のひらがあたたかかった。硬質な声に秘められたやさしさがわずらわしくて、炎真はふいと顔を背けた。
「平気」
「見せてみろ」
ボタンをひとつずつ外され、シャツが脱がされる。炎真は抵抗もせず、かといって協力もせず、人形のようにされるがままになっていた。肌を覆うものがなくなったとき、アーデルハイトが小さく息を飲むのが聞こえた。
彼女の目に映った傷跡の想像はついたけれど、自分ではまだ確認していない。風呂場の鏡にでも映してみない限り、わからない背中側だった。
「炎真……ズボンも脱げ」
「嫌だ」
「いいから」
ふう、とため息をひとつついて、ズボンを脱ぐ。肩越しに振り返って、鉄の粛清女の瞳がひどく揺れているのを確認して、言われる前にパンツも脱いだ。
ひゅっ、とアーデルハイトののどが鳴って、それきり石のように沈黙した。
今日イジメてきた連中は、ことさらひどかった。ズボンを脱がされるのはよくあることだったが、物陰に連れこまれ、パンツまで脱がされたあとで。
なよっちいなこいつ、オンナみてー、なぁなぁおまえオトコの犯り方知ってるか? と、複数がかりで押さえつけられ、そして……。
「……暴力ふるうヤツなんて、バカばっかりだ」
乾いた声でそう言ったら、後ろからいきなり、ひどく暴力的に抱きすくめられた。
「……バカ……ッ……!」
驚いた。あの鉄の粛清女の声が、涙にうるんでいる。
「アーデルハイトでも、泣くことあったんだ……?」
「当たり前だ。どうしてお前は……お前は、こんな……っ……!」
炎真は、腕の中でぎこちなく身体の向きを変えて、向き合った。アーデルハイトは、本当に泣いていた。いつもはきりりとした両の目から、二筋の涙が光をはじいて流れて、あごにつたっている。
つらそうにゆがんだ眉根を見たとき、炎真の心の中で、皮肉なことに小さな歓びの気持ちが湧いた。
顔を近づけて、震える唇に口づける。エサをねだる雛鳥のように、ぎごちなくついばんだ。裸の胸板に、制服に包まれた弾力のある乳房が当たる。
涙をこらえるためか、ぐっとくいしばられた唇に、もう一度触れた。
「僕が傷ついたら、アーデルハイトは泣くんだ……?」
少し微笑ってそう言ったら、アーデルハイトの瞳に、見えない炎が燃え上がった気がした。
あっという間に視界がぐるりと回った。気づくと炎真は、床の上に仰向けに押さえつけられていた。
「痛いよ、アーデルハイト……結局、君も暴力なんだね」
「……そうだ、暴力だ。くやしかったら、強くなれ、炎真」
言葉とはうらはらに、下りてきたアーデルハイトの唇はやさしかった。
何度も、何度も、顔の傷に口づける。そして、少し遠慮がちに、唇をついばむ。
やわらかに唇が触れてから、するりと舌が入りこんできた。びくり、とした炎真の舌を追い、絡まる。ん、ふっ……と、どちらのものとも言えない吐息が重なりあい、それを飲み込もうとするかのように、また向きを変えて口づけられる。
アーデルハイトの生命力そのもののような胸が、何度も何度も裸の胸に押し付けられる。離れるかと思わせて、また迫る。圧倒的なその重み。
ずくん、と炎真の下半身がうずいた。
「君も……僕を、襲うの?」
「お前が、望むなら」
有無を言わせず上からのぞきこむ、強い意志に満ちた瞳は、まだ涙に濡れていた。あの強いアーデルハイトが泣いている……自分のために。
炎真はかすかに微笑して、手をのばした。プチン。プチン……下から制服の胸元のホックを、ひとつずつ外していく。はらり、と制服の前が開いた。
暴力的な大きさのふたつのまろみに、炎真は手を伸ばした。甘えるように、ブラのすきまから指を差し入れる。ふ、と指先が先端に触れたとき、初めてアーデルハイトがかすかに息を吐いて、「女」の顔をした。
「じゃあ……僕を喰らいつくして。清めてよ、アーデルハイト」