ある夜のこと。早めに床についたアーデルハイトは、ふと寝室の入り口に現れた気配に気がついた。  
警戒をするまでもない。よく知っている気配だった。  
「炎真か?」  
ベッドの上からそう声をかけると、パジャマ姿の炎真が遠慮がちに姿を現した。  
予想通りの結果に、彼女は驚きもしない。  
時々あるのだ。何故アーデルハイトのところにやってくるのかはわからないが、  
眠れない時にはこうして気配を消すこともしないで彼女のところへとやってくる。  
「炎真」  
上掛けを持ちあげ、こちらへ来いと無言で示す。  
ドアの前で佇んでいた炎真は、そのまま素直にアーデルハイトのベッドの中へと潜り込んだ。  
炎真が横になったのを確認してから自分も横になり、母親が子供にするように彼の体を深く抱き寄せた。  
彼女が身につけているのは、ごくシンプルなパジャマだ。その下には下着はつけているものの、  
上にブラジャーはつけていない。布越しとはいえ、炎真の顔の辺りに柔らかな乳房があたる。  
だが炎真は別段、それを恥ずかしがるような様子もみせず、アーデルハイトもまた当たり前のようにして、  
乳房に埋もれさせるように頭を胸元へ抱き込んでいた。  
そのまま眠るのならばそれで良い。眠らないのならば、それでも良かった。  
炎真の初体験の相手はアーデルハイトだった。  
それを決めたのは本人たちではなく、ファミリーの幹部たちだった。  
仮にも次期ボスとされている男が、いつまでも女を知らないというわけにもいかず、  
かといってその相手に下手な女をあてがうわけにもいかず、ならば身内の人間が良かろうとの判断で、  
アーデルハイトに白羽の矢がたったのだった。  
炎真の前に特定の相手がいたわけでもなし、ボスの相手に選ばれたということはつまり、  
それだけ信頼をおかれているという名誉なことでもあったので、彼女に断る理由はどこにもなかった。  
そうして炎真を男にしたのはアーデルハイトで、アーデルハイトを女にしたのは炎真だった。  
そんなこんなで図らずも互いに互いの初体験の相手となってからも、稀にではあったが、  
体を重ねる機会も生まれていた。  
そういった方面には淡白な方なので、生理的な衝動で仕方のないものだとは思いつつも、  
炎真と体を重ねることは嫌いではなかった。  
 
果たして今夜は素直に眠りにつくつもりはないらしく、アーデルハイトの胸元に何気なさを装った炎真の手が触れる。  
下から掴み上げるようにして、柔らかく豊かな乳房が揉まれる。  
痛みはない。他人の手で意図して触れられる感触に、思わず小さく息をついた。  
たっぷりとした質感とその柔らかさを楽しむかのように、しばらく手はこれといった  
変化を見せずに乳房を  
揉んでいたのだが、不意に爪先がその頂を掠めた。  
「っ……!」  
思わず声が漏れた。  
触れられていたせいでいつの間にか敏感になっていたらしく、気がつけばたったそれだけの刺激でも  
乳首はぷくりと凝り、触れてほしいとばかりに存在を主張していた。  
改めて指先でそろりと触り、パジャマの上からでも固く凝った乳首の状態がわかったらしく、  
炎真の指先は乳房からその頂へと目的を変えた。  
「あっ……ぁ」  
あえて脱がそうとはせず、布地の上から摘んだり、押し潰すようにぐりぐりと乳首を苛めにかかる。  
空いている一方の胸元には顔を寄せ、そっと口に含んだ。やんわりと甘噛みをされ、  
たまらずアーデルハイトは悶えた。  
炎真の顔を垣間見ても、女性を弄び性欲を発散させようとするものは見受けられず、  
普段とさほど変わりのない無表情のままで、その淡白さが逆に彼女を燃えあがらせる。  
布越しとはいえ、与えられる刺激は明らかに快感だった。次第に足の付け根の辺りがじりじりと  
痛いとすら感じるほどに熱くなっていく。  
(そういえば久しぶりだったな……)  
炎真の性格を考えれば、以前に彼女と体を重ねて以来、誰ともセックスをしていないのは明らかだった。  
それと同じくして彼女も他の男と寝てはいない。  
アーデルハイトが良いのか、それともアーデルハイト以外に相手をしてもらえる女がいないだけなのか、  
どちらの理由であっても、彼女には炎真を拒む理由はなかった。  
無意識に、もっと、と強請る様に炎真の頭を深く胸元に抱き寄せる。  
「ん……っんぁ、あ……!」  
敏感な乳首を噛まれ、揉まれ、摘まれ、苛められて、その度に痺れるような快感が背筋に走り、  
体を甘く蕩かしていく。あがる声と吐息は、とうに乱れて熱い。  
けれど次第にそれだけでは物足りなくなってしまう。もっと強い刺激が欲しいと願ってしまう。  
もどかしさに焦れた腰が無意識のうちに動き、先を望んでいた。  
 
その様子に気がついているのかいないのか、いつの間にかパジャマの裾から炎真の手が侵入し、  
下着の下に隠された秘所へと指先が伸ばされようとしていた。素肌に触れる手に気が付き、  
反射的に体はぴくりと跳ねるが、彼の手を止めようとはしなかった。  
ゆっくりと体の線に沿って炎真の指先が下着の奥へと侵入する。密やかな茂みのその更に奥、隠された場所は、  
触れられてもいないのに茂みをしとどに濡らすほどに熱く潤んでいた。  
「濡れてる……」  
ぬかるんだその場所を指先だけで軽くかき回すようにしながら、炎真はぽつりとそんな感想を漏らした。  
奥へ挿入もしていないのに、炎真の指先はアーデルハイトの秘所から滴る愛液にたっぷりと濡れていた。  
二人の間で、くちゅくちゅといやらしい音が微かに響く。  
とうに炎真の愛撫に感じてしまっていることは自覚してはいたが、こうして改めて感触で確かめられると  
妙な気恥かしさがこみ上げてくる。  
興奮と羞恥に顔を赤く染めたアーデルハイトは、既に普段の凛とした強い女性の姿ではなく、  
快楽に溺れつつあるただの女でしかない。それでもまだ辛うじて喘ぎ声は押し殺されており、  
逆にその分だけ吐息は熱く濡れていた。  
「アーデルハイト、気持ち良い……?」  
炎真の声色は相変わらず淡々としている。だが、気付けばその吐息もまた熱く、  
アーデルハイトの耳朶を掠め、ささやかな快感を与えた。  
問いかけには応えず、アーデルハイトは黙って乱暴に炎真の唇を奪った。  
ただ重ね合わせるだけのものではなく、まるで食らい尽くすかのような激しさで唇を重ね、舌を絡め、  
ひたすらに興奮をぶつける。  
ほんのりと赤く染まった目尻は普段の鋭さを隠し、何ともいえない女の色気を漂わせていた。  
アーデルハイトはそのまま馬乗りになる形で炎真を押し倒し、ボタンを外すのももどかしく、  
乱雑に二人分のパジャマと下着を取り去り、素肌をあわせる。  
つん、と上向き薄紅色に染まった豊かな乳房も、黒い茂みの奥ですっかり濡れそぼち、いやらしく愛液を  
零している秘所も、何もかもが炎真の前に明らかになる。  
一方で炎真も、まだまだ成長途中の少年の体をアーデルハイトの前に暴かれていた。  
成長期特有の細さを残しつつも、その股間にはしっかりと彼の雄が勃ちあがり主張をしていた。  
 
どれだけ性格や強さに違いがあろうとも、男と女であることには変わりない。  
主導権を奪ったアーデルハイトは、ためらいもなく炎真自身に手を伸ばす。  
それが己の体に収まった先の快感を想像し、きゅんと秘所が甘く疼く。  
溢れる愛液が今にも滴り落ちるのではないかとすら思ってしまう。  
ちろりと舌舐めずりをする様は、まさに捕食者のそれだ。  
「炎真……」  
了承を得るわけでもなく、ただこちらを見上げる男の名を一度だけ呼び、ゆっくりと彼女は自分の秘所へと炎真を埋め込んだ。  
十分に潤っていたこともあって、体重をかけて腰を落とせば、スムーズに収まっていく。  
「ふっ……う……」  
根元までしっかりと全てを呑みこみ、確かめるようにゆっくりとアーデルハイトの方から動き始める。  
揺れる乳房を、炎真の視線が追う。  
腰を動かして抜き差しする度、快感が電流のようにびりびりと駆け上がってくる。  
止めようもないそれから逃れようとするかのように、頭を振る様もまた、艶やかだった。  
「あっ、あっ……ああっ……!」  
汗の浮かんだ背中がしなやかに逸らされる。  
荒い吐息と共に甘い嬌声が上がる。  
こうなればもう、後は快感を追い求めるばかりだ。ゆっくりとしたものだったアーデルハイトの動きは、  
次第に深く大胆なものへとなっていく。  
と、好いところに当たったのか、たまらないとばかり、かくり、と上体が不意に倒れこんだ。  
「あ……あっ!」  
更に快感を引き出そうと、倒れこみながらもその腰は貪欲なまでに快楽を求めて動いていた。  
普段の彼女からはおよそ思い及ばない、甘酸っぱく快楽に染まった吐息が、炎真の首筋にかかる。  
粛として清まるを信条としている日頃の姿からはかけ離れ、言ってみれば淫として乱るるがまま、といった様だった。  
流石の炎真も、彼女の乱れたその姿にかっと体が熱くなった。思わず腰を掴み、本能の促すままに下から突き上げた。  
「ひぅっ……!あ、あ、ん……っく」  
急に動きが変わり意図しない場所を突かれ、アーデルハイトは炎真の上でたまらず身悶えた。  
 
そこから先はもうお互いに無我夢中だった。  
アーデルハイト炎真自身を食いちぎらんばかりに締めつけ、ただ快楽を追い求めるために自ら積極的に腰を動かす。  
荒い息をつき、意味をなさない喘ぎ声がひっきりなしに口から零れる。止めることもできない。止めるつもりもない。  
体はただひたすらに快楽だけを追い求める。  
炎真は炎真で、日頃の大人しさも鳴りをひそめ、追い詰められた男の顔をして、自分勝手なままに  
己を柔らかく熱く包み込む襞を蹂躙していた。  
二人が繋がっている場所からは、入り混ざった先走りと愛液の淫猥な音が絶え間なく  
響き、更に互いを燃えあがらせた。  
「……アーデル、ハイト、もう、だめ」  
「あぁんっ……えん、ま」  
追い詰められてくると名前を呼ぶのは炎真の癖だ。名前を呼び返してやると、中に埋め込んだ熱塊が  
更に大きく力を増した気がした。  
ぐり、とえぐるように付きあげられ、一瞬息がとまるくらいの衝撃が走る。こちらもお返しとばかりに  
きつく締めつけてやると、体の中でびくりと気持ち良さそうに震えるのがわかった。まざまざと感じるその反応に、  
きっと終わりはもうすぐだと知る。最後の瞬間に訪れるあの快楽を思い、また少し濡れ、音が大きくなった気がする。  
体の奥から駆け上がってくるようなひと際強い快感に身を任せ、本能の赴くまま嬌声を上げる。  
「……っ、あああぁ!」  
「……っく……ぁ!」  
甘い叫びと共に、アーデルハイトのそこはきつく炎真を締めつけた。更にしゃぶるように絡みつく内襞の動きに、  
たまらず炎真はアーデルハイトの中に、叩きつけるように吐精した。  
すぐには去らない快楽の波に身を任せ、荒い呼吸のまま思わず互いを抱きしめ合う。  
つ、と溢れた精液がアーデルハイトの太ももを伝い、彼女は小さく身を震わせた。  
 
 
シャワーを浴びてベッドに戻ってくれば、先にシャワーに行かせた炎真は既に眠っていた。  
まだあどけなさの残る寝顔に、彼女にしては珍しく複雑な感情がよぎり、眉を寄せた。  
果たしてこのままで良いのだろうかと。いつまでこれが続けられるのだろうかと。  
「炎真……」  
彼女にしては珍しい、柔らかい響きで彼の名を呼ぶ。  
どんな意味であってもアーデルハイトにとって彼が大事な人間であることは変わらない。  
眠る炎真の唇をそっと奪い、アーデルハイトも眠りについた。  
 
 

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