「はぁ…はぁ…」
安い造りのベッドが軋む音と、私の吐息が重なる。
「あっ……♪…ん…ぁ…」
のしかかっている男の人の身体から、表情から、視線から―この人がどうすれば悦ぶかが解ってくる。
だから、応える。
「ふぁ…ん、うぅん……♪…」
「可愛い…可愛い声だね…凪ちゃん…!」
やっぱり、鳴いてほしかったんだ。
欲望に塗れた表情で私を見つめながら、狂ったように腰を振る男の人は、私の声を聞いて嬉しそうに呟いた。
「もっと…もっとおじさんに聞かせてくれるかな…?」
「やだ、よぉ……恥ずかしい…ん…あぁっ…♪…」
わざとらしく口元に手を当てて目を逸らす。
恥ずかしくなんか、ない―でも、あなたは私にこうしてほしかったんでしょ?
だって、さっきより私を貫くモノが熱くなっているから。
私を見つめるあなたの瞳が、この薄暗い部屋よりも深く沈んでいくから。
「好き…好きだよ、大好きだよぉ…!!凪ちゃん、なぎちゃん、ナギチャン…!」
壊れてしまった玩具のように私の名前を呼びながら、男の人は狂ったように私を突き続ける。
私は、そんなあなたにあわせるようにして、いつもの言葉を投げ掛ける。
「あっ…や、やぁ…っ!もう…イく…イッちゃう…!あぁ…っ♪…」
「大丈夫だよ…!おじさんも凪ちゃんと一緒にいくからさぁ…一緒に…一緒に凪ちゃん…!!」
ぎゅう、と強く抱き寄せられてぴちゃぴちゃと頬の辺りを柔らかい舌が這いずり回り―その音がもう一つの潜った水音と交じりあう。
男の人の荒い吐息と、私の―嘘で造った吐息が重なり合う。
「出る、出る…!!全部…凪ちゃん、ナギチャン…!!い、一緒に…!」
不意に呻くような声、そして私の中のモノが熱く膨らむ。
一緒にイッて、ほしいの?
次の瞬間、男の人は獣のような叫びを上げて私の腰を掴み、奥へと欲望をぶち撒けた。
「うおおおおっ!!」
「あっ、はぁ…♪…ふああぁぁっ!!」
中の迸る熱いモノ。それに合わせて私も鳴いてみせる―一緒にイッてほしい、あなたのために。
嘘で固めた、偽りの絶頂…
◇◆◇
「ありがとね、凪ちゃん」
男の人は、服を着ながら未だベッドに横になっている私に声を掛けた。
「おじさん、凪ちゃんと一緒にイけたからさ…もう、嬉しくて嬉しくて」
男の人はみんな私に騙されてる。
誰だって今まで本当に一緒にイッたことも、ないのに。
「あたしも…えっち…きもちよかった…」
シーツで口元を隠すようにして、恥ずかしそうに視線を逸らす。
本当は、気持ちよくなんて、恥ずかしくなんて、ないのに。
「凪ちゃん…本当に可愛いね…!!これはほんの少しだけどお礼だよ」
そう言うと横のテーブルにお金を置いて、私の頭を撫でてくれた。
だから、少しだけ私もお礼をする。
「また来るからさ、その時はまたおじさんによくしてくれるかな?」
「うん……っ……ぁ…♪はぁ…」
突然悩ましげな息を零した私を見て、男の人は困ったような、でも嬉しそうな顔で声を上げた。
「ど、どうしたの?凪ちゃん」
「…うごいたら…零れちゃった……せーし…」
片方の手でシーツを押さえながら、もう片方でアソコに指を沈めた。
くちゅ、という水音と一緒に白いモノが指を汚す。
恥ずかしそうに私が笑うと、目の前の男の人は、私に魅入られたように口を開けたまま、動かなくなってしまった。
「…ま、また来るからね!」
暫くすると慌てて逃げるようにして、男の人は部屋を出ていった。
私は知っている。あの人には家族がいて、私と同じくらいの女の子がいることも。だからあの人が本当はここに来ることを躊躇っていることも。
でも、またこの部屋に来ることも知っていた。だってさっき、私の鳴き声を聞いたあと、ズボンの中のモノが大きくなっていたから。
また、私としたいんでしょ?
「お風呂…入らなきゃ…」
家族って、そんなに大事なのかな…?
そんなことを考えていたけど、シャワーからでる温かいお湯を浴びたら、すぐに消えてしまった。
「…ふう……」
私の名前は凪。
十四歳の、娼婦。
夜の黒曜町で一番人気の
娼館に売られてこの町にきた。
―本当のお母さんと、二人目のお父さんに。