クロームは突然現れた見知らぬ男に戸惑ったまま、動けずにいた。確か初代霧の守護者であると
名乗っていた記憶はあるのだが、こんなタイミングで現れるとは思いもせず、緊張に体を固くしてしまう。
男は薄く微笑みながら、クロームのことを検分するかのようにじっくりと舐めるように見つめていた。
「んー、そうですか。ボンゴレ十代目の霧の守護者は女性ですか。
こんなに可愛い女性が守護者とは、うらやましいものですね」
守護者と言われ、それは違うという思いがこみ上げ、思わず口を開いてしまった。
「違う……私は……代理、だから……」
本当の守護者は骸であると、クロームは認識していた。
あくまで自分は動けない骸の器としての役目を負っているだけで、守護者であると見られる事には
否定しなければいけない。
だがそこまでは知らないのか、男はクロームの言葉に不思議そうな顔をした。
「代理?それはどういうことですか」
余計な事を言ってしまったと、クロームははっとした。
一応は初代の守護者であるらしいけれども、何を目的としてここに現れたかもわからない以上、
安易に骸の事を口にするべきではないのかもしれない。
途端に厳しい顔で口をつぐんだクロームの様子に、男は楽しげに笑い、首を傾けた。
「んー……まあ良いでしょう。
ところで、あなたともう少し話しをしたいのですが、この場所だと邪魔が入りそうですからね。移動させてくださいね」
「え……」
と、瞬きをする間に場所が変化をした。
よく知った黒曜ランドの一室から、見知らぬ真っ白な部屋へと移動をしていた。
この人もまた幻術使いなのだろうかと思ったのだが、相手に対する推測はそこまでで強制的に終了させられた。
手足に絡む、違和感を覚えたからだ。
「なに……?」
嫌な予感を覚えつつ、己の手首に目を向けると、そこにはいつの間にか彼女の細い腕を拘束する触手が現れていた。
「やっ……!」
赤黒く沈着した色の触手は肉塊のようにも見え、どこから生えているのか、クロームの細い四肢に絡みつき
身動きが取れないように拘束していた。表面にはそれ自体から分泌されているのか透明な粘液で覆われていて、
ぬるりとした嫌な感触に思わず身をよじるが、触手の拘束する力は強く、びくともしない。
驚きに目を見開き、目の前に佇んでいる男を見た。男は、まるでその触手が見えていないかのように、
彼女の前に現れた時と同じ笑みを相変わらず浮かべていた。
「これ、あなたが……!?」
悲鳴のような問いかけの声にも、男は穏やかに微笑むばかりだった。
「どうにもあなたを見ていると、疑問が出てきました。ですから、少しだけ調べさせていただきたいんです。
大丈夫、すぐに終わりますから」
彼女の体からは幻覚の匂いがしていた。だが、その力は彼女自身からのものではなく、ボンゴレリングからのものでもない。
体に宿る幻覚の力の源と、彼女が口にした代理という言葉も、恐らくは同じものに繋がるのだろう。
その繋がるものを知るべく、男はこんな手に出たのだった。
すると男の言葉を合図にしたかのように、物言わぬ触手はゆっくりと動きをみせはじめた。
ぞわり、と足元から嫌な感触を覚え、視線を落とすと、足首を拘束しているのとはまた別の触手が、
彼女の足を伝い何かを目指して這い上がってくるのが目に入った。
触手の這う先から、ねっとりとした透明な粘液に足が汚されていく。
これから何をされるのか、考えたくもないことを考えてしまい、その導かれる可能性にぞっとする。
「やっ……!」
と、思わず声をあげてしまったところで、そのタイミングを見計らっていたかのように別の触手が一本、
彼女の口の中へと侵入する。
足元のものより細い触手は、まるで人のもののようにクロームの舌に絡み、口の中を好き勝手に動きまわる。
「んっ……ふぅ…」
咥内を蹂躙される息苦しさと、嫌悪感で涙が滲む。
喉の奥まで犯そうとする動きから逃れるように、顎が上がり、背が反らされる。
と、今度は更に別の触手がむき出しの脇腹に沿い、反らされてできた服の隙間から胸元を目指し侵入していった。
「ひっ……!」
ぬるり、と腹から胸元にかけて感じるぬめりに思わず体が震える。
素早く服の中に侵入した触手は、ブラジャーの隙間から容赦なくクロームの乳房を狙った。
乳房に己を絡みつかせようとする触手の動きは、まるで人の手が揉みしだくような動きにも似ていて、
一瞬、異質なものが体に触れていることを忘れそうになる。
ぬるりとした粘液は、触手とクロームの素肌との密着度を余計に高めているようで、不快ではあったが、
人肌に近い温かさを持った触手が動き続けるに従って、どこか心地よいとすら感じさせるようになっていった。
触手は女が感じる所をよく知っているようで、まず乳房を粘液で覆うように蠢いたかと思うと、
膨らみの先端へとその矛先を向けた。
「っうん!」
乳首に触手の先が触れる。ぬる、とぬめる感触に、嫌悪感だけではなく震えてしまう。
こんな異物の動きに対して気持ち良いと思ってしまったことを恥じ、触手を咥えた状態で、クロームは赤面した。
クロームの変化を意に介することもなく、触手は人間の指先にも似た動きで、乳首をくりくりと蹂躙する。
独特のぬめりも加わった責めは今まで感じたことのないもので、あっという間に乳首はぷくりと固くなってしまう。
まるでそれ自体にも感覚があるとでもいうのか、乳房の柔らかさを楽しむような動きをしながらも、
クロームにもまた快感を与えるよう、触手は乳首と咥内とを同時にしつこく責め立てる。
「……ふ、ん……っん……」
唾液と粘液とが混じり合ったものを嚥下しきれず、溢れたものが口の端を一筋伝い、彼女の顔を汚してしまう。
上半身を重点的に責められるうち、頭の中は次第に、ただ与えられる刺激を受け入れることで精いっぱいになっていく。
クロームは、いつの間にか自分が太ももをすり合わせ、更に快感を強請る動きをしてしまっていることにも
気づく余地が無くなっていた。
クローム本人よりも先にその動きに気付いたのは触手の方だった。いや、ひょっとしたら彼女がそうした動きを見せるのを
待っていたのかもしれない。緩慢な動きでクロームの下半身に絡みつき蠢いていた触手は、
快感を欲しているその場所に向かい、動きはじめた。
「ぁん……」
スカートの中へ向け這いあがる触手のぬめった動きにも、敏感になっている肌は快楽を感じてしまう。
そして触手は彼女のスカートの中へ侵入し、ためらうことなく下着の中へと潜り込んだ。遠慮もなく入り込んだ異物は、
にゅるりと秘所を擦りあげる。
「……っ!ぅう!」
入口でぷくりと腫れている小さな粒に触手が当たり、電気が走ったような快感が走った。
触手の嫌悪感を忘れてしまうほど、たまらなく気持ちよかった。快感を求めていた欲求が満たされると同時に、
すぐまた更なる快感が欲しいと求めてしまう。
そんな欲求をわかっているのか、触手は焦らすように中へとは入らず、秘所の入り口を擦りあげる。
「……っ……ぅっ、……っ!」
触手に犯されている唇から、くぐもった喘ぎ声が漏れる。
嫌がっているようにしているつもりでも、クロームの体そのものは与えられる快感を求め、
自ら腰を動かしより強く感じられるように触手を誘導する。
スカートの中で、粘液と愛液の混ざった、ぬちゃぬちゃといういやらしい水音が響く。
クロームの下着は触手の粘液ですっかり汚されてしまい、本来の下着の役割すら果たしていなかった。
仮に幻の触手が無くなったとしても、彼女自身の愛液で下着はぐっしょりと濡れてしまっているのだが。
びくびくと快感に震える体に何かを察したのか、咥内を犯していた触手がずるりと抜ける。
肩で荒い息を繰り返しつつも、触手の意図に、クロームは弱々しい声をあげた。
「だめぇ……やめ、て……」
拒絶の言葉を口にしながらも、唾液と粘液とでべっとりと汚れた顔は、快楽に上気し蕩けていた。
人の言葉を理解することもない触手は、クロームの懇願を聞き入れることなく、秘所の奥を目指し、
一気にクロームの中へと侵入していく。
「や、あああああん!」
侵入をした後も動きは止まることなく、激しく出入りを繰り返す。その動きに合わせ、
ぐじゅ、と卑猥な音も絶えることなく響き続けた。
容赦のない突き上げに、逃げ場の無いクロームはたまらず体をのけ反らせた。
今はもう嫌悪を覚えるどころではなく、ただひたすら気持ち良いと感じることしかできない。
「はぁ……んっ、ぁあ!」
喘ぎはどこまでも甘く響き、触手のピストン運動はますます激しくなる。絶え間ない快感の波から逃れるかのように
無我夢中で頭を振る。
と、中に入っているのとは別の触手が、ぷっくりと熟れきった入口の小さな粒を潰すように擦り、目の前に火花が散った。
「ひゃ、あああああっ!」
突きぬけるような激しい快感に体を貫かれ、頭の中が真っ白に染められる。ひくひくと体をわななかせて達してしまい、
あまりの事にクロームは意識を手放してしまった。四肢を支えていた触手の力が緩み、力の抜けた彼女の体は
そのままずるりと倒れ込んでいく。
そして、彼女を拘束していた触手の姿が消える。クロームの体を汚していた粘液もまた、それと一緒に痕跡を消し、
傍から見れば、何事もなく眠っているようにも見えた。
「むくろ、さま……」
小さな唇がぽつん、と救いを求める響きで呟いた。きっと無意識の内に漏らしたものなのだろう。
けれどそのたった一言が、スペードには重要だった。
「なるほど。そういうこと、ですか。これはこれで利用できそうですが……」
何を考えているのか底の知れない笑みがスペードの顔に浮かぶ。
意味ありげな含みばかりを残し、スペードの姿は藍色の炎と共に消えていく。
後には幻に蹂躙された哀れなクロームの姿があるばかりだった。