「あの男は、やはり甘い」
六道骸はベッドの上で、いくつもの羽毛のクッションに、片腕
と体を軽くもたせ掛けながら、誰にともなく、強いて言うなら
彼の傍に控える女に、言葉を発した。
彼のいるベッドからさして離れていないソファには、黒髪を肩
まで伸ばした華奢な女の影がある。
部屋の暗さと月明かりのため、その肌は磁器のように白く見えた。
目の前にいるのは、彼が、その異能と強大な力でもって、本来
なら冥府に旅立つ筈の魂を、自然の摂理に逆らいこの世に繋ぎ
留めている女だった。臓器の殆どを損失しているにも関わらず
、その体は土に還ることなく、成長し、老いていく。
戯れに、彼は彼の美しい依り代に問うた。
「君はどう思いますか?凪」
十年の月日は愛らしい少女をたおやかな女に成長させていた。
凪、とは、彼女の本名であるが、今ではこの二人以外は知らぬ
名であり、二人にしか聞こえない会話の中で骸が呼ぶのみとな
っている。
凪は少し身じろぎして答えた。
「ボスは、優しい…と思います」
その声は玲瓏として鈴を転がしたような澄んだ響きを持ち、聞
く者を心地好くさせた。
凪の答えは、骸の言葉に対する肯定でも否定でもなかった。
彼女の感想は、基本的には彼らの行動を変えるものには成り得
ない。
最終的な判断は大半は骸が下し、彼女にとって絶対の主である
骸の意向に、
彼女が逆らうことはほぼないからである。
「優しい…ね。」
骸は端正な顔に薄い笑いを浮かべた。
「こちらの目的は果たしたからいいですが、見逃しても禍根を
遺すというのに。」
会話の内容は、先刻彼らが参戦した戦いの、敵対勢力に対する
ボンゴレ十世の処断についてである。
骸が復讐者を欺き脱獄したため、ボンゴレへの協力の義務があ
るわけではなかったが、
彼の現在の目的と関心のための参戦であった。
骸はベッドから降り、ソファの方に歩んでいく。
凪の少し後ろに立ち彼女の髪を一房掬う。
戦闘で大立ち回りをしたため、簡単にではあるが先程二人とも
シャワーを浴びた。
そのためかシャンプーの香りがふわりと漂う。
「まあ、妙な運がある男ですから、それすら吉に転じるかもし
れませんがね。」
凪の髪に指を絡める。艶やかで弾力のある髪は、クルクルと解
けていく。
会話の内容にある事態がどう転ぶかは、ことの推移をみなけれ
ばならないため、彼はもうこの話をすることに興味を失くして
いた。代わりに、凪をこの部屋に呼んだ理由でもある別のこと
に興味を移す。
彼は凪の体を軽々と抱き上げ、そのままベッドに向かった。
彼女をベッドに下ろす。
凪が、背中に当たるクッションの柔らかさを感じる間もなく、
細い首筋に骸が口づけをする。
「っ…」
彼女は恥ずかしそうに体を強張らせた。
骸は彼女の小さな卵形の顔を両手でそっと包み、上向かせた。
「骸様……」
潰れた右目に、眼帯越しに口づける。何度も、何度も。
うっとりと、凪はその行為を受ける。
次いで、唇を重ねた。
肉感的な唇を味わいながら角度を変えて口づける。
舌を絡め、歯茎をなぞる。
凪は骸の舌の感触にゾクゾクした。
舌を絡め合いながら、どちらともなく指と指を触れ合わせ手を
繋ぐ。
骸が唇を離すと互いの唾液が僅かに糸を引いて消えた。
繋いだ手を離し、骸は凪を後ろから抱きかかえる。
ほっそりとした凪の体は骸の広い胸にすっぽりと収まった。
骸はブラウスの上から胸元の二つの膨らみを掴む。
骸からすれば優しい力だったが、凪にとっては、敏感なところ
を触られているということもあり、強い刺激だった。
「あっ…」
その刺激に、凪が少し俯くようにして声を上げる。
たわわに実った乳房を揉みしだく。
「…ん」
凪が身をよじった。
凪の脚はベッドに投げ出され体は骸に背を預け寄り掛かっている。
黒のフレアスカートから細い脚が伸びている。
刺激から逃れようとする体を抑えるように片方の腕を凪の体に
回し腹のあたりを腕で抑えつける。
もう片方の手をスカートの内側に滑り込ませ太股を撫でた。
スベスベとして触り心地の良い肌だった。
後ろから抱き抱えたまま、両手で、凪の両の太股の内側に軽く
力を加えて両脚を大きく開かせた。
露にされたショーツから指を挿し入れる。
クプッと音を立てて奥へ侵入した。
「ああっ」
凪は骸の腕に腹を抑えられているため身動きできない。
骸の腕から逃げたいわけではないが、敏感な体は与えられる刺
激に対し動こうとする。
骸は指を動かし、凪の膣内を犯していく。
男の節くれだった、女のものより太い指に中を弄られ、凪は堪
らず腰を動かした。
秘所は指による刺激にくちゅくちゅと音を立てる。
「あっ」
凪が一際大きな声を上げた。
「ここですか?」
骸が耳元で声を掛ける。
「う…」
答えはなかったが、骸はさっき声が上がったところを重点的に
攻める。
「はあっ、あっ、あっ」
指がそこを強く刺激する度に、それに合わせて声が上がる。
感じるところを巧みに刺激されて凪は気持ち良さに腰を振った。
だんだんと瞳に恍惚の色が浮かび、骸の指から逃れようと背を
骸から離そうとする。
指での刺激を続けながら骸が凪の耳元で囁く。
「凪…可愛い凪」
骸は凪の耳の裏に口づけをし、耳を甘噛みした。
「あああっ」
骸に指を挿れられたまま、凪は達し、秘所から愛蜜を溢れさせ
た。蜜はショーツからもはみ出すほど溢れ出した。
凪は乱れた息を整えつつ骸に体を預け、脚を開かされたままの
格好で、自らの秘所にぼんやりと目を遣る。
そこは、隠しようもないほどのたっぷりの蜜に濡れ、蜜をはみ
出させ、ショーツの中では骸の手がぬるぬるの秘部の茂みを撫
でていた。なんとも卑猥な様子だった。
「ん…」
指で達し、彼女はもう充分に満たされていたが、男の方はそう
はいかない。
衣擦れの音がして、骸は凪の体を横たえ彼女の上に自身の体を
移動させた。
半ば放心状態の凪を一糸纏わぬ姿にし、その均整のとれた肢体
を眺める。
「綺麗ですよ、凪」
そう言い、ベルトを外し己の一物を出す。
それはひどく怒張していた。
凪の腰に両手を添え、陰茎を膣に挿入する。
「あっ」
凪は目に涙を浮かべてのけ反った。
ズブズブと最奥まで挿れられる。
「あああっ」
挿れられただけでまた達してしまう。
骸は全部挿入し、肉に包まれる感触を味わい少しの間動かずに
いた。
骸が、自身を引き抜き、再度入れていく。それは時には腹の中
をえぐるように、または中の恥肉に捩り込むような動きを交え
何度となく繰り返される。
先程指でイかされたところを幾度もペニスで圧迫される。
「あう、や、ん」
蜜をしとどに垂らし、そのいやらしい行為を受け入れる。
「凪、腰を動かしてごらん。」
貪るように互いに腰を動かす。骸は膝立ちになり接合したままの凪の腰を両手で抱え上げて尚
も攻めたてる。
凪の体には女らしい丸みを帯びた肉がついていたが、それでも
細い体は簡単に持ち上げられる。
「はっ、はっ、あ…ん…」
与えられる性交は、乱暴なものではないが、強い悦楽をもたら
した。
「骸様…」
ぐにゅり、と子宮にペニスが捩込まれる強い快感とも違和感と
もつかない感覚がした。
「凪、」
「ああ」
凪の中が骸をきゅううう、と締め付け、蠢き扱く。
骸のモノが腹の中で一層固くなり膨らんだかと思うと、腰を浮
かせたまま熱い精液が注入された。
出し終わり、凪の腰をベッドに下ろしてやる。
「う…」
少しの振動も感じるらしい。
骸は、腰をゆるゆると動かしながら、凪の髪に顔を埋めた。
「う…ん」
凪は骸のすべてが刺激になって動けずにいた。
二人とも性交の余韻に身を任せ抱き合う。
暫くそうして動かずにいた。
ややあって、骸が凪の中から自
身を出した。
「ん…」
凪がそれにも敏感に反応した。骸が凪の上に重ねた自身の体の
上体を僅かに起こし、腕を凪の首の裏に入れ、細い首を反らせ
て手で愛撫しながら喉に口づけた。少し力を入れれば折れそう
な凪の鎖骨を撫でる。
「お前を抱きたくて、たまらなかった」
肉の薄い上胸も撫でる。
体を滑る指先の感触に、凪の瞳
がとろんとする。
戦闘が終わって久方ぶりの逢瀬だった。
いつも本音を隠す男の、真実の言葉かどうかまではわからない。
けれども、自分を抱きたいと思っていたことはこの場では真実
だろうと、愛撫を受けながら凪は思う。
骸が凪の体を自分の体の上にして抱くと、凪が骸の胸に柔らか
な頬を擦り寄せた。
「骸様…寂しかった…」
骸は凪の頭を撫で、髪を指ですく。
手を下ろし、凪の背中の傷痕に触れた。
それは細い体の滑らかな白い肌にはひどく不似合いだった。
十年前、ボンゴレのメンバーとの修業で彼女が負った傷だった。
背中を斜めに横断する傷は大きすぎたために痕になっている。
指でその傷痕をなぞる。
骸は凪の背に回り、凪はふんわりしたクッションに俯せに裸の
上体を埋めた。
骸が背中の傷に舌を這わせる。凪が戦おうとし始めたのは骸ゆえだった。
骸の役に立ちたいと、骸の庇護下ではあるものの、戦いに身を
投じた。
そのためについた傷である。
骸は彼のためにつけた傷であるために、その傷を愛でる。
そうでなければ彼はその傷に見向きもしなかっただろう。むし
ろ不快にすら感じたかもしれない。
彼のため負った傷だからこそ、彼女が骸に出会うきっかけにな
った失った臓器や潰れた目とともに、厭うことなくその傷を愛撫する。
何度も背に口づける。
そして今度はバックで挿入した。
「あん」
凪がクッションを掴んで皺を作る。
「力を抜いて」
言われた通りに力を抜き、体の下のクッションにしな垂れかかる。
骸は凪の背に体をもたれ、顔を横にして凪の肩に置いた。
ぴったりと体を重ね、後ろから腕を回して抱きしめ、最奥まで
挿れた。そのまま再び凪の体内に精を放出する。
朝、カーテンの隙間から燦燦とした太陽の光が筋になって部屋
に入ってくる。
凪はなかなか体を起こせずにいた。
一緒に寝ていたはずの骸の姿はない。とっくに起きているのだ
ろう。
重い体をようやく起こす。
ふう、と息をついた。
ガチャリ、とドアノブが動き、シャワーを浴びたばかりらしい
骸が入ってきた。黒のボトムを履きベルトも締めているが上半
身はまだ何も着ていない。
「おや、おはよう」
柔和な微笑でそう言うと、クローゼットからシャツを取り出す。
スラリとした体躯に衣服を纏う。
「おはようございます」
凪は裸体をベッドから降ろし、昨夜脱がされた服を着る。
シャワーを浴びにいくつもりだが、部屋の外で、もし同居人達
に裸を見られたら具合が悪いと思った。
「どこか痛くはありませんか?」
シャツの釦を閉めながら骸が尋ねる。
凪の意識は後朝の余韻の心地好さにたゆたっていた。
「いえ…大丈夫です。」
「それなら良かった。」
そんな凪の様子を横目で見ながら、骸は袖の釦をしめていく。
「シャワー、浴びてきます。」
そう言って、凪は骸の部屋を出た。
幾度も罪を犯した男の生活とは思えない、女と愛し合った翌日
の静かな朝である。
冷酷ななかにも、懐に入れた者には甘いところのある男は、身
支度を整え部屋を出て、仲間が起きてくるリビングに足を向け
た。次の戦いの算段をするために。
彼女が孤独のうちに死につつあった時、手を差し延べたのは、
怨恨と憎悪のままに幼い頃から手を血に染め他者を利用してき
た凶悪な男だった。
けれど、その男こそが彼女にとっては救いだった。
どんなに罪深くとも、彼女は彼のために生き、彼ゆえに活きて
ゆく。
それは、業の深い魂の結び付きだった―――