その部屋、美しい装飾の施されたベッドの上には、年若い男女の姿があった。  
男の方はベッドサイドに腰を下し、己の足元の方へ視線を向けている。  
一方の女は男の足元に蹲っている。  
よく見れば男のズボンの前は寛げられていて、彼女はそこに顔を埋めていた。  
赤い唇が咥えているのは、赤黒くそそり立った男のペニスだった。じゅぷり、とはしたない音をたてて  
根元までしっかりと咥えこみ、そして吸い上げる。緩急をつけながらその繰り返しを続けていた。  
一目見れば、彼らがいわゆる性交渉の真っ最中であることは誰の目にも明らかだった。  
だが、彼ら二人は決して恋仲などではない。  
にも関わらずこんな真似をしているのは、二人の間で定められた取引によるものでしかなかった。  
縛られたくないと、ただその言葉一つでシモン復興の目的すら一蹴しようとするジュリーと、  
あくまでもシモン復興の目的に拘るアーデルハイトとの間での妥協案。  
それが、アーデルハイトが体を提供する代わり、ジュリーもまた仲間たちと行動を共にし、従うというものだった。  
だからこんな体の付き合いも、あくまでもギブアンドテイクのドライな範囲のものでしかない。  
今日も性欲処理のためとして、ジュリーはアーデルハイトを呼びつけては、彼女にこんな真似を強いている。  
「ちょい待って」  
口で咥えているだけではなく、裏筋も舐めようと舌が伸ばされた瞬間、ジュリーの方から制止の声がかかった。  
「なんだ」  
顔を上げたアーデルハイトの顔は不服気なものだったが、それは奉仕する行為が中断された事から生じたものではない。  
 
むしろ、どうにか早く切り上げようとしているところに、余計な茶々が入り長引く事を嫌がっての事だ。  
あくまで彼女にとってのこの行為は、義務的な意味合いのものでしかない。  
「今日はそれじゃない気分」  
「どういう意味だ。もう止めて良いのか?」  
「そうじゃなくて……そっちが良いなあ、って」  
と、ジュリーが意味ありげな視線を注ぐのは、アーデルハイトの胸元。  
要するに、口ではなくてその豊満な胸を使って奉仕をしろということらしい。  
「また面倒な事を……」  
「別に減るもんじゃないから良いじゃん。ね?」  
言い口は軽く明るいものだが、その奥には裏腹に拒絶を許さない絶対的な意志が含まれていた。  
 
何を求められても、シモンの目的を実現するためにジュリーが必要である限り、アーデルハイトは従わざるを得ない。  
シモンのためであれば我が身の事などどうでもいいが、それは本来ジュリーにとっても同じ事でなければならなかった。  
 
にも関わらず自由気ままに振る舞おうとする彼の姿が、アーデルハイトの癪に障る。切り捨てられるものなら、  
さっさと切り捨ててしまいたいというのが本音だろう。  
それでも一度決めた約束を違えるつもりはないらしく、軽く舌打ちをしながらも彼女は上着を脱いだ。  
ボタンを外した途端に、弾けるような豊満な乳房が露わになる。上着と共に外されたブラジャーが  
無造作に床へ放置される。  
普段は抑えつけるようにして無理やり上着の下へ押し込めている乳房は、下着の支えを無くしても、  
しっかりとした張りを持っている。男ならば誰しもが生唾を飲み込む、たまらない眺めだ。  
そうしてアーデルハイトは己の乳房を両手で支え、その谷間にジュリーのそそり立つペニスを挟み込んだ。  
「っ……」  
口に咥えられるのとはまた違った柔らかく温かな感触に、思わずジュリーの口からため息が零れる。  
アーデルハイトの体は闘うために鍛えられているため、一般的な女性のものと比べれば、  
ただふかふかと柔らかいだけのものではないが、脂肪よりも肉に近い感触は、これはこれで癖になる。  
しっかりと胸の谷間にペニスを挟んでしまうと、根元から乳房を使って擦りあげる。  
「んっ……ふ……」  
更にそこに加え、舌を伸ばして亀頭全体を丁寧に舐める。猫がミルクを舐めるような、ぴちゃぴちゃと濡れた音が響く。  
表情だけではまだ余裕の笑みを浮かべているが、柔らかな肉に擦られる快感に、じわじわとジュリーの中心は張り詰め、  
 
早く欲望を吐き出したいと熱を増していく。  
じわり、と先走りが溢れはじめると、それも余すことなく舐め取ろうと、舌の動きも忙しなくなる。  
僅かな衣擦れの音と濡れた音と、乱れた呼吸音が部屋には響く。  
甘い睦言などは一切ないが、それでも快楽は生まれる。  
「も、出る、かな……っ」  
切羽詰まってきた調子の声に、アーデルハイトは更にしっかりと乳房で挟み込み、より一層激しく擦りあげる。  
自分の足元で、己の体を使って必死なまでに奉仕をする様を眺めるのもまた、興奮を誘う。  
と、いよいよ射精感がこみ上げてくる。その欲望に逆らうまでもなく、息を詰める。  
「……っ、く……」  
びくびくと張りつめたペニスの先端から、勢いよく精液が迸る。それはそのままアーデルハイトの胸の谷間から  
頬の辺りにかけてを白く汚した。  
 
 
全力疾走を終えた後のような荒い呼吸を繰り返しながら、ジュリーはちらりとアーデルハイトの汚れきった姿を覗き、  
征服感と達した後の快楽の余韻に浸る。  
だがジュリーの雄はまだ完全に萎えきってはいない。先ほどよりは多少勢いは収まっているものの、  
まだまだ物足りないとばかりに固さを保ち、再び天を向こうとしている。  
「ね、もう一回」  
その言葉に、白濁で汚れた顎を拭いながら、アーデルハイトはあからさまに苦々しげな表情を浮かべた。  
「なんでそんな顔すんの?だって三回までは良いって決めたじゃん?」  
楽しそうに笑い、ジュリーが体を完全にベッドの上に乗せると、渋々ながらアーデルハイトもそれに続いた。  
あくまで今日は自分が能動的に動くつもりはないらしく、ベッドヘッドに背を預けたジュリーは、足を投げ出し、  
アーデルハイトをただ見つめている。  
「イかせて」  
催促に一度だけ深いため息をつくと、アーデルハイトは黙ってスカートの下から下着を脱ぎ去った。  
そして胸元に散ったままだったジュリーの精液を指先で拭い取り、そのまま濡れ汚れた指を  
己のスカートの中へと差し入れる。  
事務的な作業めいているからこそ、余計に卑猥に感じる光景をジュリーはニヤニヤと笑みを浮かべて眺めている。  
もっと自分を大事にすればいいのに、と思うのはもちろん皮肉の意味でだ。  
上半身裸で下半身にスカートだけ、という挑発的な格好は、それだけでたまらなくそそられる。  
まして慣らすためにと自らスカートの中、秘所の奥へと指を差し入れ弄っているあられもない姿を  
目の当たりにさせられ、興奮しないわけがない。じわりじわりとジュリーの中心もまた勃ちあがり、  
アーデルハイトの中を蹂躙する用意を整えていく。  
目の前で揺れる二つの豊乳を眺めるのも、それはそれで良い眺めだ。その先端は、触れずとも固くしこっている。  
吸いついたならば、どんな声を上げてよがるのだろうと、その想像だけでも更に興奮は高まっていく。  
けれど実際には乳房には指一本も触れるつもりはない。今日はあくまでもジュリーだけが楽しませてもらうつもりだ。  
そこは次の楽しみに取っておく。  
「アーデルハイトはホント、真面目だよねえ」  
嫌なら断ればいいのにと、せせら笑うジュリーの台詞に返される言葉は無い。ただ僅かに眉根を寄せて不快感を  
表すのみ。  
次第に、くちゅり、とジュリーの元まで届くほどにスカートの中から卑猥な音が響き始め、中に入れられる指も、  
二本三本と増えて行く。  
生理的な反応によるものだろうが、うっすらとアーデルハイトの頬も紅潮しはじめる。  
 
「あっ……はっ……」  
歯を食いしばって、余計な声が出ないようにしてはいるものの、それでも昂って来れば、  
本人が望むと望まざるとに関わらず、快感は体の内から湧きあがり、殺しきれない喘ぎ声が漏れてしまう。  
ほとんど目の前で自慰をしているも同然の状況を楽しんでいるのはジュリーばかりだ。  
無意識のうちだろう、じれったいとばかりに身を捩り、体を震わせる度に、たわわに実った乳房がゆさゆさと揺れる。  
「うーわ、マジでいい眺め」  
そのまま自慰行為に没頭するかと思いきや、揶揄の響きを残した言葉に我に返ったのか、指を抜き、  
ジュリーの腰をまたぐ位置へと体を移動させる。  
ぺろりと唇を舐めた舌は、興奮の色に染められているせいか、いやに赤い。  
ペニスに手を添え、スカートの中、秘所の入り口へとあてがうと、そのまま一気に体重をかけて腰を下していく。  
「く……う……」  
何度か体を重ねているとはいえ、それでも身の内に呑み込む雄の質量と熱さに、声を漏らさずにはいられない。  
それは呑み込まれる側であるジュリーにとっても同じことだ。  
「う、わ……たまんねー……」  
中の柔らかさと熱さは、先ほどの乳房とは比べ物にならない。  
絡みつくような内壁の襞の感触に、気を抜けばそのままうっかり射精してしまいそうだ。  
けれどそこはぐっと奥歯を食いしばって堪える。これだけで終わってしまっては、楽しむどころか  
男の沽券にも関わりかねない。  
根元までしっかりと収めると、今度は膝立ちになってゆっくりと腰を上げ、そしてまた下していく。それを繰り返す。  
初めはゆっくりだったその動きも、次第にアーデルハイトの秘所から溢れてくる愛液の手助けもあって、  
次第に早さと勢いを増していく。  
本人の意思とは裏腹に、体はしっかりと快感を味わい、反応を見せていく。ジュリーを包む柔らかな内壁も、  
己を貫く存在を離したくないとばかりにしっかりと絡み、まるでしゃぶるような動きをみせる。  
「あ、あ、んぅ……っ!」  
自分で腰を揺らめかせながら、中の好い所に先端が当たると、つい、声をあげてしまう。快感に忠実な本能は、  
ジュリーのためだけではなく、アーデルハイト自身のためにもその好い場所を突かれるように動きを変える。  
心の奥底では、嫌々ながら事務的に行っているはずなのに、いつも結局は快楽に呑まれてしまう。  
つ、と溢れた愛液がアーデルハイトの肉感的な太もももを伝う。そこにはジュリーの先走りも混ざってしまって  
いることだろう。  
 
「ほら、そんなに声出してると、誰かに聞かれちゃうかも、よ」  
揶揄する言葉をかければ、潤んだ瞳がそれでも、きっと強気に睨んでくる。しかしそれも束の間、  
下から突き上げた腰の動きに散らされる。  
そんな彼女の痴態を楽しみながら、ジュリーはベッドの反対側、この部屋への出入り口であるドアの向こうに、  
にやりと嫌な笑みを投げかけた。  
閉め切られたドアには鍵がかかってはいるものの、音まで全て遮断してしまえるほどの防音性まではない。  
だからその前で耳をすませ息を殺していれば、どうしたって中の音は漏れ聞こえる。そして、その音を元に  
何が室内でなされているのかを推測することだってできる。  
他に誰も通らないその部屋のドアの前。  
暗い瞳をした炎真がじっと聞き耳をたてながら扉の向こう側を見つめていた。  
部屋の中で誰が誰と何をしているのかは、くぐもった微かな声からでも明白だ。そしてそれが何のために  
されている事なのかも、彼は知っていた。知っていてなお、黙ってそこに佇んでいた。  
漏れ聞こえるアーデルハイトの嬌声を耳にする度、炎真の瞳に浮かぶ炎の色は、一層暗さを増していく。  
けれども部屋に踏み込む事も、唇を噛むことも、なにもせず、ただ炎真は二人の情事の一部始終を  
黙って聞くばかりだった。  
 
 

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