「ビアンキちゅあ〜んっ!!おはよーーーう!!」
「死ね」
挨拶は全く持って毎回過激。
何が面白いのか。
この腐れ医者は顔を会わせるたびに彼女にちょっかいを出し、その度に撃沈される。
その日はたまたま中学校に通りがかって。
隼人の様子でも覗いてみようと校舎に入り込んだのが運の尽き。
折り悪く職員会議を済ませて保健室に戻ってきたシャマルが彼女に気づいて飛び掛ってきたのを、回し蹴りで扉の開放されていた保健室に叩き込んだ。
「毎度毎度よく飽きもせずにそんな真似が出来るものね、シャマル?」
「つれねーなあ。昔は一緒に風呂に入った仲だってのに」
「済んだ話よ」
軽薄な笑いを浮かべて自分を見上げるシャマルに、ビアンキは耐え切れずに視線をそらせた。
そう。昔の話だ。
何人もの「妹」たちに嫉妬したことも。
一時とはいえ、このろくでなしの女好きと付き合ったなんてことも。
「若気の至りよ」
終わった話の筈だ。今の自分にはリボーンという愛する男がいる。
なのに。
なのに、この男は。
「あーあ。昔はあんなに可愛げがあったのにな?」
へらへらと。
シャマルはよっこいしょ、と立ち上がるとまっすぐにビアンキを見据えた。
「何だってこっちの世界に踏み込んだ?…お前が踏み込むほどの世界じゃなかった筈だ」
そうだ。いくらボンゴレの幹部の家に生まれたからとしても、ポイズンクッキングという強力な武器を持っていたとしても。
彼女が望みさえすれば、普通の生活を送ることも出来たはずなのに。
「…あんたに話す事じゃないわ」
また。
視線を地面へそらす。
未だにまっすぐ見ることが出来ない己の弱さが恨めしい。
「お前が、『こっち』に来たって知ったとき、俺がどんな気持ちになったか。お前さんにはわからねーんだろうな」
苦笑がちにこぼす言葉に、ビアンキは何を言い出すのかと眉を潜めたが。
「あなたに関係ないでしょう」
言って。するり。
傍らを通り過ぎようとした。
ここに居てはいけない。早く逃げなさい。
頭の中で、警報が鳴る。
体は、素直にそれに従った。
「待てよ、ビアンキ」
不意に、手を引かれて。
「離してよ!!」
反射的にそれを振り払った瞬間。
「──!!」
腰を強引に寄せられ、気がつけばシャマルの顔が眼前にあった。
「何の、真似よ…」
「別に?」
いつもと同じ、軽薄な薄ら笑い。
けれど、彼女はそこにとてつもない悪寒を覚えて、思わず拳を振り上げた。
「おっと」
が、それはいとも簡単にシャマルに受け止められて。
「乱暴な真似はナシだ。お前さんには似合わないぜ。…ビアンキ?」
言うが早いか。
ビアンキの唇は、シャマルのそれによって塞がれていた。
「…っ!」
──ぬるり。
一瞬の自失をついて、ぬめった感触が口の中に広がった。
その瞬間、手放しかけていた理性が戻ってきて。
「…いった〜」
シャマルの唇を噛み切っていた。
見ると、シャマルの唇の端に血が滲んでいる。
「自業自得よ」
「相変わらず可愛い性格。…けどな」
次の瞬間、背中に強い衝撃。
「あんまりおイタしてると──」
痛みに顔を歪めるビアンキに、シャマルはその体を器用に拘束して。
「──オジさんにも、考えがあるよ?」
言って、再びキス。
けれど、今度のはさっきとまるで違う。
乱暴にくちづけたそこを、シャマルは犯す勢いで蹂躙した。
抵抗出来ない。
一瞬、意識が遠くへ飛ぶ。
唾液が溢れた。
「何で俺から離れた?」
抱きすくめた手が、さわさわとビアンキの体を渡る。
「何で、この世界に入った?」
言葉を繋ぎながら、手は冷静にビアンキの体をまさぐる。
──何で、この世界に入ったか、ですって?
「…あんたに、関係ないわよ」
漏れた言葉は、字面だけは威勢のいい。
──相変わらず上手いんだから。
憎らしい。この男はいとも簡単にビアンキの体温を上げてしまう。
「は、…んぅ」
熱を孕んだ吐息が漏れた。
警告はもう止んでいる。逃げられないことを、体が悟ってしまったんだろう。
服の上から、全てを確認するように、シャマルの手が動く。
「大人になったな」
「誰のせいかしら」
「俺のせいとでも?」
胸の感触を楽しみながら言った男に、ビアンキは唇を歪めて返した。
「他に誰が居るのよ」
「違いない」
潤んだ瞳で見返されたシャマルは自嘲したように笑って、ビアンキの服を脱がしにかかった。
露になった素肌は、知っていた頃よりも少し日に焼けて。
記憶に残るよりもはるかに成長したそこをゆるゆると揉みしだくと、ビアンキの唇から甘い声が零れ落ちる。
「ん…」
頬を赤く染めてわずかに眉をひそめたその表情を楽しんで、体中、いたるところに唇を落とした。
脇腹に触れると、ビアンキの体が反応したのが伺えた。
「感じるところは、変わらないな」
揶揄する言葉に返すだけの余裕もない。
そんなビアンキの様子にシャマルは苦笑を一つ。
「ひあっ!?」
冷たい感触が胸の先端に触れて、びくりとビアンキの体が跳ねた。
「おいおい、敏感すぎじゃねーのか?」
その反応に驚いたシャマルは、だが先端に触れる手を止めることもせずにその顔を覗き込んだ。
「あ…ん、くふ…」
ビアンキの唇からもれるのはもう甘い喘ぎだけ。
窓から差し込む朝日を受けて、全身がピンク色に染まっているのが見て取れた。
時に指で、時に舌で。
全てをフルに使ってビアンキの体を追い詰めていく。
「ねえ…」
熱に浮かされたビアンキの声がシャマルを呼ぶ。
「何だ?」
何が言いたいのかは良くわかっている。けれどシャマルは意地悪そうに目を細めて答えた。
「お願い…」
「限界?」
覗き込んで問うと、ビアンキはこくりと小さく頷いた。そんな仕草はいつになっても変わらない。
「じゃあ」
肩にかけられていた手を自分の股間に持っていき。
「わかるよな?」
にっこりと笑ってそう言ってやると、ビアンキは揺れる瞳を伏せた。
ベルトを外し、パンツの前だけをはだけさせる。
取り出したそれを、ビアンキは一瞬の躊躇の後、自らの口に含んだ。
「ん、ん…」
眉根をぎゅっと寄せて、舌を這わせる。
咥えたそれは、既に十分な兆しを見せていて。
なのに、まだだ、と。
見下ろす視線にそんな意思を感じた。
口の中に先走りが溢れる。
それを何度も飲み下して。
「…そう、上手くなったな」
頭上から落ちてくる声は、いつもの軽薄さなど微塵もなくて。
少しかすれたその声に、ずくん、と。
体の中心が疼いたのを感じた。
「ビアンキ」
呼ばれて、見上げる。
「もういいぜ。…おいで」
体を引き上げられ、抱きすくめられた。
お互いの唇を、夢中でむさぼる。
「あ」
そうする間にも、シャマルは器用にビアンキの下着を剥ぎ取り、中に指を潜り込ませた。
第二関節まで入れて、かき回す。
「あふ…あ、あああ!」
がくがくと足が震える。力が入らない。
ビアンキの体は、既にシャマルの腕一本に支えられていた。
「準備万端」
耳元に低く響く声に、ビアンキは更に顔を朱に染めて。
「こっちにおいで」
腕を取られるまま、ベッドに誘われる。
「ね…」
意外なほど優しい仕草でそこに押し倒されたビアンキは、融けるように甘い声でシャマルを誘う。
シャマルはビアンキの様子に苦笑して、開かれたそこに自身を押し進めた。
「あ、はあ…」
甘さと快感の混ざった声が朝の保健室に響く。
一度根元まで挿れて、そこで止める。
「ん、ふ」
荒い息づかいをするビアンキの肩口にくちづけると、シャマルはゆるゆると腰を動かした。
「ぁ、あ、は…。んぅ、あ、んああっ」
嬌声。
ビアンキは声を抑えることも出来ず、ただシャマルの動から快感を拾い上げる。
「いいぜ。…そろそろだ」
きつく締め上げる感触に、シャマルの声もわずかに上擦り。
「あああああああんっ!!」
一際きつく叩きつけるとビアンキは体を硬直させて果てを迎えた。
その締め付けに、シャマルも限界を感じて。
ビアンキの綺麗に引き締まった腹に、放った。
熱が冷めると、入れ替わるように後悔と自己嫌悪がビアンキを襲う。
白いベッドに体を横たえたビアンキは、すっかり身なりを整えて保健室の備品を補充しているシャマルを見て。
「…あんたに惚れてたなんて一生の汚点よ」
未だ力の入らない声で、そう呟いた。
シャマルはそんなビアンキの声を聞いて、また苦笑。
「可愛かったぜ?」
背中越しににやりと見ると、ビアンキは面白くない、と枕に顔を埋めて。
「昼になったら起こしてちょうだい」
と、疲れた体を睡魔に任せ、幾分も経たないうちに寝息を立て始めた。
シャマルはビアンキの体に布団を掛けなおしてやって。
「仰せのままに、プリンセス」
昔から変わらないその寝顔に、ふっと笑いかけたのだった。
fin.